第二十二話 不穏な流れ
「村が一つ無くなった……か」
冒険者ギルドの連絡掲示板に掲載されていた注意喚起を読んだミレーアは顔を曇らせた。自分の生まれ故郷もある日突然失うことになった彼女としては他人事ではない。
「あ……あぁああ!?」
ミレーアの隣に声に鳴らない声が口から漏れ床に崩れ落ちる女性冒険者。隣にいる彼女の仲間と思われる男性冒険者は助け起こそうとするが男性も沈痛な面持ちで下唇を噛んでいる。この二人にとって故郷だったのかもしれないと思ったミレーアはそっとしておこうと無言で離れた。
今日のミレーアは一人で外に出て来ていた。フューアはお留守番として部屋に置いてきている。家を出る時に「今日は大人しく此処で待っててね」とだけ伝えると不安そうな声を上げていたフューアに心苦しくなりながらもミレーアは部屋を出た。ギルドの受付に行き受けられる依頼が無いか聞きに行こうとすると声が掛けられた。
「お、ミレーアじゃないか少し辛気臭そうな顔してるな」
「あ~うん。掲示板を見て少し嫌なこと思い出しちゃってね」
ミレーアに声を掛けたのはエリオだった。話し掛けられたミレーアはエリオの言う少し辛気臭そうな顔のまま理由を述べた。
「あん? あ~あれのことかそれってどういう……」
まだ文字の勉強を始めたばかりであるため、連絡掲示板に書かれた内容は読めないが何があったのかは周囲の話し声に聞き耳を立てていたため既にエリオが何かあったか知っている。そして、怪訝そうな表情で聞き返そうとしてハっとした彼は言葉を止めた。前に話した時にミレーアは師匠に育てられたと言ったことを思い出し、掲示板の掲載されている内容と照らし合わせたことで察したのだ。
「悪い……もっと考えて喋れば良かった」」
「別に良いよ」
ミレーアもエリオに気を遣わせてしまったと反省した。
「それで本当の用事は何?」
一応、顔見知りとは言え話しかけて来たからには何か理由があるのだろうと思ったミレーアが尋ねると先程のこともあって少し言いにくそうにエリオが答えた。
「ああ、今パーティを組んでたんだが男一人と女一人だからもう一人くらい女を誘うって話になってな」
実力も身に付け自衛も出来るベテランなら兎も角、ルーキーでは自分以外が異性というのは不安も大きい。女性なら尚更だ。故にエリオは知った顔であるミレーアを見掛け声を掛けた。ただ出出しで迂闊な発言をしてしまったことで微妙な空気になってしまったことでエリオはミレーアでは無くシャーリィの方を誘おうかと考えていたがミレーアから要件を聞かれたことで誤魔化さず話した。
「良いよ。何も依頼も受けていないから」
「そ、そうか。ありがとうな」
特に気にする事無くパーティに参加することを承諾したミレーア。エリオは少し言葉を詰まらせながらもパーティへの参加に承諾してくれたミレーアに礼を述べたのだった。
「あそこが討伐対象の住みか?」
「ああ、情報通りなら間違いない」
四人が訪れたのは街からそう遠くない場所にある古い遺跡だ。既に学者らに調査尽くされもう何も調べることはないとされている。ここにグレーウルフが住み着いた。雨風を防げる場所があり住むには丁度良かったのだろう。問題はこの場所が街道から近く商人や旅人が襲われる危険性が高いということだ。元からその可能性は指摘されており、冒険者ギルドも定期的に職員を派遣し魔獣が営巣にしないか警戒していた。今回は営巣したのが小規模なグレーウルフの群れであったため、駆け出しが受ける依頼としてもギルドから出されていた。
「じゃ、前衛は俺とジーロでやるからミレーアはリナと一緒に後衛を頼む」
今回組むことになったジーロは槍使いの青年だ。それ程格は高く無いが一応貴族の出である。末弟で兄弟も多くいることから家督を継ぐことはほぼ不可能であるため、鍛錬していた槍を片手に家を飛び出し冒険者になった。リナは弓使いの少女である。実家が猟師で幼いころから弓を触る機会があり、村にいた頃も何度か兎などを仕留めたいた。狭い村から外に出たくて冒険者になったとミレーアは聞いた。
「弾は道すがら手頃な石を回収しといたから今回は結構あるよ」
前回と違い今回は街を出る前にポジションを話し合ったこともあり、やることが後衛と決まっていたミレーアは道中で多めに投擲用の石を回収してある。
「試しに見せてもらったがあれなら弱い魔物や魔獣なら問題無く倒せるだろうね」
「……私としては少し複雑かな」
既にミレーアの投擲を見ていたエリオは兎も角、ジーロとリナは初めてであるため此処に来る前にミレーアの投擲を実際に見せている。結果は二人のお眼鏡に叶う威力とコントロールを有していた。ただ近遠オールラウンダーとして戦えるミレーアに弓を使うリナとしては少し複雑な気持ちを抱いていた。
「それでミレーア。グレーウルフの動きはどうだ?」
「……こっちに気づいて幾つかのグループに分かれてるね。一番近いので前方に三匹。後は左右に二匹づつに分かれてるのと背後に一匹の全部で八匹。数は事前の情報通りだよ」
