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第二十三話 落下

 ミレーアが視線を向けた先にいたのは大型爬虫類魔獣ブラックサウルスだ。周囲の木々に負けない全高。大きな顎は人一人を容易に丸呑みする程大きくその咬合力は岩を容易く噛み砕く。全身は硬く名前の通りの黒い鱗に覆われており生半可武器や魔法では弾き返す程の強度だ。駆け出しの冒険者が挑むような相手では無く冒険者の中でも上澄みも上澄みのベテランのみが依頼を受け相手取る魔獣。目撃情報があればギルドが調査確認し、存在が発覚すれば即座に討伐依頼が出される程の危険な魔獣の代表格であり駆け出しの冒険者でもその名を知っているくらいだ。


「ちょ―――何であれがこんなところに!?」


「喋るのは後!! 今は逃げることだけを考えない……っ!?」


 リナが何かに気付き背後を見た。ブラックサウルスは違う重々しい足音。それは別の大型魔獣か何かがこちらに近づいて来ている証左だ。ミレーアも自身の索敵により気づいたのか既にそちらの方を見ている。出現したのは頭部に目が見当たらない不気味な魔獣。その特徴的な頭部から先日下水道で戦った魔獣の同類だとミレーアは直ぐに察した。大きさはブラックサウルスとほぼ同格であり下水道で戦った個体よりも二回り以上は大きい。体形から大型爬虫型魔獣に見えるがブラックサウルスが前傾姿勢に対して新たに現れた魔獣は直立姿勢という違いがある。


「挟まれた!?」


 魔獣同士で威嚇しあい何時争いになっても可笑しくない状況だ。合間に挟まれることになったミレーア達は何方の方向に逃げれば良いのか分からず二の足を踏んだ。そうしている間にブラックサウルスが猛然と迫り攻撃を仕掛ける。ミレーア達は踏み潰されては堪らないと言わんばかりに慌てて左右に分かれブラックサウルスの進行方向から離れた。ブラックサウルスの顎が直立姿勢の大型爬虫型魔獣の腕に噛み付いた。ブラックサウルスに腕を噛み付かれた魔獣は腕に噛み付かれた痛みに咆哮し、腕を振り回し力任せに引き剥がそうとする。

 強引に腕を振りましたことによる遠心力で顎が腕から外れ飛ばされたブラックサウルスが轟音を立てて地面叩きつけられた。ブラックサウルスを振り回した魔獣はこれで終わらせないと言わんばかりに迫り体勢を立て直そうとするブラックサウルスの横腹を蹴りつける。蹴られた勢いで体が跳ね痛みに咆哮を上げたブラックサウルスは脚に力を入れ不利な態勢のまま飛び掛かるように強引に敵の首へと噛り付きその勢いのまま後ろへと押し倒した。首を噛まれ引き剥がそうと暴れる魔獣にそうはさせまいとブラックサウルスが力尽くで抑え込もうとする。二匹の大型魔獣が暴れたことで木々はへし折れ周辺は無惨な光景となっていた。

 そんな中運良く挟まれた状態から抜け出した四人は二頭の戦いに巻き込まれまいとこの場から離脱するためにすぐさま動き出した。


「今のうちにここから離れるぞ!!」


 年長であるジーロが最初に我に返ると直ぐに指示を出し、先頭を走ると彼の声で我に返った残りの三人がその後ろに続く。大型魔獣二頭が暴れることで地面が揺れており、その揺れに足を取られない様慎重に彼らは移動する。


「ねぇ……何か変な音がしない?」


 ゴゴゴっと戦いとは別の何かが崩壊する音を耳にしたミレーアがそう述べると残り三人も音に気付き足を止めた。


「確かに何か音がするがそれらしきものは……なっ!?」


 周囲を確認したがそれらしきものが見当たらなかった。すると次の瞬間、音が徐々に大きくになると同時に彼らの足元が崩壊し始めた。急いで崩壊から逃れようとするが崩壊は広範囲であり、彼らは逃げることが叶わず地面の崩壊に巻き込まれ悲鳴だけを残し下へと落下したのだった。





「つぅ……まさか足元が崩壊するなんて。みんな生きてる?」


 意識を失わず済んだミレーアは落ちた衝撃で痛む体に回復魔法を使い体を治すと皆の安否を確認する。


「少し体が痛むが問題ないと思う……」


 ミレーアの問いに最初に答えたのはエリオだ。彼の方を見ると体の至る何処とに傷があり頭部から血が大量に流れている。頭を打ったことが原因で痛みが麻痺して気づいていないのかどう見ても軽い怪我ではない。


「じっとしてて直ぐに治すから」


「お、おう」


 回復魔法を使いすぐさまエリオを治療するミレーア。彼女が回復魔法を使うと瞬く間にエリオの体がから傷が消え去った。手や足にあった怪我が瞬く間に消えていくのを直に見ていた彼はしみじみと呟いた。


