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第三十一話 見極め

 異獣は口だけしかない頭部をミレーアの方に向けると真っ直ぐ彼女に向かって大口を開けて突撃を始めた。その姿が極限までに飢えた獣が漸く食べるものを見つけ何としてでも食らいつこうとする様にミレーアには見えた。実際のその通りのなのかもしれないと彼女は思った。

 異獣にとってこの世界には必要なものが欠けており、彼女の回復魔法が異獣にとって本来必要なものに最も近いものだという。だというのにその大きく開かれた口腔から涎の一滴すら流れていない様は異獣が普通の生き物とは違うというのを強く感じさせる光景だった。


「大人しく食べられる趣味は無いけどね」


 そう呟いたミレーアは武器庫から持ち出した武器を掴んだ。それは投擲に適した形状をしておりボタンを押し起動させた後、敵に当てることで作動し内部に詰め込まれた魔法が発動し爆発する爆弾だとリナから教えられた。ミレーアが投擲した爆弾は異獣の胸部に当たると瞬時に内部に封入された魔法が発動し、異獣の胸部が見えなくなる程の大きな爆発が起こった。


「凄い威力……」


 その爆発を見たミレーアは素直な感想を漏らした。投擲したモノ自体の大きさは握り拳程のものでそれ程、大きいものではなかった。しかし、内包した魔法の威力はまだギルドの講習で触り程度しか魔法を知らないミレーアから見ても想像以上のものだった。爆発によって異獣の胸部が炎に包まれ焼かれる痛みによって動きが止まった。そこへリナが弓の弦を引くと魔力で作られた弓が形成された。純粋な魔力だけで矢も作ろうとすれば本来なら大量の魔力と魔力を矢の形に形成し維持する技術が必要となる。しかし、この弓に魔力を増幅と矢の形状を維持する機構が備わっており少量の魔力で弓の弦を引くことで矢を作り出すことが出来た。リナが力一杯引いた弓から放たれた矢は異獣の黒く硬そうな体表に深々と突き刺さった。


「その調子で援護は任せた」


 ミレーアとリナの攻撃に動きを止めた異獣に向かってアギトが疾駆した。彼は異獣の足元で跳躍すると異獣の顔付近まで一気に肉薄した。その跳躍力は魔力で体を強化したとしても明らかにおかしい高さであり、何らかの魔法か何かでサポートしているように思えた。そして、 彼の手にはいつの間にか剣が握られており振るわれた剣は異獣の顔を深々と切り裂いた。


「悪いがその行動は予測済みだ」


 剣の入った深さから考えて頭蓋骨にも届いていそうだが異獣はそれで即死するようなことは無く空中で態勢の整わないアギトを叩き落そうとするが彼は防御魔法の一つである障壁を展開し攻撃を防いだ。しかし、大型魔獣に匹敵する膂力を持った異獣に相手に咄嗟に展開した障壁は数秒持つ程度だ。だがアギトにはその数秒だけで充分だった。展開されている障壁を足場にし後ろへ跳ぶことでアギトは間合いを一気に離した直後、役目を終えた障壁は異獣によって砕かれた。自身の攻撃が空振りに終わったことに腹を立てのかアギトに追撃しようとする異獣の喉に投擲された槍が突き刺さった。


「こちらにもまだいるぞ」


 投げたのはジーロであり投げられた槍は放電し、異獣に追加ダメージを与えた。意外と楽勝?っと思ったミレーアだが下水道に出て来た異獣が何か光線のようなものを発射したことを思い出し何かまだ奥の手があるんじゃないのかと警戒し、おかしな動きを見逃さぬよう観察していた彼女はあることに気づいた。


「……リナ。あいつあんなに黒かったっけ?」


「あそこまで黒くなかったと思う。というかあの体表どう見てもブラック・サウルスだよね?」


 あの時は逃げるので手一杯で気づかなかったミレーア達だが、戦いにため敵の動きを注意深く観察している今となれば彼女達も直ぐその変化に気づいた。


「何か問題か?」


 今のミレーアとリナの会話それ程大きな声で行っていたものではなかったが、少し離れていた場所にいたアギトは耳ざとく二人の会話を聞き何かあったのか確認した。


「あの異獣の体表が地上で争っていた大型魔獣のものに変わっているんです」


「何?」


 喉に突き刺さった放電する槍を引き抜く異獣の方を見るアギト。彼の固い声音からあまり良い情報で無かったというのが察せられた。


「……考えるのは後だ。今は目の前の異獣を倒すのが最優先だ」


 そう判断したアギトは駆け出し異獣の懐に飛び込み攻撃を続けた。リナは弓を構え魔力で形作られた矢を放つ。先程よりも魔力を込めたことで強力となった矢は異獣の体表を大きく抉った。痛みに呻き声を上げた異獣はリナの方に顔を向けると足元にいるアギトを無視して一気に詰め寄ってきた。異獣は攻撃を受けると直ぐにそちら側に誘導されるのか最初に狙っていたミレーアのことなどそっちのけでリナを追っている


