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第五十二話 戦いを終えて

「……んん?」


 眠りから覚めたミレーアを瞼を上げ辺りを確認した。そこは何処の室内であり、自分は医療用のベッドに寝かされていることを彼女は認識した。


「あ、そういえばあいつは!?」


 覚えていたのはドラゴンの頭部を砕く瞬間であり、その後どうなったのかまったく覚えていなかった。右手を見れば包帯が巻かれており、あの一撃で自身の拳がどうなったのか何となく察していた。


「……想像以上に力を出し過ぎて倒れちゃったのか」


 あちゃぁっと左の掌で額を叩いたミレーアは反省した。


「きっと心配かけちゃっただろうな」


 共闘していた相手が自身の攻撃の反動で腕をボロボロにし、倒れたとなれば気が気でなかっただろうことは想像に難くない。


「それで腕の方は大丈夫かな?」


 治療はされているが万全でないと困るため、包帯を外し腕や掌を動かして確める。


「ん、問題は無いね」


 何か違和感があれば自分で治すことも考えていたか杞憂だったかとミレーアは判断した。とりあえずあれからどうなったのか話を聞くために病室を出るとそこには仁王立ちしたリナがいた。


「あ、丁度良かった。あれからどうなったのか教え……」


 徐々に声が小さくなっていくミレーア。理由は簡単、笑顔のまま表情が動かないリナ。口元は笑顔だが目が笑っていない。そんなリナの表情にミレーアは恐れをなしたのだ。


「うん、聞きたいことが一杯あるのは分かる。あの後どうなったのかも知りたいのも分かる。でも今日は一日休んで安静にするように……分かった?」


 最後の部分だけが気持ち声が低くなった。拒否を許さぬその言葉にミレーアは黙って頷くと回れ右をしていそいそとベッドに戻り布団を被った。それを確認したリナは扉をゆっくり閉めた。


「……今日は一日こうしてよう」


 リナが立ち去ったのは気配で察したが、こっそり抜け出す気にはなれなかった。


「みゅあ!!」


 ピョンッと床から跳んでミレーアのいるベッドに跳び乗ってきたフューア。ミレーアの顔横に近寄ると彼女の頬をペロペロと舐めた。


「擽ったいよ。……私はもう一眠りするけど一緒に寝る?」


 ミレーアが掛布団を軽く持ち上げフューアが入るくらいの隙間を作るとフューアは嬉しそうに潜りこんだ。


「それじゃあ、お休み」


「みゅぁあ」


 フューアが潜り込んだことで布団の中にほんのり温かみを感じながらミレーアは目を閉じたのだった。






「どうだった?」


「元気が有り余っているのか病室から出ようとしていたので釘を刺してきました」


 アギトの問いにリナが呆れた口調で返した。過剰な力の使いすぎでミレーアの右腕は見るも無惨な状態だった。回復魔法を使っても完治するのかも怪しい状態だったが治療してみれば無事元に戻り完治した。ただ治療に携わった神官はそれを見て驚いていた。曰く、回復魔法のお陰という訳でなくミレーアの持つ自己治癒能力が高いとのことだ。


「……相当肉体の方面に影響が現れていたか」


「どういことですか?」


 今のミレーアの状態がどうなっているのか分かっているようなアギトの呟きにリナが尋ねた。


「状態としては今のリナに近い」


 足を失い高性能な義足を手に入れたリナだが薄々それだけではないことは感づいていた。幾ら義足が高性能で使い方をどうゆう方法か不明だが、十全に使える知識を手にしたとしてもそれを使うリナ自身の体がついていかなければ宝の持ち腐れだ。しかし、その気配は一切なく義足の性能に振り回される事ない肉体にリナ自身疑問を持たない訳がなかった。あの遺跡で義足を付けた時に自分の肉体も何らかの調整をされたことは想像に難くない。


「ミレーアに関しては諦めず強敵と戦えば戦う程、強くなっていく」


「成長し続けるということですか?」


「あれの師匠の言葉で言えば変質だな」


 アギトも詳細までは知っている訳ではないが、異獣の変化に近いものであり今回街を襲撃したワイバーンが融合していた異獣の影響によってドラゴンに変わったのもこれが理由である。


「ミレーアは大丈夫なんですか?」


 あそこまで急激な変化を行い暴走するのを見ていたリナからすれば同じことがミレーアにも起こるのでは?と不安になった。

 

「それは無い。ワイバーンが暴走したのは異獣が融合したことによって自我が交じり合い正気を失ったのが原因だ。同じようにミレーアが暴走することはないだろう」


 それを聞いてホっとしたリナ。


「ただどう変質するかはミレーアのこれから次第だ。それこそ彼女の気持ち次第で神にも悪魔にもなるだろうな」


 アギトの述べた内容にそんな大袈裟な思うリナだが、一方で現状のミレーアの体に起きていることを考えればそう例えるくらいに危険なものであることは察せられた。


「そういえば回復魔法について調べているのがいたな……今回のことでデータも十分に揃っただろうから気づくか?」


 今回の魔獣、魔物の群れ襲撃においてミレーアは医療班に回されていた。そこでジェライクから受け取ったマジックアイテムを付けたけてミレーアは治療を行っていたため、多くのデータが彼の元に送られたのは間違いない。






