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第四十六話 後方では

「次の怪我人がです!! 重傷者です……急ぎ高ランクの回復魔法をかけてあげてください!!」


 ミレーアが怪我人を運び込みベッドに寝かすと次を運び込むために直ぐに外へと出て行った。


「……凄いな。運びながらこれだけ治したのか彼女」


 運び込まれた怪我人の状態を見て教会の神官は感心したように呟いた。噂の冒険者の回復魔法使いは確かに高い素養を持っていたがしっかりとした教育を受けた彼らに比べれば粗も多く回復魔法の使い方も無駄だらけだった。しかし才能とは恐ろししいものでその状態でも回復速度ならこの場にいた誰よりも早かった。そこで専門的な治療はその道のプロである神官達に任せミレーアは怪我人を運びつつ回復魔法で応急処置を行っていた。冒険者として活動していることもあり素早く苦も無く怪我人を運び込み次がいなければ神官達を手伝い治療を行っており、この場にいる誰よりも働いていた。


「それどころかこちらの手伝いをすることでどんどん技術が磨かれ回復魔法の使い方が洗練されているな」


「やはりか……惜しいな教会にいれば間違いなく聖女に至れる逸材だっただろうに」


 今も人一倍働いているミレーアを見て神官達はそう評価した。


「……」


 そんな中一人の女性神官が何も喋らず黙々と怪我人の治療を行っているが、その視線は時折ミレーアの方を向いていた。


「どうかしたのかい? クーラ?」


「あ、いえ少し今の現状に驚いただけです」


 クーラと呼ばれた女性神官は先輩神官に誤魔化すようにそう答えた。


「確かに次から次へと怪我人が運ばれてくるからね。若い君には刺激が強いかもしれないな」


 先輩神官はクーラの返答にそう納得すると再び自身を受け持っている怪我人の治療に専念しはじめた。


「面影はある……もしかして……」


 ミレーアが出て行った出入口に視線を向けながらクーラはそう小さく呟いたのだった。






「そこから先は立ち入り禁止!!」


 そう叫びながらミレーアはギルドが用意した大量の金属球をマジックバックから一つ掴み出すと全力で投擲した。投擲された金属球は偶然見かけた壁を越え空から街に侵入しようとしていた飛翔出来る魔獣の頭部に直撃し爆ぜた。この日のためにミレーア用に用意してもらったものであり、刻まれた付与魔法によって飛距離上昇と着弾後に爆ぜることで追加ダメージを与えるようになっている。


「忙しいね、本当に」


 次から次ぎへと運ばれてくる怪我人。治療された怪我人は直ぐさま前線に復帰するため、医療用のベッドが満杯になることはないが回復魔法を使えるものは大忙しである。


「次の怪我人だ!!」


 また一人運ばれてきた怪我人に受け取ろうとして違和感を感じたミレーアはよく観察し違和感の正体に気づき受け取ろうとした怪我人を運んでいた人の腕から急いで払いのけた。


「な……何をする!?」


「その死体から離れて!! 寄生されてる!!」


 ミレーアの叫び声のような警告に意味を察した怪我人を運んできた冒険者は慌てて払いのけられた怪我人から距離を取った。その直後、ミレーアに払いのけられた怪我人から肉を裂くような音が鳴り始めた。裂けた部位から触手のようなものが伸び耳や鼻、口からも同じような出ている。


「ち、パラサイトワームか!!」


 弱った生き物の傷口などから侵入し体を乗っ取る魔蟲であり、魔獣などが稀に寄生されていることがある。稀に人への寄生も確認されており謎が多い魔蟲である。寄生された対象は体からパラサイトワームの体の一部が裂けた皮膚や口などから飛び出すため判別は用意だが、その気持ち悪さは上位に位置している。幸い宿主の体は既に死んでいることもあり、動きは緩慢で対処はし易い相手ではある。すぐさま近場で炎魔法を使えるものが体ごと燃やし処理した。


「今、運んでいたあなたは寄生されていないか確かめてください」


「ああ、分かった」


 運んできた冒険者は健康体であり目立った傷は無いため、可能性はほぼ無いだろうが念のため検査を受けることをギルド職員が進めると大人しく従った。寄生されも宿主が健康体の場合はパラサイトワームは大人しくしており、その状態でなら摘出は難しくないからである。


「ミレーアちゃん、ついでにこれを正門まで届けてくれないか?」


「分かりました」


 ギルド職員が抱えて持ってきた箱を受け取るとミレーアは急ぎ門へと向かった。高い身体強化魔法に加えて脚部強化用のマジックアイテムによって重い荷物を軽々と持ち直ぐに運ぶことが出来た。しかも此処最近はリナと競うように山の中を駆け抜け受けた依頼の目的地に向かっていたことから持久力も上昇していた。リナとの競争がこんなところで役に立つなどミレーアにとって思ってもみなかったことである。


