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第七十一話 汚染(一)

「エルフの話だが……実際にどうなんだ?」


「はぁ……残念ながら辻褄は合う。そして教会が回復魔法関連で独占出来ている理由もな」


 異獣が元々いた世界の状況と照らし合わせれば全てが符号する。寧ろ今の今まで何故気づかなかったのかと自分を責めたいくらいである。尤も例え気づいたとしてもそう簡単に手出しできる場所はない。


「となると英雄の片割れである王族がこのことを知らないとは思えない。そちらの動きは?」


「王女殿下からの連絡は何もない。知られて困ることではないのか……それとも何かお考えがあるのかは分からないが」


 少なくとも今回のエルフと秘密裏に会合関しては事前に連絡を入れているため、向こうから待ったが掛からなかったことから今回得た情報は禁忌などに当たるものではないということだろう。問題があるならば先に向こうから何らの動きがある筈だからである。


「理由は知れたが……実際どうなんだ?」


「どうにもならない。流石に教会にこちらから手を出すわけにはいかないからな」


 理由は分かったがそれを武器に教会を糾弾することは難しい。実際、教会が何かをした証拠は無く現状では只の言いがかりにしかならないからだ。そんなことをすれば逆に冒険者ギルド側が痛手を被ることになるだろう。


「やはり鍵となるのは調査隊を襲撃したマリアと名乗った少女か」


「だがあれから目撃情報は無い」


 ならば完全なお手上げだと言いたいところだが、アギトには一つ当てがった。それをアーバルに話すと彼は少し難し顔をして考え込むのだった。





「それで待ち合わせの場所が此処で合ってる?」


「そうだけど……少し人の目がないのは気になるね」


 調査隊に同行中にミレーアを訪ねて来た同じ村の出身だというクーラと名乗った女性神官が会うことの出来る日時をリナに伝え、それを聞いたリナから聞いたミレーアはリナと共に待ち合わせ場所へと訪れた。そこは今の街の状況もあって人が去ってしまった街の寂びれた一角だ。他の教会の者達に会っていることを知られないようにするためかも知れないが、逆に誰にも見られずミレーアに接触するための理由にも思えた。


「まぁ、でも何かあったとしても逃げることは可能かな」


 周囲を一度見渡したリナはそう判断した。例え道を塞がれたとしても建物にある出っ張りを足場として上に逃げることは森の中で木々を使って競争を行っていたミレーアとリナからすれば可能だ。まさかこんな場面で役立ちそうになるとは二人は思っても見なかったことだ。


「と、来たみたいだね」


「……彼女が?」


 少し訝し気にミレーアはクーラを見ていた。街での襲撃では医療班で共に働いていたと聞いているがあの時は慌ただしかったため、ミレーアに覚えはなかった。


「時間通りだね。……それで実際のところどうなの?」


「はい、こうしてじっくり確認してみてやはり彼女の母親の面影があります」


 母親の面影があると言われてもミレーアにとっても母親の人相は既に朧気だ。それだけでは信用は出来ないため、ミレーアは村のことを幾つか尋ねるとクーラは淀みなくその質問に答えた。彼女のとっても覚えていることは少ないが確かにクーラは村に住んでいなけれな知らないようなことを知っていた。


「……成程、クーラさんが私と同じに村の出身だったというのは本当みたいですね」


「良かった。信じて貰えて……」


 ミレーアの言葉に嬉しそうな表情を浮かべるクーラ。リナも半信半疑であったが間違えでは無かったことに内心安堵しそうになったが、ミレーアの次の発言に表情を強張らせることとなった。


「それで何処まで記憶を読み取っている訳?」


「え……一体何のことを……」


「惚けても無駄。前に街に襲撃してきたワイバーンに取り付いてた異獣に似た感じがある。それに隠していても一度会ってるからすぐ分かったよ。―――姉弟子」


 ミレーアの断言に表情を変えクスクスと笑い始めたクーラ。状況についていけず困惑していたリナだが、クーラに対して敵対の意志を見せたミレーアに呼応するように弓を構えた。


「へぇ……何処で気づくかと思っていたけど最初からだったとはね。少し妹弟子を甘く見ていたよ」


「それで何しに来たわけ?」


 同じ村の出身同士で話が出来ることに実は内心で期待していたのに思わぬ横槍を入れられたことで少し不機嫌そうなミレーア。そんな不機嫌そうなミレーアを気にも留めずクーラの体を乗っ取ているマリアは拳を構えた。


「あの人の弟子同士がこうして出会ったならやることは一つでしょ? ああ、前と違ってこの子の体は適性は高くないから前程の強くはないから大丈夫。まぁ、そっちの子と二人同時なら丁度良いハンデといったところかな?」


