第二十四話 地下遺跡
「ここは一体なんだろうね?」
見たことが無い意匠の通路を歩きながらミレーアが呟くとそれにジーロが考察も交えながら話し出した。
「……恐らくこの遺跡は建国よりも遥か以前にあったものだと思う。この通路や壁の材質、そして天井にある光源から察するに今よりも遥かに文明が進んでいたようだ」
材質が何かは分からないがどう加工すればこれだけ滑らかな表面が出来るのか分からない程の通路に壁。彼らが来ることに反応し天井の光源が光を灯し通路を照らした。彼らが最初に落ちてきた場所は天井に穴が空いていたことから壊れていたのか光源が灯らなかったため、少し歩きいきなり天井が光った時は四人は何事かと警戒した。それが無害であることに納得するのに少し時間を有した。だが光源があることは有難かったが何もしていないのに光ったことが四人にとって返って不気味でもあった。
「建国ってどのくらい前なの?」
「約1600年前と言われている。魔物や魔獣達の王を倒した当時の勇者がこの国の初代国王陛下であり、それに付き添ったのが初代聖女様になる」
「つまりここはそれ以前に作られたもので間違いないってこと?」
「そうなる……だけどそんな昔となれば可能性があるのは今はもう殆ど見ることの無いエルフくらいになる。しかし、伝承に残る彼らの生活様式とここはあまりにも違い過ぎる」
エルフ達は人間とは比べ物にならない程に魔法に長けた種族であったが、魔法で大抵のことは済ませてしまうことと自然を愛し森の中で暮らしていることから人間達のように森を切り開きそこに村や街を作ったりせず、魔法で木の成長を操作し家の形にすると残された文献に記されていた。ジーロが知っている残されたエルフの記録を要点を抑え伝えた。自分達が今歩いている通路と話の内容を対比させればミレーアにもここがエルフが作ったものにはとてもじゃないが思えなかった。
「……やべ、話聞いてるだけで頭が痛くなってきた」
「私も」
話について行けずこめかみ辺りを抑えるエリオ。リナも一指し指で額を抑えた。尤もこれが冒険者の大多数の反応であり、生家が貴族であるジーロなら未だしも話に付いていけるミレーアが庶民にしては知識が豊富なだけである。
「まぁ、詳しいことは専門家に任せましょう」
興味はあるが自分達の手に余ることであり、何よりもまずは自分達がここから無事に生きて出ることが先決だ。代り映えしない通路を進んでいると四人の前に幾つかの閉じられドアが見えてきた。
「……開かないか」
ジーロが罠が無いか確認し、警戒しながら用心深く触れ押したり引いたりするが開く気配はまったく無い。横にスライドするタイプかと思い、力を入れてみるがドアはピクリとも動かない。どうしたものかと考えていると後ろからミレーアが声を掛けてきた。
「私がなんとかしようか?」
「お願いする」
何か良い方法があるのだろうかと思いながらジーロはミレーアに任せると彼女は拳を握り力を込めた。その時点で三人は嫌な予感がした。
「はぁ!!」
ミレーアの気合いの入った声ととも繰り出された拳の一撃によってドゴォンっという打撃音と共にドアが拉げ後ろへと倒れた。
「いっ……たぁあ!? 何このドア見た目によらず滅茶苦茶硬かっただけど!?」
ドアを殴った方の手を振るミレーア。あまりの光景に言葉を失いミレーアに視線を向ける三人。手の痛みに涙目になっているミレーアはそんな視線に気づかず回復魔法を使い自分の手の治療を行った。
「ふぅ……やっと痛みが引いてきた。あ、ごめん。あまりの痛みに少し騒いじゃった」
視線を向けられていることに気づいたミレーアは騒がしくしてしまい迷惑を掛けたと思い見当違いの謝罪をした。少しの間が開いた後、三人は絞り出すよう声で述べた。
「……まぁ、無事なら良いさ」
「おおぅ、石を投擲する破壊力から拳の威力も相当なもんだと思ったがここまでとはな」
「正直言って猪魔獣の突進並みに一撃だよね」
三者三様の感想である。ちなみにリナの感想は近くにいたジーロとエリオにしか聞こえない程の小声で述べたのでミレーアには聞こえていない。
「……? とりあえず中を見た感じ危ないものは見え無さそうだね」
三人の反応に首を傾げたミレーアはたった今ぶち壊したドアから部屋の中を覗き込んだ。
「確かに危険そうなものは見えないが……この部屋は一体なんだ?」
見たことも無い道具が多数置かれておりそこは倉庫に思えた。一応は剣に見えなくもないものが置かれているのを見つけここは武器庫かもしれないなとジーロは思った。
「……あれこれは?」
