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第四十九話 誘導

「街内に入り込んだドラゴンはそのまま医療班の方に向かっています!!」


「医療班には即時の退避命令を!! それと街内にいる待機班を直ぐに向かわせなさい!!」


 今回の騒動の原因と見られる魔物の出現までは想定内だったもののその後の展開は想定外のことが多すぎた。作戦本部では魔法通話による連絡で手が一杯になり、とてもじゃないが真面な指示が出せる状況ではない。


「……フレデリックに指揮権限を委譲し私も出ます」


「それは……」


 フレデリックはアレクシアを止めようとしたが同時にこうなっては彼女を止められないことも分かっていた。祖王が勇者だったこともあり過去の王族達も武闘派だったことが多く継承権が低かった者は体を鍛え率先して魔獣、魔物の討伐に参加していた。アレクシアもそんな王族の気質をしっかり受け継いでおり、才能があったことも手伝って相当な実力者でもある。


「……殿下お気をつけて」


「フレデリック、後のことは任せました。それとアレを使用する時は十分注意するように」


「はっ!! 全霊を尽くします!!」


 その答えに聞き作戦本部から出たアレクシアは全力で駆けた。王族なこともあり彼女の装備は金に糸目を付けず揃えた最高峰もので占められており、それを扱う彼女自身もそれらの武器に負けないほどの貫禄を醸し出していた。


「クライド、先行して状況の確認を」


「分かりました」


 いつの間にかアレクシアと並走していた青年は名を呼ばれ指示を受けるとまたいつの間にか姿が消えてしまった。それに驚くことなくアレクシアは街に侵入したドラゴンを討つため、走る速度を上げたのだった。






「必要なもの以外は置いていけ!!」


「治療中の怪我人は兵士が運ぶ。回復魔法が使える者は直ぐに逃げてくれ!!」


 医療班がいるテントでは此処から逃げるために慌ただしくなっていた。兵士達は回復魔法が使える神官、冒険者を先に逃がすように指示を受けている。彼らさえ無事なら立て直しは十分に可能だからである。


「私は此処で足止めをします」


 既に武器を身に着け臨戦態勢のミレーア。


「いや、だが……」


 兵士は何か言いかけ何を言うべきか言葉が出なかった。優秀な回復魔法の使いであるミレーアは此処から真っ先に逃すべき人物である。しかし、彼女はこの場にいる者達の中で唯一の前衛型の冒険者でありリノロックを単独で撃破したことを考えれば此処に向かってきているドラゴンを足止めにするのに最適な人物でもあった。


「考えている時間はないみたいです。もう来ます!!」


 既に此処に向かってきているドラゴンを探知したミレーアは何故此方に向かってきているのか既に察していた。ドラゴンを探知したと同時に感じ取った異質な気配。変化前のワイバーンに重なるように存在する異獣の気配を感じ取っていた。遺跡で出くわした異獣の目的が自分ならばこの異獣の目的も自分だろうと判断したミレーアは兵士達が止める間も無く医療班が逃げている方向とは逆の方向へと駆け出した。


「追ってきているね」


 ミレーアの考えた通りドラゴンは進路を変え自身のいる方向に向かってきていることを感知すると今から何処に誘導するべきか考えた。大型魔獣以上の巨躯を持っていることはミレーアは感知したことで分かっており、リノロックと戦った広場では不十分だと判断した。作戦を考えつつリナがいるだろう建物へ視線を向けた。外壁の外の援護をしつつ街に侵入しミレーアを追いかけるドラゴンに強力な一矢をお見舞いするが僅かに怯ませる程度だ。


「まぁ、流石に街中であれよりも強力な一撃を放つわけにはいかないしね」


 街中でそんなものを撃てばどれだけの被害が出るのか分かったものではない。故にリナが放つ矢の威力も何処か消極的にミレーアは思えた。


「そうするとやっぱり外壁の外だよね」


 リナが強力な一撃を放っても大きな被害は無く尚且つ射線が通りやすい場所となれば其処しかない。主戦場となっている場所とは別の門から街の外で出ることにしたミレーアは方針を固めたことで更に速力が加速する。


「ん? あれは……」


 魔物、魔獣がこちら側に来ていないこともあり閉じられた門の周りは最低限の守衛しか配置されていない。配置されていた一人が此方に向かってきているミレーアに気づき訝しんでいるとその後方に巨大なドラゴンが迫っていることに気づき目を見張った。


「どいてどいて!!」


 閉じられている門にパイル・アームを叩きつけ粉砕し街の外へと飛び出すミレーア。その姿に唖然としていたが直ぐにドラゴンが此方に迫っていることを思い出すと慌てて守衛達は逃げ出した。






