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第四十一話 それぞれの動き

「敵対した相手に対する容赦の無さは師匠譲りか」


 ミレーアが冒険者崩れの男三人に絡まれた時、アギトはその一部始終を見ていた。もしもの時に備えていたが思った以上のミレーアの容赦の無さに逆にアギトが絶句した程である。子は親に似るというが育て親に必要以上に似てしまったのは考え物である。とは言っても師匠程過激ではないというのがアギトの認識だ。ミレーアの師匠なら間違いなく素手に頭を握りつぶしている。


「対人はどうかと思っていたが、あの調子なら問題はなさそうだ」


 魔獣や獣に対しては武器を振るえても相手が人になった途端、傷つけることに忌避感を覚える者がいる。ミレーアは大丈夫だろうかと危惧していたアギトだがまったく問題がないことに安堵すると共にミレーアから聞いた師匠との修行に関して呆れるしかなかった。回復魔法が使えるということでミレーアに対してかなり容赦のない怪我を負わせていたが逆にそれがミレーアにとって何処をどうすればどの程度の怪我を負わせることが出来るのかの線引きとなっていた。


「それにしても肩に乗っていたのは……」


 ミレーアが魔獣か何かをテイムしたことは聞いていたが、遠目ではあるがそれを目にしてアギトは目を疑った。まさかこんなところにあれがいるとは思わなかったからである。


「これもあいつの一手か? もしくは本当にただの偶然……それとも神の悪戯か?」


 今後のミレーアの行動次第でそれは全てを解決する鍵にも全てを滅ぼす災厄にもなりうる特級の危険物である。もう感じることのない筈の頭の痛みを堪えるかのように兜の額部分に手を当てたアギトは今後の予定を修正すべく思考を巡らすのだった。






「う~少し遅れちゃったよぉ」


 恫喝し金を巻き上げようとした三人を返り討ちにしたまでよかったのだが、その後の事情聴取で予想以上の時間を取られてしまった。ミレーアに返り討ちにあった三人は当然のように自分達は被害者だと主張したが数は多くないが一部始終を見ていた者達の証言や彼ら自身が既に憲兵に目を付けられていたこともあって牢屋へと入れられることとなった。余罪も多数あった彼らはこの後、冒険者ギルドから除名され街から追放処分となる。


「すいません。少し遅くなりました」


 ミレーアはヘファートスの鍛冶屋に入ると同士にそう謝罪の言葉を述べた。


「ん? まぁ、こんなもんなら誤差の内だな。冒険者なんざ不測の事態が起きることなんざよくあることだからな」


 ハッハッハっと豪快に笑うヘファートス。冒険者を相手に長年鍛冶師をやっていただけにそういった冒険者の事情も分かるようだ。最近で言えば遺跡に落ち異獣に襲撃されたことがそれに当たるだろう。あれによって街への帰還が一日程ずれてしまったからだ。尤も今回ミレーアが遅れたのはまた別の事情だが


「それでこれがミレーアちゃん用に調整した例のものだ」


 ミレーアはそれを受け取ると早速と言わんばかりに足に取り付けた。着け心地を確認し問題ないか確かめるとヘファートスの方を向いた。


「問題ないですよ。それでこれはどうやって使うんですか?」


「ああ、使い方はそれを身に着けたまま魔力で身体強化するだけだ」


 ミレーアは言われた通り軽く身体強化を足回りに施し数歩歩いた。すると何かを確かめるように足を動かし調子を確かめ始めた。


「……此処で試すのは少し無理そうですね」


「ほう、少し歩いただけで使い方を分かった」


 ミレーアの言葉にをヘファートスは嬉しそうに笑った。渡した自分の目に狂いはなかったと言わんばかりの表情だ。ミレーアも想像の以上のものを貰えたご満悦であり、早く試してみたいと心が急かすが残念ながら既に日は落ちかけており、これを試すのは明日になりそうだなと彼女は思い必死に自制していた。


「まぁ、何か問題があればまた来てくれ。生きている限りはその時は無料で見よう」


「良いんですか?」


「あれを貰った礼だ。これだけでは足りんからな」


 そう申し訳なさそうな表情をするヘファートス。ミレーアとしては師匠からどう扱うかは自分の好きにしろと書き置きされた使い道のよく分からない素材が高価なマジックアイテムに変わっただけで儲けものだと思っていたくらいである。ただ他の素材に比べて何処で身近に感じていたような不思議な感覚があるくらいである。


「ならあれで作った武器を一度、見てみたいです」


「そうか……なら完成したその時は声をかけよう」


「ありがとうございます。凄く楽しみにしています」


 ヘファートスの返答に満面の笑みでミレーアは答えたのだった。






「そうか、偶然とはいえ見たのか」


「はい。間違いなく噂になっている在野の回復魔法使いです」


 神官の報告を聞いた大神官は大きく溜息を吐いた。在野に聖女に匹敵する才能の持ち主がいたことが確認出来たため、それを総本山に連絡することになるのだが間違いなくしばらくは荒れるだろうというのが彼の見解だ。それだけの才能の持ち主を見落としたことへの追及に始まり、今後当該の人物をどうするのか会議となるだろう。


