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第四十四話 託されたもの

「いやぁ……材料は用意して貰ったのを使うだけだから良いけど只作り続けるのは辛い」


 数日かけて用意して貰った材料を上級回復ポーションにし終えたミレーアはそう愚痴のように呟いた。必要なことなのは理解するし、これで助かる命があるのならとミレーアは協力したがいざやってみれば二度とやりたくないと思える程の相当な苦行だった。魔獣、魔物の群れは既に眼前にまで迫っており数日以内には此処に攻めてくるだろうという状況だ。


「あとは前線のみんなに頑張って貰うしかないか」


 ミレーアは治療係として後方で待機となっている。本当なら前線に赴きたいが回復魔法が使える者は能力の度合い拘らず全員が後方となっており、それは仕方がないかとミレーアは納得した。


「それで逃げ遅れた人は……あれ?」


 ミレーアは今、街で逃げ遅れた人がいないか見回っていた。魔獣、魔物の群れが異様に規律だった動きをしていたことで此処に到着するまでに時間的な猶予があり、その間に非戦闘員は街から脱出させた。それでも逃げ遅れた人がいないか確認のため、この地を管理する貴族から冒険者ギルドに依頼が出されていた。上級回復ポーションを作り終え手持ち無沙汰だったミレーアはこれに協力し担当地区を見て回っていたところ明りの付いている建物を発見した。


「あれって確か」


 見覚えのある建物であることに気づきミレーアは急ぎ足でそこに向かった。





「ヘファートスさん!? まだ逃げてなかったんですか!!」


 ドアを勢いよく開け怒鳴るような大声でミレーアは中に乗り込んだ。退避勧告は出されている中戦う力のない非戦闘員が残っていても邪魔になるだけのため、従わない場合実力行使の許可もこの地を管理する貴族から出されている。ミレーアとしは世話になったこともあり実力行使は出来るだけ避けたいと思っている。しかし、ヘファートスから返事は無く背を向けているだけだ。どうしたのだろうかと思いミレーアが近づくと彼の影に隠れて見えなかった対面にある一振りの剣が目に入った。


「これは……」


 その剣を見てミレーアはそれが自身の師匠が背負っていた大剣に負けず劣らずの一振りであることに雰囲気で気づいた。彼は目指したものを打つことが出来たんだと感動しているとヘファートスが僅かだが身動ぎしたことで此処に来たことを思い出し声をかけた。


「ヘファートスさん。退避勧告が出ているので今すぐ逃げてください」


「ん……ミレーアちゃんか……そうだったな。これを打ったら逃げようと思っていたが完成したところで疲れて眠ってしまったらしい」


 前に話た時とは違う弱々しい声音に心配になるミレーア。


「大丈夫ですか?」


「ああ、久々の大仕事で少し疲れただけだ。ちょいと休めば元気に……」

 

 そこまで言いかけて立ち上がろうしたヘファートスの身体が大きく揺らいだ。ミレーアは慌ててヘファートスの身体を支えると彼が相当消耗していること気づいた。


「!? 今すぐ安全な場所に……」


「待ってくれ……あれを置いていく訳にはいかないんだ」


「っ……!! 今はそんな場合じゃ……」


「頼む」


 弱々しく懇願するヘファートスに負けたミレーアは剣の隣にあった鞘に剣を仕舞うと自身のマジックバックに入れ大急ぎでヘファートスを担ぎ駆け出した。





「それじゃあ、大人しくしていてくださいね」


 ミレーアはヘファートスを運び終わると預かっていた剣を返そうとしたがそれを彼は首を振って止めた。


「何かの縁だ。ミレーアちゃんが持っていてくれ……この剣が渡したかった相手の手に渡るのか君の師匠と同じように試してみようと思う」


 渡したかった相手は誰なのかは何となくだがミレーアはあの日、ヘファートスの工房の前で出会った女性だろうと思った。


「良いですか? 直接渡した方が……」


「良いんだ素材を手に入れたのは偶然だ。ならもう一度その偶然に掛けてみたい」


 今にも消え入りそうな声でそう返すヘファートスに二の句が継げずミレーアは大人しくその願いを聞き入れることにした。


「分かりました。……お元気で」


「ああ……」


 立ち去るミレーアを見送ると入れ変わるように全身を鎧で包み込んだ誰かが入ってきた。


「あいつには困ったもんだ。原因は使った素材……知っているのか?」


「……成程、彼女を知る者か。ああ、知っていた。彼女の持つ大剣を作った者の末路……それでもあれに届くならこの命など惜しくはなかった」


 寧ろ彼女の持つ武器を見てしまったがためにそれに並び立つような武器を作らなければ死んでも死にきれない。ヘファートスの声音にはそんな思いが滲んでいた。


「その意思に敬意を……それとミレーアには黙っておく。自分が渡した素材が原因で知人が死んだと知れば傷になるからな」


「ああ、頼んだ」


 ミレーアの師匠が用意した素材。それは特殊な性質を有しており、鍛冶師の心持ちによってそのあり方が大きく変わる。普通に使っても素材としては一級品であり、出来上がる武器は業物と言っても良いものとなる。

