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第二十九話 選択

「問題ないです。使い方も中で教えて貰いました」


 調子を確かめるように足を動かすリナ。本人の言う通り自前の足と遜色ない程自由に動かしており、今すぐ戦闘を行っても問題無いようにミレーアには見えた。事情を知らなければ傍目には足に金属製の鎧を付けているようにしか見えず義足に思えな程だ。一通り動きの確認を終えたリナはミレーアの方を向いた。


「ミレーア。武器庫で手に入れた弓を出して」


「分かった」


 リナが元々持っていた弓はサイクロプスに足を潰された時に手から落としてしまったため手元になく代わりの武器を欲するのは当然と言えた。ミレーアはマジックバックから武器庫で手に入れた弓を出すとリナはそれを手に持つとスムーズな動きでそれの調整を始めた。初めてなのに使い慣れた武器を調整をするかのような手捌きにジーロが疑問に思い尋ねた。


「妙に手慣れているがどういうことだ?」


「あ~うん。足を作って貰っている時に中で武器の使い方を教えて貰らえたんだ」


 そう答えたリナに困惑顔となるジーロ。実はリナもどういう理屈でこうなったのかよく分かっておらず自分の体験したことを簡潔に伝えただけだ。


「学習機能付きだったのか……そこまで確認してはいなかった。何処まで知っている?」


 アギトにとってもリナが此処の武器の使い方を覚えたのは予想外だったようだ。そこでリナが何処まで学習したのかアギトが確認のため質問した。


「義足の仕掛けと武器の使い方全般になります」


「戦いに必要な知識全般か……実際に使えるのか?」


「それは使ってみないことには何とも……」


 使い慣れた弓や魔獣等に近づかれた時の最後の手段であるナイフなら兎も角使い方が分かるとはいえ一度も使ったことがない大剣等を十全に使えるとはリナは自信を持って言えなかった。とりあえず弓の調整が終わったのかリナは弓を構え使い心地を確認した。


「良し……もう問題はないです」


「そうか、それでお前たちはどうする?」


 アギトが尋ねると三人には意味が分からず首を傾げた。


「リナが動けるならお前たちも問題無く此処から逃げ出せるだろう。俺はこのままあの異獣を倒しに行く。あれをこれ以上は放置できないからな」


 アギトの言う通り異獣をこのまま放置するのは得策とは言えず、何かが起こる前に討伐するのが望ましいだろう。ただ問題は……


「倒せるんですか?」


「同クラスの異獣を倒したことはあるが、何とも言えないな。あれは種類によって強さが大幅に違っている」


 それに加えてこの世界に対して独自に適応した個体となればその強さが未知数であり、アギトとしても確実に勝利できる確信はなかった。


「……弱点とかないんですか?」


「頭を吹き飛ばすか心臓を潰せば確実に死ぬだろうな」


 それは一般的な生物ならそうだろうという答えだ。魔獣なら特定の属性に弱かったり、スライムやゴーレムなどは体の中にある核となる部分を破壊するなど対処方法がある。しかし、アギトの口振りから察するに異獣にはそういった特定のものに弱いというものが無いのが窺えた。


「言いたいことは分かるが奴らにはそれ以外に対処方法が無い。後はそうだな……最後まで諦めるなとしか言えないか」


 最後に至っては根性論である。しかし、どういう訳かそれを口にしたアギトも説明し辛そうな声音である。


(そういえば師匠も戦いで重要のなのは最後まで諦めないことって言ってたかな)


 その時は師匠の言葉に素直に「分かりました」とだけ返答していた。ミレーアにとってはそれは師匠との日常の一コマである。だが今になって同じことを言っていた師匠の言葉が気になった。戦いに関することは間違ったことを言った事が無い師匠だったことを考えるとこれも何か意味があることなのでは?っとミレーアは考えると思い当たる節があった。地下水路で大型魔獣改め異獣に襲われ窮地に立たされた時に起きた異獣から発せられた何かを利用して異獣の下顎に叩き込んだ強烈な一撃。あれが師匠やアギトが言う最後まで諦めるなと言う理由にミレーアは思えた。


「……異獣が纏うあの力は何なんですか?」


「知っていたのか?」


 ミレーアの問いに少し驚いた声音で答えたアギト。彼はあれが何のか知っていたようだ。


「下水道に現れた異獣と戦った時に一度だけですけど、異獣から何かが流れてくるのが見えました」


 新種の大型魔獣が下水道に侵入しベテラン冒険者の複数のパーティによって討伐されたとジーロとリナも話には聞いている。しかし、その当事者の一人がミレーアであることは二人は知らなかった。ミレーアも隠していた訳では無く特に言う理由も無いため言わなかっただけだ。


