第八十三話 顔合わせ
「連絡によると顔合わせするそうですね」
「ああ、王都での協力者である高ランクの冒険者だそうだ」
朝早々冒険者ギルドの職員から連絡を受けたミレーア達は手早く身支度を済ませて合流し、指示された場所へと向かった。そこは冒険者ギルド本部の会議室であった。アギトがドアにノックすると中から返事が聞こえた。それを聞いたアギトはドアノブを回し中へと入った。ミレーアとリナもそれに続き入室した。
「……て、ああああぁあ!?」
ミレーア達が入室すると突如大きな声が室内に響いた。声のした方に三人が視線を向けるとそこに昨日ミレーアとリナが夕食のため入った食事処で話しかけてきた同じ年頃に見える少女がいた。
「昨日、話しかけてきた女の子だね」
「ただ者じゃないないとは思ってたけど高位ランクの冒険者だったんだ」
奇妙な縁があったものだと言わんばかりの感想を口から漏らすミレーアとリナ。アギトの方は知り合いか?と聞くようにミレーアとリナに視線を向けたが、「昨日、偶々会った」とだけミレーアは伝えた。
「少し予想外のことはあったが、先ずは自己紹介だな。俺はリュウ。このパーティのリーダーをやっている」
最初に自己紹介をしたのは背中に大剣を背負った灰色の鎧を着たリュウと名乗った青年だった」
「次は自分か。俺はハロルド。見ての通り盾役だ」
次に自己紹介を行ったのは背中に大盾を背負った黒い鎧を着たがたいがいい青年だった。
「最後は私だね、私はエリアル。魔法使い。こう見えてこっちの野郎二人とは同年代だよ。」
最後に自己紹介をしたのは昨日、ミレーアとリナに話しかけてきた同い年の少女だと思っていた人物だ。本人に言葉通りならミレーアやリナよりも年上にということになる。
「ミレーアです。主に殴ったり蹴ったりと回復魔法が使えます」
「リナと言います。基本的に弓です」
「アギトだ。武器は近接系統なら大抵は使える」
「共に行動するからある程度の情報はギルマスから事前に貰ってたけど成程ね。そっちの二人は若いし粗削りではまだあるけど資質は十分そうね。で、そっちは……」
エリアルは視線をアギトの方へと向けた。その視線には何処か相手を警戒するような気配があり、それは他の二人も同様のようだ。対してアギトは三人が警戒するのを当然のように受け止めている雰囲気だ。
「今だに鎧を外して顔を見せない俺に対して警戒するのはまぁ、当然だな」
「一応、事情があって顔を出せないとは聞いているがそれだけを鵜呑みにするわけにはいかないからな」
頭鎧を脱げない理由を知っているミレーアとリナはどうするべきか悩んだ。下手に庇っても逆効果に思えたし、うまい言い訳が経験の無い二人には思いつかなかった。すると徐にアギトは自分の頭鎧に手を掛けた。思わぬ彼の行動に驚き止めることも忘れただ見ていることしかミレーアとリナは出来なかった。頭鎧が外されアギトの素顔がリュウ、ハロルド、エリアルの前に晒された。
「これは……!!」
「うぉ!!」
「あらま!!」
それに対してリュウ、ハロルド、エリアルの三名は驚きの声を上げるもののそれだけであり、咄嗟に武器を構えて警戒したりすることはなかった。予想とは違う三人の反応にミレーアとリナは拍子抜けしてしまった。
「え、何か思ってたのと反応が違う」
「うん。もっと警戒されるかと思ってた」
「あ~まぁ、確かに予想外ではあったけど事前に訳ありっていう情報を貰っていたからね。それが無かったら流石に武器を構えてた」
「だな。詳しい話はまたの機会として秘密を明かしてくれたんだ。俺は信用する」
「リーダーが信じるならそれでいいぜ」
一時はどうなるかと思っていたがアギトが素顔を曝したことが良い方向に向いたことに安堵するミレーアとリナ。しかし、それはそれとして何の説明も無しに頭鎧を外したことに驚かされた二人はアギトに文句を言わなければ気が済まなかった。
「突然、頭鎧を取ったんで驚きましたよ」
「うん、見ているこっちがハラハラしたくらいです」
