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第四話 初めてのパーティー

「う~ん……」


 受けられる依頼を確認していたミレーアはどれを受けようか悩んでいた。彼女が受けられる依頼は新人なこともあり、採取な低級な魔物討伐依頼など種類は少ない。希少な鉱石の採掘依頼などもあるがこれは何処かの洞窟など偶然見つけたものを納品するものであるため、そもそも手元になければ受けても意味はない。


「とりあえず他人と組むのはありか……すいません。この依頼なんですが」


 受けることにしたのはゴブリン討伐依頼だ。

 内容としてはゴブリンの小規模の群れが村の近くで巣を作ったため、駆除してくれといった内容だ。依頼料は安いが危険度が少ないことから新人の定番依頼と言える。

 さらにこれは新人用の特殊な依頼でもあった。


「そちらですね、今確認いたします……大丈夫です定員はまだ埋まっていません」


「なら受けます」


「分かりました。それではこちらの番号札をお渡ししますので定員が埋まるか所定の時間になりましたら係りの者が番号でお呼びしますのでその時は係りの者のところに集合してください」


「分かりました」


 番号札の番号を確認したミレーアはマジックバックにしまう手近な席に座った。

 この依頼は先着順でこの依頼を受けた者達が同じパーティーメンバーとなる。一緒に組む仲間がまだいない新人専用の依頼であり、こういった依頼は入念に調査され安全性がほぼ問題ないと判断されたものだけが厳選され出されている。

 最も魔物であるゴブリンとは戦うため、戦い殺される危険性はあるがそれは討伐依頼なら必ずあるリスクであるため考慮されていない。


「隣いい?」


「―――いいよ」


 声をかけられ視線を向けるとそこには簡素な鎧を着こんだ同じ年頃の少年がいた。何も言わず並んで座る二人。そんな空気に耐えられなかったミレーアは隣の少年に話しかけようとして


「―――番でお待ちのゴブリン討伐を依頼を受けた冒険者の皆さん。人数が揃いましたので受付までお越しください」


 ギルドの職員が自分の番号札と同じ番号を呼んでいることに気づき立ち上がると隣の少年も同時に立ち上がった。





「あ~と、まずは自己紹介かな?」


 今回のゴブリン討伐のため組むことになった四人のメンバー。顔合わせをしたものの何をするのか分からないため、とりあえず名前すら知らないことからミレーアはそう提案した。


「アレンです。え~と、武器は剣です」


 先程、ミレーアの横で座っていた先陣を切って名乗った。


「エリオ、ダガーを使ってる」


 先の少年に比べて更に小柄な少年が名乗った。身軽そうな見た目も相まって速度重視というのが見て取れた。


「シャーリィ、魔法使いになります」


 杖を持ち少し高そうなローブを着ていた少女。魔法に使うにはそれ相応の知識がいるため何処かの村から飛び出してきた若者ということはまず無い。


「ミレーア、見ての通りメインは素手、ついでに回復魔法が使える」


 その言葉にシャーリィは驚きの表情を見せた。


「あなたは在野なんですか?」


「扱いとしてはそうなる」


 アレンとエリオはどういう意味か分からず首を傾げている。生まれ育った村から冒険者になるために武器を片手に飛び出してきた二人は、回復魔法の使える者は教会に所属しているとしか知らないためここにいる理由が分からない。反対にミレーアが在野であることに直ぐに気づいたシャーリィは裕福な家庭であるということが察せられた。


「―――理由は聞かないことにします」


「助かる。腕が捥げても治してあげられるけど出来るだけ怪我はしないようにね」


 ミレーアの言葉に今回は回復ポーション代が浮きそうだと笑うアレンとエリオに対しシャーリィは唖然とするのだった。





「と、この木は……」


「おい、何をして」


 ゴブリンが住居にしている洞窟に向かう途中にある木を見つけたミレーアはその木に駆け寄った。今回の冒険の仲間達は訝しみながらミレーアを見ていると彼女は木の根元に生えていた何か引き抜き持ってきた。


「まってください。それは……」


 ミレーアが持ってきたものを見て驚いたのはシャーリィだ。一見するとそれは真っ黒なキノコだ。美味しそうに見えずこれが何なのか分からないアレンとエリオを首を傾げるしかない。


「何それ?食えるの?」


「残念ながら食用ではないかな……魔法の触媒だね」


「希少とまではいきませんがそれなりに珍しいものになります……ミレーアさんが手に持っている大きさのものでこの依頼の倍以上の値段はします」


「うわ……まじか。それでどうするんだそれ?」


 少し期待した声音で聞くエリオ。冒険に出るにあたった事前に入手した物も山分けということになっている。ゴブリンは住居とした洞窟に何処からか拾ったものを溜め込む習性があり、そこから稀に希少なものが出ることもあるため後で揉めない様にするための取り決めだ。

 魔法を使えない二人には利用用途は分からないが魔法の触媒になるということは冒険での実用性もあることだけは分かる。黒いキノコをどうするかの判断は魔法を使える二人に任せることにした。