「厄介なことになりましたね」


「そうだな。冒険者ギルドに入る前に教会側で確保が出来ていれば良かったが向こうに入った後では強引なことは出来ないからな」


 それでも少し前の冒険者ギルドならまだやりようがあった。しかし、とある人物が冒険者ギルドに後ろ盾となり支援も行った結果、権力を笠に脅迫することが出来なくなってしまった。仮にやろうとすればそれは己が首を絞める結果になりかねない。


「冒険者ギルドは絶対に手放さないだろうし、あの方の耳にも既に入っていると見るべきか」


 今回の事態に一番出遅れたのは教会側だ。その遅れは致命的であり、その遅れを取り返すのは最早手遅れだと言えた。可能性があるとすれば向こうから冒険者を辞め教会に入るくらいである。今後、予想される事態を思うと大神官は溜息しか出ない。特に展望もない癖して何とかして教会側に引き入れよと無茶ぶりしてくる上の者達に心当たりがあったからである。


「考えても仕方がないか……そういえば彼女の様子はどうだ?」


「駄目ですね……あまりのショックにまだ塞ぎ込んでしまっています」


「無理もないか……漸く厳しい修練も終わり故郷に一時的に帰郷出来ると思った矢先に故郷の村が随分前に滅びていることを知ったとなればな」


 村の場所が辺鄙な場所にあったこともあり、村が滅びているのが分かったのも魔獣何かに襲撃されてから半年以上経過した後だったという。村の惨状から生き残りなおらず全滅しただろうというのが当時の見解だ。多数の大小入り交じった人ではない何かの骨があったことからおそらくは魔獣同士の争いも重なり被害が深刻化する結果になったのだろうというのが取り寄せた調査書の写しには書かれていた。


「だが、それでもそろそろ立ち直って貰わないと困る。何か良い切っ掛けでもあれば良いのだが……」


「今のままでは気晴らしに外に出すわけにもいきませんからね」


 教会の関係者が暗い顔をして街の中を歩くなどそれこそ教会のイメージに大きな傷がつくだろう。特に当人に至ってはそれなりの能力のある回復魔法使いであり、これから精力的に働いてもらわないと教会としては大いに困る。


「何か良い案がないか他の者にも意見を聞いてくれ」


「分かりました」






 王都に戻り王城内の通路を堂々と歩く赤い髪の女性。ミレーアと街で出会った女性だがその衣装は大きく変わっていた。ミレーアと会った時は動き易そうな機能性重視の服装だったが、今は質の良さそうな布で作られた豪華絢爛のドレスを身に纏い高級な宝石を使ったアクセサリーを多数身に着けていた。赤い髪の女性が通れば他の者達は男も女も隔てなく通路を開け頭を下げる。そのことからこの女性がこの王城内でも相応の地位があるというのが察せられる。赤い髪の女性は目的の場所である左右を衛兵に守られた扉の前に辿り着くと衛兵二人を労いの言葉を掛けそのドアを軽くノックする。


「兄上、ただいま戻りました」


「入れ」


 そう部屋の中から短い声が聞こえると彼女は扉を開け中に入る。室内には彼女と同じ髪の色をした青年が執務用の机に座り紙の束を処理していた。


「それで彼は首を縦に振りそうだったか? アレクシア」


「駄目でした。今回見せた素材も彼の納得するものではありませんでした」


 赤い髪の女性、アレクシアは残念そうな声音で自分の兄にそう答えた。それを聞いたアレクシアの兄は溜息を一度だけ吐いた。

 

「そうか......あらゆる伝手を使って取り寄せたがそれでも駄目だったか」


「兄上の地位と手腕でも無理となるとお手上げですね。......この件に関しては依頼したのは私ですからあとは自分の方で探してみます。それで話は変わりますか彼に武器の作成を依頼しに行ったとき、命を狙われました」


 妹から報告を聞いた兄上と言われた人物は顔を顰め溜息を大きく吐いた。


「すまない。……その件についてはこちらで調査した後、指示を出した者はこちらで処理しておこう」


 彼にとって妹は大事な家族であり、今後自身の施策においては優秀な右腕となる重要な人物でもある。だがそれ故に彼女は様々な相手から命を狙われる。彼女の立ち位置に成り替わろうとする者や自分の地位が脅かされると思い排除しようとするなど理由は様々だ。


「それとその時に分かったことですが、在野に強力な回復魔法の使いの冒険者がいることが判明しました」


 その報告を聞いたアレクシアの兄は驚愕した。


「馬鹿な……教会が見落としたというのか?」


「それを含めて報告したいことが多数あります」


 そこでニコリと笑った妹の表情を見て彼は察した。自分の妹がこんな表情をする時は相当な厄介事が降りかかってくると経験則で知っているからだ。しかし、それは聞かなければならない重要なことでもあるため、これから数日忙しくなることを覚悟して彼は妹の報告を聞くのだった。

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