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第三十六話 鍵


「よしこれで一応は最低限のことは済ませた筈」


 ミレーアは所有者登録のされた首輪をフューアに付けた。これは持ち主の魔力でしか外すことが出来ず仮に攫われる場合でもギルドに連絡すれば追跡することも可能である。本来は魔物をテイムした段階で購入を勧められる筈なのだが、ギルドのテイマー関連業務を取り仕切っていたエーベルが前例のない事態の対処に頭が一杯になりすっかり忘れてしまったいたのだ。ミレーアがギルドに赴き購入について話をしたことでようやく伝え忘れていたことを認識しエーベルはミレーアに謝罪を行った。


「それで後買いたいものは……お?」


 小さな子供が果物を売っていることにミレーアは気づいた。しかし、それはあまり美味しくなく食用に向かないものであるため全く売れそうもなかった。


「あの……」


 ミレーアが自分を見ていることに気づいてまったく売れない果物を買って貰おうするが既に本人も売れない理由が分かっているのだろう。その目は何処か諦めきっており、自信なさげな声音からありありと伝わっている。そんな子供にニコリと微笑みかけたミレーアはその果物を受け取ると代金を渡した。


「あ、ありがとうございます!!」


 果物が売れたことが嬉しかったのか元気よくお礼の言葉を述べた子供に他にどんなものがあるのか尋ねると集めたものをミレーアに見せてくれた。


「どれも街中じゃ見かけないものばかりだけど何処で見つけたの?」


 どれもが味が悪く食用には向かないものばかりである。街から出て森の中を探せば見つかるが小さな子供ではそれも無理だろうからミレーアは純粋に入手方法が気になり尋ねた。


「えっと、住んでる家の近くに生えてる」


「へぇ、そんな場所があるんだ。それじゃあ、これとこれも買っていくね」


 幾つかの果物と木の実を指差したミレーアは不思議そうな表情で指差した果物と木の実を渡し代金を受け取った。


「うん、毎日って分けにはいかないけど、また欲しくなった時に来るね」


 そういって立ち去るミレーアに子供を何度もお辞儀していた。

 

「それで購入したそれはどう活用する?」


 気分よくミレーアが歩いていると不意に知っている声がそんな言葉を投げかけてきた。


「使うよ。じゃなきゃ買わないでしょ」


 ミレーアが声の方を向くと呆れた表情のジーロがいた。


「……使う、といってもそれには有用な活用方法ない筈だが」


「ん~……いろいろこっちの事情は知ってるし、ジーロには話して良いかな」


 少し周囲を見渡し自分たちに注意を向けている者がいないかミレーアは確認すると知らぬ誰に見られないよう隠しながら彼女はポリューションを使い果物を変化させた。


「……っ、これは!?」


 驚き大きな声を挙げそうなところを必死に抑えてジーロは尋ねた。


「師匠から教えてもらった魔力で汚染することで果物や木の実を変化させる術」


「魔力で汚染?……あまり良い方法では無さそうだな」


「うん、だから自分には使うけどこれで作ったものを他人に使ったことはないよ」


 元は自分の魔力だし問題は無いだろうと判断したことと、何かあっても過信した自分の自業自得で済ますことが出来るである。


「……それでもその力を知れば利用しようとする者は後を経たないだろう」


 権力者側ならば安全性を確かめるための人体実験を秘密裏にやるだろうことは想像に固くない。それだけの価値が今、ミレーアが行った術にはあった。


「君はこれが何であるのか知っているのか?」


「便利な魔力回復ポーションの素材」


 実際に魔力が切れたときのために一つは常備しており、師匠から戦いに関しての手解き受ける際は魔力切れ時に事前に作っておいたこれを飲み継続していた。変化させる際もかなりの魔力を持っていかれるが戦闘が長引いた際に即時に魔力の供給が出来る利点は無視出来ない。ミレーアの認識は間違っていないし実際にベテランの冒険者なら魔力回復ポーションの一つは常備している。だが今しがたミレーアが作り出した果物は最高ランクの魔力回復ポーションに使うものであり、素材そのものが特殊な環境でしか育たず数を揃えることが出来ないうえにそういった特殊な環境に赴ける冒険者は総じて高ランクだ。冒険者達の間ではこの魔力回復ポーションの素材を自分で手に入れることが一流の証とされている程である。そんな希少な素材を便利なアイテム扱いしているミレーアにジーロは眩暈がした。


「帰ったらこれで魔力回復ポーションを作っておこう。二日前のあれで使っちゃたし」


「あれだけ激しく動いていて魔力を切らさないのかと思っていたが、そういうカラクリだったのか」


 ミレーアの保有魔力は現時点でも相当量があり、身体能力は同い年の少女に比べれば高いと言えるが並外れたパワーを発揮できるのはそれらを身体能力強化でブーストしているからである。身体能力強化はそれ程、消費の激しいものではないがミレーア程の強化となれば話は別だ。正直、言うならそれだけの保有魔力があるならば魔法に使用した方が経済的である。


