第七十四話 変性(一)
「それで今日は何をする?」
街の外に出て人があまり来ないであろう場所に二人で訪れたミレーアとリナ。二人が来た理由は先日、二人が話し合った通り特訓をするためだ。これで何回目かにはなるがこれといった成果はない。尤も少し特訓しただけで強くなれるなら誰も苦労することはないだろうから当然と言えた。
「組み手するだけじゃ意味は無いだろうし、本格的な実戦に向けた特訓はねぇ」
「私達じゃ戦闘スタイルが違い過ぎるしねぇ」
ミレーアは回復魔法を生かした近接戦闘。リナは狩人の家に生まれたことで学んだ弓と異界の技術で作られた高性能の義足を用いた壁すらも足場にした三次元戦闘であり、あまりにも嚙み合わない。
「残りは魔獣か魔物を狩ることだけど……周辺にはまだ全然戻っていないだよね?」
「情報に随時確認してるけど見つかっても直ぐに取られるかあまり特訓には適さない相手しかいないかな。私も此処に来てからも確認してるけど気配は感じないね」
リナが周辺を見ながらそう答えた。ミレーアは周辺を索敵してみるがこれといった反応返ってこない。いるのは精々害の無い草食動物程度だ。
「……フューアは何か呼べたりしない?」
「みゅあ!!」
これといった獲物が居ないことに残念に思いながら何気なくミレーアは連れて来たフューアに聞いたみたが元気に返事をしただけだった。特に期待はしていなかったため、残念がることも無くどうするか考えるミレーア。このまま此処でリナと特訓していてもただ惰性で続けるだけになり、意味があるものになるとは思えない。リナも内心では同じに気持ちなのか何処か悩まし気だ。
「そういえばミレーアは魔法の方はどうだったの?」
「あ~回復魔法を以外はやっぱりうまくいかなかった」
ギルド主催の魔法関係の講習に何度か参加していたミレーアだが、残念ながら他の属性の攻撃魔法への適性はそれ程高いものでは無く、精々下級魔法が幾つか使える程度だった。それを使うくらいなら拳で殴った方が速いというのが実情である。
「リナの方は? あの遺跡で武器の使い方は一通りで頭に入ってるって話だけど」
「あ~一応、私の方もギルドの武器関係の講習とかに参加して握ってはみたんだけど……どれもどうもしっくりこなくて」
試しはしたらしいが話の内容とリナの表情から謙遜では無く本当にしっくりこなかったんだろうなとミレーアは察した。現状の彼女達が取れる手は限られており、手っ取り早く実戦経験を積むというのも近辺では難しい。
「他の街に移動するにしてもアテは無いしなぁ……それに私の場合、これのこともあって他の街にも行けないし」
リナは自身の義足を指差しながらそう述べた。現状、リナの義足のことを知る者は少なく情報漏洩も防ぐことも考えれば他の街へと移るの難しいだろう。ミレーアも折角相性の相方なのに此処で解散するのは躊躇いがあった。
「まぁ、現状が回復すればやり様は幾らでも……」
そこで会話を切ったミレーアは何かを感知したのか森の方も向いた。リナもミレーアの様子から何かが此処に向かっていると察し弓を構えた。いつの間に周囲にいた生き物の気配も残らず消えており、静寂が辺りを支配していた。
「ミレーア。相手との距離は分かる?」
「もうすぐ見えると思う。けど……何か反応が変。異獣に似ているけどそのものじゃない。前に街を襲った寄生されたワイバーンとも違う感じ」
それはミレーアしか分からないことだが索敵した相手によって感知した時の感触に違うというの彼女の弁だ。感覚的なもので言葉に説明するのは難しいがそれでも明確に魔獣と異獣では違いがあることは索敵して彼女が分かったことだ。
「何か音が聞こえて来た。……何か重いものが歩いてきてる?」
何か聞き取ったリナが、聞き取れた音から何か重量のあるものが向かってきていることに気づいた。ミレーアにはまだ音は拾えておらず、何かが向かってきていることには分かるがそれが重量のあるものだとは分からなった。
「見えて来た。……何あれ?」
見えて来たものに困惑するミレーア。それはリナも同じであり、それはあまりにも予想外のものだった。一言で言えば土で作られた歪な人型のような何かであり大きさもミレーアやリナの倍以上の大きさであった。それは頭部と思われる部分を二人へと向けると異様に長い腕を地面に付け威嚇するような動作をとった。友好的ではない仕草に二人は戦闘態勢に入ると土で出来たそれは二人に向かって勢いよく迫ってきた。
「何か分からないけど……襲ってくるなら容赦はしない!!」
