第六話 依頼達成報告
「はい、これで手続きの方は終わりになります」
ゴブリン討伐後、ギルドに戻り依頼の達成とその証拠、そしてゴブリンの洞窟内で拾った遺品を渡し、最後に侯爵家の印のある手紙を渡した。手紙を受け取ったギルドの受付嬢は驚き別の職員を呼ぶとその職員が担当で話を進めた。聞き取り調査を行い最後に本当に封筒の中身を見ていないか魔法による真偽を証明を行った。勿論ミレーア達は帰りの道中でも封筒の中身を見ていないので結果は白だ。これで完全に安心出来るという保障は無いがそれでもやらないよりは遥かにマシだ。
「とりあえず後は拾ったモノとか売りに行くだけだね」
「その前に納品依頼があるかどうか確かめましょう。そちらで売った方が高く売れるので」
ミレーアが道中で拾った魔法触媒に使える黒いキノコ。普通に店で売ってもそれなりの額だが納品依頼があった場合、そちらの方が幾らか割高で売ることが出来る。珍しいものは需要と供給が釣り合っておらず、いつも不足しており納品依頼が張り出されている。今回の黒いキノコは直ぐに幾つかの納品依頼を見つけることが出来た。
「一番高く提示されているのはこの方ですが……交渉次第ではこちらの依頼を出された方の方がもっと高く買い取ってくれる可能性があります」
シャーリィは依頼人の名前を見るとそう意見を述べた。
「何で?」
「今回入手したものが通常のものよりも一回り以上大きいからです。これだけ立派なサイズはそうそうお目にかかれないものですし、もし交渉が失敗しても今度は改めてこちらの方に売れば良いですから」
「そううまく行くか?」
シャーリィの意見に疑いの目を向けるエリオだが、彼女は自分の意見に自信があるようだ。
「こちらの方は気前の良い方でもありますから勝算は十分にあるとだけ言えます。逆にあちらの方は早急に欲しいからこの値段ということでしょうが、最近あまり余裕のある方ではないのでこれ以上の増額の望みは薄いです」
シャーリィは依頼主達のことを知っているようだ。魔法使いであり、教養もあることからそれになりに裕福な家庭であることはエリオ達も察している。つまりそういった富裕層の事情に関してはシャーリィの方が詳しいということだ。
「う~ん、私はどっちでも良いけど。二人は?」
「まぁ、損する訳じゃないから良いじゃない?」
「モノは試しにやってみるのも悪くは無いか」
結論は出たことでシャーリィは納品依頼用の受付に依頼品を持っていくとそこでギルド職員とやり取りを始めた。その様子を眺めていると満足した表情でシャーリィは戻ってきた。
「首尾よくいきそうな感じだな?」
「はい、ギルド職員の方も大きさを見てもう少し値上げしても良いと思ったようです」
ギルド職員も味方してくるなら心強いとミレーア達は思った。結果がどうなるかは後日となるがそれでも確定でそれなりの報酬があるとなればサイフの紐も緩むと言うものだ。
「じゃあさ、残りのモノ売ったら依頼達成パーティやるか?」
「賛成かな」
「私も賛成」
「私も賛成です」
エリオの提案に残りの三人も賛同した。
残念ながら鑑定の結果入手した牙などの素材はそれほど高い値段で売れるものでは無かった。
素材を売った後、四人が訪れた場所はギルドが運営する飲食店だ。冒険者割があり肉体が資本である冒険者向けのため量も多めだ。四人は空いている席に座るとメニューを開きそれぞれが食べたいものを店員に注文すると会話を始めた。
「それにしてもミレーアにはいろんなこと教えて貰ったな。やっぱあれも全部、師匠に教えて貰ったのか?」
帰りの道中でも自分の経験談を含め危険なものやいざという時に使えるものをミレーアは三人に教えていた。魔法や俗世に関してはシャーリィの方が上だが、サバイバル面の冒険者をやっていくには有用な知識はミレーアは豊富に有していた。シャーリィも道中でミレーアに聞いたことを休憩時にしっかりメモしていた。
「大半はそうだよ。残りは実際に師匠に連れられて実地での経験。実際に体験して見ると本に載っていないような知識も多くあったりするからって師匠にいろんな場所に連れ回されたっけな」
その時のこと懐かしく思うミレーア。最初はビクビクと師匠の後ろについていくだけだったが慣れていくにつれて新しい発見に心を躍らせていた。それによって楽しいことだけではなく、危険な目にあったこともあったがそれもまた良い経験になったと彼女は思っている。
「その辺りは魔法と同じですね。魔導書を読んでも実際に魔法を使ってみないことには問題点が分かりませんから」
「あ~今回の洞窟でのこともそうだね。武器が振り回し辛かったり、魔法を使うタイミングに注意しないといけなかったりで大変だったもんね」
