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第六十一話 調査(四)

「……」


 フードを被った少女は自身の腕を感触を確かめるように動かすと改めてミレーアの方を見た。


「なるほどのあなたもあの人の教えを受けたってことか」


 何かを納得したよう台詞を呟くとフードを被った少女は後ろから斬りかかってきたレックスの剣を素手で受け止めた。


「下がれ!!」


 その声に従い離れるミレーア。回復したアランの方は槍を持ち背後から攻撃するがそれを後ろ蹴りで弾いた。しかし、それによって態勢が崩れたためレックスが力を込めそのまま一気に押し込もうとするがそれでも少しづつしか押し込めず、直ぐさま態勢を立て直したフードを被った少女は空いた腕でレックスに攻撃しようとるがそれに気づいた彼はすぐさま距離を取り離れるとそこへ弓と攻撃魔法が降り注いだ。


「一体何者だ? これだけの実力があるなら何処で耳にする筈だが……」


「何処かの秘匿されていた戦力か……今回の依頼が冒険者ギルドから出てるいることを考えればこの国では無いだろう。可能性として一番高いのは隣国になるが……そういえばロニーが人でもエルフでもないと言っていたことを考えればその線も無しか」


 どうあれ敵対するのであれば倒すのみだが想像を絶する相手の実力にどうすれば良いのか妙案が浮かばなかった。今の弓と魔法の攻撃も相手は危なげなく防いでいる。その動きは幾つもの死線を越えた者の動きであり、それだけの想像を絶する生き方をしていたのだろうというのが容易に想像出来た。


「……一体何者ですか? あなたの力の使い方はミレーアと酷似している。彼女と師を同じくするものでしょうか?」


 ミレーアは襲撃してきた相手が自分と同じ力の使い方をしていることに直ぐに気づいたが、優れた魔法の使い手であるロニーもそのことに気づいたようだ。彼の発言にマイルズ達は内心驚くが情報を得るため、口出しは控えていた。


「そう私はあの人に教えを受けた。彼女は言ってしまえば妹弟子といったところ」


 フードを被った少女はロニーの述べた内容を肯定した。ミレーアもやはりそうかと納得すると同時に一つの疑問が頭に浮かんできた。フードと外套によって体の殆どは隠れているが声音からして自身とそう年が離れているように思えなった。兄弟子であるゴーンからも師匠の弟子が他にもいるという話は聞いていない。


「彼女が私のことを知らないのは当然、私があの人に鍛えられてのは遥か昔だから」


「遥か昔……?」


 フードを被った少女の言葉にロニーは引っかかった。単純に過去のことなら昔と言えば良いだけの話だ。まるでエルフの里にいる長老達のような物言いに違和感があった。


「私達と同じ長命種? しかし、長老達の話では元の世界にいたとされる魔族はこの世界に来ていない筈……」


 ロニーはエルフの里にいる長老達から聞いた該当しそうな種族を口に出すがその種族は最後まで向こうと戦うことを決めたため、一人も箱舟には搭乗しなかった。


「……この反応は隠しているけど異獣と同じ?」


 何かに感づいたのかミレーアは思わず探知魔法で感じ取ったことが信じられず口から漏らした。その発言にギョッとしたのはマイルズ達やロニーだ。今回に依頼においてミレーアは自分達とは違う独自の探知魔法を使っていることは既に知っていた。情報としては参考程度ではあるがソニアやバーバラと異なった情報を感じ取ることから何かを比較する時に何度か使ってもらっていた。そのミレーアが目の前にフードの少女を異獣と同じと言ったのだ。しかも、彼女は何度か異獣と戦っていたことから信憑性はかなり高いと言えた。


「へぇ……驚いた。その探知の仕方はあの人のを真似たんだね?」


 ミレーアの発言を否定することなく彼女のが使った探知魔法が彼女達の師のアレンジであることを一目で見抜いていた。


「どういうことですか……あれらに人型の個体がいるなんて話は聞いていない」


「そりゃあ当然。体はあれらと同じだけど中身が違うからね」


「……そういうことですか!!」


 今の会話だけでロニーはフードの被った少女の正体を見抜いていた。マイルズ達は横から話を聞いていても知識が無いため、話の内容が理解出来ずチンプンカンプンだ。流石にこれ以上は理解出来ない話を長々と続けられても苦行であり、皆を代表してマイルズがロニーに尋ねた。