 しかし、彼のように鍛冶師として腕を極限まで磨き上げ、それでも上を目指すものにはその素材は違ったものに見えてくる。それが自身の人生を捧げた集大成に相応しいものだと直感で見抜き自身の全身全霊をかけて武器を作製し、そして剣に命を譲り渡すように作製後に衰弱死する。そのため、彼女自身も安易に素材をばら撒かない。彼女の持つ大剣の真価を見抜き、死ぬと分かっても尚作るのか確認した後に素材を渡すようにしているのだ。直接渡すこともあれば今回のような迂遠な方法で渡すこともある。


「じゃあな……残り少ない命は大切にな」


「そうさせてもらうさ……」


 会話を終えアギトが退室するとヘファートスはベッドの上で瞼を閉じた。全てをやり遂げた満ち足りた表情がそこにあった。





「それで何を運べば良いんですか?」


 ヘファートスを送り届けた後、ギルド職員に呼ばれご指名で要請があると聞きなんだろうかと思いながら話を聞くとジェライクの家の手伝いだった。彼はこの街で一番の魔法使いであり、様々なマジックアイテム作成にも精通している。家の中はゴミ山のような状態だがその中に彼が作成したマジックアイテムが埋もれている。冒険者ギルドからの依頼で彼が作成したマジックアイテムは幅広いところで使われておりこの街にはいなくてはならない存在だ。そのため、今回の事態にあたって家の中をそのまま放置することが出来ずこうして冒険者ギルドに片付けの協力を要請したわけである。


「ああ、これとそれだな。そっちは回復魔法関連のことだからこっちに入れといてくれ」


「それにしても資料は一杯出来てますね」


「時間があれば分かったことを話しつつ、君の意見も聞きたいところだがな」


 ここ一か月の間、何度か回復魔法を使う機会はあった。依頼で魔獣や魔物の被害にあった村に訪れた時に宿泊代替わりに怪我人を治したりしていたからである。その時に使った回復魔法のデータがここに送られているが、残念ながらミレーアには訳の分からない記号の羅列にしか見えなかった。


「この騒動が終わったらお願いします……って、ゴ……じゃなくて資料の山をどかしたら何か大きなマジックアイテムが出てきましたよ」


「あ~そんなところにあったのか」


 ミレーアが見つけたのは自身の腕よりも二回りは以上は大きい何かだった。それはどうやら腕に装着するものらしく何やら複雑な機構を搭載しているのか非常にゴテゴテしており、先端が尖った棒のようなものも取り付けてある。


「それは何処かの遺跡で見つけた設計図を参考に試しに作ったものだ。本人の魔力に依存せず使える武器で破壊力は抜群なんだが致命的な欠点があってな」


「致命的な欠点……」


「それは魔力回復ポーションを燃料として動くんだ」


 それは確かに致命的な欠点だった。本人の魔力は使っていないが瞬時の魔力補給を目的とする魔力回復ポーションを使用しては本末転倒である。その欠点が判明した時点で失敗作として放置していたため、ジェライクは何処にやったのかすっかり忘れていた。


「これってどうやって使うんですか?」


「ん……ああ、そこに腕に装着する部分があるだろ? 腕に付けてその杭で相手に突き刺すだけだ。後はそれを感知した武器が自動で魔法を発動させ中の杭が前に飛び出す機構になっている。……興味あるのか?とてもじゃないがベテランの冒険者だろうと維持管理できるものじゃないぞ」


 一番のネックは上級以上の魔力回復ポーションを燃料とすることだ。魔力回復ポーションは特殊な植物を素材としており、それらが入手な困難なことも相まって市場価格は低級でも新人冒険者の報酬数回分程の値段である。そのため、とてもじゃないが普段使いできるものではない。


「これって一回使うことに魔力回復ポーションを補充するんですか?」


「流石にそこまでじゃない。品質にもよるが上級で5回程度だ」


「なら問題無いです。私は自分で作れるますから」


「作れても材料はどうするんだ?」


 ミレーアが上級回復ポーションを作れことを知っていたため、魔力回復ポーションを作れることにジェライクは疑問に思わなかったが一番の問題点である材料ついて聞いた。しかし、それもミレーアにとっては問題ないことであった。


「そっちも大丈夫ですよ」


 自身の師匠から教えてもらったポリューションを使えばこれの燃料の問題は解決出来る。


「……理由は聞かない。だが埃を被るだけのこれを生かしてくれるなら作成した者としてこれ以上の喜びはない。ただその代わりと言ってはなんだが使った時の使用感を教えてくれ」


「分かりました」


 交渉成立したところで二人は今の目的を思い出し作業を再開したのだった。


ミレーアはパイルバンカーを手に入れた。

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