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第十三話 回復魔法

「何あれは……? あんなことする魔獣見たことが無い」


 指揮も兼ねて後方にいたルイーズは体に新たな部位を生やした魔獣を見て顔を顰めた。分類不明な未確認の大型魔獣相手では今の戦力で問題無いのか判断がつかないからだ。相手の力を見誤れば最悪大きな痛手を被ることになるだろう。特に今いる冒険者は大型魔獣の依頼を受けられる簡単には変えの利かないベテランの冒険者だ。こんなところで無為に失って良い人材達ではない。かと言ってここで撤退して大型魔獣を野放しにするのも論外だ。このまま地上に上がれば街に大きな被害が出てしまうだろう。


「あ~やだやだ。ギルドの職員になってからこんなことばっか考えるようになったね」


 冒険者をやっていた頃はもっと単純だった。経費が当初の予定よりも少し嵩んでも命には変えられないと仲間と笑い、次はもっと無駄を省こう等と言うだけだった。ルイーズは計算が得意なこともあって冒険者をやっていた時はパーティのお金の管理を行っていた。辺境の寂れた村の生まれだが魔法に関しては突出した才能があった彼女は運良くその才能を恩師に見出され教えを受けたことで魔法を学ぶことが出来た。恩師から魔法を学んだ後、冒険者となり実戦経験も多く重ね当時組んでいたパーティも高ランクまで上り詰めた。パーティが解散することとなり今後をどうするか考えていたところその才能を高く買われ後進の育成も兼ねてギルドの魔法部署に誘われたことでギルド職員となった。危険も無く給与も文句無し。出身が辺境の寂れた村である彼女からすれば十分な立身出世だ。後進の育成も嫌いでは無く楽しいのだが、冒険者をやっていた時と比べ何処が物足りないと思うこともある。たまには昔みたいに冒険がしたいなと思うことが何度かあるが立場と柵がそれを許さない。そうこうしている内に時が経ち今のようなギルドの損得を最優先で考えるようになったのは何時からだろうかと思考が脇に逸れ始めたところで「いかん、いかん」と思考を大型魔獣の対処へと戻した。


「―――そこの新人ちゃんは何か情報はある?」


「……この目で見た訳じゃないですが、光の筋のようなものを出してあの壁を破壊しました」


 ミレーアが指差した先をルイーズが確認すると砕け散り大穴が空いた壁があった。それが先の崩落の原因であることは直ぐに察しがついた。


「ブレス持ちか思った以上にに脅威度が高い。……相手はブレス持ちだそうだ!! 各自注意して行動して!!」


 ミレーアから齎された悪い情報にルイーズは声を張り上げ冒険者たちに今の情報を伝えた。それを聞いた冒険者達は大型魔獣の口元に注意を払い行動する。流石と言うべきが誰かが囮となり攻撃を引き付けその隙をついて別の冒険者が大型魔獣の懐に潜り剣を振るう。最初は足止めするべく足を切り落とそうとしたが甲殻類のような脚は見た目通りの硬さを持ち、関節も刃が通らなかったことから魔力で強化し防御力を上げていると判断され早々そこを重点的に狙い動きを止める作戦は変更となった。鱗に覆われた体も硬いものの脚の甲殻に比べれば魔力による強化が弱いのか浅く切り付けることが出来た。しかし剣を振るい切り付けた冒険者からすれば満足な成果と言えるものではない。

 

「予想以上に硬いな」


 大型魔獣を切り付けた冒険者は後ろに下がり渋い顔でそう判じた。それを見ていた冒険者達も同意見だ。魔獣は魔力で体を強化することを生態として備えており、体が大きければその自重に耐えられるように魔力の生成量と身体強化の能力が上がる。身体強化による肉体の強度が目の前の大型魔獣は同サイズに比べかなり堅牢だった。故に生半可な攻撃では致命傷を与えることは不可能だと冒険者達は判断した。となれば魔法使いの役目だ。前衛が盾となり抑えその間に魔法使いが高威力の魔法で大型魔獣を攻撃する作戦へと切り替えた。


「となれば後は属性に対する耐性を確認するしかないね」


 ルイーズは支持を飛ばし大型魔獣の魔法に対する耐性を確認するために初級魔法で攻撃するように魔法使いに指示を出す。炎、水 風 雷 凍 土と順番に初級魔法を使い冒険者達は耐性を確認する。光と闇の魔法使いは今回の討伐依頼では確保することは出来なかった。希少属性であり数が少ないため仕方が無いと言えた。

 最も光と闇に耐性及びそれらが有効な魔獣や魔物は限られており目の前にいる大型魔獣にはそれらを弱点するような特徴は元から見受けられない。


「どの属性も耐性は無し……必要なのは純粋な威力か」


 魔法が大型魔獣に当たる瞬間に魔法が弱まるような兆候は無かったことからどの属性も問題無く通るとルイーズは判断した。前衛を巻き込まず限られた空間内で威力のある中級魔法を使う。使える魔法が限られるため面倒だ彼女は感じた。いっそのことを地上ならば考えることは少なくて済むが態々地上に出し暴れさせるのは後で責任問題になるため却下だ。他の冒険者に指示を出しながら助けた新人が先程と見せた拳の一撃を自在に使えるなら話は早かったなと思いミレーアに視線を向けた。彼女は瞬きも忘れたかのようにジっと戦いを見ている。上位の冒険者の戦いを間近で見ることはそれだけでも一つの勉強になる。向上心の高い新人だと感心したルイーズだが違和感を感じ、ミレーアの視線の先を追うとそれは戦っている冒険者達ではなく大型魔獣に向いていることに気づいた。何かを探すように見ている彼女を不思議に思ったルイーズが質問した。


