第十四話 討伐
「ち、こいつ!? 雷を使えるようになったのか!!」
前衛で大型魔獣を引き付けてきた冒険者に向けて大型魔獣が角の先から雷を出し攻撃を行った。幸い狙われた冒険者は魔法効果が付与された盾を持っていたことで問題は無かったが新たに判明した事態に頭を悩ませることとなった。先程まで雷を使う素振りすら見せなかった大型魔獣が今になって雷を使い出したことで、先の冒険者達が痛手を被った大放電の際にこの魔獣は自力で雷を生成出来るようになったという最悪の可能性が浮上したからだ。足止めに使った水魔法や凍魔法は使う素振りすら見せないことからライトニングスピアを受けた際に身に危険を感じ防衛本能から発現させたのだろう。それは他の属性魔法でも身の危険を感じれば発現させかねないという危険性を孕んでいた。仕留める時は一瞬で即死させなければ、ますます冒険者側が不利になる。しかし、その為には相手の何処を狙えば良いのかまったく分からない。顎はミレーアに砕かれた状態であり、あれだけの衝撃を受けて尚問題無く活動していることから頭部は弱点ではないと冒険者達は候補から外した。セオリーで道理で行くならば心臓があるだろう胸部だ。しかし、この未知の魔獣にそれが通用するのか冒険者達には確信が持てず二の足を踏んでいた。更に角の先から雷を周囲に向けて拡散するように放射するため、冒険者達は迂闊に近づくことが出来なくなっていた。絶え間な無く雷を放射し続けることから直ぐにスタミナ切れを起こすかと思われたがその兆候は見られない。対して冒険者側は終わりの見えない戦闘に疲弊し始めていた。このままでは不味いとルイーズはどうするか思案する。
「分の悪い賭けになるが四の五の言っていられる状況でもないか―――レイとアルマ、確か二人で研究中の魔法があったね?」
名を呼ばれた二人はルイーズの言葉にすまなさそうに答えた。
「ありますが、あれは準備が長すぎて実用に耐えるものでは……」
「だけど、増援の期待は出来ないしそれしか他に方法が無い。時間がこっちで稼ぐから準備して」
多くの冒険者が依頼で出払っており、追加の増援が来るとしてもまだまだ先になるだろう。それを待っていたら全滅は必至だ。そのため拒否権は無いと言わんばかりの命令を下すルイーズに二人は渋々とだが魔法の準備を始めた。
「さてと、二人に任せるんだから私も頑張らないとね」
二人が抜けた穴を埋めるためルイーズも本格的に攻撃に参加するつもりだ。
「先ずはその厄介な電撃を止めて貰おうか」
杖を先を床にコツンっと当てると大型魔獣の体に大量の水が覆いかぶさった。角から電撃を放出し続けていた大型魔獣はそれによって漏電し自身の電撃によってその身を焼かれた。大型魔獣は何が起きているのか分からないのか更に強力な電気を放出するがそれが更に自分の身を焼くこととなった。体を焼かれる痛みに咆哮を上げる大型魔獣。痛みから逃げるように体を出鱈目に動かすがそもそもの原因が自身の放つ電撃が原因なことにまるで気づいていない。
「予想外の展開だね、これは」
魔法を発動させたルイーズすらも予測しえなかった展開に困惑した。おそらくは本来自身には無かった能力を方法は不明だが追加したもののその危険性を理解していなかった。その無知が自分に対して牙を向いたのだと彼女は予想した。だがこの好機を逃すまいとレイとアルマは急いで魔法の構築を急いだ。構築されたのは土を固めて作られた巨大な杭のような弾丸とそれを射出するような土台。これは土で作られた杭や土台に磁力を帯びさせることで電磁力で弾丸を射出する魔法であり、土属性と雷属性の魔法使いが協力することで使うことが出来るレイとアルマのオリジナル魔法だ。理論は完成し形にはなったものの術式自体はまだ煩雑で最適化もされておらず杖にも登録もしていないため、全て詠唱で術式を組み立てなければならない。また実戦で使うには問題点も多いため、とてもじゃないが現状のままでは実用に耐えるものではない。それでも威力そのものは目標を達成しており、今戦っている大型魔獣を撃ち抜くだけの威力があると二人は確信している。ルイーズの一手で予想以上の時間稼ぎが出来たことで詠唱による術式の構築は進みあと一歩で完成というところだ。しかし、この魔法の欠点の一つ目が牙を向いた。自身が生み出す電気によって苦しんでいた大型魔獣がレイとアルマのオリジナル魔法に気づいたのか目の無い顔をそちらへと向けた。
一つ目の問題は発動までに時間が掛かる上に完成までに大量の魔力を使うために察知され易いことだ。込められた膨大な魔力に気づいた大型魔獣がそれが自身を脅かすものだと察したのか二人に向けて咆哮を発した。二人に気が向いたことで角から発せられていた電撃も止まり、電流による痺れから解放された大型魔獣は真っ直ぐにそちらへと向かった。
「何としてでも足止めをしろぉ!!」
