第二十話 突撃!! 爆発が起こったの家の中
「え~と、ここがそうみたいだね」
メモを元に紹介されたこの街一番の魔法使いの家に辿り着いたミレーアは建物に視線を向けた。外観は少し古めかしい見るからに魔法使いが住んでいますよと言わんばかりの二階建ての木造の家だ。何らか実験も頻繁に行っているのか僅かながら異臭も漂っており、怪しさも醸し出している。
「……フューアのことが少しでも分かれば良いね」
「みゅぁ」
ミレーアの肩に乗ったフューアは同意するかのように一鳴きした。異臭が漂っていることもあり、少しだけ大丈夫なのか心配になっているが意を決してドアをノックするミレーア。
「すいません。ギルドのエーベルさんの紹介で来たミレーアですけど」
反応が無い。気づいていないのだろうかと思いもう一度ドアをノックして同じ内容を少し大きめの声を出すがそれでも反応がなかった。
「もしかしていないのかな?」
「みゅ?」
一応ギルドの方から先触れを出しているとの話だが何か突発的な用事があり不在なのかもしれない。そう思ったミレーアは少し時間を置いて出直そうか考えていると二階から爆発音が鳴り響いた。
「えっ!?」
「みゅあ!?」
爆発によって割れた窓ガラスの破片が道端に雨のよう降り注ぐが幸いそこに人は居らず怪我人が出ることはなかった。何事かと驚いたミレーアは状況確認のためドアを開けようとするが鍵が掛かっていて開かない。
「……後で謝ります!!」
ミレーアは拳に力を込めドアをぶち破ると階段を探し見つけると一息で駆け上がり爆発の現場となった場所に突入した。
「大丈夫ですか!?」
「……あ~悪い悪い。少し実験を失敗しちゃってねぇ。誰かは知らないけど救助してくれると助かるかなぁ?」
突入したミレーアの目に入ったのは緊迫感ない口調で爆発によって散らかった部屋で家具などの下敷きになり助けを求める黒髪の男性だった。状況に困惑しながらもミレーアは男性を助けるため家具を急いで退かし始めたのだった。
「いや~助かったよ。ちょっと試したいことを思いついて居ても立っても居られなくなってしまってついつい実験してしまってね。だがこれがいけなかった思いつくままやったのは良いが時間を忘れてぶっ続けでやった結果、集中力を切らせてしまって分量を間違えてしまったことで反応が予想以上に大きくなってしまい制御出来ずに大・爆・発!! 魔法で咄嗟に防御したけど時間が足りなくて強度が保てず大怪我にすることになった訳だ。そんな時にまさかまさかの今日来るお客さんが噂の回復魔法を使える新人冒険者だったわけだ。これには自分の運に感謝したいところだよ。あ。それでね一体何の実験をしていたかというとね……」
助け出された男性は見た目はまだ青年と言えば通じそうな人物だった。一目で高位の魔法使いと分かるような上質な漆黒のローブに身を包み髪が黒いことも相まって全体的に黒一色とも言える様相である。助け出された彼は先の爆発によって何処かにいってしまった眼鏡の予備を身に付けていた。黙っていれば女性の方から寄ってきそうな整った容貌だが、現在それを全て台無しする程に口を挟める隙間なく熱意あるトークを続けていることでミレーアは若干引いていた。此処に来たことに少し後悔しそうになる彼女だがそこを堪え今後のためだと我慢する。胸に抱かれたフューアは退屈になってきたのか身動ぎして出たそうにしている。
「みゅぁみゅぁ」
離してと言うようにミレーアに顔を向け鳴くフューア。
「今は駄目」
「みゅぅ……」
ミレーアの言葉にしょんぼりするかのようにか細い鳴き声を出すフューア。その声にうっと胸を締め付けられそうな痛みが走り思わず自由にさせたくなるミレーアだがいけないいけない躾は大事と心を鬼する。
「うん?……おや~おやおや?」
ミレーアとフューアの短いやり取りで話を止めた彼は先程まで何処か楽しそうだった面持ちから一転して真剣な面持ちで顔をフューアに近づけ興味深くを見ている。
「先触れで聞いたのはテイムされた魔獣の紋様を調べるとのことだけど……その前にこの子自体全く見たことが無い魔獣だねぇ」
見られているフューアは顔を近づけられたことに怖がっているのか必死にミレーアに助けを求めるように怯えた声で鳴いている。
「すいません……フューアが怖がっているみたいなので少し離れてもらえますか?」
少し語尾を強めてミレーアが言うと彼はあっさりと離れた。
「あ~悪い悪い。興味が出ちゃうと直ぐに周りが見えなくなっちゃてね。あ~そういえばいろいろあって自己紹介もまだだったね。ジェライク……この街のしがない魔法使いだ」
「ミレーアです。それでこの子はフューア」
「みゅあ」
挨拶するかのように短く鳴いたフューアにジェライクは驚いたのか目を丸くした。
「人語を理解しているみたいだね。……見た目は子どもっぽいけど実はこれで成体とか?」
「いえ、昨日卵から生まれたばかりです」
