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第四十三話 大群

「う~ん、予想よりは早く戻れたね」


「前よりも使い慣れてきたからね」


 ブラックベアの討伐を終え街に戻ってきたミレーアとリナ。討伐後は行きと同じように走って山を抜けて街まで戻ってきた。ブラックベアそのものは大したことは無かったというのがミレーアの感覚だが、弓を使い少し離れた位置で戦いを見ていたリナからすれば魔力による身体強化があるとはいえ真正面からブラックベアと殴り合った上に力で上回っていたのだ。ブラックベアの腕を押し返す姿はもはやどちらが魔獣なのか分からなくなる光景であった。


「それにしても少し騒がしくない?」


 既に日は落ち始め空も橙色に変わり始めている。この時間帯は帰還した冒険者などで賑わっているが、今日はそれにも増して人々は慌ただしく動いていた。冒険者達の表情も依頼達成したことによる喜びや依頼失敗による悲壮感はなく、まだ依頼は終わっていないと言わんばかりの必死の表情だった。何か事件でもあったのだろうかと疑問に思いながらミレーアとリナは冒険者ギルドに依頼達成報告に行くとそこでも冒険者たちが慌ただしく動いていた。


「何かあったんですか?」


 とりあえず依頼達成の報告し、その序に受付嬢にミレーアは質問した。


「詳しくは長くなるのでこの窓口では話せません。ですのであちらの臨時専用窓口で話をお聞きください」


 何処か鬼気迫る雰囲気でそう返答し、専用窓口に指先を向けた受付嬢に気圧されながら言われた通り臨時で作られた専用窓口へとミレーアとリナは向かった。


「何かあったんですか?」


 何があったのか事情を知りたい者は多くいたため、臨時専用窓口に列が出来ておりミレーアとリナはその列に並んだ。それ程時間が掛からずして自分達の番になったことでミレーアは臨時専用窓口を担当しているギルド職員に質問したのだった。






「ことは一刻を争うを事態です。時間のかかる手続きなど後になさい!!……向かわせる兵士達には十分な支援を……生半可なことでは飲み込まれるだけです」


 報告を聞いたアレクシアは関係各所に指示を飛ばしていた。未曽有の事態に文官達は右往左往し彼女が指示を出していなければもっと酷いことになっていただろう。普段は偉そうなことを言っておきながら予期にせぬことが起こればこの体たらくに彼女は内心でこれが終わったらこっちの整理も必要だと考えていた。


「し、しかしこれだけの兵士を動かすとなれば輸送する時間が……」


「陛下から既にあれの使用許可を得ています」


 文官の意見に既にそんなものは解決済みだと言わんばかりにアレクシアは直ぐに答えた。


「それで……これだけの大規模な軍の指揮を誰が執るのですか?」


 軍を動かすならば総指揮官が必要だ。しかし大軍となればそれ相応の地位があるものでなければならない。生半可のものでは軍を纏めきれるず瓦解する可能性があるからだ。


「私が行きます。参謀に大将であるフレデリックを連れていきます」


「御身が!? それは流石に考え直しいただけませんか王女殿下!?」


 アレクシアの言葉にそれ聞いた文官は驚愕し慌てて止めた。


「これは下手をすれば国を存亡に関わる未曽有の事態です。思わぬ事態があった時に直ぐにでも対処しなければならない。既に陛下より全権を任されています」


 そこまで言われれば彼も内心どうあれ従うしかなかった。彼女が父である国王から全権を任されているということは彼女の言葉は国王の命と同義である。


「……分かりました。直ぐにご用意致します」


「出来るだけ早くね」


 一礼し立ち去る文官を見送ったアレクシアは付近に近場の椅子に座り大きく溜息を吐いた。この事態の一報を耳にした時点でアレクシアは自身が行くことを決めていた。故にすぐさま国王である自身の父に直談判を行った。武術に優れ騎士達から人望が厚いアレクシアが行くのは士気の観点からも理に適っていた。それでも国王である前に父であった彼はアレクシアに全権を任せることに苦悩し、最終的にそれを許可した。


「魔獣魔物の大軍……正に建国時の再来ね」






「魔獣や魔物が群れを成して街に迫っている……そんなことがありえるんですか!?」


 専用窓口で話を聞いたミレーアは予想だにしなかった情報に声を張り上げてギルド職員に聞き返すとギルド職員は冷静に言葉を返した。


「建国時の伝承で残るのみとなります」


「それってもしかして勇者でもある初代国王陛下が倒したっていう魔物や魔獣達の王のこと?」


 遺跡でジーロから建国の話を聞いていたミレーアはそれに思い至った。今回の事態が同じかは分からないが、少なくとも魔獣や魔物が群れを成すことは前例があるということだ。となれば目下の急務はこの事態をどう対処するかだ。自分が何をすればと考えているとミレーアは声を掛けられそちらを向くとルイーズがいた。