ミレーアは武器の一つに視線を向けると歩みよりそれを手に取った。彼女が手に取ったのは剣であり持ち手には多数の細工が施されており使い勝手よりも権威や象徴としての側面などの儀礼的な武器に思えた。貴族であるため家にいた時は高価な装飾や細工が施された調度品を見る機会が多かっため、目の肥えているジーロから見てもミレーアは手にした剣は腕の良い職人が作ったものだと一目で分かった。
「その武器が何か? 凝った細工が施された見事な剣ではあるけど」
ミレーアは何も言わず自身のマジックバックから師匠から貰ったガントレットを取り出した。
「これは……」
ジーロは二つを見比べた。ミレーアの取り出したガントレットは剣とは違い派手な装飾や細工は無く実用性を重視したものだが、二つの武器の意匠がよく似ており同一の作者もしくは同じ門派の職人が作ったものに思えた。
「うん、やっぱりよく似ている」
「たしかに……偶然にしては似すぎている。これは何処で?」
「師匠のからの貰い物」
そう答えたミレーアは内心で師匠が何者なのか気になり本人に問い質したくなっていた。尤も肝心の師匠は行方知らずであり、話を聞こうにも聞くことが出来ない。
「……考えるのは後にしないか? 今はここから出るのが先決だろ」
後ろで見ていたエリオの声にミレーアとジーロはあまりにも特異な状況に頭を動かし思考を巡らし過ぎたため、ここから生きて無事に出るという第一目標を忘れかけていることに気づいた
「そうだった……危うく忘れるところだった。この分だと幾つかある扉も中はここと差して変わらないかもしれない」
食料も水も乏しい状況のため、時間を無駄には使えない。一刻も早くここから出ることを優先しなければ待っているのは餓死だけだ。探せば何処かの部屋に食料となるものがあるかもしれないが、いつ作られたものか分からない遺跡で残っているものを食べる気は流石になかった。
「一つ一つ開けて調べるのもなぁ」
どの扉もここと同じように力尽くでなければ開かない可能性がある。その都度ミレーアに扉を破壊して貰うのは彼女に負担が掛かり過ぎる。新しく作ったガントレットは耐久性の問題で途中で破損する確信がミレーアにはあり、師匠に貰ったガントレットは未だ使いこなせていない関係で使用時のデメリットがあるため地下水道の時のようにな緊急時でない限り使うのは躊躇われた。
「無断な体力の消耗は避けたいところだね」
「使い方の分かりそうな武器は持っていく? 私のマジックバックならまだ余裕があるから」
「手札は多い方が良いからそうしよう」
ミレーアの提案にジーロ達は賛成だった。ここにある武器はぱっと見でもどれも質の高いものというのが一目にで分かるものばかりだ。この先、何が起こるか分からないことを考えると少しでも生存率を上げるために質の良い武器を持つのは理に叶ている。四人は自分達が使えそうな武器を回収しミレーアのマジックバックに詰め込んでいく。剣や槍などは多くあるが弓に類する武器は少なくリナはそこに不満を感じていた。
「弓は少ない上に肝心な矢が何処にもない」
弓は矢を放つものであり、矢が無ければ精々弓で叩くのが精々だが、そんなことをすれば矢が壊れのは明白である。グレーウルフを狩る際に消費した矢は二本であり残弾はまだあるがこの遺跡から外に出て街に戻らなければ補給の目途が立たない。それもありここで矢を補充出来ないか期待したのだが弓しか出てこなかった。リナも一応はナイフを使った近接戦を行えない訳では無いがあくまで最終手段であり、命を預けられものではなく無いよりはマシの精々悪足掻き程度の腕前だ。こんな立派な弓なのにと弦を彼女が引くと体から魔力が流れる感覚と共に魔力で出来たが矢が装填された。
「わ!? これ魔力で矢が作れんだ!!」
「もしかしてここにある全てが魔法武器?」
魔法が付与された武器は簡易的なものでさえ製作が可能な者が少ないことも相まって高額だ。高度な魔法が付与された魔法武器などそれこそ王族または一部の高位貴族の家宝クラスの代物である。リナが手に取った魔力で矢を生成出来る魔弓などそれこそ最上級の一品である。そして、ここにある武器がこれと同レベルのものであると思い至るとジーロは戦慄した。これはもはや冒険者ギルドではなく国が管轄する戦略物資レベルの事案である。一歩間違えれば周辺諸国すら巻き込みむ事態に発展し兼ねない。
「一体ここは何なんだ?」
これだけの武器を貯蔵した遺跡。少なくともこれだけの魔法武器を製造できる高い技術力を持った文明であったという証左である。しかし、それだけの技術力を持った国の存在など聞いたことが無かった。そんな国があったのならそれこそ覇者となりこの大陸を統一していてもおかしくないだろう。
「ねぇ? 何か音が聞こえない?」
ミレーアがそう全員に尋ねると規則正しい駆動音と硬い足音が幾つも聞こえ始めた。四人は部屋も隠れながら何が来るのか様子を伺うのだった。