リナは流れるような動作で弓に矢を番え放った。放たれた矢は狙い外さず土で出来た歪な人型の何かの頭部に突き刺さるがそれは意に介すことなく猛然と二人に迫ってきた。それを見て前に出るのはミレーア。
「はぁああ!!」
ミレーアが狙うのは胸部。彼女の拳を受けたことで胸部の土が吹き飛び砕け散った。それによってバランスが崩れたことで人型は崩壊し地面に散らばった。それで終わりに見えたが崩れた土は蠢き再度、集結すると今度は狼に似た形態となった。
「何こいつ!?」
「分からない!! こんな魔獣見たことも聞いたこともない!!」
相手の正体が掴めず困惑するミレーアとリナ。そんな二人を他所に狼に似た形態となったそれは見た目通りの俊敏さで二人の周囲を駆け巡る。リナの弓が当たっても全く効果が無くそれでいて攻撃する瞬間は強度を増しているのか防御したミレーアに重い衝撃が身体に奔った。
「厄介だね。体は土で出来ているから砕いても効果が無い。ゴレーム系統ならそんな筈はないんだけど」
無機物が動いているという点だけで見ればゴレームに近いと言えるが明らかに毛並みが違う。砕いても蠢き再び終結することからまるで土一つ一つが意志を持っているかのように見えた。ならば何者かが魔法で遠隔操作で操っている可能性もあるが、ミレーアの索敵範囲にそれらしき反応は一切無い。自身の索敵範囲外から遠隔操作している可能性はあまりにも距離が離れているため、それはおそらく無いと考えたミレーアは別の可能性を思考した。
「……そもそも遠隔操作は無いか、目の前のあれからは明確に生物の反応があるし」
ミレーアにとって不可解なのはそれだった。目の前にいる土の塊からはゴレーム系統とは違うれっきとした生物の反応があった。そのため、最初は何かが土を纏っているのかと考えたミレーアだが拳で砕いたものの中には何もいなかった。しかし、彼女の感知では今も目の前の相手からは間違いなく生物としての反応が出ている。
「はぁ!!」
再び襲撃してきた相手の頭部を砕き粉砕するが先程と同じように砕かれた土が蠢き再び終結し、元に戻るだけだ。
「ん……?」
ミレーアは何かに気づいたのかのような声を出した。
「何か分かったの?」
ミレーアの声を聴いていたリナは何か打開策になるかもしれない考えたミレーアに質問した。質問されたミレーアは少し困惑したような声音で答えた。
「今、あれの顔を砕いた時頭の方にも生物としての反応があった」
「どうゆうこと?」
「分から無いけど……私達何かに根本的に考え違いをしているかもしれない」
ミレーアとリナは襲い掛かってきた謎の相手をゴレームの系統の亜種か何かだと考えていた。しかし、ミレーアが感知したことによるゴレームと違う生き物である反応に体を崩された時に反応が崩された土にもあったことでそもそも考えていた前提が違うのではないかという考えに至った。しかし、分かったことは其処までで答えには至らない。
「どうする? いっそのこと逃げるのもありだけど」
「相手の速度が分からないから逃げ切れるか不明だね」
形態によって移動速度が変わるのは明白であり、速度に特化したならばミレーアとリナが逃走を選んだとしても追いつかれる可能性があった。こんな正体不明な相手を街まで誘導してしまったらそれこそ何が起こる分からない。再び攻めて来たそれの攻撃を防いだミレーアはそのままそれを投げ飛ばした。現状では攻撃しても大した効果は期待できないため、消極的だが体力と魔力温存も兼ねて必要最低限の反撃に留めるつもりのようだ。
「……向こうも焦れてきているみたいだね」
様子を窺っていたリナはそれの動きが何処か苛立ちが混じり始めていることを見逃さなかった。何度襲い掛かっても攻めきれない事がどうやら相手も気にくわないらしい。このままいけば冷静さを失い何か致命的な弱点を晒してくるかもしれないと期待していたが、突如としてのそれの魔力反応が高まり驚愕の表情を浮かべた。
「此処に来て魔力の増大!?」
「見て!! 周りの土が集まってる!!」
それの周囲の土が蠢き寄り集まりどんどんその体は大きくなっている。見上げる程の巨体となったそれは自身の調子を確かめるように腕を振るう。巨人のようになったそれが腕を振るうとそれによって起こった風圧がミレーアとリナの髪が靡かせた。
「此処から本番ってことだね」
拳を構え直したミレーアは目の前の正体不明の敵を倒すために此処からどうするべきなのか頭を巡らし必死に打倒策を考えるのだった。