「っと、此処まで来れば周りを気にする必要はないね」


 パイル・アームの魔力残量を見てまだ余裕があることを確認すると外壁を破壊しミレーアを追って来たドラゴンな方へと向いた。


「グルルル」


 ミレーアを見て呻き声をあげるドラゴン。品定めをするかのよう視線に予想通り異獣に侵食されたことで自分を追って来たのだとミレーアは確信した。


「モテモテなのは辛いね……まぁ、良い返事は出せないけどね」


 パイル・アームを持ち直し臨戦態勢をとなったミレーア。ドラゴンの咆哮を正面から受け怯むことなく見返した。


「はぁああ!!」


 気合の掛け声と共に前に出るミレーア。一気に加速し懐に潜り込むつもりのようだがそれを簡単に許すドラゴンではない。口から火炎ブレスを吐き牽制し、近づかせまいとするがマジックアイテムで強化されているミレーアの速度を捉えきれずブレスは見当違いの地面を焼くだけだ。


「ぐおぉおおおお!!」


 手の届く範囲まで近づいてきたミレーアを捕まえようと咆哮と共に手を伸ばすドラゴン。その時、背後から強力な矢の一撃がドラゴンに直撃した。その一撃を受け大きく態勢を崩したドラゴンの胸部に飛び上がったミレーアはパイル・アームを叩き込んだ。


「ち!!」


 舌打ちし足でドラゴンの胸部を蹴りその反動で離れると先程までミレーアがいた場所を大量の触手が殺到した。少しでも逃げるのが遅れていたらその触手に捕まり拘束されていただろう。着地のことを考えず全力で蹴っていたため、空中で態勢を立て直すことが出来なかったミレーアは地面に落ちると同時にその勢いに逆らわず転がることで衝撃を逃がした。


「厄介だね」


 胸部にパイルアームを叩き込んだ瞬間、妙な感触に違和感を感じたミレーアは嫌な予感がしたため形振り構わず離脱したがそれが正解だったようだ。


「……見た目はドラゴンだけど中身は別物ってことか」


 リナの強力な援護射撃の傷も既に塞がっており致命打には至らなかった。目視では弱点となるべき場所が分からないため、ミレーアは牽制しながら弱点を探す腹つもりである。


「とは言っても胸部をぶち抜いていも無事だとしたら弱点は何処になるのかな?」


 そう疑問に思いながらミレーアはドラゴンを様子を伺い弱点を探るのだった。






「今のが駄目だとすると特定の場所をピンポイントで射抜かないと駄目なのかな?」


 自身の一撃を効果なかったことにリナは考察する。遠くから援護射撃を行っていたリナはワイバーンだったものがドラゴンに変化する様子をしっかりとその目で見ていた。


「……数少ない指揮型がワイバーンに侵食することで魔獣、魔物を統率する能力の発現。だけどうまくいかず暴走状態っていうところかな?」


 リナは一連の流れをそう考察した。今の考察はリナが知っている知識から出した答えではなく何故かワイバーンの変化し始めた時にふと知らない知識が頭の中に浮上してきたのである。まるで弓を手に持つと何も考えなくとも自然に体が動き矢をつがえる感覚近い。


「やっぱあの時が原因かな?」


 遺跡で義足を作った時に遺跡の中にあった武器の使い方が何故か知っていた。アギトの話では学習機能という知識を直接頭の中に入れることが出来る技術であり、あの遺跡を作り出した者達がいた世界では当然のように使われていた技術だという。おそらくは異獣に関しての知識が思い浮かんでくるにはその時に知識を自分の頭に入れられたからだろうとリナは考えた。


「見たこともない知識が勝手に思い浮かんでくるのは気持ち悪いけど……今は存分に使わせて貰わないとね」


 全体を俯瞰出来る位置にいるリナはどう動くべきか考える。現状、冒険者や兵士達の奮闘により魔獣、魔物を群れは街に侵入することなく抑え込まれていた。


「少し動きが鈍いね」


 俯瞰にしている位置にいるリナだからこそ気づいた。ワイバーンがドラゴンとなり暴走し始めた時から魔獣、魔物を動きがおかしくなり始めていた。先程に比べて魔獣、魔物の動きに精細さを欠き始めており、まるで指示する者が消え戸惑っているようにも見えた。あのドラゴンがこの大群の要であり、それが暴走したことで指揮系統が消え纏まりが無く烏合の衆と化し始めていたのだ。


「……ん?」


 作戦本部から魔法通信による連絡が入りなんだろうかと思い話を聞いたリナは事前に用意された撤退を促す矢を弓に番え戦場に向けて放った。それは一種のマジックアイテムであり弓で一度放つと内蔵した魔力で飛行し続け煙を巻き散らす信号弾のようなものである。今回に作戦にあたりこの信号弾が発射されたら冒険者達はすぐさま街に撤退するように言われていた。その時の為に足止め用トラップも多数用意されている。


「でも一体どうするのかな?」


 まだ魔獣、魔物が多く残っている現状で撤退させるのはリナから見れば悪手に思えた。だが作戦本部はその道のベテランであり、素人であるリナでは考え付かない何か作戦があるのかも知れないと思った直後、それは起こったのだった。

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