冒険者の誰かの必死の叫び。魔法の邪魔させるわけにはいかないと言わんばかりに他の冒険者達は大型魔獣の電撃が止まったこともあり形振り構わず止めにかかる。大盾持ちが進路上に割り込み身体強化を最大にして抑え込むうとするが少し拮抗を見せるだけだ。それでもその少しの拮抗の間に他の近接職の冒険者が足元に近づき同じように身体強化を最大にし己が武器が壊ればかりの勢いで振るう。幾人かの冒険者の武器が衝撃に耐えきれず砕け散る中で一人の冒険者の戦斧の一撃が今までの累積されたダメージもあって大型魔獣の脚の一本を砕いた。それによってバランスを崩しふらついた大型魔獣。しかし、三対六本のうちの一本の脚が潰されただけで直ぐに体勢を立て直し周囲の冒険者を邪魔だと言わんばかりに暴れ薙ぎ払った。邪魔者を薙ぎ払い再度動き出す大型魔獣の前に幾つもの魔法障壁が出現した。残りの魔法使い達が足止めをするために協力し生成したものだ。その硬度は並では無く大型魔獣の全体重を乗せた体当たりを受けて大量の罅が入ったものの防ぎ切った。しかし、もう一度は不可能だ。再度の体当たりで破壊されたものの同時にレイとアルマの魔法が完成し後はトリガーとなる言葉を詠唱し射出するだけだがそこに二つ目の問題が牙を向いた。
「く……!? このままじゃ射線が合わない!!」
先の脚を砕きよろめいたことと大型魔獣が暴れたことで魔法の射線から外れていたのだ。二つ目の問題は一度発動させてしまうと射線の変更が出来ず相手が射線から外れてしまうと修正が出来ないことだ。誰もが作戦の失敗の二文字を思い浮かべた。この作戦に全てを懸け近接職は愛用の武器を犠牲にし魔法使いは協力し魔法障壁を作った。それら全てが無駄になる。何か策はないかと頭を巡らすルイーズだが、とてもじゃないが思考に時間が足りない。迫る大型魔獣から逃げることも出来ずにいるレイとアルマ。その二人の前に誰かが大型魔獣に立ちはだかった。
「あれは新人ちゃん!?」
「はぁああああ!!」
裂帛の叫び声が響き次に打撃音が響き渡った。ミレーアの拳による渾身の一撃が大型魔獣を怯ませると同時に魔法の射線へと強引に戻した。
「今です!!」
ミレーアの叫びにハッとなったレイとアルマ。大型魔獣が射線に戻ったことを確認した二人は魔法発動に必要なトリガーの言葉を口にした。
「「シュート」」
同時に発せられた言葉によって魔法が発動し、射出された杭の一撃が大型魔獣の胴体を貫いた。胴体を貫かれ重々しい音を立てながら断末魔も無く崩れ落ちる大型魔獣。その場にいた冒険者達は油断せず様子を窺う。
雷魔法の一件からまた何かこの大型魔獣が起こすのではないのかと冒険者達は警戒していた。そうしてどれだけ待っても動き出さないことから冒険者達はようやく警戒を解いた。
「目標の討伐を確認。みんなお疲れ様」
労いの言葉を冒険者達に掛けるルイーズ。緊張から解放された反動か幾人かの冒険者はその場に尻餅をついたが、ここが下水道のことを思い出し慌てて尻を上げたがそこで冒険者達は漸く周囲がおかしいことに気づいた。
「なんか綺麗じゃないか?」
「確かにまるで作り立てに思えるくらいだ」
不思議そうに周囲を見渡す冒険者達。あ、やばいと思ったのかミレーアは極力悟られない様に素知らぬ顔をしようとするがそうは問屋が卸さなかった。
「そういえば新人ちゃんはここにいたんだよな? 何か知らないか?」
「え……と、その……」
どう答えれば良いのか戸惑うミレーア。正直に答えるべきが誤魔化すべきが考えているとまるで助け舟を出す様にルイーズが冒険者達に指示を出した。
「ほら、魔獣を倒したんだから周囲の警戒。まったく見たことのない新種だから徹底的に調べて対策を立てる必要があるかね」
このまま適当に置いておけば下水道に住んでいるスカベンジャーにあっという間にこの屍を食い散らかさられてしまうだろう。これが普通のよく見る魔獣ならそれでも構わないのだが類型を見たことが無い体格の上に雷魔法を受けたことで雷能力を獲得するという前代未聞の力を見せたこの魔獣の危険度は下手をすればドラゴン種に匹敵するだろう。そのため、出来るだけの今の状態のままギルドに持ち帰り調査する必要があった。
「魔獣の討伐達成の報は今伝えたから少しすれば回収班が来る。各自はそれまでの間、周囲を警戒し血の匂い誘われた魔獣の対処。怪我人は……また頼んで大丈夫?」
既に幾人か治療し、魔獣の最後の足止めを行ったミレーア。魔力も相応に消費しているだろうと考え余裕があるか確認すると彼女は丁度ポーションを飲んでいた。
「まさか……それも自家製?」
「はい」
魔力を回復させるポーションは材料の入手が難しくその値段故に新人が買えるものでは無い。仮に材料を入手したとしても冒険者ならそれでポーションを作ろうとはせずさっさと売り払うだろう。そんな高価なものをまるでそこらで手に入れた水のように惜し気なく飲んだミレーア。本来はベテランの冒険者がもしもの時のために所持しているものである。
今日の何度目かの驚きに唖然としているルイーズの横で魔力の回復を確認するかのように何度か掌をグーパーグーパーと開いて閉じてを繰り返したミレーアは治療のために怪我人の元へと駆け出したのだった。
1面ボス撃破