「あの子がここで一番働いているよな」


「そうだな」


 ミレーアを見送ったギルド職員は溜息を吐くような声音で口を開いた。期待の新人であり回復魔法使いとして優れた才能を持ちながら前衛型のため、後方支援として此処で動いている者達の中で一番の体力を有していた。それもあってまるで便利屋のようにあれこれ頼まれているがミレーアはそれに疑問を持つことなく一生懸命働いていた。


「そう思うならあんた等も同じことしたらどうなんだい?」


「そうしたいのは山々だ……」


 そう視線を向けると他の者達の通行の邪魔にならないようにと重い荷物を抱えたまま塀の上を地上と変わらない速度で走るミレーアの姿あった。あれは真似できないとギルド職員は乾いた笑みか浮かべることしか出来なかった。そんなギルド職員の間で話題になっているミレーアは周りに人がいないこを確認すると先程までの笑顔を崩し憂いを帯びた表情となった


「これが終わるのにどれだけ掛かるのかな」


 先の見えない現状にミレーアは珍しく弱音を吐いたのだった。






「今度はあっちから大型が来たか!!」


 街で尤も高い場所から弓で狙撃していたリナは狙いを定め魔力で形作られた矢を大型魔獣に向けて放った。仕留められればそれでよし。仕留められなくとも大きな傷を負うため、トドメは他の経験豊富な冒険者に任せれば良いだけだ。今回の緊急事態に際して冒険者ギルドからリナに遺跡で手に入れた弓の使用許可が出されている。彼女の役目は前線の援護であり、大型魔獣に手傷を負わせるのが主な役目だ。実際に剣や槍でも問題なく倒せるウルフ系統の魔獣やゴブリンなど数が多いのは狙うだけ魔力の無駄であり、最初に狙撃で外殻に罅を入れたアーマーサウルスのような簡単に討伐出来ない魔獣や魔物を狙った方が効果的である。


「それにしても一体何れだけの数が……」


 今だ尽きることなく現れる魔獣、魔物の群れ。一体これだけの数を何処から集まってきたのか疑問に思うリナだか考えるのは後を思考を切り替え自身の役割に専念する。


「あ、今のはミレーアかな?」


 飛翔出来る魔獣が飛んで壁を越えようとしたが街の中から飛んできた金属球のようなものが直撃し、爆発によって撃墜されたのを見たリナがそう呟いた。


『状況はどうだい?』


「今は問題はないようです。私もまだまだやれます」


 弓の持つ魔力増幅機能によって少ない魔力で強力な魔力で出来た矢を作り出せるため、リナにはまだまだ余裕がある。仮には大型魔獣を確実に仕留められるように魔力を注いでいたのなら既にリナの魔力は既に半分を切っていたかもしれない。一応、魔力回復ポーションは幾つかギルドから無償で提供して貰っているが節約出来るなら節約するべきだとリナは考えている。


『ああ、君のお陰で大型魔獣の撃破報告は幾つか届いている。その調子で仕事を続けてくれ』


 ギルドから魔法通話に答えたリナは再び矢で魔力で生成された矢を作り出し大型魔獣を狙撃する。そして次の標的を探していると特徴的な姿をした魔獣を見かけるとリナは大急ぎで魔法通話でギルド側に伝えると先程までとは打って変わってその魔獣を確実に仕留めるべく多くの魔力を矢に注ぎ込んだ。






「なんだぁ!?」


 後方から眩いばかりの閃光が起こったと思ったら強力な矢の一撃が放たれ魔獣達の後方で激しい爆発が起こった。一体何がと思うと爆発地点で膨大な紫色のガスが充満していることを見た冒険者達はそこに何が居たの直ぐに察した。


「もしかしてポイズンバルーンか!?」


 致死性のガスを体に溜め込み攻撃を受けた時に噴出することで身を守る魔獣であり、攻撃性自体はあまり無いものの対処がしにくいことで有名である。仮に壁の付近まで近づかれていたら手出しが出来なかったことは想像に固くない。


「誰かは知らないが気づいてくれたのは有難い」


 距離が離れたところで破裂したことで致死性のガスが街まで届くことはまず無いと言えた。寧ろあの周辺にいるであろう魔獣や魔物が充満した毒ガスで今頃大変な目にあっていることだろう。人間側には都合が良いため誰も同情はしていない。


「それにしてもポイズンバルーンまで出張ってくるとはな……」


 ポイズンバルーンの生息域は街から遠く離れている。近隣の魔獣、魔物にしては数が多いと冒険者達も思っていたがポイズンバルーンが現れたことで広範囲の魔獣、魔物がここに集結しているのだと彼らは気づいた。


「となると何がいるかだよな」


 それだけの範囲から魔獣、魔物を集めたならばより強力な魔獣、魔物がいてもおかしくはない。そう考えていると彼らの前に次の新手が出現したのだった。

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