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第六十九話 会談

「よっと、これで制圧は完了だよね?」


 ミレーアは巣穴にいた最後のゴブリンの頭部を拳で砕き後ろにいるリナに確認をとった。


「うん。これで完了。後はゴブリンが溜め込んでいるガラクタを見るだけかな」


 リナも弓を下ろし背中にマウントすると周囲を警戒しつつゴブリン達が集めたガラクタを漁り始めた。やはり金目になるようなものは殆ど無く二束三文程度のものばかりだ。依頼料を含めても此処に来るまでにミレーアが途中で見つけた貴重な薬草の方が高いくらいである。


「ミレーアがあれを見つけてくれて助かったよ。お陰でそれなりに報酬になるだろうし」


 ミレーアが見つけた薬草は元々高額のものだが今はギルドの方にも納品依頼として入っていたため、持ち帰ればそれなりの報酬となる。ゴブリンの討伐依頼ではギリギリ赤字にならない程度であるため、冒険者ギルドの依頼が少ない現状では有難いものであった。


「う~ん。このガラクタの山からは大したものはないみたいだね」


 一通りの確認を終えたが珍しいものは何一つなく価値があったのは何かの魔獣の牙や爪、何処から拾ってきた硬貨くらいだ。他に何かないだろうかと思いミレーアは周囲を見渡すと何か引っかかるものを感じ取った。


「うん?」


 反応があった方向を見るとそこにあるのは岩である壁であり他には何も見当たらない。しかし、感じ取った反応はその先から発せられており、それが何なのミレーアはいやに気になった。歩み寄り壁に手を当てさらに正確に何であるか確かめようとするミレーアにリナはなんて声をかければ良いのか迷った。


「場所はそんなに深くはない……だけどこのまま壊しても大丈夫かな?」


 岩で出来た壁を破壊すれば感じ取ったものが何であるのか直ぐに分かるが、それを行った結果洞窟が崩れたりしたら目も当てられない。後ろ髪を引かれるものの安全面を考慮するなら何もせず放置するのが利口というものだ。


「やっぱり止めよう。洞窟が崩れでもしたらそれこそ目も当てられない」


「そうしてくれると助かるかな……ミレーアが感じ取ったものが何であるかも気にはなるけど」


 下手に手を出して洞窟が崩れでもしたら生き埋め確定であり、そんなことは冗談でもやめて欲しいとリナは思っていたため仮にミレーアが衝動のまま壁を破壊しようものなら殴ってでも止めるつもりだったがその必要性が無かったことに安堵した。


「とりあえず依頼はこれで終わりだね。村に報告をしたら街に直ぐに戻る?」


「偶にはゆっくり戻るのも良いかもね。何だかんだで私達って目的地に到着するまで競争してるでしょ? 今は森の中を駆けても魔獣や魔物に遭遇することもそんなにないから障害物は無いし」


「あ~確かに」


 近場の村に来るまで今回も競争していたが、ただ森の中を走るだけでは物足りなく感じていた。元々はリナが義足を使いこなせるために始めたことであり、今は十分使いこなせているため無理してやる必要性は無いと言えた。


「とりあえずそれだと街に着くのは夕方になるくらいかな?」


「だろうね。そういえば聞いた話だけど今の状況で依頼からあぶれた冒険者の一部が金を手に入れるために盗賊紛いのことをやってるらしいから注意した方が良いらしいよ」


「まぁ、襲い掛かってきたら返り討ちにすれば良いだけだしね」


 二人はそう話しながら先ずは村への依頼終了の報告に向かうのだった。






「ふぅ、事前に話を聞くことになると聞いていても緊張するものだな」


「まぁ、こちらの世界では出会うこと方が稀らしいからな。しかもエルフ基準で若者なら兎も角長老クラスとなれば王族ですら会ったことがあるのか怪しいじゃないか?」


「ああ、少なくとも公式では確認されていない」


 流石に非公式で会っていた場合はギルドマスター程度では知ることは不可能だ。どれだけの情報がエルフ側から齎されるかは不明だがエルフの長老が直接訪れたということは向こうも現状を重く見ているということだろう。そのため今から聞くであろう情報のことを考えて少しだけ胃が痛くなるギルドマスターだがそれを表に一切に出していないのは組織の上役として相応の修羅場は潜っているということだ。


「気負いすぎると禿げるぞ?」


「最近、頭髪の後退が気になっていてな……これ以上は進ませたくはないんだが、そういうそっちは―――そんなこととは無縁だったな」


「骨だけだからな、抜けるものは何一つ残っていないな」


 生身の顔があったらニヤリと笑っていそうな声音でアギトはそう返した。それに乾いた笑いで返すギルドマスターだがアギトと駄弁ったお陰で幾分か気持ちが楽になっていた。示し合わせた訳ではないがアギトの方も今のギルドマスターの状態から察して話に付き合っていたのだろう。


