第八十一話 王都へ(四)
「これで終わりだな」
ビックタートルの甲羅に生えていた吸血植物の全てを根元から切り落としたアギトは甲羅から飛び降りた。
「……助かりました。私とリナだけじゃきっと勝てませんでしたから」
「まぁ、相性もあるな。俺は対抗出来る魔導具を持っていた上にこの体だからな」
近づいても問題ないというのは強いアドバンテージであり、魔法を封じられることも含めるとアギトは吸血植物にとって完全な天敵だったと言えた。
「だがこれで終わりじゃない。分かってるな?」
「はい。後は任せてください」
既に地面に伏して動かなくなったビックタートルの近づいたミレーアはその頭部に手を触れた。すると光に粒子がビックタートルの漏れ始めると慌てたように根元まで切られた吸血植物が急成長し幾つかの蔓を出すとミレーアに襲い掛かるがそれらはアギトとリナによって防がれた。
「やはり持っていたか急成長能力。大方俺達が去った後に動き出そうしていたんだろうが、甘いな見逃すつもりは端から無い」
蔓を成長させるには栄養が必要であり、それは宿主であるビックタートルから吸い上げることになる。吸い過ぎれば宿主であるビックタートルが栄養失調によって死んだしまうため、多くは吸えないため急成長出来た蔓の本数は少なかった。そのためそれを予測していたため余裕で対処することが出来た。
「一気にいきます」
安全性を確保してもらったことで能力使用に注力するミレーア。ビックタートルからも光の粒子は漏れだしそれは全てミレーアのガントレットに吸収されていく。ミレーア或いは融合しているフューアも力の使い方に慣れたのか前に蟲を吸収した時よりも光の粒子の発生もそれを吸収する速度も速くなっている。それによってビックタートルの体全てが消えるまでに大した時間はかからなかった。
「終わりました」
「お疲れ」
「それを初めて見たが恐ろしい使い方を考えたものだな」
アギトの称賛する声音の中には何処か畏怖するようなものが含まれていた。幾多の異世界を旅し様々なものを見てきたアギトにとっても今し方見たミレーアの吸収能力はそう感じるものであるらしい。
「私に一人じゃ使うことは出来ませんけどね」
融合を解き自身の右肩に乗っているフューアの喉を左手で撫でながらミレーアはそう返答した。
「戦いで少し出発が遅れたな。どうするのか御者と相談だな」
旅の途中のアクシデントでこういった遅れ出るのはよくあることであり、慣れているアギトはこれからの予定を聞きに行った。
「よっと……これで終わり?」
「うん。後はない筈」
ミレーア達が吸血植物と戦った場所から然程離れていない場所に野営に適したところがあり、今日は其処で夜を明かすことになった。野営に準備を終え今は夕飯の支度をミレーア達は行っていた。ミレーアもリナも料理を行えるため携帯用の調理道具を出すと直ぐに調理を始めた。
「こうやって一緒に料理するのはそういえば初めてだね」
「そういばそうか」
普段の依頼を受けている時は基本的に日帰りか携帯食料で済ませてしまう。一緒に食べる時は基本的に外食であり、こうして共に料理する機会に恵まれていなかった。ミレーアとリナは手早く下拵えを終えると分担して手早く調理を済ませたことで程無くしてその日の夕食が出来上がった。
「はい、どうぞ」
「ああ、ありがとう」
出来上がった夕食を御者にも渡しミレーアは食べ始めた。
「やっぱり街の外でも暖かいもの食べるのは元気が出るね」
「だね。冷たい携帯食料は味気ないしね」
手早くすませられる携帯食料は便利だが味はイマイチであり、口に含んで少し咀嚼した後に水で流し込むことが殆どだ。
「アギトさんは今は見回りだったね」
御者にはアギトの鎧の下については教えられていないため、今の此処で飯を食べていないことは不自然に映ることから周囲の警戒にあたっている。
「それにしても植物があんなことになるなんてね」
「確かに」
アギト曰く最初に植物が求めたのはより良い場所への移住だろうとのことだ。それが異獣の使う力による汚染によって変異した結果があのビックタートルに寄生することによる移動手段の確保だったという。自身が吸血し殺した相手を操れるようになったのはビックタートルを操作することを応用した副産物であるというのが彼の推測である。
「それでも植物があそこまで強大な存在にになるならより強い魔獣や魔物が変異したらどうなるんだろうね」
「考えたくも無いね」