「つまり生まれたばかりなのにそこまで知性があるということか……何処か遠い土地の魔獣がなんらかの理由でこちらに流れてきた可能性もあるがここまで頭が良いのなら思い当たるものが一つくらいありそうなものだけどなぁ」
ふむと何かを思案するように腕を組み目を瞑り何かを考え始めたジェライク。先程まであった何処か心配になる雰囲気が一掃され理知的な魔法使いの姿がそこにあった。
「ん……? 危うく聞き流すところだったけど卵から生まれた?」
「はい」
ミレーアがそう返事をするとジェライクは溜息と共に視線を下げ後頭部を右手でガリガリと搔いた。
「そうか、それはまた調べることが増えそうだね」
今のやり取りに何かあったのだろうかと首を傾げるミレーア。そんな彼女の様子に気にもせずジェライクは視線を戻しミレーアの方を見た。
「とりあえず幾つか術式に関しての文献を当ってみよう。とりあえず紋様を模写したいからそこで少しジっとしてくれ」
懐から紙とペンを取り出しジェライクはミレーアの手の甲にある紋様を描いていく。迷いなくスムーズにペンを動かし瞬く間にジェライクは紋様を書き終えた。
「どうかな? 完璧だとは思うが見落としがあれば指摘して欲しい」
「……凄い。こんな短時間で正確に描かれてる」
ジェライクが紙に描いた紋様は傍目にはまったく同じに見得る程正確に模写されていた。
「高度な術式を扱うなら正確に描けるのは必須と言える。速度もあればそれだけ実戦での有効性も上がるし、実験で無駄な時間を省くことも出来るからね」
しかし、その二つを両立するには生まれ持った才能も必要である。加えてその才能に胡坐をかかず只管に修練も行うことで漸く辿り着くことが出来る場所だ。この魔法関係の知識はジェライクがこの街一番だというエーベルの評は伊達ではない。
「文献を総当たりをして調べることになるだろうからどれだけ時間が掛かるか分からない。何か分かったことがあったらギルドを通して伝えるようにしよう。向こうも情報は欲しいみたいだからね……さて良い機会でもあるからミレーアには別のことも頼みたいのだけど」
「良いですけど、何かの素材回収ですか?」
文献を調べて貰えるなら何らかのお礼をするべきだろうかと考えていたミレーアにとってもジェライクの提案は渡りに船だった。彼が魔法を使った実験なども行っていることから実験素材を欲しているのかと思いミレーアが聞き返すとジェライクは首を横に振った。
「いや、違う。私の欲しい素材となると新人冒険者が取りいけないようなものが殆どだ。近場であるものも最近、良いものを仕入れることが出来たしな。……まさかあんな大きなものが手に入るとは思わなかったから値上げ交渉に思わず乗ってしまったよ」
最後の方は小さな声でボソリと呟いたためミレーアに聞こえなかった。
「……そうすると私に頼みたいことってなんですか?」
何か自分に頼まれるようなことはあっただろうか考えるが思い至らず聞き返すが、それを聞いたジェライクは少し呆れたような声で答えた。
「あるだろう……君にしか頼めないことが―――回復魔法について調べさせて欲しい。教育関連を教会が独占しているし、頼んでも門前払いで調べようが無い。稀に在野にいる者は能力が低すぎて調べても碌なことが分からなかった」
「そんなことで良いなら構いませんよ」
そんなことで良いのかと言わんばかりの声音で答えたミレーアにジェライクは訝しむ。先程家具に押し潰されかけた時の怪我を治療するためにミレーアが回復魔法を使い、ジェライクはそれを観察していたが噂以上の腕前だと内心で驚愕していた。実際、指の骨が折れていたがそれすらもミレーアは完治させてしまっている。教会で治療して貰おうとすれば金貨二枚以上は確実に必要になる。怪我した冒険者を相手にするだけでも一攫千金ですら夢ではないだろう才能にミレーアは自慢も誇ることない様子にジェライクは疑問に思ったのだ。
「……そんなことって君ね、少しくらいは自慢しても罰は当たりはしないだろう希少な才能なんだが?」
「確かに便利ですよ。自分の怪我も直ぐ治せますし、目の前で大怪我した人だって大抵は助けられます。……それでも助けれないこともあります」
生きてさえいれば欠損ですら治せる自信があるミレーアだが流石に目の前で即死してしまえば助けることは不可能だ。それに出来れば目の前で誰かが傷づくのも彼女は見たくはない。回復魔法も使わないことに越したことは無い。故に彼女はそうなる前に助け出せる戦う力を求めた。
「……そうか」
真っ直ぐにジェライクを見つめ、少しだけのトーンの落ちたミレーアの声音に気圧されたジェライクはそれ以上はこの話題に触れることを止めた。
「とりあえず治すところをもう一度見たいから怪我人を探しに……いや、今ここで私が大怪我を負えば良いんじゃないのか?」
「絶対に止めてください」
良いことを思いついたと言わんばかりのジェライクの発言を、そんなことさせて堪るかと言わんばかりに間を置かず鋭い声音で止めるミレーアだった。
実験に爆発は名物




