第六十三話 街の状況
「昨日、帰ってきてたんだ」
「うん、いろいろやることがあってそれが終わったらもう日が落ちかけてたから報告するのは今日にしたんだ」
朝起きて身支度を済ませたミレーアは直ぐにリナがギルドから借りている部屋と向かった。リナの方も身支度を済ませ今から外へ出ようとしていたタイミングだったらしく丁度良かったと言えた。
「フューアの面倒を見てくれて有難う。それで私がいない間に何か変わったことはあった?」
「あ~ミレーアのいない間に教会の女性神官が尋ねてきた」
それを聞いたミレーアは少し嫌な顔をした。自分に教会の人間が尋ねてくるのはおそらく教会への勧誘だろうと思ったからである。他の冒険者達からの話を聞いても自分の能力は教会にいる回復魔法の使いと比べても上位に入るであろうレベルであり、教会が回復魔法関連について占有していることも考えるとそういった接触があるだろうという話は聞いている。能力の低い者なら断られればそれまでだが、ミレーアの場合は前例がないためしつこく勧誘される可能性もあり、目に余るようなら冒険者ギルドに報告をすることにしている。
「あ~勧誘とかじゃなくてあくまで個人として来たそうだから問題ないよ」
ミレーアの表情から何かを考えているのか察したのかリナはそう述べた。そうなってくる女性神官が尋ねて来たことに心当たりがないミレーアは内心で首を傾げるしかなった。この街に来て知り合いになった人達のに中に女性神官はいないからである。
「まぁ、本人の自己申告ではあるんだけど。訪ねて来た理由を説明するとね」
その日、女性神官であるクーラがミレーアの部屋を訪ねて来た理由をリナは語り始めた。
「……同じ村の出身しれない?」
話を聞いたリナはオウム返しのようにクーラと同じ言葉を呟いた。ミレーアの身の上は本人から聞いており、異獣によって壊滅させられ生き残りは彼女だけの筈である。そのため、それは嘘である……とは言い切れない。クーラの年齢はリナから見て自分やミレーアよりも少し年上といったところだ。そして、彼女が教会に神官をやっているということを考えれば自ずと答えは出てきた。
「……もしかして村が壊滅する前に教会に連れ出されていたから助かった?」
「はい」
少し遠慮がちにリナは自身の考えを述べるとクーラは少し表情に影を落としながら頷き肯定した。そこから詳しい話を聞くと先の街での戦いで救護班でミレーアを見かけた時に名前と彼女の母親の面影を見たことでもしやと思いこうして訪ねて来たとのことだ。
「ただ私が教会に連れ出された時はミレーアは相当幼かったので私のことをあまり覚えていないと思います」
「確かに」
村にいた時はミレーアの面倒をよく見ていたそうだが、当時に年齢を聞けば覚えている可能性は低いだろうとリナは思った。教会に預けられ漸く生まれ故郷の村に顔を出すことが出来ると思った矢先に故郷が無くなっていたという事実に打ちのめされ落ちこんでいたところに同じ村の生き残りかもしれないミレーアの存在を知って会いに来るというのは無理なからぬことだ。
「ふむ、そうなると今は少しタイミングが悪かったみたいだね」
事情を聞いて無下に追い払うこともできず、一度ミレーアに会わせても良いだろうとリナは考えたが残念なことにその時ミレーアは冒険者ギルドの依頼で街に長期的に不在に予定となっていたため、それが叶うことはなかった。その後、その日はミレーアと会うことは出来ないためクーラは教会に帰ることなった。
「それでミレーアが戻ってきたら一度、事情を話すことだけは約束しててね。一応、会うかどうかはミレーアの意思決定次第ではあるけどね」
どうする?っと言うように視線で話しかけてくるリナにミレーアは同じ村の出身なら一度は会ってみようと思うが教会に行くのは少し躊躇いがあった。そんなミレーアの心情を見透かしたかのようにリナが言葉を続けた。
「一応、伝言は私が伝えることになってる。向こうもいろいろと邪魔はされたくないみたいだし」
同じ村の生き残り同士の再会に水を差されるのは嫌なのはクーラも同じであったらしい。そのため、間接的な伝言役としてリナが自分から買って出たのである。そのことに感謝したミレーアはリナに予定を伝えることにした。
「それじゃ、お願いね」
「任された」
そこでリナと別れたミレーアは食料品の補充に向かった。長期間街から離れることが分かっていたため、出発前に使いきれるものは使い切ってしまったことから部屋には食べられるものが何もなかった。昨日は調理せずに食べれる物を買い腹を満たした。今日は空いた時間を利用していつも利用している食料が売っている店に来たのだが値段を見てミレーアは驚き店員に尋ねることにした。