「話を戻すけど師匠はこれと元になった果物は魔力を持つ能力が退化または特定の場所で育つように進化したんじゃないかって推測してた」


 特殊な環境でしか育たない植物が生息域を広げるために魔力を捨て去ったのか、或いは特殊な環境で育つために適応したのかは分からない。どちらにせよミレーアが魔力で汚染したことで果物が変化したことには変わりはない。


「これ多分魔力だけが原因じゃないよね。それなら他にも出来る人が現れてもおかしくないし」


「それは確かに」


「これってさ……アギトさんが言ってた回復魔法に含まれる異獣に近しい性質が影響してるんじゃないかな?」


 その言葉にジーロは目を見開いた。アギトはこの力は変質し易いとも言っていた。ならばその性質がミレーアの言う通り何らかの影響を与えているのはあり得る話に思えたからだ。


「これを教えてくれたのは師匠。教えてくれたと言っても師匠がやったのを見様見真似でやって出来るようになっただけだから、私がこれを誰かに教えるにしても目の前でやるから真似してみてとしか言えないけどね」


「目の前で見ていても何をやっているのか全く分からなかった」


 ジーロにはミレーアの魔力が果物に浸透していくことだけで何故、何の問題もなくそれを起こるのかまったく理解出来なかった。


「……私には何となくだけど師匠の見てやり方は理解出来た。もしかしたら私みたいに回復魔法が使える人が見たら出来る可能性はあるかな?」


 回復魔法の根源となる異獣と近しい性質を持つ者ならそれを見て理解するのはありえる話だ。そもそもこれは自分が聞いて良い話なのかどうかすらジーロには分からない。下手をすれば教会が秘匿している重大な機密を偶然にも知ってしまった可能性すらある。もしそうならばこれ以上の深入りは自身だけではなく家にも飛び火しかねない。


「待った、これ以上のその話は止めよう。もしかしたら教会がこれを秘匿している可能性はある」


 周りに聞こえないよう声を潜めてジーロは話を止めた。幸いミレーアが注意を払いジーロにしか見えなようにしていたため、先程の果物を変化させた術を他の者に見られてはいない。二人の話も周囲の喧騒に混じって余程聞き耳を立てていなければ聞かれていない筈である。


「……そうだね。自分から厄介ごとに首を突っ込む必要は無いね」


 教会のことはよく知らないが何故だか関わることに忌避感を抱いたため、ミレーアはジーロの忠告を大人しく聞き入れた。


「それじゃあね、また機会があったら一緒の依頼受けようね」


「その時は今回みたいな事態が避けられると良いな」


「そうだね」


 そこでジーロと別れたミレーアは残りの必需品を買い足し、自分の部屋に戻ると手紙が届いていた。自分に手紙を寄こすなんて誰だろうかと思いながら封を開け中身を確認すると納得した。送り主はジェライクであり前に言っていた回復魔法に観測に使うマジックアイテムが完成したので取りに来てほしいということと、フューアについてはまだ何も分かっていないという内容だった。


「とりあえず明日取りに行くかな」


 その時にいろいろと判明したこともあったため、話すには丁度良いと思うミレーアだった。






「……まるでストーカーだな」


 一人の少女を見張り監視している今の現状をアギトは苦笑交じりにそう称した。実際に何も知らない第三者や監視されているミレーアから見れば弁明の余地は無いだろう。それでも今後の予想されることを考えれば必要なことであり、ミレーアに無事で居てもらわなければならないのは確かだ。


「それで見ての通りこっちは仕事中だ。何か用事があるのなら手早く済ませてもらおうか」


 腕を組み既に明かりも消えているミレーアの部屋から視線を動かさず誰かに話しかけるような台詞。今のアギトは鎧内部にあるマジックアイテムによって周囲から認識され辛くなっている。少なくともそこらにいる冒険者ではまず気づかれることはなく、これに気づけるのはそれ相応の魔法を使える一部の実力者だけだ。


「私にことに気づくか……その鎧を授けられたのは伊達では無いということか」


「成程、そういうことか」


 自身の背後から聞こえた若いながらも何処か老獪さも感じさせる男声がアギトの鎧に対して何かを知っているように語り掛けた。それだけでアギトは既に声の持ち主にある程度の検討は付いていた。


「あれが現れたことで慌てて隠里から出てきたか?」


「当たり前だ、あれの脅威を知る我々からすれば気が気でない」


 声に感情が抑えたような雰囲気が混じる。


「なら俺から言えることは一つだけだ。今は見守っていろ。あの娘(ミレーア)はその解決のための鍵だ」


 全くいつもながら質が悪いと内心で毒吐いたアギト。事情をある程度把握した彼女はこのままいけば確実に異獣によって滅ぶだろうこの世界に行く末を変えるために干渉し、完全に傾いていた天秤を水平になるまで戻した。ただし水平に戻すまでであり、あとは当人たちで頑張ってねである。本人には解決するだけの力があるのに決して直接的な手出しを殆どしないのである。


「それは……」


「無理か? だが少なくとも元の世界ではやり遂げたぞ」


 これがその証拠だと言わんばかりに右手の人差し指でこめかみ辺りをコンコンと軽く叩くアギト。その問いに声の主が答えることは無く、気配が遠ざかるのをアギトは感じ取っていた。相手が居なくなったことを確認したアギトは何事もなかったかのように監視を続投したのだった。

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