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第五話 ゴブリンの洞窟

「わ、ゴブリンが何匹が出てきたよ!?」


 アレンが松明片手に剣を振るう。しかし、思ったよりも洞窟内は狭く満足に剣が振るえないことに気づいた。慣れない場所で剣を振るえば、それだけでも相手からすればつけ入る隙が多い。

 剣を掻い潜り迫るゴブリン。その手には人よりも小柄なゴブリン用のサイズではあるが石斧という立派な凶器が握られておりそれが体に当たれば大怪我は必至だ。


「ち、世話が焼けるな!!」


 それを援護したのは後ろにいたエリオだ。背後から滑るように動きアレンの足元にまで近づいていたゴブリンをダガーで切り付けた。エリオに切り付けられたゴブリンは痛み叫び声を上げその隙を狙ってアレンは頭上から剣を突き刺しトドメを刺した。

 この狭い洞窟なら長物である剣よりも刃渡りの短いダガーの方が有利だと気づきエリオは前に出た。


「アレンさん、しゃがんでください!!」


「わわ!?」


「ファイヤーボール!!」


 シャーリィの忠告を従いアレンがしゃがんだことで射線が空き、それを確認したシャーリィは下級炎系攻撃魔法であるファイヤーボールを発動させた。ファイヤーボールはエリオの横を通り過ぎゴブリンの一匹に直撃すると瞬く間に火達磨へと変えた。体が焼かれたことでパニックとなったゴブリンが出鱈目に暴れまわり手に持っていた石斧が仲間の頭を砕いた。

 この場にいた最後の一匹となったゴブリンはどうしたら良いのか進退窮まったいると接近してきたエリオに首を切り裂かれた。


「この場にいたのはこれで終わりだな……はぁ、お前はここじゃ武器振るうの危ないじゃないのか?」


「……そうだね。洞窟の中でこんなにも剣が振るい辛いなんて思わなかったよ」


「私も魔法を使うタイミングを注意しないとあなた達に当ててしまう危険性があります」


 初めてのゴブリン討伐依頼。意気揚々とゴブリンが住居としている洞窟に乗り込んだものの地形という思わぬ伏兵の存在を彼らは知ることとなった。

 人よりも小柄なゴブリンにとっては十分なスペースでもまだ成長途中の少年であっても満足に剣を振るうことが出来ない環境だった。狭い地形では魔法による射線が通り辛い。

 実際に体験したことで発覚した問題点は洞窟に入る前でも少しでも頭を使い考えれば気づきそうなことばかりだ。特に魔法を使いある程度の教養もあるシャーリィはこのことにアレンとエリオと同様に気づけなった自分を恥じていた。

 そんな中、アレンの剣を見てミレーアは口を開いた。


「アレンは剣じゃなくても大丈夫?」


「使ってみないことにはなんとも言えないかな」


 槍とか突然渡されても扱いに困るがこの場では剣よりもマシかなと思いそう答えるとミレーアはマジックバックから武器を取り出した。


「うわ、なにこれ?」


 武器を見たエリオが驚きの声を漏らした。ミレーアが取り出した武器は棍棒だった。その先端部分には生物の牙が大量に埋め込まれており不気味さを醸し出しているが、見た目は野蛮なのに何故か神聖な雰囲気を感じさせる不思議な武器である。アレンが持ってきた剣より短く洞窟内で振るうのに丁度良い長さだ。


「師匠からの貰い物。師匠手ずから作ったそうだけど、見た目はアレだけど武器としては十分な性能だよ」


「いや、あなたの師匠とんでもないことしてますよ!? 棍棒に使われている木、感じ取れる力がどう考えても聖樹に類するものじゃないですか!? それにその埋め込まれている牙も聖獣ものですよね? 何でそんな希少な素材を使ってそんな野蛮な武器を作っちゃんたんですかぁ」