「う~ん、魔法の触媒に使えることは知ってるけど、私は使えないかなシャーリィは?」


「正直言えば大きさのこともあって家に相談してでも買い取りたいという気持ちもありますが、今の私の腕前では宝の持ち腐れになります。今はより有効に活用してくれる方の手に渡るようにした方が良いでしょうね」


 入手した黒いキノコを売る方向に話が進んでいくことに嬉しそうになる少年二人。新人冒険者は何をやるにしても資金不足に陥りやすいため、追加報酬の確定は大歓迎だ。


「話も決まったみたいだしそろそろ目的の場所に向かおうぜ」


 そこで他の三人も本来の目的を思い出し歩き出した。


「ミレーアっていろいろ知ってるみたいだけど、誰に教えて貰ったんだ?」


「私を育ててくれた師匠だよ。文字とか書けたり読んだりできた方が良いから覚えろって言われて叩き込まれた。そのおかげで本とか読めるから今は大助かりだよ」


「あ~やっぱ、そういったことは出来た方が良いんだな」


 生まれ育った村から飛び出し冒険者となった少年二人は文字すら読めない。それは決して珍しい訳ではないのだが、こうして文字の読み書きの出来るアドバンテージをまざまざと見せられては自分も覚える気にもなるというものだ。


「新人冒険者に対してそういった学習教材の販売や講習はギルドでもやっていますから、お二人は受けてみてはどうですか?」


 シャーリィの出した意見にそんなものがあったなと少年二人は思い出した。学習に対する意義を見いだせず敬遠していたが、ミレーアが入手した黒いキノコの追加報酬によって懐に余裕が出来ることもあり真剣に検討するのだった。





「あれが目的の洞窟か」


「見張りがいるけどやる気はなさそうだね」


 洞窟の入り口には眠そうな顔で大きな欠伸をしているゴブリンが二匹いた。木と石を削って作ったであろう粗末な武器であり、群れとしてそれほど兵站に優れている訳で無いということが一目で分かる。眠そうな表情で見張りをしていることから士気もそれ程高くないだろうというのが見て取れた。兵站に優れ士気が高いならもっと上質な武器を持ち見張りが欠伸などしていないだろう。

 そういった説明をミレーアがすると他の三人もそれに納得したようだ。


「まぁ、そう見せるための罠の可能性もあるけど事前にギルドが入念に調べてるから問題無いと思うよ」


 知能に優れた上位種がいない限りゴブリンは数が多いだけのそこまで大した相手ではない。そして、事前調査の段階でこの群れには上位種いないと判断され新人用の依頼として回されたとミレーアは考えた。


「ミレーアのそういったのもその師匠から教えて貰ったことなの?」


「あ~これについては兄弟子から聞いたこと」


「へ~その人も物知りだったんだな」


「……あ~うん、そうだね。そ、それよりもどうやって攻め込むか考えた方は良くない?」


 少しの間の後、口ごもるように返答したミレーア。それに少し引っ掛かりを覚えた三人だがここで無駄話ばかりしては埒が明かないためミレーアの言う通り攻め込むための建設的な相談を始めた。





 見張りしているゴブリンは暇だった。立っているだけでやることがなく退屈なだけの仕事。それが仲間内でも見張りに対する感想である。それでも敵が来た時の知らせる役目がいることを理解できる程度の知恵はあった。ただそれは自分以外の誰かがやれば良いのに思うだけだ。

 くあっともう一欠伸すると何かが高速で飛来した時に聞こえるビュっという風切り音とそれに続いてゴシャっという肉が砕ける音が聞こえた。

 何がと思い音のした方を見ると一緒に見張りをしていた仲間の頭部に人の握り拳程の石がめり込んでいた。

 敵襲だ。それに気づいたゴブリンは仲間が死んだこともあり、慌てて他の仲間に知らせるため洞窟の中に戻ろうとする。だがそれよりも速く既にダガーを手に持ち迫っていたエリオによって背中から一突きされ目的を果たすことなく物言わぬ躯となるのだった。


「ナイスピッチング」


 逆手にダガーを持ったまま、親指を上に向け石を投げたミレーアにエリオはそうハンドサインを送った。


「エリオは凄い速く走れて凄いね」


 近くまで来たミレーアはそう称賛すると女の子に褒められ嬉しいのと気恥ずかしさからほんのり顔が赤くなり一指し指で鼻の先端を搔いた。


「なら次は僕の番かな?」


 そういって先頭に立つアレン。簡素ではあるが鎧を着ているためこの中で一番防御能力がある彼が先頭に立ちその次にエリオ、シャーリィと続き投擲による援護と背後から奇襲を警戒し近接格闘を得意するミレーアが最後尾となった。


「それじゃあ、安全一番で頑張ろうか」


 みんな無事に生き残って帰ることが一番と言わんばかりにミレーアはそう口にしたのだった。

兄弟子は山奥に一人で隠居しております

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