第十八話 テイム?
「欲しかった素材はそれなりに集まったかな?」
川辺で休憩しつつミレーアは道中で拾得した成果物の確認を行った。下水道で消費したポーションを作り直すための素材は既に集まっており、残りはギルドの納品依頼で出されていた幾つかの素材だ。川辺に来たのはその一つがこういった場所で生育する植物だからだ。
「ええと、あ~この辺は無いかな?」
川を覗き込みそこにる魚等の見てミレーアそう判断した。納品依頼で出されていた植物の探す目安としてそれが生えている川には特定の水棲生物が生息していることが多かった。経験則から知っていたミレーアは近辺の川辺にはそういった水棲生物をが生息していないことを確認すると地図を広げ次の移動先を思案する。
「あとは……こことここかな? う~ん、もうちょっと上流に行くとあるかもしれないけど」
どうしようかと言わんばかりにミレーアは上流に視線を向けた。その先は森が深くなっており薄暗いこともあって一人で行くには見るからに危険な様相だ。現状、お金にそれ程困っている訳で無いこともあり命あっての物種と彼女は上流に向かうこと諦めた。
「まぁ、一番の目的がこれの使用感を確かめることだから無理して探す必要もないからね。それに……」
ミレーアは歩いて来た道を振り返るとじっと見ている。
「……どうするかなぁ」
何か気になることがあるのかミレーアは困ったように眉根を寄せた。視線を外すと腕を組み眼を閉じると何か考えているのかう~んと彼女は唸り始めた。先日の下水道での戦いの後判明したことだが、彼女の回復魔法を応用した索敵範囲が広がっている。その広がった索敵範囲によって街を出てから一定の距離を保ったまま尾いてきている何者かに気づいた。何をするでも無く尾いて来るだけで気になって仕方が無かった。来た道を振り返りじっと見たのは尾いて来ている相手に対して気づいているよとの意思表示だ。こうすることで相手の出方を伺うことにしたのだ。しかし、これといったアクションは無い。そこで手頃な石を拾うと反応のする場所付近へ全力で投擲を行った。風を切る音を立てて投擲された石は狙い違わず目的の場所へと飛んでいく。
「うん」
頷くともう一つ石を握り投げる準備をする。
「危なかった」
突然の事態に彼は動揺し思わず言葉を口に出してしまった。彼はギルドの暗部に所属する者だ。ミレーアは多くのベテラン冒険者も注目している期待の新人でもあるが所々怪しい点も見逃せない。限りなく白に近いグレーではあるが念のため彼女を監視することを上から命じられた彼は一人で街を出たミレーアの後を尾けていた。彼もこの仕事は長く自身の隠形に自信があったのだが、その自信が今この瞬間ものの見事木っ端微塵にされてしまった。最初顔を向けられた時は偶然かと思ったが何かを投擲する動作と風切り音を鳴らしながら飛来した石が自身の近場にあった木の幹に直撃したことで漸くミレーアに気取られていることに気づき彼女が二発目の石を握ったことで今のは脅しであり、次は自身に狙いを定めて投擲してくるだろうと察し彼は大人しくその場から離れた。逃げる最中ミレーアを新人と心の何処かで甘く見ていたのもしれないと彼は自身の失態を恥じた。監視がバレたことを上司に報告するのは気が滅入る彼だが、逆に言えばミレーアは隠形を使いある程度離れた場所にいた彼を見つけることは出来る何らかの手段を持っているという証明でもあった。そういった手段を持っているという情報を持ち帰ることが出来ただけでも一つの成果と言えるだろう。
「逃げなくても良いのに」
握っていた石を地面に放り投げたミレーアは不満そうだった。ミレーアとしては後を尾けられている理由に心当たりが無いため、とりあえず目的を話して貰えればそれで良かったのだ。理由さえ分かればこちらに害がない限りは好きにさせるつもりだった。
「あとは一様周囲も確認しておくかな」
ミレーアは念のため辺りの一帯の索敵を行い周囲に何かがいないか確認した。
「って、あれ?」
妙な反応感じ取りミレーアは首を傾げた。今までに感じ取ったことのない反応であり、それが何なのか彼女は気になった。反応のした方向を見ると森がそれ程深く無く危険度も高そうな場所ではなかったため、それが何なのか自分の眼で確かめることにした。幸運なことに木々の間に生えている植物はあまり無く目的地まで歩きやすい場所だった。
「う~ん、この辺りかな?」
反応のした場所付近に辿り着いたミレーアはもう一度、軽く索敵を行って正確な場所を確認した。
「あっちか」
何が出てきても対応出来るよう慎重な足取りで歩み寄るミレーア。慎重に近づき反応したものが見えたところで彼女は足を止めた。
「卵?」
一抱え出来そうな程の大きな卵を見つけたミレーアはどうするか悩んだ。魔獣の卵なら持ち帰ればそれなりの値段で売れる。ただ魔獣によって盗まれた卵を取り戻すために何処までも執拗に追いかけてくることもあるため、何の卵が分からない状態で一人で持ち帰るのは危険だ。そのため親が戻って来る前に立ち去るべきだと判断し踵を返そうとしたミレーアの耳に何かが割れる音が耳に聞こえた。
「え……?」