 最初の方は焦ったようの口調で一気に捲し立て、最後の方は少し泣きそうな声でシャーリィは言った。一流の職人ですら目にする事無く生涯を終えると言われる程の超が付くほどの希少素材。この武器を街にいる職人見せたら唖然とされた挙句ぶん殴られかねない代物だ。

 聖樹は神からの贈り物とまで呼ばれている神聖な樹であり、生えている地域周辺は常に浄化され魔獣も近づくことがない。加えて魔法使い用の杖の素材として最も優れたものである。それ故に厳重に管理されており、一般に出回ることは殆ど無い。

 ミレーアの棍棒に使われている聖樹の枝は短いため、作ったとしても短杖にしかならないがそれでも魔法使いなら我先にと大枚を叩いてでも手にしようとするだろう。

 聖獣は聖樹の周辺に住む強大な力を持った獣である。聖樹の守護獣とも呼ばれており聖樹に害成す存在を排除する。知能も高く聖樹に害成す存在で無いのなら他の存在を積極的に排除することはない。聖獣の素材は牙や爪が主に使われる。

 ミレーアの棍棒に埋め込まれている牙は大きさを加味すると装飾品に加工し、魔法を付与して使うマジックアイテムの素材として使われる。一流の魔法使いに渡せば最上級の魔法付与が出来るであろう代物だ。

 これらの希少な素材をシャーリィが気づけたのは父親に連れられ王都にある博物館に展示されている実物を目にしたことがあったからだ。その時にそれらから感じ取れたものとミレーアが取り出した棍棒から感じ取れたものが良く似ていたことで気づけた。

 力を持った聖樹の枝を手に入れるには聖樹の枝を直接切り落とす必要がある。問題は国の許可なく聖樹の枝を切り落とすどころか聖樹のある森に入ることすら許されておらず許可なく侵入した場合、発見次第死罪となる程の重罪だ。たとえ侵入したしても聖樹を守護している聖獣と交渉し許可を取る必要があり、無許可で手に入れようとすれば聖獣に襲われ命は無いだろう。最もこれは王国が管理している聖樹の話であり、何処か未開の地で国が認知していない聖樹の枝を聖獣の許可を貰い切っても罪に問われることは無い。ミレーアの棍棒はそういった聖樹の枝を素材にして作られた可能性が最も高い。

 聖獣は牙が何度も生え変わる種もおり、落ちていた牙を運良く拾えることが出来れば手に入る可能性があるが聖樹の森に国の許可なく入れない以上はこちらも聖樹と入手経路は同じと考えられる。

 過去にそういった事例もあり、棍棒に使われている素材に関しては庶民でも入手出来る手段が全く無いと言う訳では無い。ミレーアの棍棒も武器にせず素材として売ったならば生涯食うに困らない大金が手に入るだろう。最もその後は国に報告が入り発見した場所を聴取され国の管轄となる。

 その辺りの事情を知らないアレンは希少な素材と聞いても武器として使えれば良いと考えたのか棍棒を振るい調子を確かめる。


「途中で折れたりしない?」


「突進してきたブラック・ボアの横っ面を殴っても大丈夫だったよ」


「へぇ~やっぱり良い素材使ってるから頑丈なんだな」


 使っている素材の価値を知らない三人は暢気に語り合う中、唯一それを知るシャーリィだけは両手で顔を覆うのだった。





「うっわ、本当にこれ凄いね!?」


 再び現れたゴブリンに対して棍棒を振るうと木で出来てる棍棒の筈なのに石斧を砕きゴブリンの頭部を一撃で陥没させる。

 神聖な雰囲気を纏いながらゴブリンの血で濡れていく棍棒というミスマッチな光景にシャーリィは精神的な配慮からそれを極力視界に納めない様にした。


「これで最後!!」


 エリオが最後の一匹となったゴブリンの首を切り裂き蹴り飛ばした。本当に残りはいないのか周囲を確認し確かめる。完全にゴブリンが残っていないことを確認した四人はゴブリンが溜め込んだゴブリンにとっての宝の山を物色し始めた。