アレンは今回の剣をうまく振るえず苦い思いをすることとなった。ミレーアが代わりになる武器を持っていたから良かったもののもし彼女が持っていなかったら自分が完全にお荷物なっていたからだ。今後、依頼を受ける場合そういった現地の環境が自分の戦闘スタイルに適しているか考える必要性があることをアレンは強く実感した。
同じくシャーリィも味方に魔法が当たらない様に細心の注意を払う必要があったため、想定以上に精神的に疲弊することとなった。このまま冒険者を続けるなら狭い洞窟で有効活用出来る魔法の必要性を感じていた。
今回十全に戦えたのはエリオであり、ゴブリンを一番倒したのも彼だ。そんな彼も今回の戦いでの反省点があった。
「迂闊に前に出過ぎるのは問題だったな……危うく後ろからゴブリンに殺されるところだった」
洞窟に会った一際大きな岩陰に隠れていたゴブリンに後ろから奇襲されあわやというところでミレーアが投擲した石がゴブリンの頭部を捉えたことで彼は窮地を免れた。単体の強さでは間違いなくエリオの方が上であったが、岩陰に隠れ背後から奇襲を行ったことから戦術面で所詮下等な魔物だと見縊っていたゴブリンに劣っていたのが露呈した。もっと頭を使って行動しないとなぁっと彼はこの悔しさを自身への戒めとした。
「……反省も良いけど食事前は程々にした方が良い思うんだけど」
ミレーアの言葉にハっとなる三人。彼女の言う通り自分達は反省会をしに来た訳ではなく冒険を達成した祝いに来ていたことを思い出したのだ。
「そうだな……それじゃあさ、ミレーアの師匠ってどんな人だったのか教えてくれよ。結構気になっててさ」
「いいよ」
先日、マイルズ達に話したことと同じ内容ではあるが自慢の師匠のことを語るのはミレーアにとっては好きなことだ。アレンとエリオは次々と質問するのでそれに答えるミレーア。師匠の強さにすげぇと目を輝かせ、やらかしに関しては腹を抱えて笑う。
「そういえば一度だけミレーアさんは背後から襲撃してきたゴブリンに気づいたようですがあれも師匠さんの教えですか?」
一度だけ数は少なく数匹程度だが後ろから攻めてきたゴブリン。洞窟に枝別れたした場所は無かっため、洞窟の外に出ていたゴブリンが戻ってきたのだろう。寸前どころかある程度の離れた距離がある段階でミレーアが気づけたことにシャーリィは気になっていた。
「あ~あれは師匠の感知の仕方を私なりに真似ただけだよ。誰か少し手を出して」
なんだろうと疑問に思いつつも手を出したアレン。その手にミレーアが手を翳すと不思議な感覚をアレンは感じた。
「なんだろう……少し気持ちが良い感じがするけど」
「回復魔法を当ててるからね。それで回復魔法を当ててると何というか感触があるんだよね。負傷した部位に当てると感触も違うし」
「……魔法を使う場合、自身の発動した魔法とは魔力的な繋がりがあるため、そこに自分が発動した魔法があるという感覚はあります。回復魔法は技術を教会が秘匿しているため詳しいことは何一つ分かりませんが、回復魔法が傷を癒すということを踏まえると対象となる相手に魔力的な繋がりが発生していると考えることが出来ます」
アレンとエリオはそもそも魔法が使えないため、頭に疑問を浮かべるだけだがミレーアの話から自身が魔法を使った時の感覚を踏まえて推測気味に結論をシャーリィは述べた。
「でもそれだと相手に察知されないか?」
「今は説明するために分かるくらい出しているけど……今はあんまりアレンの方は感じないでしょ?」
エリオの疑問にミレーアがいつもの量に調節し尋ねるとアレンに確認をとった。アレンは何か感じないかと腕に意識を集中させた。
「あ~うん。意識して集中すれば少し何かあるかな? くらいにしか感じない」
「それでも私には回復魔法が当たるのがはっきり分かるからね。一方向にしか出せないけど洞窟入った時から後側に向けて回復魔法を出し続けていたんだよ」
「回復魔法にそんな使い方が……ですが、それですとゴブリン以外に小さな生き物に当たって勘違いしてしまいそうですし、魔力消費も馬鹿にならないのでは?」
「そこは問題ないかな、当たった対象の大きさは概ね分かるから。魔力消費に関しては私の感覚では少なく済むとしか言えないかな」
こればっかりは本人の総魔力量に対してどれだけ消費するのかになるため、何とも言えない。例えば同じ10の消費でも総魔力量が50の場合と100の場合では割合として見れば大きく違う。
「興味深いですね……仕組みさえ分かれば他の魔法でも組み合わせれば似たようなことが出来るかもしれません」
シャーリィはその有用性に目を付け再現するつもりのようだ。ミレーアは今後、シャーリィから意見を求められたら協力しようと考えた。
そんなこんなで話をしていると注文した料理が届き四人は食事を楽しんだのだった。
シャーリィの口調が若干迷子になっていたので修正しました。