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第十一話 謎の魔獣

「随分と綺麗になったなぁ……」


 試しに「クリーン」を全力で行った結果、予想以上に下水道の広範囲がまるで作り立てのような清潔な環境となってしまった。


「臭いどころか水も綺麗になってるし……ひょっとして不味かった?」


 自分のやったことに今更顔を青くするミレーア。汚くしたら未だしも綺麗にしたのなら問題はない筈だと自分に言い聞かせ討伐対象を探す。しかし、探せど探せどネズミもコカローチも見つからず彼女は首を傾げた。あれらは汚いとこに住むため自分が綺麗にしたことで、住めなくなり逃げ出してしまったのでは?っと思いこのままでは依頼が達成が出来なくなると彼女は焦り出した。


「やっぱり不味かったかなぁ?」


 ますます自分がやったことが駄目なことだったのではと心配になりミレーアの声が弱々しくなる。この後、どう言い訳しようか考えながら歩いていると何か見えてきた。


「あれは」


 近寄り確認するとそれは人の遺体だった。「クリーン」の影響なのか汚れが取れ綺麗な状態となっているが横腹辺りがごっそりとなくなっておりこれが致命傷だったことは一目で分かる。死亡した冒険者のタグは回収しギルドへ持っていくとことがギルドから推奨されている。そうしないと安否不明のまま長いことギルドに登録が残され書類が嵩張ったしまったり、なりすましに使われたりとギルドに不利益なことがあるからだ。ギルド側も回収した冒険者にはギルドの評価が加算される。報酬金が無いのはそれ目当てに他の冒険者を殺してタグを奪い取りそれで報酬金を手に入れようとする犯罪を犯す者が現れたからだ。タグを回収しようとしたミレーアは死亡した冒険者の遺体を見て違和感を抱いた。ギルドの情報では下水道に住むのはネズミやコカローチ系統の小型の魔獣や魔蟲だ。だが目の前の冒険者の遺体には明らかに大型の魔獣か何かが食い千切った痕跡がある。それに気づいた彼女は慌てて周囲を確認した。今のところ周囲に気配は無い。しかし、今自分が危機的な状況にあると判断した彼女はマジックバックからガントレットようなものを取り出し腕に嵌めた。これも棍棒と同じく彼女の師匠に貰ったものだ。彼女としてもこれはよっぽどのことが無いと使わない代物である。


「‥‥‥依頼が未達成になるのは痛いけど、命には代えられないか」


 食い千切られた痕から相当大型の魔獣と予想したミレーアの選択は撤退一択だった。理由の一つ目は周囲の状況だ。魔導ランタンを使っても自身の一定の周囲しか見えない彼女とこの下水道を住居としていることから暗夜でも問題なく見えると思われる謎の魔獣ではそれだけどアドバンテージが違い過ぎる。二つ目の理由は先にも述べた通り痕跡から相当大型の魔獣だと予想したからだ。大きさで言えばアーマー・ベア以上だろう。そんな怪物が何処から下水道に入ったとのか疑問に思ったが考えるのは後とその疑問を棚上げし急ぎ来た道を戻っている。


「……ヤバい」


 進行方向に大型魔獣の気配を感じ取ったミレーアは冷や汗を搔いた。外に出るには目の前の大型魔獣を通り抜けなければならずそして素直に通してくれ程、甘い相手でもなかった。既に彼女の存在は気づかれており大型の魔獣は値踏みするように彼女に顔を向け様子を窺っている。


「こいつは……」


 薄っすらとだが見える大型魔獣の体躯を見て言葉を失った。蜥蜴のようなボディに甲殻類のような脚が三対ついた異形の魔獣。ずらっと並ぶ鋭い牙を見せ小さく唸るそれに対してミレーアは一撃で決めるべく一気に間合いを詰めた。弾丸のように一気に加速した彼女は対応に遅れた大型魔獣の顔に全力の一撃を叩き込んだ。その一撃は凄まじい打撃音を響かせ大型魔獣の体勢を大きく崩した。


「……駄目か」


 手応えはあったが致命傷では無いとミレーアは判断した。寧ろ攻撃による痛みでこちらを危険な敵と認識させてしまった。


「っつ……流石にこれ以上は無理出来ないか」


 大型魔獣に一撃を入れた右腕を左手で抑え顔を歪ませたミレーア。大型魔獣の体勢を崩すだけの強力な一撃を放ったのだから何らかデメリットが彼女にもあったのだろう。態勢を立て直し咆哮する大型魔獣。倒せない判断した彼女は撒いて逃げるため、全量の逃走を始めたのだった。





