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第三十三話 情報

「それで何があったのか詳しく話して貰えるか?」


 異獣を辛うじて倒し疲労困憊の中、街へと帰還することの出来たミレーア達だった。しかし、共に街を出た筈のエリオが居らず、それ程難易度が高い依頼にも関わらず日を跨いだ上に明らかに只事では無い何かに巻き込まれた様子にギルドから説明を求められることは当然と言えた。彼女達としては正直今日は帰ってこのまま布団に飛び込みたいというのが本音だ。しかし、説明は大事なため何があったのか可能な限り説明した。途中で途中で彼女達が分からないことはアギトが補足し説明したことで話自体はスムーズに終えることが出来た。


「あの地区に未確認の遺跡に加えて先日地下水道で戦った新種の同類との戦闘。それにリナ君の義足……」


 説明を受けたギルドマスターは明らかに困惑していた。特に義足関しては実物があるため信じる他ないだろう。報告にあった未確認の遺跡にはついては明日にでも人を向かわせようとギルドマスターは考えていた。


「それで君は何者だ?」


 ギルドマスターはアギトに視線を向けた。ミレーア達を助けた人物であるが明らかに一級品以上の鎧で身を固めているにも関わらず身分を証明するようなものを何一つ持っていない。加えて頭鎧を未だ脱ぎ素顔を見せようとしないとなれば事情を知らないギルドマスターがアギトを警戒するのは当然と言えた。ギルドマスターに鋭い目線で睨まれるアギトだがその顔を鎧にで包まれているため、表情は一切に分からないうえに雰囲気からも何も分からない。


「そのことですが……彼の素顔を見ても叫ばないでください」


 そうギルドマスターに前置きしたのはジーロ。実はここに来る前にアギトは自身の正体をギルドマスターに話すことをジーロと相談し決めていた。流石に誰にも話さずに隠し通せると考えていなかったからである。そう意味で言えばこの街のギルドマスターが信用に足る人物であることをジーロが知っていたのは僥倖だった言えた。ジーロの忠告が意味することは分からないがその雰囲気から何か重要な話なのだろう察したギルドマスターは外に声が漏れないよう応接間に備えられた声が外に漏れない魔法を発動させた。


「これで何があっても外に声が漏れる心配は無い。それでどうゆう……」


 そのまま続く筈だった言葉は面鎧を外したアギトの素顔を見たことで口から発せられることはなかった。そこにあったのは皮も肉も目玉も無い頭蓋骨だけだったからである。間違いなくそれは体が骨だけ構成されたアンデッド系統の魔物で相違なかった。


「な……な、一体これはどうゆう!?」


 驚きで言葉が口から上手く出ないギルドマスター。ここでパニックになり叫び取り乱さないだけでもギルドマスターの肝は相当座っていると言えた。予想通りの反応にジーロは内心でホっとしながら後は勘違いされないようにしっかりと説明しなければと気を引き締めるのだった。






「異界……俄かに信じ難いことだが、君を見れば信じない訳にはいかないか」


 アギトは顔だけでなく胸部の鎧も外し中を見せてくれた。そこにあったのは失なった肉体の代用とするかのように組み付けられた大量のマジックアイテムだった。骨自体にも術式のようなものが刻まれていることから体である骨レベルから魔法による強化を施されていることが見て取れた。ギルドマスターとし任命され今まで多くのマジックアイテムをその目で見てきた彼からしてもこれだけのマジックアイテムを作成し尚且つ、こういった使用法は見たことも聞いたこともなかった。後でどういったものなのか調べさせてもらえるか交渉してみようとギルドマスターは密かに考えていた。


「それに新種……異獣の情報は大変ありがたい」


 ギルドマスターにとって一番の収穫それだった。目下の悩み事である下水道で出現した異獣については先日の対策会議で報告されたこと以外は今のところ何一つ新しい進展は無く、手詰まりに近い状態だった。アギト自身もあれらがどういったものなのか全てを知っている訳では無いがそれでも彼がもたらした情報は対策に行き詰まっていた冒険者ギルドからすれば値千金の価値があるものだった。


「同じ種族でありながら、全く別の能力を会得する。これを知らなければもしまた襲撃された時に対応を見誤るところだった」


「流石に第三フェイズへの移行は元の世界でも多くはないことからこの世界では考え辛いが、何か別の形で強大な存在になる可能性はある」


 現に魔獣を捕食することでその形質を異獣は手に入れていた。そのため、元の世界と違った変化をすることは十分ありえる可能性である。


「参考までにその第三フェイズが元の世界ではどれ程の力だったのか聞いても構わないか?」


 アギトはギルドマスターに顔を向けた。眼球すら無い頭蓋骨を向けられる度に少しの警戒心と恐怖心が内心で起こるギルドマスター。それは顔に現れていなかったがアギトはギルドマスターの内心を察したかのように何も言わず面鎧を付けた。


「ああ、すまない。こちらの方が幾分か話安いだろう」


 少し苦笑するような声音で謝罪の言葉を述べるアギト。言葉や顔に出さなくても自身の見た目が他人から見ればどう思われるか少し考えれば想像は容易いことだったのかもしれない。


「詳細な能力は異獣に利する行為になる可能性あるから何も言えない。ただリナが付けている義足を作れるだけの技術を持った文明が最終的にたった十数体の()()()()()()()によって滅ぼされる寸前までいった言えば分かるだろう?」


