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第五十話 援軍

「冒険者達の撤退を確認。……いけます!!」


「大規模殲滅魔法『パイロクラスティックフロー』を発動させろ!!」


 それは戦略級の大規模術式魔法であり、炎、土、風合わせた複属性魔法である。人工的に火砕流を引き起こし高温と大量の土砂による二重攻撃で敵を飲み込む広範囲攻撃魔法である。高温と高い物理耐性を持たない限り巻き込まれれば命はない。実際に飲み込まれた大多数の魔獣、魔物は高温に焼かれるか大量の土砂によって圧死した。巻き込まれても辛うじて生き延びた大型魔獣もいるが既に満身創痍である。


「……あれが国が秘匿する大規模殲滅魔法か」


 その光景か見ていた誰かぽつりと呟いた。国が戦争などに備えてこういった戦略級の魔法を秘匿しているのは知られている。実際にその破壊力を直に見ればれば秘匿されるのも納得の威力であった。


「とは言ってもあれを発動させるのは並大抵のことじゃないよ」


 魔法を使える者はこれを発動させるのが如何に難しいか見て理解していた。まずこれだけの広範囲に渡って発動させるだけの巨大な術式が必要であり、それを制御するために一流の魔法使いが最低でも三人。それに加えて魔法を制御するためのマジックアイテムが大量に必要だろう。とてもじゃないが並み大抵の財力では実現不可能である。


「国の連中としても使い時は見極めていたんだろう。実際、使うなら多数の大型魔獣で出てきた今がベストだった」


 運良く「パイロクラスティックフロー」に巻き込まれず生き残った魔獣、魔物は少なからずいるがその数は魔法発動前に数に比べれば十分の一以下であり、今集まってる冒険者達でかかれば十分殲滅は可能だろう。


「早くここを終わらせてあのドラゴンを何とかしないとな」


 冒険者達は生き残った魔獣、魔物を撃破するために駆け出したのだった。






「はぁ!!」


 襲い掛かってくるドラゴンの攻撃を躱し懐に潜り込んで左の拳で殴るミレーア。その感触は固く分厚い手外殻で守られていることが良く分かる手応えだった。それを確認したミレーアは大きく後ろに下がりドラゴンから距離を取ろうとするが当然、逃がさないと言わんばかりにドラゴンが追いすがる。


「グルァアアアア!!」


 そこにリナから援護射撃が入りドラゴンの動きを妨害する。その攻撃を受けて忌々しげに射手であるリナがいる建物を睨むドラゴン。 ミレーアが此処にいなければ直接赴いてその爪でリナをズタズタに引き裂いただろう。先に邪魔な射手を仕留めるために迂闊に飛び立とうすればその隙をつかれ肉薄される。ドラゴンの野生の感がそう告げていた。


「……不味いなぁ。手立てがない」


 何度か攻めているが弱点を見当たらない。何か特殊な条件があるのかと考えたがそれが分からなければ結局攻略の糸口は掴めずこのままではジリ貧である。どうするべきか戦いながら考えるミレーア。しかし、ドラゴンの猛攻がミレーアにゆっくり考えさせる時間を与えてくれない。ドラゴンは触手まで大量に展開しミレーアを捕縛しようとするがマジックアイテムで脚部強化を施しているミレーアをそう易々と捕らえられるものではない。おまけに絶妙なタイミングでリナよる横槍が入るためドラゴンはやはり先に仕留めるのは向こうが優先だと判断した。


「……尻尾が変化している?」


 ドラゴンの尻尾が変異していることに気づいたミレーア。それが何を意味するのか分からないが放置するのは不味いと考えるがドラゴンの猛攻を捌き切りながら尾を切断し妨害するのはミレーア一人では不可能だった。変異する尾は鎌首をもたげた蛇のような動きを見せるとその先端をリナのいる方へと向けた。






「不味い!?」


 尾の動きを注視していたリナは真っ先にそれに気づいた。変異した尾の先端には穴が開いており、その穴が自分に向けられていることを目の当たりにしたリナは悪寒を感じ急いでそこから離脱した。リナがそこから離脱した直後、光線状の何かが先程までリナがいた場所に直撃し爆発することで周囲のものを吹き飛ばした。


「きゃぁあ!!」


 爆風に煽られ悲鳴を上げるリナ。咄嗟に腕で顔を守ったことで破片が顔に当たることはなかったが顔以外の身体中が至るところが瓦礫の破片で服が裂けその下の肌が傷だらけとなった。


「つぅ……辛うじて軽い傷で済んだけど。あの場所からこっちに攻撃出来るなら手段があるなら気を付けないと……っ!?」


 自身の体の状況を確認し問題が無いことを確かめドラゴンの方へ視線を向けるとそこには触手で拘束されたミレーアの姿が目に入った。


「ミレーア!!」






 場面は少し戻りドラゴンの尾が変異し光線状の何かを発射した直後となる。


「リナ!?」


 リナが居た地点に光線が直撃し爆発したのを目にしたミレーアは思わず叫び名を呼んだ。ミレーアの意識が逸れた隙をついてドラゴンから伸びた触手がミレーアの足に絡みついた。


