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第五十四話 兄弟子

「それでミレーアがいない間に何をするんですか?」


「ミレーアが動向した調査はしばらくは終わらないだろうからな……だからこちらも出来る限りのことはやっておきたい」


「それは分かりますが……それで私達は何でこんなところにいることに関係があるんですか?」


 アギトとリナは現在、街からそう遠くない森林の中に潜伏していた。何故こんな何もないところで潜伏しなければならないのか分からないリナの質問は至極当然なことと言えた。


「それは後で説明する。俺としても確証がある訳でも無いからな」


 何だそれは思いつつリナは大人しく潜伏していた。時間だけが過ぎてゆき日も落ち辺り一帯が闇へと包まれても二人はそこで潜伏していた。この日は運が良いことに夜も快晴であり、月光によって平地などはそれなりに明るいが二人が潜伏している森の中は光が届かず真っ暗である。


「……今更ですけど、見えるんですか?」


「当たり前だろう。こう見えてもアンデットだからな」


 鎧と多数のマジックアイテムに包まれているとはいえアギト自身が骨だけ構成されたアンデット系統の

魔物であることは変わりない。アンデット系統は夜や暗い洞窟で活動するため、辺りが闇に包まれていても視覚を問題なく確保出来ている。


「私の方は……こんな場所なのに暗視用のマジックアイテムを使っていないにも関わらずはっきり周囲が見えることに驚いているんですよ」


「やはり肉体面でも相当体を弄られていたか」


 アギトにとっては予想の範疇であったようだ。彼はあの遺跡が元々あった世界のことも知っており大戦時にそういった技術が多数生み出されたことも知っていた。実際にその技術の恩地を受けたリナからすれば恐ろしい話であった。ついこの間までは新人としてそこそこ優秀だった自分の能力がベテランの冒険者以上の力を得ているからである。弓の技術だけではなく素の身体能力も上がっており、事実暴漢数人程度では鼻歌混じり返り討ち出来てしまう。そして、それだけの技術を持ちながらあの箱舟によって世界から逃げる選択をせざる得なかった異獣たち脅威。その一端は先日で既に体験済みでもあった。


「……と、やはりか」


 アギトが何かを見つけたのか、その視線を追い目を向けると何か靄のようなものが集まり凝縮し形作っているのが見えた。


「あれは何ですか?」


「新たな異獣が発生しようとしているところだ」


 アギトの簡潔な説明にリナは驚愕し、もう一度視線を向ける。靄は時間が経つにつれて朧気だった輪郭がハッキリとしているのが彼女の眼には確認できた。


「先の戦いでワイバーンと融合していた異獣は特異な変異体だ。寄生し宿主の体を作り変えることに特化していた。内包していた力も相当なものだった上にミレーア達とのぶつかり合いで多くの力が飽和していた。それらが集まり新たな異獣が発生すると睨んでいたがどうやら予測通りだった」


 集まり力が凝縮したことで発生した異獣は丸太ように太く体長は平均的な成人男性の身長の倍近くある目の無い蛇だった。新たに発生した異獣は此処が何処なのか探るように目のない頭部を動かし確認し、首を傾げるような仕草をしていた。まるで自分が何処にいるのか分かっていないような行動である。


「リナ、此処からあいつを狙えるか?」


「問題はないですよ」


 リナは弓に矢を番え放ち新たに発生した異獣の頭部を撃ち抜いた。彼女の弓を頭部に受けた異獣は断末魔の叫びを上げることなく即死し地面にその体を横たえた。あまりにもあっけなく終わってしまったことで釈然としないリナはアギトに視線を向け口を開いた。


「……いやにあっさりと終わりましたね」


「第一フェイズの異獣はあんなものだ。弱い魔獣と個体能力はそう変わらない。ただ成長すれば遺跡で見た個体や今回ワイバーンに寄生し騒ぎを起こすような個体に変化するから無視するのは危険なんだ」


 危険の芽は早急に取り除くのが望ましい。異獣と戦いでその危険性を肌で十二分に感じていたリナもその意見に賛成だった。遺跡で自分たちを襲撃してきた個体もワイバーンに寄生し多数に魔獣、魔物を従えた個体もアギトの話では第一フェイズの異獣が成長した第二フェイズの個体であり、その中でも真ん中よりも少し上くらいの脅威だとリナは聞いていた。第二フェイズの上位の個体となれば異獣がいた元の世界では小国一つが滅びかねない程の脅威であると聞いた時はそうならなくて良かったと心底安堵もリナはしていた。


「……どうやら本命も来たようだ」


「え……?」


 アギトの呟きに驚きどういうことなのか聞こうとした直後、リナは周囲に複数の気配を感じ取った。


「囲まれて!?」


 視線を向ければ突如として現れたそれらはフードのようなものを深々被っており、リナには口元しか見えていない。体形から判断するなら人のようだ。


「一応、断っておくと俺は全てを知っているわけじゃない。ただあれが何処からきてどういった存在なのかを知っているだけだ。だからこそあんた達に聞く()()は何処だ?」






「……なんだこりゃ?」


 それを見つけたアランは困惑の声があった。それらはごく一般手にありふれた光景だった。洗濯され干された衣類。その近くには薪に使うための木の枝が大量に積まれており、少し離れた場所には調理場と思われる場所もあった。そして、それらの持ち主が住んでいると思われる住居。一つ一つで見ればそれらに対して異常な点は見られない。ただしそれらが人のいないであろう森の奥深くにあることとそれらの大きさから判断するなら此処に住んでいる者の身長が成人男性の半分程しかないということを除けばだが。