「悪いな。こういった場合はこうした方は得策だというのが経験則で学んでいてな」
文句言われたアギトはミレーアとリナの文句にどこ吹く風だ。
「それで話は此処からが本題か?」
行ったのは軽い自己紹介とアギトの秘密を開示しただけであり、今後のことはまだ何一つ意見を出し合っていない。目的が親睦だけならギルドの会議室を借りるなんてしなくとも出来るため、此処を借りたからには何か他では聞かれたくない話があるとアギトは睨んでいた。
「そうだな。先ずは互いの情報の擦り合わせといこう。そちらで起こったことは俺達も話でしか知らないから当事者の話も聞きたかったしな」
「成程、思った以上に事態は深刻ということか」
ミレーア達のいた街で起こった異獣を発端とした幾つかの事件とその顛末。アギトの持つこの世界でもまだ話せる異獣の情報を聞いたリュウは一度深呼吸を行った。彼らが考えていた以上に深刻な事態に今度どうするか考える。
「とりあえずこっちが把握してる周辺の状況を見て意見を出し合うのが良いんじゃない?」
「そうだな。ただ俺達はまだ王都近辺の地理には詳しくない。詳細な説明を頼む」
リュウが地図を机の上に広げると全員が覗き込んだ。事細かに情報が書かれている。
「最近多いのはこの付近だ。……こっちでは魔獣が大量に集まっている。それにこっちでは逆に何もない状況だ」
「此処と此処を線で結んでこの中心はどうなんだ?」
「あ~そこは俺達も気になって調べたんだが特にこれといったものは見つかっていない」
地図に書かれたものが何かリュウが説明すると気になったことをアギトが質問するとハロルドが既にそれを調べ終えている答えた。特に意見を出さずに地図を眺めているミレーアは地図を指でなぞりながら何か確かめているようだ。
「何か気になることでもあった?」
「う~ん。どうなのかな……すいません。特に記述はされていないですけど此処の付近って珍しい植物が生えていたりしませんか?」
ミレーアが指差している場所をリュウ達が見る。そこは記述はされていないが確かに珍しい植物が稀に生えている場所だった。そのために偶に確認にいっては採取し王都の冒険者ギルドで売っていた。
「確かにそうだが、それが何か?」
「これが生えている場所って地形的なものが原因なのか空気が澱んでいることが多いので何か原因があるんじゃないかと思ったんです」
「空気が澱む……確かにあの場所はあまり長居したい雰囲気のある所でないな」
偶にしか確認しにいかないのはそれもあってだ。金に困っていたら頻度が増えていた可能性もあるがリュウ達は懐に余裕があるためそうすることはなかった。
「実際に現地に見てみない分かりませんが、他にも希少な植物にが生えそうな場所が幾つかありますね」
そう言ってミレーアは幾つかの場所を指で差した。必ず生えている訳ではないが今までの経験上似たような場所で生えていることを確認しているため、ミレーアにはそこそこの自身があった。
「此処と此処は確認していないが、こっちでは見たことがあるな。だが、それが……」
ミレーアが指差した場所と確認していたリュウはとあることに気が付きもう一度、地図を見直した。希少な植物が生えている場所は異獣が確認された場所と距離が比較的近い位置にあったのだ。
「これは偶然か? それとも何か因果関係があるのか?」
「偶然かもしれませんが何か関係がある可能性は十分にあると思います」
「何か根拠が?」
ミレーアが何を基準にそう判断しているのか分からずハロルドが尋ねるとミレーアは少し困ったような表情となった。
「今はそれを証明することが出来るものを持っていません。一度、王都の外へ出た時に素材を探して見せようと思います」
「分かった。このことについては後日にしよう。それで今からやることだが……先ずは互いの実力を確認するために軽く体を動かすというのはどうだ?」
リュウは少し楽しそうな表情でそう提案したのだった。




