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第十六話 はぐれの聖女

10月24日 本文修正

「あ、ミレーアさん。丁度良かったのでこちらに来て貰えませんか?」


 ギルド幹部との話が終わり今日は何をしようかと考えていたミレーアはギルドの受付嬢に呼び止められた。

 仕事のピークも終わり人が殆どいないこともあって呼び止められたミレーアは並ぶことなく話を聞くことが出来た。


「何でしょうか?」


 自分が呼び止められた理由が分からず首を傾げ質問するミレーア。ギルドの受付嬢は机の引き出しから何かの用紙を取り出し内容を確認するとそれをミレーアへと見せた。


「ギルドからあなたへの特別報酬です。先日、大変ご活躍なされたということなので」


 あのことかっとミレーアは合点がいった。自家製の上級回復ポーションの提出と回復魔法による重傷者の治療。本来なら治療が間に合わず助からないだろう者達を治療したのだからそこに治療費が発生するのは当然と言えた。本来は治療を受けた冒険者がギルドを通して支払うものだが今回は依頼がギルドから緊急要請といことで治療費は経費として処理されており、ミレーアには冒険者からではなくギルドから特別報酬という形で支払われた。


「うわぁ……結構ありますね」


 思わぬ収入に幾らだろうかと書類を見て書かれている額にミレーアは驚いた。先のゴブリン討伐で得た報酬から食事や生活必需品等の必要経費を差し引いて残る金額から考えれば暫くは何もしなくても暮らせる額だ。


「新人の方で短期でこれだけの稼ぎをしたのはミレーアさんが初めてですね。それ故に気を付けてください。お金は容易に人を狂わせます」


 金に喘ぐ冒険者が進退窮まって別の冒険者から奪い取るために殺害することが稀にある。報酬の大半はギルド側に預けているとはいえ、手持ちに一銭も無いということはありえない。端た金だったとしてもその日の食事代にすら喘ぐ者からすれば奪いに値するものなのだ。また思わぬ大金を手に入れたことで羽目を外し破滅へと自分から向かってしまう者もいる。お金は生きていく故に必要なものだが、そこに潜む危険性も考えなければならない。


「分かりました。十分に気を付けます」


 人生経験がまだ豊富ではないミレーアはそのことを全て理解している訳では無いが、ギルドの受付嬢が本気で忠告していることだけは伝わりそう返答した。報酬の確認も終わりギルドから出たミレーアは貰った多額の報酬をどのように使うべきか考える。実のところ彼女は現状そこまでお金に困っている訳ではなかった。この街に来た時に彼女が売った彼女の師匠が支度金代わりにと置いていった魔獣の素材を売ったことで手に入れたお金によってそれなりに余裕があったからだ。そこへ今回の報酬で手に入った多額のお金。その使い道をどうするべきか彼女は悩んでいた。


「……ああ」


 鍛冶屋の看板を見てピタリを歩みを止めたミレーアは声を漏らした。その表情は丁度良いものを見つけたといった感じである。師匠からの貰い物の中でガントレットだけが性能が高すぎるため、自身の技量向上も考えて下水道のような緊急時以外は出来るだけ頼らないようにしてきた。かといって何も着けていないのもこれから先のことを考えると良いとは言えない。素手で触っては危険な魔獣が出た時にまた頼らざるえないからだ。鍛冶屋の看板を見て今受けられる依頼に丁度良い性能のものが欲しいと彼女は思ったのだ。

 とりあえずどういったものがあるのか話だけでも聞こうと店内に入ると、丁度良いことに数日前に魔獣の素材を売る時に対応してくれた鍛冶師が店番として立っていた。


「いらっしゃい。お、少し前に素材を売りに来た嬢ちゃんか。そういや名前をまだ名乗っていなかったな俺はドゥハーだ」


「こんにちは、私はミレーアです。今日は殴るのに適したガントレットを探しに来ました」


「打撃用のガントレットか? ミレーアちゃんは武闘家なのか?」


 驚いた表情をするドゥハー。魔力による身体強化があるとはいえ、鍛えてはいるがどちらかと言えば細身であるミレーアが自分の拳で戦うとはドゥハーは思わなかったようだ。


「武闘家かは分からないですが、師匠に教えて貰った戦い方が拳と足です」


「……てぇと前に一人で仕留めたブラック・ボアは」


 あることに気づいたドゥハーが恐る恐る尋ねるとミレーアは何だろうかと思いながら答えた。


「最初は棍棒も使いましたが効果は薄かったので拳が主になります」


 そう答えたミレーアを見てドゥハーは天井へと視線を向けた。猪魔獣であるブラック・ボアの突進は重装騎士の持つ大盾を凹ませ使用者ごと跳ね飛ばす程強力だ。そのため基本的には弓矢や魔法で倒すのが一般的となる。突進中は左右への軌道修正が悪くなることを利用し近接職で熟練の冒険者なら突進をギリギリのところで横へと躱し、側面からの攻撃で仕留めるたりもする。しかし、それは武器のリーチがあるからこそ可能なことであって素手で行うとなれば討伐の危険性が大きき跳ね上がる。ブラック・ボア自体も硬い毛皮と発達した筋肉で身を守っているため、生半可な肉体強化による拳の一撃なぞ痛痒にすらならないだろう。ドゥハーとしてもまさか素手倒していたとは思っていなかったため呆れ半分、自分の鑑識もまだまだなと反省が半分といった感じで溜息を吐いた。


