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第八十話 王都へ(三)


「跳ねた!?」


 ミレーアは目にした光景を疑った。のっそりとこちらに向かって歩き出していた亀が何の前触れもなく後ろから何かに殴られたかのように急に跳ねてきたのだ。足は動いておらず不動の態勢で迫って来る姿は何処か不気味ですらあった。突然の事態に対応が遅れたもののそれは重さゆえかミレーア達の前で失速すると複数の蔓が彼女達を捉えようと動き出した。


「流石にそれは!!」


 蔓自体の動きは速い訳では無かったため、危なげなく三人は回避した。すると植物は自身が吊るしていた複数の魔獣の何体かを地面に下すという奇妙な行動を始めた。よく見れば吊るされた魔獣達の背には蔓の先端が深々と突き刺さっており既に止めを刺されて死んでいるのは直ぐに分かった。死体の状態からも殺されてからそこまで時間が経っていないように見えた。一体に何をとミレーア達が疑問に思っているとバチンっという音共に既に死んでいる魔獣達が動き出し背中に蔓が突き刺さったまま動き出した。


「なっ!?」


「え!?」


「ちっ」


 襲い掛かて来た魔獣に対処する三人。死体が動き出したということはアンデットかと三人は思ったが生気は感じないが明らかに違うことは明白だった。何故ならアンデット特有とも言える独特の雰囲気が一切感じ取れないうえに襲い掛かって来る魔獣らの頭部が明らかにこちらを向いていなかったためだ。通常のアンデットは生前と同じように頭部の目などの視覚器官を用いて獲物を把握する。つまり頭部が明後日の方向を向いたまま襲ってくるというのはどう考えても不自然なのだ。


「つ!? これは……」


 熊系統の魔獣であるアーマーベアの振るわれた腕を防御したミレーアはその重さに驚愕した。明らかに通常のアーマーベアに比べ重い一撃だったのだ。しかし、動きそのものは単純だったため、隙を付いてミレーアはアーマーベアの頭部を破壊した。ゾンビ系統のアンデットならこれで終わりである。


「まだ動く!?」


 頭部を失ったにも関わずミレーアに襲い掛かるとするアーマーベア。横からはブラック・ボアが突進してきている。この状況は不味いと思い後ろに下がろうとするミレーアに目掛けて植物の蔓が上から彼女を捕縛しよと迫る。


「そのまま後ろに下がれ」


 そこに入れ替わるように前に出るアギト。彼の持つ剣が植物の蔓を切り裂き、ブラック・ボアに刺さっていた蔓はリナが弓から放った矢が撃ち抜いたことで千切れた。残ったアーマーベアの攻撃はアギトが軽く受け流すと即座に後ろに回り込み背中から生えていた蔓を切り裂いた。すると繋がっていた蔓を切られた魔獣達は糸の切れた人形のように動かなくなった。


「もしかしてあの植物が操っていた?」


「予想はしていたが、やはりそうみたいだな……」


 魔獣達が動き出す直前にバチンっという音がしたことからあれがその方法だったのだろう。何をやったのか不明だが器用な真似をする植物である。そして先程切り落とされた蔓の断面から明らかに魔獣のものと思われる血液らしき液体が流れていることからアギトは植物の食性を大まかに察した。


「成程、吸血植物か」


「つまりてあの蔓に捕まったら……」


「あそこで吊るされている魔獣の仲間入りだな」


 アギトの冷静な答えに背筋が寒くなるミレーアとリナ。魔獣や魔物に負けて死ぬことはこの道を選んだ時から覚悟しているが死んだ後もああして利用されるのは流石にごめん被りたいと思ったからである。


「俺が前に出る捕まっても問題ないからな」


 既に食われる肉体が存在しないアギトならば前に出てて蔓に捕まっても何らも問題はない。剣を振い植物に蔓を切り落としている最中に地面の中ら飛び出してきた蔓がアギトの足に絡みついた。それに気づいた彼は絡みついた蔓を切るとするがそれよりも先に植物の蔓から電撃が発せられた。


「流石にこれは予想外だった」


 しかし、アギトの鎧に内側にある魔導具には電撃に対する対策もしっかりしてあったのか彼は何事も無かったのように足に絡みついていた蔓を剣で切り落とした。


「まさか植物が雷を使うなんて……」


「だが奴が遺体を操れていた理由はこれで分かった」


「え……そうなんですか?」


 アギトが何故それが分かったのか理由が分からないミレーアとリナ。アギトの方も理由が分かったのは異世界を回っている間に知った知識があったからであり、この世界ではまだ知られていない事柄であるためにどう説明するのか迷ったが再度仕掛けてきて植物に操作された魔獣の遺体に対処するために説明を棚上げすることにした。


「魔獣の遺体から蔓を切り離せ。そうすれば遺体が襲ってくることはなくなる」


「分かりました!!」


 ミレーアは蔓で繋がれた魔獣の背後に回り込む手刀で蔓を切り落としリナも狙いを定め威力を重視した矢で蔓を撃ち抜いた。だがこれだけのことが出来る植物がただやられるのを待っている筈もなく複数に蔓を捻じり纏めるとミレーア達に向けてまるでハンマーのように振り下ろしてきた。