「何でこんなものがこんなところに?」


 マイルズもその異様な光景に困惑しており、騒ぎを聞きつけ集まってきた冒険者達も似たり寄ったりに反応だ。たった一人を除いて


「ああ~」


 何か心当たりがあるような反応のミレーア。


「……? ミレーアちゃんここに住んでいる相手に心当たりがあるの?」


「兄弟子です。……あ~会う前に一応、忠告しておきます。……絶対に攻撃しないでくださいね」


 それだけ言うとミレーアは住居に近づきドアを2回ノックすると中にいるであろう相手に声をかけた。


「兄弟子~ミレーアだよ。中に入るからね」


 ドアを開けると身を屈め住居に入るミレーア。暫くするとミレーアが中から出てくると中にいた人物も続いて出てきた。


「おいおい、どういうことだ?」


「え、え?」


 マイルズ達は現れた人物を見て困惑していた。現れた人物は此処に建てられた住居の大きさに見合った身長だった。そこまではまだ納得は出来る。しかし、その人物の肌は人ではありえない緑色をしていた。人と似た体型しながら緑色の肌を持ち小柄となれば冒険者で無くとも直ぐに誰もが思い当たるだろう。


「客人か……何か理由があるようだな。……最近のあった騒ぎについてならある程度は話せるが、此処で立ち話も何だし中で」


 そこまで言いかけた彼は今いる人数と自身に住居を交互に見た。


「狭くて無理だな……すまないがここで話すとしよう」


 流暢に人の言葉を使っているが紛れもなくそこにいたのは老成したゴブリンだった。






「戻ったか、アレクシア」


「はい、兄上。現地で私がやることはもう無いので」


 事態も収束し、自身はもう必要ないだろうと判断したアレクシアは王都に戻り自身の兄にことの顛末を報告した。報告を聞いた彼はその端麗な顔を歪めた。


「思ったよりも事態は深刻のようだな。……だが原因が分からない。いや、祖王と初代聖女、そして傭兵が倒したという魔獣と魔物の王が王家に残された伝承通りなら同じことが起きうることはありえるということか?」


「それは私にも分かりません。ですがもう一つ目を向ける場所があるのでは?」


「教会か……だがそれにどんな利点がある?」


 戦いの後、教会を立ち上げた初代な聖女が何をしたのか関係者でもあった王家はその秘密を知っている。何故回復魔法を使える者達が一度、総本山に送られる理由もだ。強力な力でもある回復魔法は教会にとって既得権益であり、それを笠に着て汚職を行う者達もいる。特に上層部に行くほどその傾向が強くなり当初の理念など見る影も無くなっている。それでもこのようなことするとは彼には思えなかった。


「今のところは見当たりません」


 アレクシアとしてもそれが無理筋なのは分かっていたのだろう。故にそこでその話題を止めて彼女は気になっていたことを聞いた。


「そういえば私の命を狙った者達ですが」


「ああ、既に背後は洗い出し沙汰は下している。……何と言い訳したか聞くか?」


「結構です。想像がつきますので。それでですが……」


 徐にアレクシアは帯剣していた剣を鞘から抜くと自身の兄に見せた。


「……王剣に近いものを感じるな」


 突然剣を抜かれても動じることなくアレクシアが見せた剣をそう評価した。


「どうやってか知りませんが理想の素材を見つけたヘファートスが鍛え上げた最後の剣だそうです」


「最後……彼はどうしたんだ?」


「剣を私に届けた者に託した後に天に召されたそうです」


「……そうか」


 既に年も年であり無理が祟ったのだろうと彼は予想した。ただ彼としてはそれ以上に気になることがあった。


「それにしてもそれ程の剣を鍛えるために材料を何処で?」


 彼が使える伝手を総動員してもヘファートスのお眼鏡にかなうものを見つけることは出来なかった。それが自身のあずかり知らないとこで素材を見つけ出したの気になっていた。その質問にアレクシアは首を横に振るだけだった。当の本人は死亡し、この剣の素材を何処で手に入れたのかまったく情報がなかったからだ。


「その剣を届けた者が渡した可能性は?」


「例の在野にいる回復魔法使いです。迂闊でした。彼女自身が戦いの直後に倒れたことと事後処理の関係ですっかりそのことが抜け落ちていました」


 失態だと言わんばかりのアレクシア。連日事後処理のために動いていたため、顔に疲れが溜まっているのは兄である彼には一目で分かった。そのため、彼はアレクシアを休ませるために今日は此処で話を止めることにした。


「他の話はまた明日聞こう。今日はもうゆっくりと休んでくれ」


「……そう致します。兄上これで失礼します」


 疲れが溜まっていては頭の働きも悪くなる。アレクシアも自覚があるのか何時もなら報告を全て終えた後でと言うところをあっさりと引き下がり退室した。妹を見送った彼は残った執務作業に取り掛かったのだった。

四話で会話の中で出てきたゴブリンに詳しい兄弟子はゴブリンでした

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