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第六十四話 最後は間違えて飲んでしまう

 ギルドで依頼を確認しても特にやれる依頼もなかったため、シャーリィと別れた後、時間を確認しまだ余裕があることを確かめるとミレーアはテイマー相談窓口に顔を出した。やることがないのか少し暇そうな受付の女性にミレーアが声をかけると声をかけられた受付の女性は慌てて姿勢を正した。


「はい、何でしょうか?」


 何事もなかったかのように平時の対応に入る受付の女性にミレーアは内心で「切り替えが早いなぁ」と思いながら要件を話し始めた。


「少しこの子のについて相談したいことがありまして」


 ミレーアは胸に抱いたフューアを見せた。胸に抱かれたフューアは少し落ち着かないのか辺りを見回している。


「ああ、珍しい魔獣をテイムしたというミレーアさんですか。その子に何かあったんですか?」


「いつも元気一杯でご飯も食べているですが、どうにも成長とかしているように思えなくて……」


 それを聞いた受付の女性は少し考えるように下唇に一指し指を当てた。


「それですと、軽い検査を行うことになりますが良いですか?」


「検査……幾らかかりますか?」


「そうですね……一応、コースが分かれているので一番安いのがこちらになります」


 受付の女性は検査のコースが書かれた紙を取り出しミレーアに見せた。それを見たミレーアは値段を見て軽く呻いた。高すぎる訳ではないが冒険者ギルドの依頼が極端に少なくなり収入に大幅に減りそうな現状では手痛い出費だ。どうするべきか悩んだミレーアだが此処で検査を受けずに後で後悔するよりも念のために検査をすることを選んだ。


「じゃあ、このコースでお願いします」


「分かりました。それでは手続きのためにこちらに記入を」


 受付の女性から記入用紙を受け取ったミレーアは注意事項を読み記入する。間違いが無いか見直して提出すると受付の女性も不備が無いか確認し、間違いがないことを確認するとミレーアに検査の日程を明記した用紙を渡した。


「こちらの検査の日にちになりますので当日にこの用紙を担当者に渡してください」


「分かりました」


 日程が書かれた用紙を受け取ったミレーアは無くさないように直ぐにマジックバックに仕舞い込んだ。


「ありがとうございました」


「何かありましたらまたお越しください」


 全ての用事が終わったことで時間を確認するミレーア。打ち上げの開始時間まで時間は十分にあるため、この後どうやって時間を潰すの考えた。すると何か決まったのか抱き抱えていたフューアを地面に下した。


「よし、何処に行くのかはフューアが決めて」


「みゅあ!!」


 そう宣言するとフューアはミレーアの言葉に返事をするかのように一鳴きすると歩き出した。そしてミレーアはその後を付いていくのだった。






「それでマイルズ達からの報告はどうだった?」


「……新たな情報は手に入ったが、謎も多く出てきたといったところだ」


 ギルドマスターは事のあらましをアギトに説明した。説明を受けたアギトはエルフの持っているという情報は自身が知っているだろう情報とも重なる部分が多くあるだろうと考えており興味は無かったが、この街を襲撃した異獣に寄生されたワイバーンが巣としていた場所で起こった異獣同士の争いと思われる痕跡とそこでマイルズ達を襲撃してきた謎の人物の話を聞き軽く唸った。


「……君の唸り声は少し心臓に悪いな。君自身がその気が無いとしても」


「すまない。こちらも配慮が足りなかったようだ」


 鎧でくぐもっているがアンデットの唸り声だ。生者であるギルドマスターには本能的な恐怖が込みあげてくる。そう指摘されたアギトも今の唸り声は半ば無意識で発していたらしくすまなさそう声音で謝罪した。


「エルフの方は話を聞くべきだ。俺ではどの程度まで話して良いのか分からない範囲があり、実際に異獣に関しては渡していない情報も多い」


 アギトの意見にギルドマスターは賛成だった。情報が少ないため、現状どうしても後手に回っており場当たり的な対応になってしまっている。アギトが異獣の情報は必要最低限しか話さないのは彼は異獣のいた世界とは別の世界に住人だからだ。異獣に関しての情報は大半はミレーアの師匠から聞いたことだが、彼女に関しては情報出し渋るのも開示するのも本人の気分次第なところもあり彼女の基準は当てにならない。