「あぶな!?」


「どうやらそれなりに頭は……無いな。思考は出来るようだな」


 振り下ろされた蔓の一撃は轟音と共に打ち付けられた地面を陥没させた。今の一撃を真面に受けていたら確実に潰されていただろう。渾身の一撃が当たらなかったことが不満気だったのか纏まっていた蔓は解かれると今度は電気を纏いながら三人に襲い掛かった。三人は敵を引き寄せつつ蔓の射程に入らないように立ち回った。


「明らかに異常とも言える能力……やはりあれの影響を強く受けているということか」


「異獣に融合されているということですか?」


「違う。異獣が使う力を大量に浴びたことで異常進化したんだ。おそらくは元になった植物は吸血植物ではあるが此処まで強大な力は持っていなかっただろう。おそらくは望んだものは自由に動ける環境……ヤドカリには使った巻貝の殻にイソギンチャクを付ける種がいるがそれと似ているな」


 ミレーアとリナはアギトが語ったことの後半に関してはよく分からなかった。彼女達は二人は海に行ったことがないためヤドカリとイソギンチャクが何なのか知識にないためである。


「おそらくああして魔獣の遺体を吊るしていたのは疑似餌の一種だろうな。本来は吊るした遺体に不用意に近づいてきた相手を巻きついて吸血するのが生態だったんだろうが……まさかそこから電気の力を使って遺体を動かすとは器用な真似を出来るように進化するとは驚きだ」


「……え~と?」


 とりあえずアギトが自分達に襲い掛かって来る吸血植物が魔獣の遺体を操っている方法を理解しているということだけはミレーアとリナにも分かった。どういった方法で動かしているかはさっぱりではあるが。


「とりあえずそれと同じ原理で下のビックタートルを操っているってことですか?」


 とりあえず理解出来る範囲で分かることを尋ねたリナ。


「おそらくはそうだろうな。ただ下の亀はまだ生きているという違いはあるが」


「ならやはり倒すには上の植物ということでしょうか?」


 下のビックタートルを殺せば宿主を失った上の植物も後で枯れることになるだろう。問題はビックタートル自体が金属を含んだ堅牢な甲羅と外殻で守られているため、殺すには手間がかかるということだ。上の吸血植物に邪魔されることまで考えれば現実的ではない。


「だけど上の植物の弱点が全く分からないよ?」


 リナの意見にミレーアが問題点を指摘した。ミレーアは軽く探知してみたが植物というだけあり反応が魔獣などとは全く異なっており、根がビックタートルの体の中に張っているとなれば上に蔓だけを全て切り落としても根が残って入れば再生する可能性もある。


「……上の植物を狙う方法でいこう。それで何とかなる筈だ」


「分かりました。ですけど少し時間がかかりそうですね」


 植物が相手なら炎系統の魔法を使うのが確実だが三人はその手段を持っていなかった。故に三人がやれることは振るわれる蔓を引き千切るか切り落とすことになる。


「やることは決まったな……なら此処から反撃だ」


 植物の振るう蔓から逃げ続けていた三人はその言葉共に反撃に転じた。


「先ずは俺が行く」


 最初に仕掛けたのはアギト。手に持った剣を使い蔓を切り落としながら前と進んでいく。その後ろを追従するのはミレーアであり、彼女はアギトに守られながら何かを狙っているようだ。


「行けます!!」


「なら行ってこい!!」


 アギトが半歩ズレるとそれに合わせてミレーアが一気に身体強化の段階を上げ更に加速した。無論そうなれば吸血植物に狙いはミレーアへと変わるがそうはさせまいとリナが弓で蔓を撃ち抜いてゆく。そうして出来た隙間を縫うように駆け抜けたことでミレーアはビックタートルの右前脚まで辿り着くと拳を叩き込んだ。ミレーアの拳の一撃で右前脚を砕かれたビックタートルはバランスを大きく崩した。


「ナイス!! ミレーア」


 片足を砕かれたことで自身と寄生した甲羅の吸血植物による総重量を支えることが出来なくなり地面に伏せることなったビックタートル。自由に動く手段を奪われ戸惑っている隙をついて近づいたアギトが吸血植物の根元から切り裂いてゆく。


「ぬ!?」

 

 根本から切られたことで危機感を持ったのか無理にでもビックタートルを動かし逃げようと足掻きだした。体が自壊するのもお構いなしの足の酷使によりビックタートルは足から血を吹き出しながら動き出した。そして、逃げるための手段を使おうとしてそれが使えないことにようやく気付いた。


「悪いが魔法を防がせてもらった。……電気を使うことで磁力を操り同じ極同士の反発力を推進力にするとは大したもんだ」


 最初に跳んだ原理を見抜いたアギトは鎧に中に搭載された相手の魔法の発動を妨害する魔導具によってそれを使い逃走するのを妨害していた。


「これでチェックメイトだ」


 逃げる手段を奪われた吸血植物は為すすべもなく残りの全てをアギトに根元から刈られるのだった。

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