第四十五話 襲来
「来たか」
「ああ、来たようだな」
街に備え付けられた見張り台から遠方を見ていた監視役の兵士が森の方から次々出てくる数多くの魔獣、魔物を群れを目視した。事前に受けた報告通りの方向から現れており、不気味な程規律だった動きをを見せていた。まさに軍隊といって差し支えないだろう様相だった。監視役は敵が来たことを知らせるための鐘を鳴らす。すると遂に来たかと言わんばかりに街の方が俄かに騒がしくなる。街の周囲にある防壁に刻まれた魔法術式が発動したことでそれらはより強固なものへと変化していく。土系統の魔法による防壁の強化及び堀作り。それによって街は簡易の要塞と化していた。そして街に入るための門には王都から派遣された兵士達が防衛している。こういった守りに関しては数が多く日頃から集団戦闘の訓練をしている兵士達が担い。攻めに関しては魔獣や魔物を日常的に相手をする多数の冒険者が占めている。
「さてと、ここからが重要だ。俺たちは此処で敵の動きに注視して下に伝達しなきゃいけないからな。……こちら監視役。作戦本部聞こえますか?」
『こちら作戦本部。連絡には問題は無し。そのまま監視を続行されたし』
「了解。もうすぐ魔獣、魔物の先鋒と接触するもよう」
「なんて数だ」
防衛班を任された部隊長の一人の口から思わず唖然とした声が漏れた。今までに見たことが無い光景故無理なからぬことだろう。しかし、直ぐに気を取り直し同じように唖然としていた部下たちに喝を入れ指示を出し始めたことからそれになりに場数を踏んでいることが伺えた。大盾を持った盾役の者達が敵の侵攻を阻み後方にいる弓を構えた兵士達が放った矢が魔獣や魔物に突き刺さり、火系統の魔法が焼き払う。すると大きな咆哮を兵士達は耳にした。
「あれはアーマーサウルスか!!」
全身を固い外殻に覆われた大型爬虫類であり、前にミレーア達が出くわしたブラックサウルス程ではないが危険な魔獣だ。固い外殻による可動域の狭さとその重さによって動きこそ速くは無いが防御能力が高くこういった侵攻を目的として見た場合、理にかなっている魔獣と言えた。流石にあれを抑え込むのは兵士達では無理だ。部隊長がそう判断した直後、街の方から魔力で作られた強力な矢の一撃がアーマーサウルスに直撃した。その防御力の高さ故に絶命こそ至らなかったが外殻には大きな罅が入っており、そこへ冒険者のパーティが何組か訪れた。
「兵士さん達は他の魔獣達の侵攻の阻止を!! こいつは俺たちが相手をする!!」
「済まない……任せた!!」
兵士達も餅は餅屋と言わんばかりにアーマーサウルスを冒険者達に任せ自分たちの仕事に専念する。魔法使いの冒険者数名が周囲の敵達を魔法で蹴散らし、近接職と思われる冒険者達も手投げタイプのマジックアイテムを投擲しその爆発によって魔獣や魔物を吹き飛ばす。
「ルイ、結界を張ってくれ!!」
「承知した」
敵が大幅に減った直後、ルイと呼ばれた人物が結界を張りアーマーサウルスと冒険者のパーティ何組かを自分達ごと隔離した。これにより結界を解除するまで他の者達はこの中に入ることは出来なくなった。無論それは魔獣、魔物も同じでありこうすることで彼らはアーマーサウルスを倒すことに集中するようにしたのだ。
「誰かは分からないがあれの外殻に罅を入れてくれたのは有難い」
ベテランの冒険者である彼らを以てしても万全な状態のアーマーサウルスを相手するのは骨が折れる。最悪長期戦を覚悟しなければならなかったがアーマーサウルス自慢の外殻には罅が入っており、そこを重点的に攻撃すれば時間をそこまで掛けずに攻略出来るだろう彼らが考えていた。それでも基本的な能力を考えれば油断出来る相手ではないため、彼らは慎重にアーマーサウルスの攻略にかかったのだった。
「アーマーサウルスか……あれは群れる習性はない筈だが」
「それを言ったら今の状況の方が異常すぎるからアーマーサウルスがいるくらいおかしいことではないでしょ」
「違いない」
マイルズとアラン、ソニアの三人がそう軽口を叩いた。
「では目の前にいるオーガはどうなんだ?」
全身を隈なくなく鎧で包まれた人物。臨時でマイルズ達と組むことになったアギトが質問する。三人は最初は聞き覚えのない名前の相手と組むことにギルドからの要請とはいえ難色を示したが、それでもギルドへの義理として会ってみたところ一目見て足手纏いどころから自分達三人でも纏めて蹴散らせる相手だとマイルズ達は気づいた。軽く連携の模擬戦も行ったが問題はなかったことでこうしてマイルズ達はアギトと臨時のパーティを組むことになったのである。
「群れは作るが同族限定だ。こんな多種多様な群れに紛れることはないな」
実際に同族以外への配慮は低いらしく平気で他の魔獣や魔物を自身の攻撃の巻き添えにしている。オーガ自体もそれなりに強力な魔物のため、他の種族の魔獣、魔物に報復されないのがそれに拍車をかけている。棘の付いた棍棒を振り回し辺りに血と肉を撒き散らしていた。