「すいません」
「ミレーアちゃんか、久しぶりだね。最近見かけなかったら皆心配してたよ」
「ギルドからの長期的な依頼でしばらくの間に街にいなかったんです」
「そういうことか、それで何か用かな?」
ミレーアがしばらくの間に店に来なかった理由を聞き納得した店員は本題に入ることにした。とは言っても店員もミレーアが何を言いたいのか概ね察しがついているようである。
「少し前に比べて結構高くなってますね……」
「ああ、そうだね。丁度ミレーアちゃんが来なくなった辺りから徐々にだが値上がり始めていたんだ」
やっぱりかという表情となった店員はいつから値上がり始めていたのか話した。そして値上がり始めたことは単純に経済に鈍化である。先の魔獣、魔物の群れの街への襲撃によって街周辺に魔獣、魔物が殆どいなくなってしまった。それによってギルドからの依頼も激減し、依頼を受注出来ずあぶれた冒険者達はお金の節約を始めた。そうしてお金の動きが悪くなれば経済活動が鈍りこうして物価という形で現れ始めていた。
「むむ……でも買い控えは出来ないしなぁ」
人間食べなければ死んでしまう。特に体が資本の近接職がメインの冒険者となれば一般人と比べて桁違いだろう。そして、ミレーアもそちら側であり、節約するために食事の量を減らすという選択肢は取ることが出来なかった。食料品及び日用品を一通り購入したミレーアはそれらを一旦、部屋に仕舞うと今度は冒険者ギルドへと向かった。
「依頼も殆どないなぁ」
張り出されている依頼を見てもあるのは魔法の触媒になったり特殊なポーションを作り出さす時に必要な希少な材料の納品依頼くらいであり、魔獣や魔物の依頼は一つもなかった。
「此処最近は殆ど討伐依頼は取れませんよ」
後ろから声を掛けられミレーアが振り向くとそこにはシャーリィがいた。
「あ、久しぶり。アランさん達がからこうなるんじゃないかって話は聞いていたけど本当に何もないんだね」
「はい、私はまだ実家が街にあるのでそこまで苦労はしていませんが、他の駆け出しの冒険者どころか下位ランクの冒険者達もお金の工面に苦労しているそうです」
長期依頼の出発前と比べて様変わりしてしまった街の様相にミレーアは何も言えなかった。街を必死で守った者達対してこの結末はあんまりではないかと怒りを覚える彼女だが、それをぶつけるべき原因となる相手は既に自分達が倒してしまっている。それにより怒りの矛先を何処に向ければ良いのか分からなくなった。
「アレンの方も苦労してるみたいだけど、ミレーアのお陰でギリギリなんとかなっているみたい」
「私、何かしたっけ?」
心当たりがないミレーアが首を傾げるとシャーリィが理由を話した。何でもミレーアの助言通りに冒険者ギルドが売り出している学習教材を買いギルドの講習を真面目に受けていたことでいろいろ知識が身に付き同じ駆け出し冒険者の中でも大きなアドバンテージとなった。シャーリィのような魔法を使える者達からすれば同じ前衛職で実力が拮抗していたとしても文字が書ける者と書けない者がいれば迷わず前者を選ぶ。実際にアレンまだ固定のパーティは組んではいないが、庶民ではあるがそれなり知識のある前衛職として信頼され始めていることから近々何処からか誘われるのではないかとシャーリィは思っている。
「あ~あの助言が役に立ったんだ。それは良かった。シャーリィの方はどうなの?」
「私の方も幾つか声を掛けて貰ってます」
魔法が使えるシャーリィは前衛職に比べて数が少なくなるため引く手数多だ。特に駆け出しともなれば武器のランクも低く剣や弓ではゴブリンは倒せても猪魔獣を狩るとなれば少し頼りない。それを補うために魔法に頼るのは自然の流れだと言えた。こうして見ると魔法使い側に負担が多そうではあるが駆け出しの魔法使いも詠唱中などに身を守る魔道具などを所持していないため、魔法を発動するまで誰かに守ってもらう必要がありその関係はウィンウィンである。
「ミレーアの方はどうです? コンビを組んでからそういった話は耳にしないようですが」
「あ~まぁ……」
実のところ今のままで満足しているというところもあるが、固定でパーティを組むとなれば流石にリナの秘密の話さなければならなくなるため余程信用できる相手でなければ迂闊に固定で組むことは出来なくなっていた。とは言ってもこれから先二人だけでやっていくのは無理があるため、早急ではないが誰かが信用出来る相手を探さないといけないと考えたミレーアだった。