思えば前に戦った蟲も統率する個体自体は強くなかったが土系統の魔法を操り複数の蟲を指揮することで強大な存在となっていた。それより前には特殊な異獣に寄生されたことで強大な力を振るい多数の魔獣、魔物を統率し街を襲撃したワイバーン。強さの方向性は違うがどれも一筋縄ではいかない強さだった。ならばこれから先より強力な魔獣、魔物から変異した相手が現れるのは容易に予想出来ることだ。
「王都の方でも異獣が出るようなっているならいずれ出て来ることはあるだろうけど」
「アギトさんの話だと出て来ること自体を止めることは出来ないそうだね」
異獣発生そのものは止められないし異獣の力を受けることで魔獣や魔物が変異するのも抑制するのは難しいというのはアギトから聞いている。それは方向性は違うとはいえ同質の力を使っているミレーアも実感として理解していた。
「実際にあの力を使っている私からすると抑制するのは難しいのは分かる」
「……使っていない私からする分からないけどどんな感じなの?」
「力を強く求めれば答えてくれる。まるで息をするかのように当たり前に使えると言えば分かるかな?」
「つまりそれを使うことに違和感は全くない?」
「無い。多分魔獣や魔物を異獣が直接融合しようとしない限りはその力を使うことに対しての異物感は無いんじゃないかな?」
ミレーアの実体験から来る推測だが彼女の推測通りなら魔獣や魔物が変異することは確かに難しいと言える。まるで空気を吸って吐くように食べた物が消化され血肉になるような自然さで体に馴染むことから魔獣や魔物も同じにように変異していると彼女は考えたからだ。止めたければそれこそ大元から潰さなければならないだろう。
「だけど厄介だけどそれと同等なくらいで有用性もあることだね」
実際、一番最初に街の地下で見つかった異獣と遺跡でミレーア達に襲い掛かってきて異獣はまるまる死体が残っておりギルドが回収している。そして、異獣の骨や爪、牙から作られた武器は優秀な性能なものが出来る聞いている。おまけに魔法の付与もし易いとまさに至りつくせりの理想的な武器素材でもある。そういった意味では強力な魔獣や魔物と変わらないと言えた。
「ま、その辺りにことを決めるのは私達じゃどうしようもないからね」
「そうだね」
メリットとデメリットそれを秤決定するのが為政者達に仕事であり、一冒険者であるミレーアやリナがやる事ではない。尤もその為政者達が決めるであろう取捨選択に納得するかはまだ別の話ではあるが
「……やっぱり何も感じないかな」
「アギトさんが周辺を目視で確認しているからミレーアの探知を搔い潜っているのがいても大丈夫だろうけど……ミレーアの探知に何も引っかからないのは周囲に何もいないのはやっぱりあの吸血植物の影響かな?」
異常な存在現れたことによって周辺の魔獣、魔物が現れなくなったのは街でも確認されている。同じことがこの場で起こっても不思議ではなかった。ただし逆を言えば少なくとも今晩はこの周辺は魔獣、魔物に襲われない安全な場所でもあった。
「まぁ、でも警戒することには越したことは無いからね」
「だね」
安全だからといって気を抜くことは出来ない。そうミレーアとリナの二人は気を引き締めるのだった。
「ふう。今月に入って被害は増えている一方ね」
王宮にある自身の執務室でアレクシアは報告書を見て溜息を吐いた。被害が出ればそれを直したり補填するためにお金が掛かる。そして、この国を動かすために必要な資金や資材や人員は王とて際限なし使えるものでは有限なものだ。問題はそれを理解せず使い潰してしまう問題ある貴族が出て来ることだ。目に余るような過去の王達も何度か掃除してきたが厄介なことにこの手の問題は突如として発生するので何度やっても関係なところで急に出てきたりするので始末が悪いと言えた。
「……それに対しての対応はああ、あの子達は承諾したと。それに関係者も一緒だと」
この件については本人達が来てから対応すれば良いと判断し後回しにし今、直ぐやらなければいけない案件に目を通した。
「教会の方では怪しい動きは今のところ無し」
ミレーアという例外は現れたことで何かしら動きを見せるかと思ったが上がっている報告ではそれらしき痕跡は今のところはない。問題は現状に際して動きが変わらないことだ。教会側もあれらが何であるか少なくともそれを知る立場にいる者達は分かっている筈である。ならばアレに何らかの動きがあった可能性は高いが報告は何も来ていないし、こちらから確認のため人を送っても問題無しと返答が来るだけだ。
「流石に強引に強制監査するには証拠も無い。さてどうするべきか……」
現状何も問題はらしきことは起こしていない上に教会は祖王の戦友とも言うべき初代聖女が興したものだ。
出来れば穏便に済ませたいと考えているアレクシアはどうするべきか頭を悩ませるのだった。




