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第四十七話 パイル・アーム

「前線は今だ拮抗状態……あまりよくはないわね」


「そうですね。……今はまだ余裕はありますがこのまま続けば我々が持ちません」


 作戦本部では全体の状況を鑑みて致命的な失態はないものあまり良い戦況ではないと結論付けた。アレクシアもそれに異論はなく参謀として此処に来たフレデリックも同意見だった。このまま先の見えない戦いを続ければこの街を守っている兵士達の体力が先に尽きることとなる。


「大型魔獣の方は冒険者達が討伐してくれたので問題はないようです」


「何者かは知らないが優秀な狙撃手がいるようだな。……正直、空恐ろしいと思える程だ」


 射程距離及び大型魔獣の外殻を砕くだけの威力も持っているため、生半可な魔法障壁では防ぐことはまず不可能だと言ってよい。軍人であるフレデリックはその恐ろしさを十二分に理解していた。この戦いが終われば出来れば軍に引き入れたと考える程である。


「ああ、あの狙撃手がいなければ状況はもっと悪かっただろう」


 地図の上に乗せられた大量の青い石と赤い石。青い石は街を守るように置かれている、赤い石はその守りを崩し攻め込もうとする構図となっている。おそらくは今の戦況を表しているのだろう。配置からして街を守るように置かれた青い石が街を守る兵士や冒険者であり、街にを攻め込むように置かれた赤い石が魔獣、魔物を表しているのだろう。大型魔獣の一体が撃破された報告聞くと他のよりも大きめな石をどかしたことからそれらが大型魔獣のことを示している言えた。


「大元の原因は分からない以上解決策が敵の殲滅しかないのはなんとも歯痒い状況ね」


 今回の根本的な原因が分からない限り仮に此処に攻めてきた魔獣、魔物を殲滅したとしてもまた同じことが起こる可能性がある。今回でも守り切れるか怪しいのに次ぎがあれば間違いなく耐えられない。


「間者の方は?」


「二名が既に捕縛済み……まったく国の一大事という時に後ろも気にせねばならないとは」


 この混乱に乗じて自身を亡き者にしよとする動きにアレクシアは心底呆れかえっていた。背後の関係の洗い出しは一旦棚上げし、今は目の前のことに専念しなければとアレクシアは思考を切り替えたのだった。






「荷物のお届けです」


「おう、有難う。……これでまた万全に戦える」


 ミレーアから荷物を受け取った兵士はそれを運ぶと空になったビンの入った箱を持ち上げミレーアに渡した。これは空になった各種ポーションの入っていたビンである。中身が無ければ邪魔になるだけであり、こうして回収し後方を送るのである。


「っ!! 全員迎撃しろ!! 此処にあれを近づかされるな!!」


 指揮を執っていた部隊長に叫びに答えるように兵士達が身構えるが盾を持っていた兵士数名が突進してきた何かに跳ね飛ばされ宙を舞った。


「リノロック!!」


 サイの魔獣であり、体の体表が岩と同じ成分で出来ており高い防御能力とその重量による突進は猪魔獣類以上の脅威である。前線の冒険者の討ち漏らしであり此処にいる兵士達ではとてもじゃないが相手にすらならない中型魔獣だ。


「嬢ちゃんは逃げてくれ!! 此処は俺達が何としてでも……」


「私も冒険者です。……私がこいつの相手します!!」


 そう言ってマジックバックから金属球を取り出しリノロックに投げつけた。横合いから投擲された金属球を受け、たたらを踏むリノロックだが固い外殻によってその後の爆発すら致命打には成らず寧ろ自身に痛みを与えたミレーアを標的と定めた。


「こいつは私が引き付けますからみなさんは門を守って他の魔獣の侵入を防いでください!!」


 そういって街の中へとリノロックを誘い込みミレーアは兵士達から引き離した。


「総員、直ぐに持ち場に戻れ!! あの嬢ちゃんの覚悟を無駄にするな!! それと連絡役は作戦本部に状況を説明行え!!」


「りょ……了解!!」


 兵士達はリノロックを引き付けてくれたミレーアのことを気にしつつ自分たちの役割を果たすべく持ち場に戻ったのだった。






「これがなかったら危なかった」


 自身の脚部強化用のマジックアイテムが無ければ今頃、リノロックに追いつかれていただろう。巨体にも関わらず魔力による身体強化を行っているリノロックの速力は鈍重そうな見た目に反して猪魔獣類以上だった。その突進の真面に受ければ体全身の骨が砕け散ることになるだろう。


「正面から迎え撃つのは流石に危険だね」


 走りながら作戦を考えるミレーア。今のところは彼女の想定通りに事態は進んでおり今こうして戦いやすい街の広場へリノロックを誘い込んでいた。広場はリノロックにとっても動きやすいだろう広さがあるがミレーアにとっても側面に回り込みやすいというメリットがあった。寧ろ狭い場所はリノロックからすれば動きにくそうに見えて体を動かせば容易に破壊出来るものばかりであり、障害物にすらならない可能性がある。そうなれば動けるスペースが少ない分ミレーアの方が不利だ。