「一応、今使っているものもあるけど性能が高すぎて困ってるんです」


「ん……? その今使っているガントレットを見せてもらっても良いか?」


 どうゆうことだと言わんばかりにドゥハーがそう聞くとミレーアはマジックバックからガントレットを取り出し見せた。


「……あ~成程な事情はよく分かった」


 ドゥハーはミレーアが取り出したガントレットが生半可な武器でないことに一目で気づいた。彼に魔法の適性は無いため付与されている魔法については一切に分からない。ガントレットの造形からこれが相当な腕前の職人が作り出した一流品だと彼は見抜いていた。そして、このガントレットを作り出した人物の腕前が自身の遥か先を行っていることも理解し悔しく思っていた。


「はぁ……確かにこれは新人が受けられる依頼でやりやうことになる魔獣を倒すには過剰だな。虫一匹追い払うのに中級魔法を使うようなもんじゃないのか?」


「はい、だから今のランクに見合ったものが欲しいんです」


「それは良いが剣や槍とかと違って一般的なものじゃないから受注生産になる。資金は……問題無いか」


 武器と違い己が拳で戦う者は少ない。武器と違い柔らかく鋭さも無い拳で魔獣に痛打を与えるとなればそれだけの破壊力を出すだけの身体能力強化をコントロールする技量とその反動に対する魔力による保護を同時に行わなければならないからだ。ミレーアがブラック・ボアを素手に倒したことにドゥハーが驚いたのもこれが理由である。単純に殺傷能力だけを求めるならそれを目的とした武器を使った方が遥かに楽だ。そういった事情もあり打撃用のガントレットは受注生産になるため他に比べて割高だ。そのためミレーアが払うことが出来るか問おうとしたが、彼女が初めてこの店に来た時に売りに来た魔獣等の素材で資金が充分事足りることをドゥハーは思い出した。尤も無駄使いに重ねていなければではあるがミレーアが無駄に散財しているような性格には思えずドゥハーはまだ残っている前提で話を進めていた。


「臨時の報酬もありましたから幾らか余裕があります」


「そうかい。儲かっているなら何よりだ。それじゃあ、先ずはサイズを測るから机の上に手を出してくれ」


 紙とペンを取り出すと机の上に出されたミレーアの手のサイズを計測するドゥハー。そこへ幾人かの冒険者が来店してきた。


「おっちゃん武器が壊れたんで作ってくれ。今回はギルド持ちだからかなり余裕がある」


「少し待て、この嬢ちゃんの手のサイズを測ったら話を聞く」


「おう、分かった……ああ、あの時の新人ちゃんか先日は助かった」


 入店してきた冒険者の男性は何処かで見たことあるぞっという顔をしてミレーアを見ると横顔ではあるが直ぐにミレーアであることに気づきそう礼を述べた。


「はい?」


 何のことだろうかと思い顔だけを向けるミレーア。自分に礼を述べた男性の顔を見ると先日の討伐の際に治療した冒険者の顔と一致したことで礼を述べられた理由に納得した。


「あのまま一人じゃ私は死んでいましたから、私の方こそ助けて頂いてありがとうございました」


「あれから一人だけで逃げて生き残るだけでも大したもんだ」


 実際にあれと戦ったからこそ分かるベテラン冒険者からミレーアへの称賛の声。褒められ少し恥ずかしくなったミレーアは頬を薄く紅潮させた。


「よし、次は反対の手だ。それにしてもベテランの奴らが揃って武器を壊すとは先日の魔獣はそんなに強かったのか?」


「詳しくは話せないがかなり強かった」


「そうかい、ならこっちもそれに敵うような武器を作らねぇとな」


 先日の討伐に参加していた近接職の冒険者が軒並み武器を壊して戻ってきた。最後の足止めの際に無茶な使い方をしたのが原因ではあるが、それが一人二人なら未だしも討伐に参加していた近接職のベテラン冒険者が殆どとなれば武器の性能も足りなかったのは明白だ。そのため今、ドゥハーを含めた鍛冶師達はもっと優れた武器を作ろうと燃えていた。特にドゥハーは先程のミレーアが取り出したガントレットを見たことでそれを目指すべき目標と定めてすらいた


「よしこれで終わりだ。必要な素材の見積もりもあるから値段は明日の昼くらいまでには出す。この番号札を持ってまた来てくれ」


「分かりました」


「それじゃあ頑張ってな、はぐれの聖女ちゃん」


「―――それって私のことですか?」


 ドゥハーから番号札を受け取ったミレーアが店から出ようとすると順番を待っていた冒険者がミレーアのことをそう呼んだ。最初誰のことを言っているのか分からなかったが状況から自分だということを察した彼女は困惑しながら聞き返した。


「おう、在野に稀にいる回復魔法使いの中でも君がピカイチだからな。あの討伐に参加した奴ら全員そう呼んでるぜ」


 いつの間にかそんな通り名が付いていたことにミレーアは驚いた。冒険者の中には公だの姫などの文字がついた通り名を付けられた冒険者もいるが、聖女の名の付いた通り名を付けられるたのはミレーアが初となるだろう。


「おいおい、ミレーアちゃん回復魔法は使えるうえにそんな通り名が付けられるくらい優秀なのか?」


 ドゥハーも驚いた顔で改めてミレーアの方を向いた。


「ああ、殆ど致命傷って言っても差し支えない程の傷を負った俺を瞬時に治療したくらいだからな」


「そいつはすげぇ!! 聖女の名がついた通り名で呼ばれるのも納得ってなもんだ」


「えぇ~と……あ、明日また来ます!!」


 冒険者の返答に驚いた顔で素直な称賛をドゥハーは口にした。それを聞き更に恥ずかしくなったミレーアは顔を真っ赤にし店から慌てて飛び出したのだった。

タイトル回収

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