第十七話 対策会議
「はぐれの聖女? 何だそれは?」
この街の教会のトップである大神官は神官からの報告を聞き眉をひそめた。神官から話を詳しく聞くとここ最近冒険者になった少女が回復魔法使いであり、既に重傷者すら治すことが出来るほどの使い手であるという話だ。回復魔法使いが在野にいることは遺憾ながら教会側の取りこぼしであり、本来ならその能力を十全に活かせるように教会が引き取るのだがそれも完璧ではなく辺境の村などで取りこぼしてしまうことが稀にある。
教会側もある年齢まで達すると回復魔法使いとしての成長が見込めなくなるため、自分から教会に入る意思を示さない限りは基本的には一度神官が勧誘に赴くくらいだ。尤も自由を選び冒険者から戒律等に縛られる教会に入る者はまずいない。そして、在野で回復魔法使いが大成することはあり得ない。回復魔法の適性があるものは最初に総本山に送られそこで暮らすことで能力を高めることが出来る。大神官である彼はその理由を知ることが出来る立場だ。故に在野の回復魔法使いが大成することは本来ならあり得ないことだ。
「先ずは情報収集だ。件の少女が本当にそれだけの能力があるのが調べよ」
「分かりました」
報告した神官も直接見たわけではなく、冒険者の世間話を偶然耳しただけだ。大神官は先ずは世間話が本当なのか調査を世間話の報告しに来た神官に命じた。世間話がただ大きくなり誇張されているだけならばそれで良い。もし世間話通りの能力を持っているならば……
「少し厄介なことになりそうだな」
出来れば世間話が大きくなり誇張されているだけなのが理想だ。そうであるような願うしかな今の彼には出来なかった。
「こんにちは」
「お、ミレーアちゃんが来たか。頼まれていたものを今持ってくる」
ミレーアが店に訪れるとドゥハーが待っていましたと言わんばかりに声を掛けた。ガントレットの見積もりを確認したミレーアは即決で購入を決め作製依頼をした。材料は硬くて軽いうえに値段も新人の懐に優しい魔蟲の甲殻を使用した。魔力を流すことによる強化こそ出来ないが新人が受ける依頼で倒す魔獣や魔物なら身体強化とこれで充分である。受け取ったミレーアは早速手に装着し、付け心地を確かめると軽くシャドーボクシングを行った。
「問題はなさそうです」
「そうか、それは良かった。―――にしても鋭い拳の突きだ。実はミレーアちゃんが徒手空拳で戦うって聞いた時はあのガントレットを見せられてなお半信半疑だったんだが、今の腕の動きを見て漸く信じられたよ」
ドゥハーも長いことこの仕事をやっており目は肥えている。ミレーアの腕の動きから相応の実力を持った者だと漸く納得したようだ。
「俺も長いことこの仕事やってるが、ミレーアちゃんの年でそこまで実力を持っているのを見たのは久しぶりだ」
「師匠に何度も打ち据えられて何とかここまでこれました。回復魔法が使えて自分で治療出来るからって容赦ないんですよ」
「文字通り死ぬ気で覚えたってことかい。嫌いじゃないぜミレーアちゃんの師匠のこと」
ハッハッハっと豪快に笑うドゥハーにもうっと言わんばかり頬を膨らますミレーア。年相応の仕草に彼は更に豪快に笑った。
「そういえば毎回来る度にドゥハーさんがここにいますけど、他の人はここに立たないんですか?」
初めて会った時、ガントレットについての相談の来た時とその次の日の見積もり確認の時もドゥハーがここで対応していた。
そのことに疑問に思ってミレーアが問うとドゥハーは少し渋いかをすると深い溜息を吐いた。
「元々はいたんだが懐妊したんで辞めたんだよ。まぁ、そこは良い目出度いことだ。そんで代わりを探しはしてるんだがこんな場所だし中々いなくてなぁ……そんで計算が出来る俺がここに立つ羽目になった。本当は当番にしたいところなんだがよぉ……残念ながら計算については大半をまだお勉強中だ。やれる奴は何人かいるが正直、計算が遅くってなぁ」
それで仕方なくいつもドゥハーが対応している。早く後任が見つかるか他の鍛冶師達もここに立ってられるようになってもらい自分も鍛冶に専念したいという思いが言葉の節々から伝わってきている。それにミレーアは何も言えず愛想笑いするしかなかった。愚痴を漏らしながらも紙に計算結果を素早く書いていくドゥハーにミレーアはこれに追い付くのは大変だろうなと自身の経験込みで思った。ドゥハーのためにも計算が速くなるよう他の鍛冶師達にミレーアは無言で応援を送った。
「よし確認も終わったし、後はこれをギルドに渡しといてくれ」
ドゥハーから書き終えた明細を受けとったミレーア。これをギルドに渡すことで今回のガントレットの代金がミレーアの口座から送られる形で武具屋に支払われる。明細を受け取ったミレーアは武具屋から出ると直ぐにギルドに赴き、その明細をギルドの受付に提出した。
「はい、ご確認しました」
「ありがとうございます」
支払いの手続きも終わり、何か受けられる依頼はあるだろうかとミレーアは探す。今日も既に主だった依頼は他の冒険者が受けてしまったうえに下水道関連の依頼も先日のこともあり、現在ギルドが調査中のためなのか依頼が出されていない。