「話には聞いていたけど、そこまで正確に分かるものなのか。……もしかこれが戦争だったら自軍の配置が敵に既にばれているとか指揮官だったら発狂ものだ」
「むむ、良いなぁ。私もそれが使えれば狩りとか楽そう」
ミレーアの索敵能力にジーロとリナの感想には家柄が出ていた。貴族出身のジーロはミレーアの索敵による利点とその脅威を瞬時に見抜いていた。家が猟師であるリナはそちらよりの感想だ。獲物を探す手間が省けるだけでなく、武器の都合上不意を打たれて魔獣などに接近されると大変危険ためそれを防ぐことが出来るのは魅力的なのだ。
「話はまた後……動き出しよ。最初は正面から三匹」
「それは俺とジーロが相手をする」
「ああ、後ろには通さないさ」
二人が前に出ると木々の合間を縫ってミレーアの報告通り三匹のグレーウルフが近づいてきているのが見える。前衛の二人が武器を構えるとリナも弓を構え何時でも矢を放てるように準備万端だ。ミレーアも何時でも握った石を投擲出来るようにしている。
「前の二人に対して右側から先に奇襲が来るから備えて」
「分かった」
ミレーアの言葉にリナは小さく息を吐きいつ別働のグレーウルフが現れても即座に対応出来るよう心構えをする。エリオは苦戦しているがジーロは危なげなくグレーウルフの一匹を処理したところにミレーアの言葉通り右側から別働のグレーウルフが前衛の二人に対して奇襲を仕掛けるがリナが放った弓が片一方のグレーウルフの眼窩を貫き即死させ、もう一匹はミレーアの投擲した石によって頭を砕かれた。その間に何とか相対していたグレーウルフを倒したエリオ。残りの一匹は既にジーロによって最初の一匹目と同じように彼の槍によって処理されていた。
「左ももう直ぐ来る!!……後ろは任せて」
それだけ言うとミレーアはリナの背後へと移動する。自分達の後ろで息を潜めていた最後のグレーウルフがミレーアとリナ背後から奇襲するために動き出したのだ。この場にいたのがミレーアでなければこの奇襲は成功していただろう。戦いが始まる前にジーロが言った通り既に作戦が筒抜けになっているなど指示を出す立場からすれば悪夢でしかないのだ。背後から攻撃を仕掛けようとしたグレーウルフは八匹の中でも一際大きな個体であることからリーダー格と見て間違いないだろう。ミレーアがリナを守るようにグレーウルフに前に立ちはだかる。一瞬動きを止めたグレーウルフだが即座に狙いをミレーアに変えるが突っ込んできたところを柔術の要領で受け流し彼女はグレーウルフを地面に叩きつけた。魔獣は体を魔力で強化出来るが、それでも地面に叩きつけられた衝撃にグレーウルフは息が詰まりらせ動きが止まった。その隙にミレーアはグレーウルフの頭を両腕で掴み首を捩じることでトドメを刺した。息の根を止めたことを確認したミレーアが振り返ると既に戦いは終わっていた。
「後ろを守ってくれてありがとう。おかげでこっちは問題無く対処出来たよ」
眼窩から矢を生やしているグレーウルフが二匹。槍による刺突で体を貫かれたのが三匹。首を切られてたの一匹。頭部を砕かれたのが一匹。首を捩じられ骨を折られたのが一匹の仕留められたのが計八匹でミレーアの索敵通りだ数だ。
「あ~くそ、足手纏いになっちまった」
苦戦し一匹しか仕留められなったエリオは悔しそうに呟いた。
「最初は誰もがそんなものだよ。私は幼い頃から家で槍で鍛錬をしていたし、リナは家が猟師だろう? ミレーアも師匠とやらに相当鍛えられたようだしね」
ジーロの指摘にエリオは何も言えなかった。エリオが武器を手に取り使い始めたのは冒険者になってからだ。その時点で冒険者になる前から鍛えていた三人と開きがあるのは当然と言えた。最初から武器を十全に扱え強い者などそういるものでは無く、大多数は強くなるには地道な研鑽しかないのだ。
「経験を詰んでこれから強くなれば良いさ、筋は悪くないからね」
最後にジーロはそう締めた。
「あ~あ、ぐうの音も出ねぇわ。まぁ、確かに俺は三人に比べていろいろ足りてないわな」
実力及び知識面ではジーロやミレーアには完敗である。二人に比べてリナはエリオに比較的近いがそれでも猟師としての知識がある分彼よりも数歩先を行っている。
「時間が合えば街で模擬戦の相手をしようか?」
「……良いのか?」
「やって後悔させないで欲しいかな」
挑発ともとれるジーロの台詞にエリオはその言葉忘れるなよと言わんばかりにやりと笑った。
「……男同士の友情?」
「よく分からない」
それを見ていたリナがミレーアに聞くが彼女としても分からず首を傾げるしかなかった。話も終わり討伐のした証としてグレーウルフの牙八匹分を四人は抜き取った。
「これで依頼も終わりだね。……?」
ふと何かに気づいたかのようにミレーアは視線を遺跡の方へと向けた。
「おい、どうした何かあっ……はぁ!?」
ミレーアの視線を追いそれを見たエリオが驚きの声を上げたのだった。
ステージボスの遭遇イベント開始。