「少しは緊張も解けたところでこれからいよいよ本番だ」


 話しているうちにエルフの長老がいる応接間の前に二人は辿り着いていた。まだ若干の緊張感が残る中それを感じさせない動きで扉を開け中に入るとそこにはソファーに腰かけた老人とおそらくは護衛と思われる青年が横に立ち控えていた。


「お待たせしました」


「ふむ、言うほど待ってはおらぬ。我々からすれば瞬きのような時間じゃからな」


 座っていたエルフの老人がそう答えた。エルフの時間間隔は人間よりも遥かに長い寿命があるためなのか大きく異なっているとギルドマスターの知識にあった。人間ならば長く感じるような時間でもエルフにとっては気にならない程度のものなのかもしれない。


「そうですか……私はこの街の冒険者ギルドのギルドマスター、アーバルと申します」


「アギトだ」


「儂はトレス。隣に控えている者はジャーグル」


 素っ気なく答えたアギトに気を悪くすることなくトレスは自身の隣で控えている護衛と思われるエルフの青年であるジャーグルを紹介した。


「それで先ずはこの街で起こったことから説明させていただきます」


 ギルドマスターは此処最近起こった異獣関係の事件の詳細をトレスに説明した。説明を聞いてたトレスはその皺が刻まれた顔に更に深い皺を作ることとなった。彼らエルフ達からしても今回の事態は無視できないことのようだ。


「こちらが想定していた以上に事態は悪化しているようじゃな。そうするとやはり問題があったと見るべき場所は大本のだろう」


「地脈に伝うことでその経路上に異獣が発生しているという話だったな。となれ流出原因となる起点が存在するのも道理だがこの世界でそれに該当するのはこの国の建国物語に出てくる魔獣達の王で間違いはないか?」


「ふむ、そちはそういえば我らと同じ異人でありあれらのことにも知識あるのだったな。悪戯に情報を広めなかったのは正解だ。下手に広めれば予想だにしていない事態へと発展する可能性が高いからな」


 トレスは感心したような声音でアギトのこの世界での振る舞いをそう称賛した。大してアギトに何も返答はせずジャーグルの方へと視線を向けた。視線を向けられたジャーグルは自身が視線を向けられたことに戸惑うよう表情となった。


「彼に何か?」


「……それでいつまでこの茶番を続けるつもりなんだ?」


 アギトの突然の発言に彼の意図が読めず困惑するアーバル。異獣に対して貴重な情報源でもあるエルフ達に挑発とも取れる発言に対してその真意がまったく分からないからである。それは二人のエルフも同じなのか茶番と言われて気分を害したのかトレスは不機嫌そうな感情を隠そうともしない声音でアギトに問うた。


「一体何のこと言っておる? それとも儂らを此処に呼んだのは其方がそうやって挑発するためなのか?」


「……ふん。これを見れば分かると思うが?」


 そう言ってアギトは自分に鎧に付けられている魔導具を外すとそれらに刻まれた刻印などが見える面をエルフの二人に向けた。それを見てトレスの表情が驚愕のものへと変わった。


「そ、その刻印は!?」


「これを知っているということは俺の言っている言葉の意味が分かると思うが?」


 その言葉にトレスはハっとなった。今の見せられてそれが何であるか知っているかのような反応をしてしまった時点で、今更どう取り繕っても彼に対して無駄な行為だ。本来ならそれを見ても知らないような態度で接するべきだったのだがあまりに衝撃に彼はそうすることが出来なかったのだ。


「これは一本取られたなトレスよ。尤もそんなものが出てくるとは私も思わなかったが」


 そう述べたのはトレスの護衛を思われたジャーグルだ。察するに本来の立場は彼の方が上であり、偽装のため護衛と偽っていたということだろう。エルフのことを詳しくは知らないアーバルの方はどういうことだといった表情をでアギトに視線を向けた。


「彼はエルフでも王族の血筋だ。王族は通常のエルフ以上に長寿であり老化も遅い。純血ではなく混血ではあるがおそらくはそこのご老体よりも長く生きていることだろう」


「何と……」


 アギトから理由の説明を受けたアーバルは観念したかのように護衛のように振舞っていた態度を崩したジャーグルを見た。


「そこまで知っているのならこちらかの説明は不要か。……知っているということは向こうでも血族は生き残っていたか」


「純血の方はもう滅びることになるだろうが、お前と同じ混血の方が国を切り盛りしている」


「そうか、我らにはもう帰る手段は無いがそれが知れたことは望外の喜びだ。教えてくれたことを感謝する」


 淡々とした口調ではあるが、僅かにだが声音に喜びが混じっていることから向こうの世界のことが知れたことが嬉しかったのだろうというのが察せられた。少し向こうの事情に踏み込んだことで思った以上の好感触を得られたことにアギトは内心でほっとするのだった。

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