第七十八話 王都へ(一)
「え? 王都の冒険者ギルドへ行くんですか?」
謎の魔蟲を倒した数日後、街の冒険者ギルドで受付嬢に呼ばれたミレーアとリナにそんな話が唐突に来た。内容としては今この街では依頼が殆ど無いことに加えて優秀な新人が実績を積めずこのまま腐らせるわけにはいかないためという話だ。しかし、ミレーアとリナはあまり外に漏らしたくない秘密を抱えている身であり、そこに何らかの思惑があることに直ぐに感づいた。
「王都付近で何かかがあったんですか?」
「それは今此処で私が話すことは出来ません。話を受けて頂くのならこの後直ぐにギルドマスター方から詳しい事情が話されます」
今までの経験から直感で間違いなく面倒ごとだ感づいた二人だが、このまま此処にいても何かしら問題ごとが向こうからやって来るだろうと考えたミレーアとリナの二人はその話を受けることにした。二人が話を受けることを確認すると冒険者ギルドの受付嬢は二人を奥へ部屋へと通した。こうやって奥へ行くのは何度目だろうかとミレーアが考えている間に目的の部屋へと辿り着き室内へと通された。
「って、あれ? アギトさん」
此処のところ姿を見なかった相手が部屋の中にいたがミレーアは大して驚きはしなかった。関係者という意味で言えば彼がいるのは必然と言えることに直ぐに気づいたからだ。ミレーアとリナはもう慣れたと言わんばかりにギルドマスターの対面のソファーに腰かけた。
「話を受けてくれてありがとう。実は断られたらどうしようかと考えていた」
「何となくですけど、私達が呼ばれた時点でそんな気はしていました」
「それなりに荒事は経験済みだからそこらへんの嗅覚は研ぎ澄まされてきたようだな」
「不本意ですけどね」
ギルドマスターの少し安堵したような声音にミレーアがそう答えるとこれくらいは気づいてもう当然だろうと言わんばかりにアギトが答え、巻き込まれれば苦労することが見えていることから最後にリナは諦めたかのようにぼやいた。
「それで王都に向かって何をするんですか?」
「王都付近でも異獣の存在が確認された。……そこで冒険者のランクは低いものの実際に数度戦ったことのある君達二人に急遽王都に向ってむらうこととなった」
確かにミレーアとリナはこの街で一番異獣と戦った経験がある二人である。しかし、異獣の強さは異質ではあるもののベテランの冒険者がしっかり準備をすれば勝てない相手では無い。寧ろ王都の方がそういった上位のベテラン冒険者が多いだろうため、尚更自分達が必要があるとは思えなかった。故にその裏に何かあるんじゃないのかと二人は考えた。
「私達二人が上位のベテラン冒険者の助けになるとは思えません。足手纏いになるくらいです。何か他の目的があるんですか?」
「まぁ、露骨すぎるわな」
あっさりとアギトは何かあることを認めた。
「此処でその話をするわけにはいかない。王都に着いた時に使いの者が来ることになっている」
目的は直接話すということだろう。何があるかは分からないがミレーアとリナは既に行く意思を固めている。そうなると次に二人が気になるのはいつ出発するかである。
「それでいつ王都に行くんですか?」
「手続きも含めて一週間後になる。二人とも準備は入念にな」
その他細かい打ち合わせを終えると二人は王都に行く準備のために必要な物を買いに向かった。今回は急なこともあり、ミレーアとリナが王都に行くために買い揃える物はギルドから必要経費として出ることになっている。最近物価が上がり出費が増えているため、二人にはそれが有難かった。
「そういえば王都までってどのくらいかかるのかな?」
「行ったことが無いから分からないけど、一日や二日でってことは無いと思うよ」
必要ものを店で探しながらミレーアとリナはそんな他愛のないか会話をしていた。王都への移動は馬車になると二人は聞いている。そのため荷物はある程度多めに持って行っても問題は無いがそれでも限度はあるため厳選しなければならない。一番必要なのは水と食料だ。食料に関しては途中で魔獣などを狩り確保することも視野にいれているため、多少は少なく出来るが多めに持って行かなければならないのは確保が難しい水になるだろう。必要な物を買い集め店を出た二人は休憩がてらベンチに座った。
「途中で襲われても護衛じゃないから幾分か気は楽だよね」
「確かに……自分以外を守るのは大変だって聞くし」
