第十五話 新種
「あ~あれのことか……ミレーアも大変だったね」
地下水路の戦いの数日後、外出自粛をギルドから言い渡されていたミレーアはギルドから呼び出され数日ぶりにギルドに顔を出した。そこへ依頼を受けたアレンがミレーアを見つけ冒険に誘ったのだが先日の非常事態宣言の関係でギルドに呼び出されため今日は無理であることを伝えた。彼はその場にミレーアがいたのを察したのかそう労いの言葉を口にした。
「それじゃあ、またね」
「また今度」
アレンと別れたミレーアはギルド職員に名と要件を告げると奥へと通され防音魔法が施された部屋へと案内された。入室するとそこには先日に討伐で冒険者を纏めていたルイーズと他にもこの街のギルドの重役と思われる男性が二人いた。一人は壮年の男性であり、如何にもバリバリ働いていますといった風貌だ。もう一人は三人の中で一番年長だと思われ、顔には年を重ねたことによる皺が多く刻まれているがその眼光はまだ衰えておらず油断なくミレーアを見据えていた。
「失礼します」
「ああ、来たね。……今日呼び出した理由だけど先日倒した魔獣にことについて何か情報がないか聞きたくてね」
最初に口を開いたのはルイーズだ。話の内容はミレーアの予想通りだったと言えたが、彼女としても話せる内容は殆ど無い精々……
「すいません。私もあの魔獣のことはよく分からないです。昔、類型っぽい魔獣に襲われたことはありましたが」
「待ちたまえ……類型に襲われた? その時のことを話して貰えるか?」
ミレーアの言葉に壮年の男性が鋭い声で聞き返してきた。ミレーアはそれに気圧されながらもその時のことを話し始めた。それは彼女とって両親を失った辛い過去でもあり話を終えた後、聞き返してきた男性は申し訳なさそうな表情で口を開いた。
「すまない。辛い過去を思い出させてしまった」
「―――ただそれでも彼女から有用な情報が聞き出せたのは僥倖だ。形態や群れで行動していたという違いはあるが頭部に口以外の部位が無く、爬虫類のような体に甲殻類のような脚を持つ魔獣などそうそういるものでは無い。他に何か情報はないかね?」
冷静にそう情報を精査した一番の年長である男性は他に何かないかと尋ねるが、ミレーアとしても当時は幼いことも相まって多くを見た訳ではない他のあると言えば師匠のことしかない。
「あ……」
そこで師匠と初めて出会った時の言葉に違和感を感じた。あの時、師匠は本来の餌が見当たらなくてと言っていたつまりそれは……
「何か思い当たることでも?」
ミレーアの反応から何かあると察した一番の年長である男性が改めて聞くとミレーアは少し自身の無さそうな表情でそのことを話した。
「……確かにその師匠とやら何かを知っている可能性はあるな」
「問題は何処にいるのか分からないということか……師匠の名前は?」
「すいません。師匠と呼びなさいとしか言われてなくて名前は知らないんです。後は傭兵としか知りません」
一緒に暮らしていた当時も名前を名乗ろうとはしなかった師匠。拾われ少し成長した後は信用して貰えていないのかなと不安にもなった。それでも突然書置きでいなくなるまで親身に世話をしてくれたし生きるための知識も教えてくれた。そのためミレーアにとっては第二の母親と言える存在だ。
「そうか……もし今後、会う機会があったらギルドに来てくれるよう伝えてくれ」
「分かりました」
本当に何処にいったのか分からないが、最初の出会いも思い出せば偶然だったなミレーアは思った。ならば何処かでまた偶然出くわすこともあるかしもれないと彼女はそれを期待することにした。
「お話はこれで終わりでしょうか?」
これ以上はあの魔獣に関して話せることはミレーアには無い。最もギルド側からすれば彼女が先日の大型魔獣の類型について知っていことだけでも十分な情報と言えた。
「そうね……先日から気になっていたのだけどミレーアちゃんの使っていたガントレットを見せてくれる?」
「良いですけど」
どういう意図だろうか疑問に思いながら別に隠すようなことではないため、マジックバックからガントレットを取り出しルイーズに手渡した。
「……質問だけどこれは何処で手に入れたの?」
「師匠から貰いました」
「そっか良いものを貰ったのね……まだ貰ったものとかある?」
「他には……」
取り出したものを見てルイーズ達は絶句した。ミレーアが見せたのは前にシャーリィ達にも見せたことのある牙付き棍棒である。釘バットならぬ牙バットと師匠に命名されているがミレーアにはどういう意味かは分からなかった。
「あ~うん。それも凄い武器だないろいろと……」
とりあえずそんな感想しか出なかった壮年の男性ギルド職員。まだあるとミレーアは言い別の武器を取り出そうとするが今の武器だけでお腹が一杯になった三人はもう出さなくて大丈夫だとだけ伝えた。話はこれで終わりとなり最後に外出自粛の解除だけ伝えるとミレーアは退室し、残されたギルド職員ははぁ~とだけ一度、息を吐いた。
