表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/79

第二十一話 回復魔法の観測(一)

2024年12月5日 加筆

「う~む。成程」


 ミレーアが回復魔法を使っているの見て興味深くジェライクは見ていた。治療する相手がいなくても回復魔法を使うことは出来るためまずはその状態で観測することとなった。ジェライクは半ばゴミ捨て場にも思える程積み重なった怪しげな道具の山から目的のものを掘り出すとそれに向かって回復魔法を使うようにミレーアに指示した。とりあえず言われた通りに回復魔法を使うミレーア。すると何に使うか分からない道具の一部が白く発光を始めた。


「大体は分かった。やはり予測通り光魔法系統に近い反応だ」


「……どういうことですか?」


 何が分かったのか分からず質問するミレーアにジェライクはまるで教師のように講義を始めた。


「今は回復魔法と別けられているが、かつては回復魔法は光魔法の一部だった。実際、エルフの残した古い文献を見れば光魔法の中に傷を癒す効果の魔法があった。他にも周囲の汚染などを浄化する魔法もあったみたいだが、そちら方は人間では広範囲を浄化が出来ないなどの理由もあって人間でも使えるように魔法をデチューンする際に省かれてしまった」


 それを聞いたミレーアは自分が掃除のために編み出した「クリーン」がその浄化に当たるのでは?っと思ったが術式も無いし、彼女自身は地下水道で広範囲を綺麗に出来たことからよく似た別の魔法だろうかと考えた。

 そしてそれとは別に疑問に思ったことを彼女は質問した。


「光魔法でも回復魔法を使えるならもっと使い手がいてもおかしくないじゃないですか?」


「いや、この当時に癒しは精々傷の治りが速くなる程度で重傷を治療するだけの力が無いというよりは不可能だった」


「どうしてですか?」


「大きな怪我を本来の体が持つ治癒能力以上の速度で治療しようとすればそれだけ体のエネルギー消費も激しいということだ。軽傷なら兎も角 重傷ともなれば怪我の治癒だけでなく失った血液の生成もある。重傷で体力を消耗している状況でそれだけの急速なエネルギー消費は下手をすればそのまま栄養失調で死にかねないからな」


「え~と、すいません。分かりにくいです」


「……傷を治したら餓死した」


 少しの間を置いてジェライクは短くそう答えた。ミレーアにとってはそうなる理由が分かる訳ではないが結果どうなるかだけ分かれば十分だった。


「あれ……でも、そうすると回復魔法で重傷者を治したら死んでしまいませんか?」


「そう回復魔法……初代聖女が初めて使ったとされるそれが全てを覆した。術式も無しで肉体の欠損すら治せる回復魔法は正しく神の御業に最も近いと言えるものだ。教会が情報秘匿するのも分かる。しかし―――だ」


 ジェライクはそこで言葉を区切りミレーアの方を見た。


「だからと言ってそれが私の研究を止める理由にはならない。何れ必ず研究するつもりだったがまさかこんな早くにそんな機会が訪れるとは思ってもいなかった!!」


 ジェライクの言葉に熱が宿り始めている。その熱量に圧倒されミレーアは何を言って良いのか分からず戸惑うしかなかった。


「今まで在野にいた回復魔法使いと君の回復魔法に属性での違いは無いことからこれに関しては私の予測は正しかったと言える。ただ殆ど同じ使い方であるのにも関わらず今まで在野にいた回復魔法使いと君の回復魔法の回復能力に大きな違いがあるのが謎だ。回復魔法関連の資料は教会が独占しているため、教会以外で術式などは学びようが無い。術式の要らない簡単な詠唱しか出来ないから在野の回復魔法使いは回復能力が低いと思っていた。だが君の回復魔法を見てもっと別の要素があるという仮説が今生まれた。これを確かめるためには実際に回復魔法で重傷者を治療しているところを詳しく観測するだけだが、流石にそんな易々と重傷者は用意出来るものでもない。やはりここは私自ら重傷者になって怪我を治療してもらうのが一番手っ取り……」


「それだけは絶対に止めてください」


 それだけはさせて堪るかと言わんばかりに本気で止めるミレーア。彼女が本気で止めていることに気づいているのかジェライクは「むぅ」と一言残念そうな声を漏らすと引き下がった。


「となると偶然の重傷者を探すしかないのだが、流石に教会に目を付けられることだけは避けたいからな」


「……教会に目を付けられる不味いんですか?」


「秘匿しているものを根掘り葉掘り調べようとしているからな……前例が無いから確実なことは言えないが、今までは在野にいた回復魔法が使える者が大した力は持っていなかったが故に調べても見逃されていた可能性は高い。だが今は君という……君がここに来た時点で怪しまれた可能性があるな」


 話している最中にその可能性に思い至ったジェライクは盛大に溜息を吐いた。


「え……え?」


 状況が呑み込めず戸惑うしかないミレーア。


「ああ……君は気にしなくても良い。その内君には教会側から接触があるだろうがどうするかは自分で決めれば良い。教会も馬鹿じゃないからな。現状冒険者ギルドに登録した上にギルドに期待の新人として注目されている君を無理やり何かする可能性は低い。そんなことをして冒険者ギルドと揉めることになるのは教会の望むところじゃないだろうからな」