「となると……」
現状は一人で受けられる依頼が無いため、それならばと薬草関係の納品依頼を探す。既に地図を何度も見直したことで、この街近辺の地形についてミレーアはある程度は把握している。納品依頼として出されている薬草の中でこの街近辺の環境に適しているものを探し、それらが生えていそうな場所を彼女は巡るつもりだ。
「これとこれか……運が良ければ生えてるかな?」
一通りの確認を終えたミレーアは小遣い稼ぎしつつ先日消費した自分用のポーション補充兼先程購入したガントレットの使用感を確認等を一番の目的とし、その序に納品依頼が出されている薬草を探すと言う方針で予定を固めた。今日の方針も決まり彼女は目的場所へ向かおうとした時、不意に声がかけられた。
「こんな時間に誰が熱心に依頼を探しているのかと思ったらミレーアだったか」
「あ、こんにちは」
ミレーアが声のした方を向くとそこにはルイーズがいた。
「今だと依頼なんて残ってないと思うけど、偶然何か良いのが残ってた?」
元冒険者だけにルイーズは今の時間帯だと碌な依頼など残ってないことを知っている。それにも関わず何処かに向かおうをするミレーアを不思議に思って声をかけたのだ。
「薬草の納品依頼です。何箇所か生えていそうな場所を巡ろうと思っています」
「ああ、成程ね。生息に適した条件を知っているなら見つけられる可能性もぐっと上がる。
それも師匠の教え?」
「はい、師匠に渡された本を読んで覚えました」
「そっか、時間があまり無さそうなのに引き留めて悪かったね」
「大丈夫です。どちらかというの購入したこれを試すのがメインなので」
それだけ言うとミレーアは出口へと向かった。ルイーズはそれを見送ると関係者以外立入禁止であるギルドの奥へと進み階段を昇り、廊下を少し渡ると扉の上のプレートに会議室と書かれた扉を開けた。そこにはこの街のギルドの幹部達が数日前に起きた下水道の件で既に集まっていた。
「全員揃ったようだな。全員まずは手元の資料を見てくれ」
司会進行する男性はこの街のギルドマスターだ。その言葉と共に他の幹部達は資料へと目を落とした。そこには書かれているのは先日の新種に関する報告を纏めたもの。最初の内容は戦いの記録。これは現場に赴いていたルイーズが作製したものだ。戦いによって判明した新種の能力などが事細かに記されていた。次の資料は討伐後のギルドが実施した下水道一帯の調査結果。入念の調査により下水道の壁に一か所、大きな穴が発見されたことで新種は穴を掘って下水道内部に侵入した結論付けられていた。
「……形態から穴を掘るのに適してはいないのでは?」
穴の大きさと討伐された新種と形態から考えて不自然な点があったため、それを疑問に思った幹部の一人が意見を出すとそれにルイーズが答えた。
「戦いの最中に脚を新たに生やしていたのでおそらく最初は脚が生えていなかったのではないかと」
「ああ、成程そういうことか。そして下水道の鼠や虫、行方不明となった冒険者を捕食し成長したと」
調査段階で新種に喰い殺されたと思われる幾人かの冒険者の遺体が発見された。下水道で鼠や蟲を甘く見て集られ命を落とす新人冒険者は珍しことではない。今月に入り少し多いなとは思われていたがギルドはそこまで重要視しなかったことが裏目に出てしまったらしい。話し合いは進み次は新種の解剖結果となった。
「確認されている魔獣とは明らかに違う体の構造。……倒した後の用途はどうです?」
「人ではまだ試してはいませんが、実験用の鼠が肉を食べなんら異常が無かったことから食すことに問題はないかと。また新種の牙や外殻を使った武具作製ですがギルド専属の鍛冶師からは素直で加工し易い上に性能も中堅以上の冒険者が使う武器として申し分ない性能を有してり、加えて魔法付与も容易という夢のような素材だそうです」
その報告にはその場にいた全員が驚いていた。話が事実ならそれは莫大な富を齎す可能性すら秘めており素材価値で言うならドラゴン系統に匹敵、この先最適な加工の仕方が考案され更に強力な武器が作れるようになれば加工が難しいドラゴン系統の素材を超える価値が生まれる可能性すらあった。
難点は報告書にも記載されているがベテラン冒険者を有した複数のパーティでも手を焼く程の強力な個体であることだ。パーティ単体で討伐できるのは上位冒険者でもほんの一握りになるだろう。リスクもあるが相応のメリットもある存在と言えた。
「証言ではあるが類型と思われる群れか」
報告書の最後に補足として記述されたミレーアの証言。情報源としては弱いがそれでも知っておいて損はないだろうと彼らは思った。そういった存在がいる可能性があると分かればそれを前提として対策を立てれるからだ。報告書を一通り読み終えた後、ギルドの幹部達が意見を出し合い本格的な対策会議へと話を進めるのだった。
仕事の関係で来週は投稿できないかもしれません。