「こうして実際に体験してみると改めてミレーアの凄さを実感出来るな」


「話は後。早くジーロとリナも探さないと」


 残りの二人も幸いなことに生き埋めにはならず近くで傷の痛みに呻いていたので直ぐに見つかった。二人とも大小様々な怪我をしておりそれら全てをミレーアが回復魔法で治療した。


「治療出来るミレーアがいて助かったよ」


 回復魔法で骨が折れていた足を治して貰ったジーロは足の調子を確認しながらしみじみと呟いた。こんな場所で足の骨を折るなど普通なら絶望的な状況だ。どう考えても足手纏いであり、共倒れを避けるためにこの場に置き去りにされても仕方が無いと言えた。また仮に街に戻れたとしても折れたを足を治すために教会で回復魔法による治療を受けた場合、駆け出し冒険者からすれば考えたくない額の治療費を払うことになるだろう。

 生家が貴族であるジーロは家に連絡を入れれば治療代を出して貰えるだろうが彼としてはあまり使いたくはない手段である。


「本当に便利だね」


 指の調子を確かめるリナ。彼女も落下の折に利き腕の指の骨が折れていた。弓使いとして致命的な怪我であり治療費をどう足掻いても工面することが出来無い彼女は半ば絶望していたのだが、ミレーアがあっという間に治してしまったことで最初はこれは都合の良い夢なんじゃないかと思ったくらいである。この恩は絶対に返さないとと彼女は心に誓った。


「……それにしてもここは何処なんだろうか?」


 穴の開いた天井から差す光によって周囲の状況は辛うじて分かる。貴族の出であるジーロは教養として自国の歴史も学んでおり、自国の過去に建てられた建築物の意匠は記憶している。しかし、この場の壁などの内装の意匠は覚えないないものばかりだった。


「確か此処にあった遺跡は随分前に既に調べ尽くされたと聞いている。話を聞いた限りにこんな地下にこんな空間があるなんて話にはなかった」


「つまり此処は今まで発見されなかった未知の場所?」


 上の遺跡とは別なのかまたは巧妙に入口が隠されているのか不明だが彼らは誰も入ったことの無い場所に偶然にも一番乗りで辿り着いたことになる。冒険者としてそれは喜ぶべきことだろう通常ならば……


「その可能性は高い。参ったな……冒険者としては心躍る状況だが危険度もまったく分からない上に相応の準備もない」


 ジーロの言う通り今日はあくまで上の遺跡にいたグレーウルフの討伐が受けた依頼であり遺跡の未踏区域を調査することでは無い。そのため生存に大切な水や糧食の十分な準備など無く精々一食分である。空を飛べないため穴の開いた天井から脱出する選択肢は無く地図も何もない状況で広さの分からない遺跡の中を歩き回るのはそれしかないとはいえ自殺行為である。


「不味いな人間は水さえあればある程度生きられるがその水すら少ない」


 救助の望みは皆無であり自分達で何とかするしかない状況に四人の顔は暗い。


「ミレーアは方向は分かるか?」


「ごめん。私じゃ地形把握は出来ない」


 少し期待を込めてエリオが問うが申し訳なさそうにミレーアは言葉を返した。最もそれが無茶な要望だと彼も理解しているため「そっか」とだけ答え特に落胆する様子も無かった。


「ただのんびりと意見を出し合う状況でもなさそうだね」


 ジーロが視線を天井に空いた穴の方に向けると徐々にだが振動と咆哮が大きくなり始めていた。ここに落ちる切っ掛けとなった二頭の大型魔獣は上でまだ争っており音から察するに徐々にこちら近づいてきいるのが分かる。


「とりあえず離れるためにも向こうへと逃げよう」


 大型魔獣二頭が暴れているとは逆の方向へとミレーア達は動き出した。





 そこは誰もいない暗闇の中、その中で赤く小さい光が点滅した。その光は辺りを照らす程の光が強い訳ではなく、精々暗闇の中で何かが光っていることが分かるくらいだ。


『テキセ……ソン……ヲ……チ』


 無機質な声が途切れ途切れに響き渡る。しかし、それに反応するものはおらず声の主は構わず言葉を続けた。


「シン……タ……ウ……キョ……テイ……キン……ジタ……ハ……二ワ……ナイ……テンイハ……ウ」


 直後、周囲が俄かに騒がしくなり始めた。幾つかの重々しい駆動音のようなものが暗闇の中で響き渡る。それらは一糸乱れぬ規則的な音を奏でそこが暗闇ということもあり不気味だ。最も今この場にはそれを不気味と思う者は誰もおらずそれらは黙々と何も言わず動き続けている。


「ボ……エ……テ……ド」


 声がそれだけ告げると駆動音は徐々に離れていくように音が小さくなっていく。駆動音が完全に聞こえなくなると点滅していた赤い光は消え辺りは再び完全な暗闇に覆われたのだった。

最後の途切れ途切れの言葉は文字数と…の数は合わせてないです

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