「?」


 どういうことだろうかと疑問に思い首を傾げるミレーア。組織間の柵のことは何一つ知らない彼女にとってジェライクの話は理解出来ず何を言っているの分からないのだ。


「まぁ、簡単に言えば今の冒険者ギルドには強力なバックがいるから迂闊なことすれば首が物理的に飛びかねないってところだね」


「何だか難しい話ですね」


「これから覚えていけばいいさ。知識は幾ら詰め込んでも損にはならないからね」


 成程とミレーアは納得した。戦い方や生き方、ある程度のことは師匠に教えて貰えたミレーアだが街に来て知らないことを先輩冒険者に教えて貰ったり初心者講習を受けていた。実際にその甲斐あってテイマーを知りフューアをテイムしたいという思いが生まれたのだ。テイム出来た理由こそ未だ不明だがこれはテイマーを知っていたからこその選択である。冒険者を続けていればそういった組織間の柵を知る機会もあるのだろうかとミレーアは考えていると何かを思案していたジェライクは良いことを思いついたと言わんばかりに左の掌に右の拳を打ち付けた。


「そうだ、計測でするだけならそれ専用のマジックアイテムを作れば良いのか。……よし、今日のところはこれで観測は終わりだ。私はこれから今思いついたものを試作することにする」


「分かりました。紋様の件はよろしくお願いします。……あ!?」


 これでお暇しようとしたミレーアは重要のことを言っていなかったことに今更気づいた。ジェライクはミレーアの何かを思い出したような反応に何だろうかという視線を向けている。


「……すいません。言い忘れてましたがここに突入する時にドアを粉砕しちゃいました」


「え……?」


 ミレーアの申し訳なさそうな謝罪を聞いたジェライクは間の抜けた表情で意味が分からないと言わんばかりの呆けた声を出したのだった。





「そういやエリオは噂の回復魔法の使える奴とパーティ組んだことあるんだったよな?」


「あ~新人専用のゴブリン依頼で偶然にだけどな」


 冒険者ギルドで受けた依頼を完了させ街道を歩いて街に戻る途中でエリオはパーティを組んだ仲間の二人と話しをしていた。彼らが受けた依頼は畑の近くに沸いた魔蟲の駆除だ。一匹一匹は大した強さでなかったが兎に角数が多く全滅させるのが大変だった。大変さはゴブリンの依頼とどっこいどっこいといったところである。おまけに最後の方でその魔蟲を食べに来た別の魔獣に乱入されそちらも狩る羽目になってしまった。一人で戦うには危険な相手だったが三人で協力すれば何とかなる相手であった。ただその魔獣に関しては依頼の報酬に含まれていない為、村の近くの川で血抜きを行い街に持ち込んで素材が売れないか聞くつもりだ。


「実際にどうだったんだ?」


「回復魔法は依頼をこなしている最中は使うことはなかったが、その日に起きた街で刺されたベテラン冒険者を治療しているのは少し離れた位置からだけど見たぞ」


「……あ~あの時の騒ぎのか。それ他にも刺されて重傷だったのに何事もなく無事だっから実は掠めただけだったとか偶々通りすがりの神官が治療したんじゃないのかとかいろんな話になってんだよな」


「俺は上級ポーションを使ったとか聞いたな。刺されたのが結構なベテランだったから持ってても可笑しくはないからその話を信じてたな」


 二人の聞いた話はどちらも在野の回復魔法使いが治療したという事実よりも現実的な話だ。エリオのようにミレーアが回復魔法を使っていたのを直接見ていなければ誰もが二人が聞いたどちらかの話を信じるだろう。


「ポーション節約も兼ねて誘いたいけど、まぁベテラン冒険者に取られちまうだろうな」


 話が広まれば誰もが自分のパーティにミレーアを誘うのは経験の浅い彼らでも容易に想像出来た。そうなれば条件が一番良いところを選ぶのが普通である。今はまだ駆け出しということで固定パーティの勧誘は冒険者ギルドの規則により出来ないがそれを過ぎればミレーアは大変だろうなとエリオは思った。


「……待った。何か来る!?」


 街道横から何かガサガサと生い茂った草木を揺らす騒がしい音を聞いたエリオが注意喚起する。残りの二人もそれぞれの得物を構えるとそこに草木を搔き分けて憔悴した男性が飛び出してきた。


「ハァ……ハァ……冒険者か?」


「そうだけど……あんた?」


 男性の様子から只事ではない事態が起きている。そう感じた三人は周囲の警戒を忘れずに話を聞こうとするとと男性が縋り付くように迫ってきた。


「たっ……助けてくれ!? 村が化け物に襲われて……みんな喰われちまったんだぁ!!」


 恐怖に支配された男性の必死の叫びが辺りに響き渡ったのだった。 

次のステージボス

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