「良かった。直ぐに見つかって……それでミレーアちゃんに頼みたいことがあるんだけど今良いかな?」


 ルイーズはリナの方をちらっと見るとリナも何か察したのか小さく頷いた。


「私はもう少し情報を収集をしてるね」


「うん、お願い」


 リナが情報収集を行うため別行動を取るとルイーズはミレーアを防音性の高い部屋へと案内した。


「それで私に何がして欲しいですか?」


「群れが此処に到達するまであと数日はあるからあなたには上級回復ポーションを可能な限り作って欲しいの」


「今回の事態に対して多めに用意しておきたいということですか?」


「そう……材料はこちらで用意するしもちろん報酬は支払う。それと誰が作ったのかも漏らさないわ」


 ミレーアが上級回復ポーションを作製出来ることが知られればそれを手に入れようと彼女の冒険者が押し掛けることになるだろう。ミレーアが上級回復ポーションを売るためにだけに店を開くならまだしも冒険者として活動するなばそれは彼女の望むことではない。


「分かりました。緊急事態みたいなのでその依頼をお受けします」


「ありがとう」






「それにしても誰から話を聞けば良いかな」


 誰も忙しく動いているため、声を掛け辛かったため情報収集をしてくるなんてミレーアに言ったもののうまく行かず無駄に時間だけを消費してしまったリナはそれでも誰かに話を聞こうと話しかけ易そうな誰かを探していると丁度良い人物?を目にした。


「アギトさん!!」


「リナか、何か用か?」


「はい、情報収集に動いていたんですが忙しくしている見ず知らずの人には声を掛け辛かったので丁度通りかかったアギトさんに声をかけました」


 リナが話し掛けてきた理由に納得したアギトは彼女が一人で此処で情報収集していることに疑問に思い少し周囲を見渡すが肝心な人物は見つからなかった。リナの方もアギトが誰を探しているの察し当該な人物がどうしているのか話した。


「ミレーアはギルド職員のルイーズさんに呼ばれたので今は別行動です」


「呼ばれた?……ああそういうことか。確かにミレーアに最大限の協力をしてもらえるように交渉するのは当然か」


 一を聞いて十を知ると言わんばかりのアギトは呟いた。リナの方はどういうことだろうかと首を傾げるとアギトは彼女の簡単に説明を行った。


「おそらくはミレーアは今回の事態で前線には出てこない。後方で負傷した冒険者の治療がメインだ」


「え……あれだけの実力があるのに後方なんですか?」


「前線で戦うだけなら他の者でも可能だ。だが彼女の回復魔法による治療は代われる者はどれだけいる?」


 アギトにそう言われて「あっ」と短く呟いたリナ。ミレーアの代わりに前線で戦うものは幾らでもいるが、ミレーアのように回復魔法が使える冒険者となればそれこそ片手で数える程度になる。更に言えばその数少ない回復魔法が使える冒険者の能力はミレーアに比べると雲泥の差であり、とてもじゃないが彼女の代わりになるかといえば誰もが首を横に振るだろう。彼女の能力に比肩するのは教会に所属する者達だけだ。今回の異常事態にあたり教会も全面的に協力はするがそれでも回復魔法の使い手の数は十分とは言えず一人でも多くの回復魔法使いを欲している状況でミレーアが前線に出れるかと聞かれれば学が無いため戦術面以上ことには疎いリナでもそれが無理であることは直ぐに分かった。


「そっか……ミレーアが前で戦うよりも後ろで頑張った方が良いのか」


「ああ、それにミレーアなら不測の事態が起きても対処出来るだけの実力はあるからな」


 もちろん臨時の診療所には護衛はいるだろう。だがその数は必要最低限であり、何らかの不測の事態が起き魔獣が侵入された場合、中にいる者達が危険に晒されることになる。回復魔法が使える冒険者は大抵が前衛型ではなく後衛型のため対処出来ない可能性が高い。そのため前衛型で余程の魔獣で無い限り苦も無く倒せるだろうミレーアの役割は治療及び他の者達の護衛だ。


「そうなると私も自分の役割を果たさないとね。アギトさんは?」


「俺は前衛だ。ギルド側から信頼できる冒険者のパーティに臨時で組むことになっている。リナの方にもギルドからあれの使用許可が下りる可能性は高いだろうな」


 アギトが言うあれというのはリナに使用者登録されてしまった遺跡で入手した弓である。義足はまだ足鎧と誤魔化せるが弓に関しては矢を魔力で形成するため誤魔化しが不可能だ。ベテランの冒険者なら何処かの遺跡で偶然見つけたと言えばそれで誤魔化せるが、まだ新人であるリナがそれを持っているのは他の冒険者から怪しまれるためギルド側で契約魔法によって使用を制限している。内容はギルド側の許可及び生命の危機以外での使用を禁ずるである。アギトの言う通り今はのっぴきならない状況のため、使用許可が下りる可能性は大いにある言えた。アギトから話を聞いたリナはその時に備えて何が必要なのか思考を巡らそうとしたが、まだ感じなことを聞いていないことを思い出したリナはアギトに魔獣や魔物の大群の動向を質問するのだった。

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