「奴らは力は強大だが第三フェイズに入るまではその力を上手く使えていないんだ。そしてその力は強い意志に反応する性質がある」


「だからあの時……」


 アギトの話を聞きミレーアはあの時ことを思い出せば兎にも角にも生き残ることに必死だった。異獣から流れてきた力はミレーアの必死に生き残ろうとする意志に答えるように動き彼女に襲い掛かった異獣を防ぐ力となった。万に一つだろうと諦めない意思、絶望的な状況に折れない心さえあれば活路見出せる。だが強大な存在にそれだけの強い意志を持って立ち向かえるのは多くはないだろう。大半の者は途中で心が折れ屈することになる。また性質を知ってしまったがために諦めないだけで自分が強くなることを期待するような相手にもその力は答えてはくれない。心の底から願うことで初めてそれは願った者に答え力を与えるのだ。


「あれ……? なら戦いの後に索敵範囲が広がったのは」


 そこまで影響を与えるのならばそれは一時的なものではない筈だ。下水道での戦いの後に起きた自身の変化を思い出しミレーアは思わず口に出した。


「実体験があるなら話が早い。異獣の力は一時的な強化に留まらず体そのものを作り替える。ミレーアの索敵範囲が広がったならそれはそれだけのことがやれるよう体が強化されたということだ。正直それによって強化に強化を重ねたミレーアの師匠は魔力による身体強化無しでも力は計り知れないぞ」


 それを聞いたミレーアは息を飲んだ。それにも心当りがあったからである。彼女の師匠はアイアンゴーレムを軽々と持ち上げ投げ飛ばしていた。もしもあれが魔力による身体強化無しで行っていたとしたならば怪物などという言葉すら烏滸がましい程の何かだ。


「……師匠の全力を見たことがあるんですか?」


「ない。ただ少なくとも今どう対処しようか悩んでいるあの異獣程度なら拳数発で沈められるな」


 ミレーアの脳裏には先程の異獣の踏みつけを腕一本で抑え込むどころか寧ろ押し返す師匠の姿が鮮明に思い描かれた。理屈では無く師匠ならやれるという何の根拠も無い確信があった。ただ相変わらず師匠が背中の大剣を構える姿だけは想像が出来なかった。


「そういえば師匠って背中に大剣背負ってましたけど、本気を出すと使うんですか?」


「いや、あれは基本使わない。本人曰く変な奴が寄ってこないようにするためのトラブル避けだそうだ」


「え……」


 話を聞くと徒手空拳で戦うのがメインであるが、それだけだと武器を持たないため街で柄の悪い連中に絡まれこともある。彼女の自身はそんな相手は幾ら徒党を組んだとしても負ける筈も無く返り討ちのするのだが流石に煩わしいと感じたことで目に見える威圧として背中に大剣を差すことしたとのことだ。


「あれって結構な業物ですよね?」


「入手経路は知らないが大型魔獣に踏まれても折れないそうだ」


「宝の餅腐れでは?」


 そんな逸品をトラブル避けのアクセサリー扱いで持っていたなんてミレーアは思いもしなった。大剣を抜かないのはただ単純に使うまでも無いからだとばかりだと彼女は思っていた。


「まぁ、宝の餅腐れだな。……話を戻すが異獣は相対した相手にも影響を及ぼす。それを利用出来れば倒すことは可能だ」


 ミレーアは下水道での戦いの一件を思い起こす。あの時は多数の冒険者達も下水道に侵入した異獣相手に劣勢になりながらも諦めず協力することで打ち倒していた。もしかしたらあの時も異獣の力が諦めることの無かった冒険者達に影響を及ぼしていたのかもしれない彼女は考えた。


「それでどうする?」


 再度のこの後、どうするか問い掛けるアギト。打倒できる可能性は少なくともあることを彼は説明した、無理強いしないのは異獣に相手にそれをやったところで寧ろ邪魔になるからだ。嫌々戦いに引き摺りこんだところで強化は見込めない。最低でも自分から戦いに挑む気概がなければ論外だ。


「……私は行きます」


 最初に答えたのはミレーア。彼女にとっては異獣は因縁のある相手であり、アギトから異獣の話を聞いたミレーアは師匠が自分を鍛えたのは全てはこの為だと考えた彼女は異獣と戦うことを決心した。


「私もです」


 リナもあっさりと協力すること選んだ。彼女としてもそれが不思議であり、妙に使命感のように急かされる気分となっていた。武器の使い方を頭に記憶されたと同時に何か他にも頭に入れられたのかもしれないとリナは考えた。だがアギトの話を聞き異獣はここで逃がして良い相手ではないとリナも認識している。ここで仕留め損ねれば被害は近隣の村に向くことになり下手をすれば彼女の故郷も危険に晒されることになるからだ。


「私も行きます。二人が戦うのを決めたのに此処で逃げては家名に泥を塗ることなりますから」


 平民が戦うことを決めたのに貴族がここで逃げたら末代までの恥だと言わんばかりにジーロも戦うことを決めた。尤も口では家名の為と言っているが実際は異獣の話を聞き、何としてでも此処で打倒しなければと考えたからである。


「そうか、なら俺から言うことは何もない」

 

 三人の意思を確認したアギトはそう答えたのだった。

誤字報告してくださった方、指摘して頂きありがとうございます。

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