「異獣同士で争った?」


 アギトが雄弁に語るまでもなく計ることが出来る第三フェイズに至った異獣の力。しかし、それ以上に気になったのは異獣同士が争っていたという意味だ。魔獣同士で縄張り争いを行い戦うことはあるため、異獣同士で争いが起こること自体は不思議ではない。ただアギトがそこの部分を少し協調して口にしたことが気になりギルドマスターは聞き返した。


「人に味方する異獣と敵対する異獣がいたそうだ」


 それが何を意味するのか想像したギルドマスターは顔に冷や汗が流れた。人に味方する異獣と敵対する異獣が争った。それの意味する答えに辿りついたことで第三フェイズに至った異獣がどういった存在なのかの答えも分かってしまったのだ。その答えを口から出しそうになるが寸前のところでギルドマスターは踏み止まった。アギトが言うように迂闊に声に出して影響を与えたらそれこそ目も当てられない。


「え~と、一体にどう意味です?」


 話に若干取り残され気味だったミレーアが申し訳なさそうに質問する。リナは最初から話には付いていけていないため、話は聞いているものの何も言わずほぼ空気と化していた。


「異獣の本当に名と同じように口に出してはいけない……ということ」


 そうジーロに止められたミレーアは大人しく引き下がりこれ以上この話を聞くことを止めた。


「それで異獣は異界からこの世界に来ているという認識で良いのか?」


 最近まで見なかった異獣が最近になって現れた理由として妥当な推論をギルドマスターが述べるとアギトは難しいそうに小さい唸り声を出した後に答えた。


「その可能性もあるが……もう一つは自然発生の可能性だ」


 元の世界では異獣は繁殖するのでは無く特定の因子が集まることでその場に前触れもなく発生する。それならばこの世界では発生しないように思えたが、性質が多少変質しているがその因子は存在している。そこまで聞いてミレーアはピンと来た。


「もしかして回復魔法に含まれている異獣の力に近い性質のものが含まれていることに関係することですか?」


 その時の話を聞いていなかったギルドマスターは驚いた顔をしてミレーアとアギトの顔を交互に見た。


「そうだ。少ないとはいえそれがこの世界に根付いているということは異獣が発生する可能性は0でないということだ」


「確か回復魔法が今の形になったのは初代聖女様からだよね?」


「そうだ——―まった……そうなると」


 確認のためジーロに話しかけたミレーア。その直後、ジーロは何か思い至ったのか必死に記憶を探りに何かを思い出そうしているが、該当する知識が無かったのかギルドマスターの方を向いた。


「ギルドマスター……初代国王陛下と初代聖女様が倒した魔物や魔獣達の王についての何か知りませんか?」


「ん……? それが一体、今何の関係が……」


 そこまで言いかけたギルドマスターもジーロと同じ発想に思い至ったのかそこで言葉が途切れた。


「どうした? 何かあったのか?」


 この国のことについてまだ知らないアギトが質問するとジーロがこの国の成り立ちについてアギトに話した。それを聞いたアギトも自分が知る知識から最悪の可能性を導き出した。


「それがもし第三フェイズに達した異獣だった場合、それが異獣の発生の要因になっている可能性が高い。その時、倒された第三フェイズの異獣の因子が地脈にまで達したことで散らばり、それが今になって活性化したのだろう」


「それが本当なら発生すること自体は防げないということか?」


「……それは魔物や魔獣の数を完全にコントロール出来るのか聞いているのと変わりはないことだ」


 そう言い返されてはギルドマスターは返す言葉は無かった。不確定要素の多い野生に生きる魔物や魔獣の数をコントロール出来たことなど未だかつて一度も無く、その被害に苦慮しているくらいである。それは根本が違うとはいえ生き物である以上は異獣とてそれは変わらないということである。


「それよりも大事なのは今後のことじゃないのか?」


「確かに……リナ君のことも含めて今からそれについて話し合うとしよう」






「やっと終わったよ」


 話が纏まり漸く解散となったことでミレーアは借りている部屋に辿り着いた。様々なことがあり、此処に戻ってこれたのは本来の討伐以来であったグレーウルフの依頼を受けた次の日の夕方だった。極度の緊張から先程までは目が冴えていたのだが休める場所に辿り着いたと認識した途端、忘れていた疲れがドッと押し寄せてきた。部屋に戻ったらまずは体を洗い布団に飛び込むとミレーアは心に決めた。扉の鍵を差し込んで回し、扉を開けると玄関にフューアがいた。


「……もしかして出迎えてくれたの?」


「みゅあ……」


 肯定するかのように一鳴きするフューアだが何処かその鳴き声は元気が無かった。異獣の襲撃と遺跡への落下によって此処に戻ってくるのに相当かかってしまった。その間にフューアに一匹で寂しい思いをさせてしまったと感じたミレーアはフューアを抱き抱えた。


「ごめんね。……寂しかったよね?」


「みゅあぁ」


 ミレーアに抱き抱えられ嬉しそうな鳴き声を上げるフューアだった。

 アギトは骨系アンデッドを強くしたいという発想で生まれました。元は今の作品と並行して考えていた復讐系作品の主人公予定でした。

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