「こっちこっち!!」


 自身が狙われたことを察したリナは駆け出した。その速度は自前の足だった頃よりも増しているどころか魔法を使わず垂直な壁をまるで地面を走るかのように駆けた。歩幅の関係で速度そのものは異獣の方が速いが流石に壁を上ることは出来ない。異獣が腕を伸ばしギリギリ届かない位置で壁を駆け矢を放ち牽制する。


「はは、本当に凄いね」


 あの中で手にした知識通りに動く足に使用者であるリナは笑うしかなった。こんなことは自前の足では例え魔法を使っても不可能であり、天井すら駆けることが出来る義足の性能に実際に使い驚嘆すると同時にこれ程までのものを作れる技術がありながら最終的に逃げ出す原因となった異獣の存在が彼女は恐ろしくなった。故に此処で必ず仕留めなければならないと改めて認識した彼女は異獣に矢を放つ。異獣の方は自身より高い位置にいる彼女を捕まえようと腕を何度も必死に伸ばし壁際で足掻いているが残念ながらこの異獣には壁に張り付き歩くような能力はなかった。よしんぼそうった壁に登れる部位を作り出しても体形とその重量から彼女を追いかける程の速度を出すのは不可能だろう。


「背中ががら空きだ」


 リナに気を取られた異獣に向かって別の槍を投擲するジーロ。その槍は先端が高熱を帯びており異獣の背中に刺さると同時にその肉を焼いた。肉の焼ける音が鳴り痛みに苦悶の呻き声を上げる異獣。先程の手が届く首に刺さったものとは違い今突き刺さったのは手の届かない背中だ。背中の異物を取ろうと背中を壁に打ち付けると逆にその槍は深々と内部へと突き刺さった。深まる激痛に異獣は悲鳴を上げ暴れ回る。


「うぉ!?」


 出鱈目に暴れ出した異獣から距離を取るアギト。狙って攻撃されるよりもこうした不規則に暴れられると動きが読めず厄介だ。それは異獣が意図した動きではなくジーロが投擲した槍が体の中に深く埋もれた痛みによってのたうち回っているだけである。しかし、質量差からくる破壊力は健在にであり、掠めただけでミレーア達は重傷を負うことになるだろう。


「やり辛い!!」


 ミレーアも投擲した魔法爆弾が意図しない場所に当り爆発して味方に被害が出ることを恐れ迂闊に投げられずにいた。リナも狙いがつけ辛いのか弓を構えた状態で顔を顰めている。


「すまない!! まさかこんなことになるなんて……」


 槍を投げたジーロが謝罪する。確かに厄介な状況になったのは彼が原因ではあるが、誰も投げた槍が原因でこんな事態になるとは予想だにしていなかった。故に誰も彼を攻めようとは思わない。高熱を帯びた槍が体に食い込み内側から肉を焼かれる痛みは想像しただけで背筋が寒くなるだろう。実際にその痛みに耐えきれず異獣は暴れ回っているのだから。


「どうしますか? この際、強力な一撃を放ってみますか?」


 リナの提案にアギトは考える。彼女の使っている弓は魔力を注げば注ぐほど強力な一撃となる。今は痛みに我を失ったかのように暴れているが、自身を害するだけの魔力の高まりを感知すれば流石に気づくだろうと彼は考えた。


「まだ早い。下手に手出して学習されても厄介だ」


 アギトのリナの案を却下した。話を聞いていたミレーアは下水道での戦いを思い出す。異獣は脚を追加で増やしたり、自身が受けた雷魔法を吸収した後に放電することで周囲にいた冒険者達に痛手を負わせていた。その時に起こったことをリナとジーロに話すと二人も下手に手を出し刺激させないことに賛成した。


「成程、既に事例があったか。……やはり一撃で終わらせるのが確実か」


 ミレーアの話を聞いたことでアギトはより一層警戒心を高めた。ミレーア達よりも異獣ことを知るが故に今の情報はかなり有用な情報だったようだ。下水道に現れた異獣にトドメを刺したのは二人の魔法使いによる強力な合作魔法。魔力で限界まで硬質化させた土を用いた物理弾頭を雷魔法使うことによって高速で撃ち出すものだった。それ行うのはミレーア達には不可能であり、何か別の手段を彼女達は考えねばならなかった。

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