「俺達はあの赤い方に集中して攻撃を仕掛ける。青い方はレックス達が相手をするみたいだからな」
「分かった」
そういって大剣を持ったマイルズがレッドオーガに斬りかかった。レッドオーガもそれに気づき棘付き棍棒を振り迎撃にかかる。オーガの膂力は強化魔法を使った人間の身体能力を大きく上回っており正面から激突は非常に危険である。レッドオーガもそれが分かっているのか正面から馬鹿正直に攻めてきたマイルズに嘲笑するかのような笑みを浮かべていた。
「ごおぉおおおお!!」
野太い咆哮と共に振り下ろされる棍棒の一撃。大型魔獣の骨から作られたそれは生半可な金属製の武器よりも丈夫であり、そこにオーガの膂力が加われば人の体など一撃で挽肉である。無論その一撃に馬鹿正直に付き合うマイルズではない。その一撃を大剣で力点を逸らしいなすことで彼は対処した。自慢の一撃を外されバランスを大きく崩すレッドオーガを左右から風魔法であるエアカッターが斬りつけた。
「がぁああああ!!」
エアカッターで体をざっくりと斬られた痛みに叫び声を上げるレッドオーガ。その隙をついてマイルズが大剣を振るうが寸前で気づいたレッドオーガが棍棒で防御した。態勢はマイルズの方が有利だが純粋な力ではレッドオーガが上回っているため、鍔迫り合いは拮抗することとなった。
「む……く……!!」
「おぉおおお!!」
「横から遠慮なくいかして貰うぜ」
ランスを持ち横合いから突撃してくるアラン。レッドオーガもそれに気づきアランに対処するためにマイルズの大剣を弾こうとするがそうはさせまいとマイルズは必死に抑え込む。このままでは不味いと感じたレッドオーガは周囲を見るが同族であるオーガは他の冒険者に抑え込まれているため、助けを期待出来ない。ならば他の雑兵にと思ったが他の魔獣、魔物が自分達を助けようとする素振りすら見せていない。
「があごぉ」
声を出し助けを求めるが魔獣、魔物は一瞬顔を向けたかと思えば見て見ぬふりだ。此処に来て傍若無人に振る舞っていたオーガ達にツケが回って来ていた。レッドオーガは一匹のゴブリンが自分に向けた表情を見逃さなかった。そのまま死んでしまえと表情が雄弁に語っていた。なんて奴らだと自分たちがやってきたことを棚に上げ憤慨するレッドオーガ。
「これで終いだ!!」
アランの鋭いランスの一撃がレッドオーガの体を刺し貫いた。レッドオーガが濁声の叫びを口から漏らすと棍棒に加えていた力が緩み瞬時にマイルズは大剣で棍棒を弾くとレッドオーガの首を跳ねた。
「助かった」
「マイルズが抑え込んでくれたおかげだ。……オーガ達はどうやら問題なく対処出来ているようだな」
周囲でも同じように冒険者によってオーガ達は各個撃破されてゆく。オーガ達が倒れたところ見計らって魔物達が今が攻め時と言わんばかりに雪崩れ込むが魔法使い達が纏めて魔法で一網打尽にした。
「……どうやら群れてはいるが同族以外への協調性は皆無らしいな」
「ああ、これだけの規模の魔獣、魔物が規律だって動いていることに面食らいはしたがどうやら張りぼてだったようだ」
今のオーガ達と魔物の様子から彼らは実態を大まかに掴んでいた。凶暴で傍若無人の代名詞のようなオーガ達が他種族にどういった振る舞いをしていたのかなど簡単に想像がついていた。マイルズ達は依頼でオーガに攫われた村人の救助依頼を受けたことがあり、捕らえられた者の末路を知っていたからである。
「となるとどうやってこれだけの規模の魔獣、魔物を集めたんだ?」
協調性皆無とはいえこれだけの規模の群れを形作り、張りぼてではあったが此処に来るまではある程度の規律だった動きを見せていたとなれば中心となる何かが必要である。アギトはこの世界の事情を詳しく知る訳ではないが、今の事態がこの世界でも異常であることだけは周囲の者達を見て分かっている。その要因となったのは何なのか考えると一つの可能性に行き当たった。
「いや、まさかあれがいるのか? 魔獣、魔物を統率しきれていないのは未だ不完全だからか?」
何やら思い当たることがあったのかアギトの思考が言葉となって漏れていた。
「何か知っているのか?」
「現段階では可能性の域を出ない。……確信のない憶測を場を荒らすだけの可能性もあるから考えが正しかった時に話す」
そこで会話を切り襲いかかってきたオークの首を右手に持った剣で斬り飛ばすアギト。空いた左手を横に振るうと何かが光り少し離れていた場所にいたゴブリン数体の首が跳んだ。
「今はそれよりも少しでも敵を減らすことの方が先決じゃないか?」
「確かにそうだな」
敵は未だ山のように存在している。国の兵士達が街に入るための門を守っているため後ろを気にする必要は無い。自分たちの役割を果たすために次の相手を探すマイルズだった。




