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第三十八話 賭けと至高の一振り

「……え?」


「っ!?」


 ミレーアの背中から横腹を貫通した何かが赤い髪の女性を狙うが、彼女は寸での所でそれを手で掴み受け止めた。それは先程女性を狙ったものと同じものであり、ミレーアの背後となる赤い髪の女性にとって死角から地面の中より撃ち出された。


「アアァガアアア!?」


「みゅあ⁉」


 遅れてやって来た激しい痛みに耐えられずミレーアの口から絶叫が漏れ倒れこんだ。その声に反応するようにフューアも驚きの鳴き声を上げた。


「……っ!!」


 赤い髪の女性が表情を険しくし唇を噛んだ。


「犯人は⁉」


「二名を既に捕縛。最後の一つは保険として用意されたものだったようです」


 この場の危機が去ったことに確認した赤い髪の女性は急ぎミレーアを神殿に連れていき治療して貰おうと考えた。しかし、その必要は無かったと言える。


「ぐっ……ふぅ、はぁはぁ……これだけの痛みを感じたのは師匠との稽古以来久々だよ」


 目の前で驚いている二人をよそに傷を自分で治療したミレーアは立ち上がると自分の体を確認した。傷は残っていないものの着ている服に穴が空いてことに気づき顔を曇らせるが、足元で心配そうに鳴きながら近づいてきたフューアに気づくと「大丈夫だよ」っと優しい声をかけ笑顔で頭を撫でた。


「あ、心配お掛けしてすいません。この通り傷は自分で治せますので」


 自分が大怪我をし二人が慌てていたため、いきなり傷が治って立ち上がれば驚くだろうと考えたミレーアはそう二人に事情を説明した。しかし、説明を受けた二人は神妙な顔付きとなりミレーアを見ている。それにあれっと?内心でミレーアは首を傾げた。


「あなた教会の信徒?」


「いえ、少し前に冒険者ギルドに登録した新人です」


「ということはもしかして在野? 貴方程の才能の持ち主を見落とすなんて教会も随分と節穴なことね」


 呆れたように呟いた赤い髪の女性。


「……それで貴方はもう大丈夫なの?」


「はい、服以外は問題ないです」


 元気よくそう答えたミレーア。その肩にはいつの間にかフューアが乗っており心配そうにミレーアの頬を舐めた。


「もうくすぐったいよ。あ、そういえばそちらの話は終わったんですよね?」


「ええ、そうよ」


「じゃあ、私は届け物があるのでこれで失礼します」


 そう言うと鍛冶屋のドアを開け入るミレーア。それを見送った赤い髪の女性は隣の青年に厳かな声音で述べた。


「……冒険者ギルドに行きましょう。確認することが出来たので」


「分かりました」






「こんにちは……お届けものです」


「ん?……ああ、そういえばあいつに頼んでたな。自分で来ずに人に任せるとは偉くなっ……って!? 嬢ちゃんその腹どうしたんだ!?」


 店内にいた老鍛冶師の叫ぶような驚き声に、お腹?と思い視線を向ければそこには穴が空いた血塗れとなった服が見えた。傷は自分で治したため気にしていなかったが、事情を知らないものが見れば驚くのはその反応は当然と言えた。


「あ~先にここにいた人の襲撃に巻き込まれました。傷の方は自分で治したのでもう問題ないです」


「……おうじょ、ゴホン。それは運が無かったな。傷を自力で治したっていうと最近噂で耳にする重傷者も回復魔法で治せる新人冒険者か?」


「他にいなければ多分そうです」


 何かを察したのような表情と共に何か言いかけるが、誤魔化す様に咳払いするとミレーアが何処かの噂話で聞いた人物なのか質問した。ミレーアの方も先程、襲撃された人物が何者だったのか気にならないと言えば嘘になるが人は隠して置きたいことの一つや二つはあると考え、根掘り葉掘り聞こうとはしなかった。


「それでお届け物はこれになりますね」


 とりあえず此処に来た目的を果たすため、マジックバックから荷物を引っ張り出したミレーア。すると届け物に引っかかったのか何故か師匠が置いていった素材の一部が一緒に出てきてしまった。


「あ、ごめんなさい。余計なものが出てきてしまいました」


 出てきた素材はミレーアの師匠の書き置きに好きに使えとだけ記されいたものの一つだ。何かの生物の一部であり、おそらくは武器か何かの材料に使えということだろうとミレーアは考えていた。意図していないものが出てくるなんて珍しいなと思いながらミレーアは素材を仕舞おうとして目の前の老鍛冶師がそれを凝視していることに気づいて手を止めた。


「それを何処で手に入れたんだ?」


「師匠が置いていったもので何処で手に入れたのか知りません」


 ミレーアの返答に「そうか」っとだけ短く呟き考え込むように老鍛冶師は黙ってしまった。一体なんだろうかとミレーアは疑問に思いながら老鍛冶師が再び口を開くのを待った。すると意を決するかのようにミレーアを見据えた。


「その師匠っていうのは黒い髪を後ろに束ねたデカい大剣を持った女性か?」


「そうですけど……もしかして会ったことがあるんですか?」


 一緒に暮らしていた時もふらっと何日か居なくなることがあったため、この街に師匠の知り合いが居たとしてもそれ程驚くことではなかった。ただ老鍛冶師が何か覚悟を決めたかのような雰囲気が気になった。