「すまん、話している内容はこちらは理解出来ていない。分かりやすいように説明してくれ」


「あそこにいるのはし……異獣と同じ肉体構成をしていながら人と同じ形を取るように作られただけの存在。分かりやすく言うと土魔法で作られる泥人形のようなものです」


 分かり易い例えにマイルズ達は合点がいったようだが魔法を使うソニアとバーバラには別の疑問が湧いていた。


「それだと意志の無いものにしかならなさそうだけど……彼女どう見ても確固たる意志があるようだけど」


「遠隔操作で操っているんです。異獣の使う力自体が強い意志に影響されやすい性質がありますからそれを利用しているのでしょう」


「人の強い意志に影響される?」


「はい。第二フェイズ以降の異獣はその力で魔獣以上の強さがありますが、同時に溢れ出た力を常に垂れ流している状態でもあります。そういった流れ出た力を強い意志を持って逆利用することが出来るんです」


 ロニーの話した内容にミレーアは既にアギトから聞いており知っていた。しかし、それは口に出さず黙って話を聞いていた。


「異獣の体を使いその力を利用する。そしてその肉体には意志が宿っている。……つまりあれがその力を十全に振えている状態ってこと?」


 ロニーの話を聞いてソニアは自分達を襲撃してきたフード被った少女の異常な戦闘能力の答えを導き出した。その答えにロニーは神妙な表情で頷いた。


「力に振り回されている様子が無いということは本人も相当の実力を持っていたということだろう」


「異獣は力を垂れ流している……いや、仮に異獣がその力を十全に使えるようになったらどうなるんだ?」


 人型の大きさであるフードを被った少女でこれだけの力を発揮出来るのだ。仮に大型魔獣サイズの異獣がそれが可能になった時のことを考えればその力は計り知れないだろう。


「それが第三フェイズ……異獣が確固たる意志を持つ段階そして……」


「この世界にそこに至ったのはかつて倒された魔獣達の王と呼ばれる存在」


 フードを被った少女はそう述べた。


「建国の話に出てくる。初代国王陛下と初代聖女に倒されたとされる存在か!!」


 それがどんな存在だったのか詳細には語られておらず、ただ恐ろし程の力を持った存在としか残されていない。そのため、王家の力を示すための誇張された内容であり、教会もそれに協力していると陰では言われている。


「それを知るあなたは何者ですか? 私達エルフ以外の長命種はこの世界に来てはいません。何らかの理由で別の世界からこの世界に転移したきた可能性はありますが、それは流石に偶然にしては出来過ぎている」


 人間はではどう足掻いても当時のことを知る者が生き残るのは不可能だ。長老達が元々いた世界のエルフ以外の長命種だとしても当時の戦いを知るのなら千年程前であり、既に当時のことの知るエルフ達は死を待つばかりとなった長老達だ。故に隠蔽魔法で何らかの偽装をしてる可能性もあるが、目の前のフードを被った少女が長老達と同じ年齢とはとてもじゃないがロニーには思えなかった。


「当事者の一人ではあった。言えるのはそれだけ」


 それ以上は語る気はないと言わんばかりに声音。そして、思い出しかのようにミレーアの方へと視線を向けた。視線を向けられたミレーアはいつ再び襲い掛かられても反応出来るように身構えるが当のフードを被った少女は気さくな調子で質問してきた。


「あの人はつい最近までいたの?」


「……ほんの数か月前までは」


 誰のことを聞いているのか直ぐに思い当たったミレーアは正直に伝えた。


「そっか、あいつのこととかいろいろと言いたいことがあったんだけどいないなら仕方がない」


 心底残念そうな声音でそう呟いた。そこにあるのは長年溜め込ん出来たものを吐き出すことが出来ず何処かもどかしい思いをしているようでもあった。


「師匠……一体何したんですか」


「あの人が悪い訳じゃないよ……それでも愚痴の一つでも漏らしたいだけだから」


 ミレーアの思わず呟いたことに律儀に返答するフードを被った少女。先程まであったこちらを全滅させようとする殺気があからさまに薄れており何処か気が抜けてしまったような印象だ。


「あ~あ、全員此処で殺していくつもりだったけど何だかやる気がなくなちゃった」


 構えを解きやれやれと言わんばかりに首を振るフードを被った少女。しかし、そんな先程の彼女の実力を体験したミレーア達は警戒し、この瞬間襲い掛かってきても良いように身構えている。そんなミレーア達に状態に呆れたようにフードを被った少女は話しかけた。


「私からはもう仕掛けないよ。今日は見逃してあげるってこと」


「信用は出来ないな」


 襲い掛かられた側としては安易にそれを信用しろとは無理な話だ。故にマイルズがそうフードを被った少女の言葉を切って捨てた。


「……まぁ、考えてみればそれもそうか。そういえばそこの妹弟子、名前は?」


「ミレーア」


「ミレーアちゃんか。……私の名前はマリア。またね」


「……マリア? 待てその名前は……」


 その場から消えるように立ち去るマリア。そしてその名を聞いて動揺するマイルズ。突然嵐のように一方的に襲撃してきたマリアは現れた時と打って変わって静かに消え去ったのだった。

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