「く!?」


 気づいたミレーアが振り払おうとするがその腕にも触手が絡みつき瞬く間に体中を拘束され身動きがとれない状態となってしまった。


「しまっ……ぐ、ぎっ!?」


 締め付けがきつくなり苦悶の声がミレーアの口から洩れた。身動きが取れずどうにもならない。こうなってしまっては自力での脱出は不可能だろう。拘束もきつく食い殺される前にこのまま絞殺されかねない程である。


「みゅあ!!」


 ミレーアのピンチを察したフューアがミレーアの拘束している触手の一本に齧りつくが大して効果があるように見えない。ミレーアの危機に気づいたリナもミレーアを助けるために弓で触手を狙おうとするが邪魔するなと言わんばかりに変異したドラゴンの尾の先がリナの方を向いていた。これによってリナは迂闊に身動きが取れない状態となってしまった。


「グルウァアア!!」


 触手に纏わりついた邪魔者を払いのけ触手に拘束されたミレーアをドラゴンは引き寄せた。これで心置きなく食事が出来る。ドラゴンはそう思ったに違いない。その油断した一瞬の隙を付いてドラゴンの死角から剣を帯びた者が接近しミレーアを拘束していた触手を切り裂いた。


「グガァアアア!!」


 それに驚いたドラゴンが折角の食事の邪魔をした不埒者に怒りを向け排除しようとするがそこへ上から襲撃してきた何者かによってドラゴンの頭部が縦に真っ二つとなった。


「つ、くぅ……助かりました」


 触手が斬られたことで拘束が弱まり脱出することが出来たミレーアは自身を助けた人物に礼を述べた。そこにいたのはヘファートスの工房に初めて訪れた時に見た赤い髪の女性、アレクシアだった。その隣にはその時護衛としてついてきていた男性、クライドの姿もあった。


「無事で何より……まだ戦える?」


 ドラゴンから視線を外さず問うアレクシア。その視線の先にいるドラゴンの頭部は縦に真っ二つとなっているがそれもほん数秒でくっつき何事もなかったかのように傷が塞がっていった。


「く……ふぅ……大丈夫です。傷は今治しましたので」


 苦しそうな表情から一転し平気そうな笑みを浮かべたミレーアにアレクシアが口笛を吹くと護衛の男性が「行儀が悪いですよ」っと諫めた。


「少しくらい良いじゃない。今はこの子とあなた以外は誰も見ていなんだから。……それにしても頑丈ね、あなた」


「師匠に思いっきり扱かれましたからね……と、ドラゴンの方ももう待ちきれないようです」


 折角の食事を邪魔されたことで怒り心頭なのか低い呻き声がドラゴンの口から漏れている。それを耳にしたアレクシアは顔を引き締めドラゴンを改めて詳しく観察する。彼女も何度か魔獣、魔物を討伐しており、その中に当然ドラゴンも含まれていたが類似する系統がまったく分からないドラゴンだった。


「どの系統のドラゴンか判断が出来ない……クライドあなたの方はどう思う?」


「既知のドラゴンではないようです。そもそもがワイバーンが変化してドラゴンになったなど聞いたことがありません……来ます!!」


 襲い掛かってきたドラゴンをアレクシアとクライドは左右に分かれて躱す。ドラゴンは自身の触手を切り落としたアレクシアにより強い怒りを向けているのかそちらの方を顔を向け襲い掛かろうとするがそこへ再びリナの援護射撃が入る。それを受けたドラゴンは煩わしそうに尻尾の先端を向けるがその尾をクライドが切り落とした。痛みに悲鳴の声を上げるドラゴン。


「これはさっきのお返し!!」


 その隙を付いて肉薄したミレーアはパイル・アームの杭先をドラゴンの頭部に叩き込んだ。しかし、それでもまだ死ぬ気配がないドラゴンにこいつは不死身かと内心で考えるアレクシア。しかし、暴れるドラゴンから離れたミレーアは今の一瞬で何を掴んだのか口角を上げていた。


「今、そいつに重なっていた気配のうちの一つが消えました。……ですけどほんの僅かな時間でその気配が復活しました」


「……頭部以外に何処か別の弱点を突かないといけないってこと?」


「なるほど、核が片方が残っていれば高い再生能力で破壊された方が修復されるということか」


 ミレーアの齎した情報から直ぐにドラゴンの性質を察したアレクシアとクライド。


「見た目はドラゴンだけど中身はまったく別物ってことね……」


 スライム等と同じで中枢となる核があるのだろうアレクシアは判断した。問題なのは頭部以外でそれが何処にあるのかということである。可能性として高いのは胸部だが実際に試してみなければ分からないというのが現状だ。まだ気の抜けない状況が続くことを予感したアレクシアは気を引き締めるのだった。

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