「会ったのは随分前の話だ」


 そうして彼は師匠との出会いを話始めた。弟子達に店を託し、隠居した彼は自身の全てを懸けた最高の一振を作ろうと意気込んだ。材料を自身の目で見て厳選していたが、なかなか納得するものが見つからず落胆していた頃にミレーアの師匠が持つ大剣を目にして愕然とした。それはシンプルなデザインながら自身と同等の腕を持つ鍛冶師と鍛冶師が夢見る理想の素材が揃って初めて作り上げられるだろう至高の一振だった。彼がそれに最初に抱いた思いは嫉妬だった。何故自分にその素材が手に入らないのか唯々悔しかった。


「師匠の背負っている大剣ってそんなに凄いものだったんですね」


 武器の見る目を持たないミレーアでも師匠が背負っている大剣が並み大抵ものでは無いことが見ただけで分かるものだったが、まさか鍛冶師がそこまで太鼓判を押す程のものとは彼女は思わなかった。それと同時にそんな素晴らしい剣をただのトラブル避けのアクセサリーにしていることに改めて宝の持ち腐れじゃんと内心でミレーアは今、何処にいるのか分からないあ師匠に向けてツッコミを入れた。


「それでな……そうやって背負っている大剣を見ていたらお前さんの師匠が儂が見ていることに気づいて近づいてきたんだよ」


 最初は自分が見ていたことに文句を言いに来たのだと彼は思っていた。ジロジロ見られて不愉快だなんだ言ってくるだろうなと考えていたが、予想に反して近づいてきたミレーアの師匠は興味深く彼を見て楽しそうに笑い賭け事を持ち出してきた。


「賭け事ですか?」


「ああ……自分の知人にこの大剣を作ったものと同等の素材を事情は言わず渡すから手に入れられるかどうか賭けてみるかってな」


 ミレーアの頭の中で悪戯を思いついた子供のような表情で微笑を浮かべながらそう提案してきた師匠の光景がありありと目に浮かんできた。さてとどうするかとミレーアは考える。彼の話から察するにミレーアの師匠が残していった一部の素材は彼のために残したことに間違いない。彼の口にした人物の特徴はミレーアの知る師匠の特徴に一致しており、出会ったことは本当だろうと彼女は考えている。ただ書置きには好きに使えと書かれているため、判断はミレーアに託されている。


「……頼む。この通りだ!! 言い値で買う……だからそれを儂に譲ってくれない!!」


 その場で床に頭を擦り付け土下座して彼はそう懇願してきた。ミレーアの心情としては正しい用途が分からないこれをこのまま持っていたとしても宝の持ち腐れであるため譲ることは吝かではない。ただ無償でというのは冒険者の先達にも忠告されたことでありミレーアとしても躊躇われた。そこで彼がどういったものを払えるのか聞くことにした。


「お金でも良いですけど他に何かありませんか? ……あ、そういえばまだ名前を聞いていなかったです」


「おお、そうだった。その素材を目にしたことで我を忘れておった。儂はヘファートス」


「ミレーアです」


 ミレーアに名前を聞かれたことで名乗らなかった恥じながらヘファートスは答えた。その瞳には先程まであった焦りの影は見えないことから名を聞かれたことで我に返ったらしい。


「して、お金以外のものか。ふむ……ミレーアちゃんの武器は?」


「これになります」


 ミレーアはマジックバックからこの街で作ってもらったガントレットを取り出し見せた。するとヘファートスはおやっという表情をした。


「これはあいつのか作品か、なら儂が手を出すのは不味いな。これの完成はあいつに任せるべきだからな。すると……」


 一目で誰が作ったガントレットなのかヘファートスは分かったようだ。故にこれに手を加えることを彼は良しとせず何か別のものはないか顎を髭を摩り考え始めた。ミレーアも時間があることから急かそうとはせず待つことにした。


「みゅあ」


「もう少し待っててね」


 暇そうにじゃれついてくるフューアを構いながらヘファートスの答えをミレーアは待った。すると良いものが思いついたのかヘファートスはミレーアに聞いた。


「ふむ、それなら良いのがそういえばあったな。待っておれ取りに行ってくる」


 そうして奥へとヘファートスが引っ込むと奥から何かを探すようなガサガサという音が聞こえてきた。一体何だろうか考えているとヘファートスが甲冑などで足の脛に付けるグリーブのようなものを持ってきた。これはなんだろうかと見ているとヘファートスがこれのことを語り始めた。足回りの身体強化を目的として依頼されヘファートスが作ったものだが、依頼主が完成品を取りに来る前に冒険で死んでしまいパーティも全滅な上に身内もいなかったことから所有権が宙に浮いてしまった。幸い現金で先払いだったため損することはなかったが、こうして売らずに残り続けてしまったとミレーアにヘファートスは語った。


「ミレーアちゃん用に少し調整する必要はあるが、それは素材の代金として無料で行おう。どうだ?」


 ミレーアとしては悪くない取引だった。師匠から貰った素材の価値が分からない彼女としては効果が今自分にとって必要なものを備えたグリーブは魅力的ですらあった。


「分かりました。これでお譲りします」


「交渉成立だな」


 そう笑ったヘファートスの顔はまるでどうしても欲しかったものを親に買って貰えた子供のような満面の笑みだった。

師匠としては此処であっさり渡しても良いが、それでは面白くないと考えこういう形にしました。マジックバックから出てきたのは偶然ではなくミレーアがここで何かを取り出せば一緒に出てくるように仕掛けを施していました。

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