「そっか亡くなってたのか」


「はい、此処に運ばれた時に相当衰弱していたらしくそのまま息を引き取ったそうです」


 ヘファートスに依頼していた剣が出来上がったことで労おうとしたが、既に彼が亡くなっていたことをクライドの報告を聞いて知ったアレクシアは黙祷し、心の中でヘファートスに対する労いの言葉と完成した剣に対する感謝の意を述べた。


「それでクライド、口調……」


「……それにしても素晴らしい剣だ。まさか此処までのものが出来るとは思いもしなかった」


「そうね。……私も予想していなかった」


 剣を鞘から抜きその剣身を見るアレクシア。戦闘の時はじっくりを確認することが出来なかったが改めて見たことで確信したことがあった。


「やっぱりこの感じ……王剣に近いもの感じる」


「王剣に?」


 国王の座を継承したものが代々受け継いできた祖王が魔の王を討ち滅ぼしたとされる剣であり、滅多なことでは表に出ず式典などではレプリカを使っているくらいである。そのため存在は知っていても実際にその目で実物を見たことが無いクライドには比べようが無く、王族であり実物を見たことがあるアレクシアが言うならばその通りなのだろうがそれでも信じ難い事柄でもあった。


「ヘファートスは求めていた素材が手に入ったことでこの剣を作り上げた。……彼は元から理想の剣を作製するのに必要な素材を知っていた? だけどその素材が何かは分からなかった」


 ヘファートスに剣の作製を依頼したが求める最高の素材が無いと言われたことでアレクシアはあらゆる手を尽くして素材を入手し、彼の元に持ち込んだがそのどれもがお眼鏡にかなうものではなかった。しかし、王剣に匹敵するであろう剣を彼が作り上げたことでアレクシアは一つの推測を立てた。


「目標となる剣をその目で見ていて、そしてそれに使われている素材も見たことがあった」


「アレクシア?」


 アレクシアの呟きにクライドは怪訝に思い声をかけるがそれに答えずアレクシアは思考を巡らす。問題は王剣に匹敵するであろう剣をヘファートスが何処で見たかである。だが王剣に匹敵するだろう剣にアレクシアは心当たりがあった。そもそも王剣は祖王が共に戦った仲間から譲られたものであり、元の持ち主がいることを王族のみが知っている。その仲間だった者の名前は記されていない。傭兵とだけ記されており、容姿とデタラメな強さだけが残されていた。そして、祖王にとっては……


「もしこの世界にまだいるんだったら是非ともお会いしたいところだけど……難しいか。それでクライド、被害状況はどうなっているの?」


「予想の範疇は超えていない。この街の冒険者は優秀な者達が揃っていたようだ」


「そうね、此処はそこそこの激戦区でもあったから腕の立つ冒険者達多くいたのは運が良かった言えるかな」


 冒険者ギルドと繋がり深いアレクシアは当然、各支部の戦力状況とその土地に現れる魔獣、魔物傾向は把握していた。これだけの魔獣、魔物の大群に襲撃されて対応出来るギルド支部は決して多くは無い。大半の街は壊滅させられるか良くて半壊させられたことだろう。尤もそうならないように各ギルド支部に連絡を飛ばしランクの高い冒険者を援軍として送らせる予定だったが、それでもタイムラグによって被害は此処よりも大きくなっていたことだろう。


「後日、功労者達には褒賞を渡すからピックアップをお願い」


「分かった。それでこれが報告書だ」


 クライドが紙の束をアレクシアに差し出すとそれを無言で受け取り内容を確認した。書かれているのは今回の被害報告やかかった費用の集計である。大量に使用したポーション系統の費用が目を引くがそれ以上に大規模殲滅魔法『パイロクラスティックフロー』が今回の戦いで最も費用がかかっている。


「あ~何これ? ……魔法改良案に対する予算申請書?」


 今回使用した大規模殲滅魔法『パイロクラスティックフロー』は術式そのものが相当古くに作られたものであり、今の宮廷魔法使い達から実際に使用したことから幾つかの改良案を考えついたことでこの申請書が出されたようだ。流石にこれに関しては自分だけで決めてい良いことではないため、此処では保留とし持ち帰り相談するつもりだ。


「それで最後は……冒険者に対して調査依頼か」


 大きな被害を出すことなく今回の騒動を収めることが出来たが同じことがまた起きないという保証はないため、早急の調査が必要なのは当然と言えた。まだやることは多そうだなアレクシアは内心で溜息を吐くのだった。

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