何の音だと思い周囲を見渡し、震える卵を見て今の音が目の前の卵から鳴っていることにミレーアは気づいた。突然の自体に動けなくなった彼女の前で卵が割れ中身にが外に出て来た。一言で言えば4足歩行の白い毛が生えた見たことが無い動物である。母性本能をくすぐる愛らしい姿をしており、今すぐ駆け寄り抱き締めたい衝動に駆られるミレーアだが、それを寸前のところで押し止めていた。相手はあくまで野生の生き物であり、自分が勝手に手を出して良い存在では無い。このまま見なかったことにして立ち去るべきだと思い振り返るがそこで複数の魔獣の気配が近づいて来ていることに彼女は気づいた。先程は卵を見つける時はそこまで広い範囲を索敵していた訳ではなかった。そのため、少し離れた場所にいた魔獣を見逃していた訳だがこれが自分一人だけなら何とでもなったかもしれない。
「ああもう!?」
生まれたばかりの子どもを見なかったことにして離れるのは寝覚めが悪く。ミレーアはその場に留まり近づいてきている魔獣を迎撃することにした。
「数は三……少し遅れて来ている一匹を含めて全部で四匹。群れで行動してることを考えた方が良いか」
最初の三匹を囮で本命は遅れて来ている個体だろうろミレーアは考えた。
「……グレーウルフだね」
近づいてきた魔獣を視認したミレーアは何処からいつ襲い掛かっ来ても対処出来るように気を配る。グレーウルフの方は唸りながら襲い掛かるタイミングを図っている。最後の一匹は木の裏側に隠れているため目視では確認できないが既にミレーアは索敵によってしっかりと把握している。三匹のグレーウルフに注意しつつ足元の石を拾ったミレーアは最後の一匹が隠れている木に向けて全力で石を投げつけた。投げられた石は木を貫通し隠れていた狼の頭部に直撃した。肉を砕く音と僅かだがくぐもったような呻き声だけが聞こえた。これに驚いたのは残ったグレーウルフだ。ミレーアが仕留めたのは指示役であるリーダーだ。リーダーが突然消えたことで混乱したグレーウルフに残された三匹中で大きめな個体に向けて再び石を投擲する。これは流石にグレーウルフも視認していたことで躱すがその様子から攻めあぐねているのは確実だ。ミレーアは地面から次弾を拾い狙いを定めると観念したのかグレーウルフの方が去っていった。
「どうやら逃げたみたいだね」
何処かで隠れたり途中で改めて戻って来る事無く遠ざかっていくグレーウルフ。とりあえず眼前の危機が去ったことにミレーアは安堵した。
「……どうしよう」
振り返るとそこには生まれたばかりの魔獣か何かの子どもが甘えた声でゆっくりとミレーアに近づいて来ていた。どうやら彼女のことを親と認識してしまったらしい。
「私テイマーじゃないんだけど……」
数日前に初心者講習があり、そこでは冒険者の戦い方についてミレーアは学んでいた。剣や槍、弓、魔法の他に魔獣を使役し戦うテイマーというのがあることを先日知ったばかりだ。魔獣に専用の術式で魔力的な繋がりを作り使役している程度の内容で詳しいことは何も知らない。このまま見なかったことにして立ち去ることも考えたが、弱々しくも必死に近寄って来るそれを見ていられずミレーアは近寄り抱き抱えてしまった。抱き抱えられたそれは安心したかのように身を委ねている。ミレーアが無言で背中を撫でるとそれは気持ちよさそうに一鳴きした。
「連れて帰りたくなってくるけど、本当の親が心配しちゃうよね……」
やはりここは心を鬼にして置いていくべきだと思いそれを引き剥がそうとするが、内心の恐怖心を現わすかのようにぷるぷると身を小さく震わしているのを感じとったミレーアは手を止めた。こんな目立つ場所にありながら卵を守る親がいない。もしかしたら親は既に別の魔獣に襲撃され命を落としたのかもしれない。もしそうならこのまま置き去りにすれば再び魔獣に襲われるだろう。それにもしここに自分がこなければどの道先のグレーウルフに襲われこの子は命を失っていた。そう連れ帰る理屈を捏ね始めたミレーア。
「あ……でも、流石にこのままじゃ駄目だよね?」
流石にテイムせずに街の中に連れ込むのは不味いと思いミレーアはそれを見る。
「みゅぁあ」
それが一鳴きするとミレーアは右の手の甲に僅かな熱を感じ取り、何事かと見ると文様のようなものが刻まれていた。
「これは?」
何だこれはと思いマジマジと見ると抱き抱えているとそれと魔力的な繋がりを感じ取り視線を向けるとその額に自身の手の甲と同じ文様が浮かんでいた。
「テイムしたってこと? でもどうして……」
訳が分からないと言わんばかりに困惑するミレーア。しかし、知識が足りず幾ら考えても答えなど出る筈も無い。彼女はそこでスパッと思考を切り替えた。とりあえずこれでこの子を街に連れていけると。
「あ、そういえば名前を考えてあげないと……フューアなんてどう?」
ミレーアの提案した名前にそれは……フューアは嬉しそうに「みゅぁあ」と一鳴きした。
「気に入ってくれたみたいだね。これからよろしくね、フューア!!」
フューアが名前を気に入ってくれたことに嬉しくなり少しだけ強く抱き締めるミレーア。それに答える様にフューアも嬉しそうな声をあげるのだった。
定番のマスコット枠