ミレーアとリナはまだランクは低いため街と街を移動する商人の護衛依頼を受けることは出来ないが、それでもそれが大変であることは先輩冒険者から聞いている。戦いに関しては素人の依頼主を守りつつ襲撃者と戦うのは広い視野が必要となり、やることが多いと聞いている。この先受ける機会があった場合、うまくやっていけるだろうかと二人は思っていた。そのこと考えれば護衛対象が殆どいない馬車での移動はリナの言う通り気楽と言えた。おまけに夜間の見張りはアギトが受け持ってくれるため、そういった負担もかなり軽減されている。
「まぁ、それでも油断だけはしないようにしないとね」
楽な移動であることからの気が緩み致命的な失敗をし、取り返しの付かない事態を引き起こすことは十分にある。そしても何も襲撃してくるのは魔物や魔獣だけとは限らない。途中で盗賊が襲撃してくるのは大いにありえることだ。特に冒険や崩れの盗賊は武器の扱いに慣れていることもあり危険性が上がり厄介である。現在、近隣では話は聞かないが王都まで道のりで出くわす可能性は0ではない。
「まぁ、気を付けはするけど今此処で考えても仕方がない」
「そうだね。気にしてもしょうがないしね」
他に懸念事項があるとすれば異獣が出てくることである。出現場所が未だに不明なところが多く、いきなり現れることは十分にありえることだ。そして、他にはマリアの存在だ。彼女は明確にミレーアを標的にしており、突拍子もなく襲撃してくることは下手をすれば盗賊と出くわすよりも確率が高いかもしれない。
「それじゃあ、また明日ね」
「明日ね~」
ミレーアとリナの部屋は冒険者ギルドから借りているものであり、今回は長期の王都での滞在が視野に入っていることから引き払わなければならない。その片付けのため二人はこの日が早めに別れた。
「ふぅ、さてといろいろ片付けないとね」
街に滞在してからそれなりの日数が経過したことで入った当初は何もなかった部屋には幾つかの私物が置かれていた。それらを手に取りマジックバックへと仕舞うミレーア。
「こんないつ買ったんだっけ?」
私物をマジックバックに仕舞っている最中にいつ買ったのか思い出せないものが幾つか出て来たため、それを手に取ると思い出そうとミレーアはマジマジとそれを眺めた。冒険の最中に珍しい素材などを採取して臨時の報酬が入った時にサイフが緩んで勢いで買ってしまったものの一つだろうということまでは思い出せた。
「まぁ、向こうに着いた時にまた飾れば良いか」
考えるのを止めてミレーアはそれをマジックバックに仕舞った。今の最優先事項は部屋を片付けることであり、何処でこれを買ったのか思い出すことではない。それを思い出すために片付ける手を止めては本末転倒である。そう考えた彼女は部屋の片付けに専念した。幸い一人暮らしのこともあって食器などを含めても数は多くないため、マジックバックに全て入らないということはなかった。
「とりあえず最低限生活出来る分だけは前日までは出しておいてと……後は掃除も必要だよね」
目視では部屋に目立った汚れは見当たらない。箒を使って掃き掃除もやっているため、埃なども殆ど無い。やる事と言えば後は拭き掃除だがそれをやるためには明日必要なものを購入しなければならない。そのため、今日やれることを終えたミレーアはベットの上に腰かけた。そこへ掃除を終えるまで大人しくしていたフューアが駆け寄ってきた。
「ねぇ、フューア。私とリナとアギトさんで王都に行くことになったんんだ。あ、勿論フューアもだよ」
フューアを抱き上げ膝に上に乗せるとそうミレーアは話しかけた。ミレーアの言っていることがイマイチ理解出来ていないのか不思議そうな声音を含んだ鳴き声を上げたフューア。そんなフューアが愛おしくてミレーアは頬を綻ばせた。
「人の世の中ことを知らないフューアに言っても分からないよね。そういう私も詳しいことは知らないんだけど」
実際のミレーアが分かっているはこの国で一番偉い人が住んでいる場所という程度だ。とは言ってもこれはミレーアが無知という訳はなく田舎の村ではだいたい似た認識である。街にいる大半の冒険者も大して変わらないだろう。
「まぁ、この街から離れることなるから環境は大きく変わるだろけど一緒に頑張ろうね」
ミレーアはフューアの頭を撫でながらそう言うと嬉しそうな一鳴きした。
「明日は掃除するための買い物をして……ああ、その前にジェライクさんにパイル・アームを見せにいかないと」
王都に出発する前にやることをピックアウトしてミレーアは予定を立てるのだった。