 さぁ、やりましょうっと言わんばかりの調子に困惑するミレーアとリナ。


「こないなら……こっちから行くね?」


「っ!!」


 一気に詰め寄り拳を振うマリア。その一撃を防御をすると重々しい打撃音が響いた。痛みを歯を食いしばりながら耐え回復魔法で治しミレーアは拳を振う。しかし、彼女の振るう拳は易々と受け流されがら空きとなった腹部にマリアの膝蹴りが入った。


「が!?」


 息が詰まりそうになり腹部を手で押さえて後ろによろけるように後退するミレーア。そんな隙だらけの状態を逃すはずも無く間合いを詰めようとするがそれをリナの放った矢が妨害する。


「狙いは申し分無し。良き才能に恵まれているうえに手にした義足の性能に頼りっきりという訳でもなく鍛錬も欠かしていない。これからも精進することをオススメするよ」


 片手でリナの放った矢を払いのけたマリアはリナの腕前をそう評価した。


「助かったよ、リナ。……確かに前に時に比べて力も速度も劣っているけど間違いなく私よりも強い」


 今の攻防で実力差を悟ったミレーアは悔しそうに呟いた。それにはリナも同じであり、何処を狙っても矢が当たるイメージが湧かなかった。しかし、二人掛で挑めば勝てない相手では無いとも感じていた。


「さぁ、何処までやれるかしら?」


「……負けても言い訳は無しですよ!!」


 そう啖呵を切ると同時に突撃するミレーア。そして、ミレーアの後ろから弓で援護するリナ。リナの放った矢に対処するため、ミレーアへの対応が少し遅れたマリアだがミレーアの息もつかえぬ四肢を使った怒涛の連撃を華麗捌いて見せた。


「とぉ!?」


 反撃に移ろうとした直後、上方から魔力で形作られた矢が降り注いで来ていることに気づいたマリアはミレーアを魔法によって発生させた衝撃波で押し退けると上方から降り注いできた矢を防御魔法によって防いだ。


「はぁ!!」


 そこへ先程弾き飛ばされたミレーアが右腕にパイル・アームを装着し突撃してきた。パイル・アームの杭先を防御魔法に叩き込みと何度も何度も杭を撃ち出した。一点に対して短時間で何度も衝撃を与えたことで強固な防御魔法が破られ、そのままミレーアはパイル・アームにマリアに叩き込もうとするが彼女はそれを蹴り飛ばした。


「武器は悪く無いけど、それは身軽な相手には不向きだね」


「っ!!」


 蹴られた衝撃で腕も引っ張られ態勢を崩したミレーア。しかし、彼女はその衝撃を利用する形でマリアに蹴りを叩き込んだ。


「判断力は悪く無いけど、技術の方が追いついていないみたいだね」


 ミレーアの蹴りはマリアの腕で防御されており、元々無理な態勢だったため勢いを失ったことでバランスを崩し地面に倒れた。倒れたミレーアを追撃をしようとするがマリアだがミレーアの影に隠れていたリナが弓の弦を目一杯引いていることに気づいた。ミレーアが倒れ込んだことで射線が通ったことを確認したリナが弦を離すと強力な魔力で構成された矢となりマリアに向かった放たれた。


「流石にそれは!!」


 回避は間に合わないと判断したマリアは拳に力を込め迎撃を行った。ぶつかり合う魔力で構成された矢とマリアの拳。先程よりも強力な矢はマリアの拳とぶつかり合っても砕けず目標に向かっても突き進もうとするがそれをマリアの拳が抑え込む。


「貰えない!!」


 拳で矢を破壊したマリア。


「ぐぅ!?」


 腹部に強烈な一撃を受け呻き声を漏らしたマリア。リナが放った矢を破壊している隙を狙って懐に潜り込んいたのだ。驚くべきことにマリアはミレーアの接近に一切気づけなかったのだ。


「成程……そこに直ぐに気づくことはね!!」


「同じ師から学んだなら気配の感じ取り方も同じと予想したけどどうやら正解みたいだね」


 マリアの動きをミレーアがうまく追えない理由は単純だった。同じ師から学んだということはその弱点も熟知しているということだ。間隔をおいて一瞬だけ気配を消すことで攻撃タイミングの見極めを外し、そして悟られないようにもしていた。


「だけど容赦が無いね? この体は一様他人の者なんだけどね」


「死ななければ治せるからね」


 だからそこを越えなければ何処までやっても大丈夫だとミレーアの容赦の無さが何よりも雄弁に語っていた。


「ふふ……同じくらいの時の私に比べれば覚悟は十分に決まっているてことか」


 そう不敵に笑うとミレーアに殴られた腹部を抑えていた手を離し拳を構えた。彼女もミレーアと同じように回復魔法で直ぐに回復したのだろう。


「だけど……それだけじゃ私には勝てないよ?」


 ミレーアはマリアの声音と気配から彼女の何かが切り替わったことを感じ取った。彼女にとっては今のはお遊びであり、此処から本番だとミレーアは気を引き締めるのだった。

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