「いや、最後のあれ何? どう見ても聖樹で作られてたよな!?」
「埋め込まれている牙は聖獣ものだったね。真っ当な武器に仕立て上げたら最高ランクの冒険者が持つ立派な武器になりそう」
「流石にあんなとんでもなのが、まだあるなんてことはないよな?」
「ハハハ、あるとするなら巨大なアダマンタイトの原石を括り付けて作られたハンマーとかな?」
「やめろ……本当に出てきそうで怖い」
同僚の冗談を真剣の顔で止めた。そこで会話が一旦止まり無言のとなるが最初のルイーズが口を開いた。
「それ最初に見た彼女のガントレットだけど……バリテルトはどんな印象だった?」
「ん? 傍目にしか見ていないがかなり良いものだとは感じたな。ラーメルトさんはどうでした?」
ルイーズに話を振られた壮年の男、バリテルトは手に取ってじっくりと見ていない為、良いものを使っているなという感想しかない。
彼は一番の年長であるラーメルトに尋ねると彼は腕を組むと神妙な顔で口を開いた。
「……相当腕の良い職人が作製したものだな。正直、王族の専属の職人が作ったと言っても信じる程のものだ。それで実際に手に取って調べたルイーズの評価は?」
ラーメルトの品評に驚いた顔をするバリテルト。そんなもの一介の傭兵が手に入れられるものでは無いし、ミレーアの師匠の裏には相応のバックがいるのが妥当だと考えられた。
「文字そのものが見たことのないものですが、魔法関連の付与が隅々まで施されていることだけは分かりました。あのガントレットに魔法を付与した者はエルフと同等かそれ以上の腕前の持ち主です」
人前に顔を殆ど出さなくなったエルフだが、彼らが使っていたマジックアイテムなどは未だ多く残されている。性能が高いものは王族の宝庫や上級貴族などの家宝として保管しているものが殆どであり稀に遺跡で発掘されることがある。高位の冒険者ならば冒険の折に見つけたもの所持していることはある。ルイーズも現役冒険者の頃は遺跡で見つけたもの所持し使っていた。その時に使っていたものと比べるとミレーアが使っていたガントレットに付与されていた魔法は解読できないため詳細な数は分からないが、それでも異常とも言える量が付与されていることだけがルイーズに分かった。
「……しかもあれ所有者登録らしきものがされていましたから、最近作製されたものです」
「それだけの腕前を持つ者なら何処で話くらい聞きそうなものだが……」
本当にミレーアに関しては謎が多い。尤もそれ以上に分からないのが―――
「一番の問題は彼女の師匠の思惑がまったく分からないことか」
ミレーアをあそこまで鍛え上げ、ポーション作製の知識を身に付かせ最高品質の武具を与えて行方を眩ませた意図がまったく読めない。あの年であれだけのことかが出来るならばそれこそ引く手数多だ。冒険者ギルドとしても手放したくない人材であるが、ミレーアの話が広まれば彼女を引き抜こうとする者達が冒険者達以外にも多く現れるだろう。幸いなことは生半可な相手では返り討ちになるため、力尽くでどうこうという心配はしなくて良いことくらいである。
「考えても仕方が無い……例の魔獣はどうだった?」
話を切り替えラーメルトは先日の魔獣の調査結果をルイーズに尋ねた。報告書が提出されていないことからまだ調査中なのだろうがそれでも現段階で分かることもだけでも彼は知りたかった。彼女は魔獣の研究する部署では無いが討伐の指揮をしていたことと何かあった時の護衛として魔獣の調査に参加しており調べられた内容の詳細も既に知っている。
「肉体構造が魔獣どころか既存の生物と一致していません。あれは魔獣とは違う未知の生き物ということが判明しました」
魔獣も生物であることには変わらない為、肉体構造は普通の野生動物と共通点は多々ある。しかし、先日討伐された大型魔獣と思われた個体は肉体構造が骨格の段階から異質だった。内臓に至っては捕食器官は存在するのに胃と排泄器官に相当するものが体内に存在しておらずどのように生きているのかすら不明である。
「魔獣ですらない、か……新たな脅威。どんな些細な情報でも欲しいところだ」
魔物や魔獣の被害に頭を悩ませている中で新たな脅威の出現にラーメルトがギルドに長く勤めている身として頭を悩ませた。新種の調査が終われば更なる新たな情報が報告されるだろう。それに戦々恐々しながら今後どのように動くか彼は思案する。まずはこの街のギルド長への報告。そして、その後は王都の本部への報告になり、そこから各支部への伝達。近々行われる王都での会議で本格的な対策会議が行われることになるだろう。その前に収集出来る情報は可能な限り集めておかなければと決意するのだった。
アダマンタイトは武器にはなっていない