「それで襲撃者の方だが……」


「正体は分からないが間違いなくあれの関係者ではあるだろうな」


 ミレーアと酷似した体術に彼女のことを妹弟子と称したことから十中八九間違いはないだろう。気になるのは遥か昔だと本人が述べていたことである。この世界ではエルフ以外の長命種の存在は確認されておらず、そのエルフも元は別の世界から存在だ。エルフ達が元居た世界には他にも長命者は幾つか存在していたようだが、この世界には曖昧な伝承にすら存在は確認されていないことからこの世界には今まで偶発的に流れて来たのもいないと考えられた。


「残りは異獣の力による不老か」


「……何?」


 不老という言葉に反応するギルドマスター。それはこの世界でも多くの者達がそれを求めて研究し、願い敵わず徒労に終わったことの代表である。詳しく話を聞くと異獣達が元々いた世界には時折、別の世界から偶発的に転移してくる者達がおりそうして転移してきた者達は稀に特殊な力を備えることがあったという。ミレーアの師匠の話ではその中にとある理由で不老になった知り合いがいたそうだ。アギトが使っている鎧の制作にも関わっており、顔は知らないが彼にとっては薄いが縁のある人物でもあった。


「……異獣が元々いた世界というのは断片的な話を聞いただけでも相当異常な世界と思えるんだが」


「そこは否定しない」


 アギトもあの世界のことを全て知っている訳ではないが、自身の今使っている鎧も含めて他では考えられないことをしているのは確かだ。


「だがその話が本当だとしたら彼女は何者だ?」


「分からない。異獣がこの世界で出ていることを考えれば過去にも何処かで似たようなことが起きていたと考えるべきだがこの国で記録として残っているのは……」


「ああ、初代国王陛下と初代聖女が倒したとされる存在だけだ」


「その初代聖女という線は?」


 一番可能性がある相手であり、当然真っ先にアギトが疑うがギルドマスターは首を横に振った。


「それは無い。初代聖女はその生を全うし教会側が初代国王陛下と共に火葬し、埋葬したことまで分かっている」


 死亡が確認されているのならその線はまず無いだろう。となれば何処の時代、場所で今のように異獣が発生しその時に戦った人物が不老となったと考えるべきだろう。それがもしも他国ならこの国で記録が無いなら当然のことと言えた。地脈に沿って異獣を出現していることを考えれば他国で発生している可能性は無くもないだろう。


「確かにそれならそうだろうが……」


 そうしたギルドマスターの考えを聞いたアギトは何処か納得が出来てないようだがそれが以外の答えも考え付かなかったため、一先ず一番可能性の高い仮説として納得することにした。


「それでエルフ達がこの間の戦いを嗅ぎまわっている件だが」


「ああ、街の周辺でもエルフ達は調査に訪れていた。やつら大本が何処にあるのかは知っているようだが、今のところそれを話す気はないようだ」


「地脈か……詳しく調査したとしても何処まで分かるのか不明だな」


 何せ未踏の地すら調査しなければならないため、今から調べるとなれば相当な時間が掛かることになるだろう。そんな悠長なことをしていては確実に手遅れとなる可能性があった。


「やはり何処までエルフ達が情報を出してくれるのか懸けるしかないか」


 そんな不確定とも言えるものに縋らなければならないことにギルドマスターは溜息を吐いたのだった。






「それじゃあ、乾杯!!」


 レックスが音頭を取りそう言葉を発すると一同は互いのグラスを軽く当てた。カンっと軽い音が鳴り一同は中に入った飲み物を喉に流し込んだ。大半は酒の類だが、一部苦手な者などは果物を絞ったジュースだ。


「ぷは~仕事終わりに加えて久々のこれは堪らねぇな、やっぱ!!」


 レックスが満足気にそう語るとアランがそれに同意した。


「このために生きてるって感じだよなぁ!!」


「違いねぇ!!」


 そんな騒がしい男連中を呆れた目で見ているのは女性陣だ。彼女達は一度溜息を吐くと自分達と同じように果物のジュースを飲んでいるミレーアの方を向いた。


「ごめんね。騒がしくって……」


「一仕事終えた冒険者ってこんな感じじゃないですか?」


 謝罪するソニアにこの街で飲食店に入り似たような光景を何回か見て来たミレーアがそう聞き返すと少し疲れたような表情で首を振った。


「そうなんだけど、直接間近っていのうは初めてでしょ?」


「それはまぁ……」


 何度か依頼をこなしたミレーアだが、今まで組んだ相手が同期かそれに近い者達だったこともあり、使える資金面のこともあってこういったことは今まで無かった。


「だから先に言っておくね。しばらく馬鹿騒ぎになるから覚悟していてね?」


「はい」


 これからどうなるのか戦々恐々としながらそれでも怖いもの見たさの衝動が抑えられないミレーアはこの後のことを楽しみにするのだった。

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