「っと、着いた」


 決戦場に辿り着いたミレーアは反転しリノロックを見据えた。リノロックの方も今まで逃げ続けていた相手が正面を向いたことに警戒し、足を止めて様子を伺っている。


「……いつもみたいにやる訳にはいかないから丁度良いしこれの実戦投入といこうかな」


 何時ものようにやっては魔力を無駄に消費するだけである。今回の自身の主な役目は医療班であり、中型以上の魔獣と戦うことではない。そのため、治療以外への大幅な魔力消費は出来るだけ避けなければならない。

 それでもここで自分が戦わなければリノロックによって街の被害は大きくなる一方である。そこでミレーアは先日ジェライクから貰った武器「パイル・アーム」を使うことにした。自身の魔力に依存せず強力な一撃を叩き込めるため、目の前にいるリノロックにお誂え向きだ。


「と、良し」


 流石に重量があるため重心が偏らないように魔力による身体強化を使い持ち上げる。既に燃料となる自分で作った魔力回復ポーションは入れてあり準備万端である。何時でも来いと言わんばかりに構えるミレーアに答えるようにリノロックはミレーアに向かって突撃する。魔力による身体能力強化に加えて外殻も強化する。その突進の一撃は小さい家ならば一撃で倒壊させるだけの破壊力を持っており直撃を受ければまず助からない。


「はぁああ!!」


 ミレーアもリノロックに向かって動き出す。直進するリノロックに対してミレーアは地面を蹴りジグザグに動きながらリノロックに迫る。脚部強化のマジックアイテムによるミレーアの動きは速力はあれど機動性に難のあるリノロックが捉えられるものではなく容易に突進を躱されその隙だらけのボディへとパイル・アームを叩き込んだ。パイル・アームの矛先が深々と突き刺さると衝撃に反応し、刻まれた術式によって杭が前へと押し出され更に深手を与えた。内臓まで届いたであろう一撃を受け激痛から咆哮し暴れるリノロック。しかし、既にミレーアは離れていたため舗装された道を破壊しただけだ。


「行ける」


 今の一撃に手ごたえを感じ取ったミレーアは次は止めを刺すべく慎重にタイミングを見極める。パイル・アームの一撃を受けた箇所から留めなく血を流し続けるリノロックの命は放っておいてもそのうち尽きるだろう。しかし、その時まで放っておいては街の被害が大きくる。人的被害は無くともその後の復興のことも考えればあまり破壊されるのは良くは無い。


「それに例え建て直しても失われたものは戻らない」


 長年住んでいた家などは思い出が多く残っている。それが理不尽に壊されることになればそこに住んでいた人達の思い出も失われたも同然だ。だからこそ目の前のリノロックにこれ以上は奪われないようにするためにミレーアはこの場から離脱せず戦うことを選んだ。リノロックも自身に痛みを与えたミレーアに復讐するべく逃げずに戦うつもりのようだ。


「……そっか、そういう意味で言えば私たちは目の前の相手を必ず倒すっっていう同じ思いを抱いていることになるのか」


 ふと思い至った答えに笑みが浮かんだミレーア。自身を鼓舞させるかのように力強く咆哮し、ミレーアに向かって突進するリノロック。その体は弱っているにも関わず先程よりも速力が上がっていることにミレーアは驚いた。死を前にした火事場の馬鹿力、手負いの獣は恐ろしいを体現していた。


「まさか此処まで似たようなことをするなんてね!!」


 リノロックが何をしたのかミレーアは一目にで察した。肉体の限界を超えた身体強化。ミレーアがよく使っている手段であり、彼女のように回復魔法が使えない場合内部損壊によって自滅することになる諸刃の刃だ。

 ミレーアは突進してくるリノロックを躱し、再びパイル・アームを叩きこうもうとするが肉体を無視した身体強化を行っていたリノロックは自身の態勢を強引に変え迎撃を行った。それによってリノロックの脚に多大な負荷が掛かるが、態勢を変えることに成功したリノロックはその鼻先にある鋭い角をミレーアに向けた。これに驚愕したのはミレーアだ。直ぐに離脱しようにも自身は既に重量武器であるパイル・アームを叩き込む態勢だったことに加えて驚きによって判断が遅れたことで回避が間に合わない。それでも諦めず直撃を避けるためにミレーアは足に力を込めた。


「みゅぁああ!!」


 小さな咆哮と共にリノロックの頭部にしがみついたフューア。突然視界の片方が塞がれたことに驚きリノロックの動きに僅かだが遅れが生じたことで、リノロックの角は必死に直撃を避けようとしていたミレーアの左腕の肉を軽く削ぐだけで終わった。


「つぅ!!……どいてフューア!!」


 軽くとは言え腕の肉を削がれた痛みに顔を歪ませるミレーアだが、このチャンスを逃すまいとフューアのおかげで自身が視界から外れている隙を付いてリノロックの頭部にパイル・アームを突き刺した。突き刺さったパイル・アームに刻まれた魔法が発動し、杭を前に押し出しリノロックに止めを刺したのだった。

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