「何を探しているの?」


「……実はさっきの攻撃した時、あの魔獣から私の拳に向かって何かが流れてくるのが見えてそれが何か確かめようと思い見ていました」


 ミレーア本人もあれが何だったのか分からない。それでも何故か利用出来た分けだがその理由が分からず、今は見えていないことから利用出来たことを含め気のせいだったのでは?と思い始めたくらいだ。


「魔力ではなくて?」


「多分違うと思ますけど……今は見えないのでもしかしたら何かの見間違いかもしれません」


 魔法には相手の魔力を奪い取るものもあり、知識からルイーズがそう聞き返すがミレーアは自信なさげではあるが否定した。話を聞いたルイーズは改めて大型魔獣の方を見るが、彼女の目にはそれらしきものを見えない。気になる話ではあるが彼女は考察は後に棚上げし状況確認に集中した。

 雷魔法使いが中級魔法「ライトニングスピア」をいつでも放つことで出来るように準備を終えている。貫通力が高く硬い魔獣を倒す時に重宝される魔法だ。貫通力もさることながら攻撃ヒット時に電撃による感電効果もあり、雷の資質を持ちある程度の実力を身に付けた魔法使いの冒険者が真っ先に習得する中級魔法だ。更に威力が上昇するようカスタムされており、ルイーズが先程指示した通りのものが出来上がっていた。準備が整った合図を受けたことで前衛の冒険者達は下がり、水魔法使いが大型魔獣の足元に大量の水を纏わせ凍魔法使いが冷やすことで凍らせ足止めを行った。そこへライトニングスピアの一撃が放たれた。狙い狂わず直撃し、その場にいた誰もがこれで終わった思ったのは無理なかぬことだろう。しかし、ライトニングスピアによって強化していた体表を突き破られその身を大量の電撃が駆け巡り咆哮した大型魔獣は驚くべき行動を見せた。


「なんだ急に光が強く……?」


 ライトニングスピアの電撃よる光を呑み込まんばかりに輝きだした大型魔獣。その直後、それが解放されるかのように膨大な量の電撃が周囲を襲った。


「な……!?」


 突然の事態に驚く冒険者達。対処が遅れ大型魔獣に比較的近い位置にいた前衛の冒険者の幾人かが大きな被害を受けることとなった。


「―――無事な盾役は魔獣を引き付けて他の動ける者は直ぐに倒れてる味方を後ろに下がらせて!! ……あまり頼りたくはなかったけど治療をお願い出来る?」


「任せてください。……ただ一人では時間が掛かるので数は少ないですがこれも使ってください」


 マジックバックから自家製と思われるポーションを二つ取り出した。それに最初は訝しんだルイーズだが、ミレーアが回復魔法使いであることを鑑みてこのポーションが何を意味しているのか気づいた。


「……入手経路は聞かないことにしておくね」


 只さえ在野の高い能力を持った回復魔法使いというだけでも希少なのにこのポーションを作れるならば彼女の価値は更に上がる。この後に起こるだろうことを想像し頭が痛くなりそうなるルイーズだが、今は後だと言わんばかりにミレーアから二つ回復ポーションを受け取った。


「ライス!! 重傷者にはこれを使って」


 ルイーズは近場の冒険者を呼び止め回復ポーションのビンを一つ渡す。渡された方はこれが何なのか直ぐに察し重傷者の方へと向かった。ルイーズも後ろに運ばれてきた重傷の冒険者に回復ポーションを戸惑いなくかけた。効果は直ぐに顕れ酷かった傷が瞬く間に治った。


「お……う……痛くない?」


 治された当の本人は突然の事態に訳が分からず戸惑い一体何があったんだと言わんばかりにルイーズの方を見るが彼女はその背中を気付け変わりに軽い蹴りを入れた。


「ほら、治ったのなら早く行く!! まだ戦いは終わってない」


「ひでぇ……治ったばかりなんだからもう少し優しくくれよぉ」


 文句を言いながらも治療された冒険者はこういった扱いに慣れているのかそれ以上は何も言わず前線へと戻っていった。ミレーアも回復魔法を使い特に酷い重傷者を治療した。それを確認したルイーズは回復魔法使いの有難みを痛感した。元は冒険者である彼女は冒険の途中で負傷し、もう命が助からないと判断された苦楽を共にした仲間を見捨てる決断をすることになったことはある。もしその時、ミレーアのように重傷者を治すだけの力を持った回復魔法使いがいればどれだけ良かったかと心の底から思うのだった。

予想以上に話が長くなってます

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