「げっ!? これ人の頭蓋骨!!」


「誰か襲われた人がいたようですね……身元を特定出来るようなものはないですか?」


「どうかなぁ……それらしいものは……」


「ボロボロになった服ならあったよ」


 ミレーアが見つけた服をシャーリィに見せた。


「それなりに裕福そうな服装……何処かの商人かしら? 遺品でも届ければ運が良いと金一封位はありそうですね」


 それは良いことを聞いたと言わんばかりに探すペースが速くなるアレンとエリオ。それで良いのかなぁっと思うミレーアだが、彼らも金を稼ぎ生きるのに必死である。生きた相手から強奪しているわけはなくあくまでも冒険先で偶々被害にあった誰かを確認し、その遺品をギルドに届けるだけである。

 その序に持ち主の分からない拾得物は拾った者のモノとなるとギルドに規定を利用し、自分達の冒険の追加報酬にするだけである。


「あった。……やっぱり商人のようね。それにしては荷物が少ない……ミレーアさん。もう一度、ボロボロになった服を見せてくれますか」


「はい」


 身元が分かるものを見つけたシャーリィがミレーアに言うと彼女は引き寄せ手に持ち広げてシャーリィに見せた。ボロボロとなった服を具に観察するシャーリィが合点がいったという表情となった。


「この服の傷、ゴブリン達が使っていた武器で付けたにしては断面が綺麗すぎる。おそらくこの商人はゴブリンに襲われる前に既に盗賊か何かに襲撃され殺されていた可能性があります。証拠としてこの服も持っていた方が良さそうですね」


 後のことはギルドが処理してくるため、これを届ければそれで終わりだ。


「何かの牙とかあるなぁ……何か分からないけど金にはなるだろ」


 牙の持ち主が分かれば売れば高いのか安いのか分かるがそうでなければ素材売り場で鑑定してもらうことになる。鑑定されるまで幾らで売れるのか分からないため、これらは冒険者の間では一種の宝くじのようなものとして認識されている。稀にワイバーン種の牙だったりして高く売れることもあるがそうそうあることでは無い。


「これは何かの金属かな? 使い物になるか分からないけど」


「これは紙か? 何か書いてあるけど読めね~」


「見せてくれますか? 文字が書かれた紙がここにあるのは何か変ですし」


 エリオを見つけた紙をシャーリィに手渡すと受け取った彼女は紙に押された印を見つけ顔を顰めた。


「これは封筒。この印、確かこの地を治める侯爵家のもの……家で見た覚えがあります」


「お偉方のものかよ。それで何が書いてあるんだ?」


「……中身を読まない方が賢明でしょうね。下手に内容を知ったら消されかねません」


 それを聞いてアレンとエリオ、ミレーアはヒェっとなった。


「どうする見なかったことにするか?」


「そうだね。絶対に危ないし」


 エリオとアレンは顔を青くしながら捨てることを主張するがシャーリィは難しい顔をして首を横に振った。


「それは駄目です。異変に気付いた送り主が見つけた時、中身を見ていなくても私達が封筒を見つけたことが知られかねない。寧ろこのままギルドに渡した方が安全です」


 ギルドに渡しそこで中身を見ていないことを魔法で証明してもらい、お墨付きを貰った方がまだ安全だ。それに仮にこれが何か重要な案件であり直ぐにでも届けなければならないものであったならばここに捨て置くのは不味いとシャーリィは考えた。


「はぁ~何か初めてのゴブリン退治だったのにそれ以上にドキドキしたな」


「でも冒険ってドキドキするもんじゃないの?」


「ドキドキの方向性がちげえよ」


 こんなことが何度もあってたまるかと言わんばかりにミレーアの発言を否定するエリオだった。

師匠の作った武器シリーズはまだあります

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