「ふ~ん、成程ねぇ」


 ギルド職員のロニーは杖が壊れた原因究明のため、同僚のルイーズに壊れた杖を見せた。理由を聞いた彼女は杖を一瞥するとそれでもう分かったと言わんばかりの振る舞いを見せた。


「この壊れ方には心当りがあるね。何年か前に別の街で似たような事例があってその時に気になって調べたんだけど稀に起こることで杖要らずとか言われるね」


「杖要らず?」


「そ、どういう訳か自分の適性にあった属性なら杖が無くとも詠唱も無しで最後の魔法名だけ口にすれば下級魔法を行えるそうだよ……杖を使うと逆に魔力量を制御する術式があるのにも関わず魔力を過剰に供給するから魔力のコントールに難儀するらしいけどね」


 確かにそれは今回の事例に似ているとロニーは思った。


「ただ事例では杖の先が砕け散る程度だったけどここまで派手に爆散してるとなるとその新人これから先、自分に適した杖を手に入れのは相当苦労するだろうね。まぁ、それでも当分は大丈夫だろうけど」


「何故だ? 自分にあった杖の入手に苦労するなら本人としては大問題じゃないか?」


「普通はそうだね。ただ杖要らずは総じて魔力の総量と回復力が高い傾向があるから発動した下級魔法に魔力を大量に込めて威力の底上げを行っても本人からすれば大した消費にならないんだよ」


 最後に羨ましい限りだよっと小さく呟いたルイーズの言葉を聞き逃さなったロニーもそれに同意だった。魔法使うものとして適した杖の入手に苦労するというデメリットを差し引いても羨ましい資質である。


「そういえばこれを握った新人はどんな子だった? 自分の力を持て余しているようならアドバイスくらいはしようと思うけど」


 冒険者に対して公平な立場であるギルドが一人の冒険者を贔屓するのは宜しくはないが、その才能を腐らせてしまうのも大きな損失だ。そのため、ギルドの規定に違反しない程度には助け舟を出そうとルイーズは考えていた。


「ああ、確か……」


 ロニーがこれを使っていた新人の特徴を伝えるとルイーズの顔色が変わった。


「その新人、最近入った回復魔法使いじゃないか」


「マジか」


「在野にしては重傷者すら治せるって話でちょっと眉唾だったけど、そうか杖要らずなら納得だ。……まって、そうなると」


 何か気づいたようにルイーズが言い掛けると誰かが慌てて室内に入ってきた。


「大変だ!! 今、下水道の監視員から報告で内部から大型魔獣らしき咆哮が聞こえたそうだ!!」


「なんだって!?」


 非常事態に驚愕の声を上げたルイーズ。隣のロニーも驚きのあまり言葉を失っていた。


「今、緊急対策会議を開くために集まっている。ルイーズはそっちに行ってくれ」


「分かった」


 ルイーズは急ぎ部屋を出ると会議室へと向かった。ロニーは何が起こっても対応出来るよう自分の持ち場に戻るのだった。





「いつまでもしつこい!!」


 光源が魔導ランタンしかなく視界が悪いなか大型魔獣から逃げるミレーア。何かに足を引っかけ転倒すれば一巻の終わりのため、進行方向にあるもの見落とさぬよう全力で意識を集中させる。対して大型の魔獣の方は体の大きさ故に足場が不安定なことが影響しているのか、少しだけ走り方がぎこちなく現状では一人と一体は殆ど同じ間隔を維持したままだ。大型魔獣がいるためなのか本来ここで生活する、小型の魔獣や魔蟲が一切見掛けることがないのが彼女にとって不幸中の幸いだった。全力で逃げながらその他のへの対処など今の彼女では不可能だからだ。とは言ってもいつまで続くか分からない鬼ごっこなど御免蒙るだろう。このまま逃げ続けても埒が明かないと考えた彼女は打開策が無いか限られた視界の中で探した。


「あそこ!!」


 人が通れるくらいの太さの横道を見つけたミレーアはそこに飛び込んだ。後ろから衝突音を振り返らず駆け抜けると横道を抜け再び広い通路へと出た。


「はっはっは」


 立ち止まり息を整えるミレーア。これでしばらくは大丈夫だろうと安心した直後に響き渡る破砕音。音のする方へと振り返ると一条の光が壁を突き抜け粉砕した。飛び散る瓦礫と衝撃波に揉まれ吹き飛ばされた彼女は辛うじて意識を失わず済んでいた。あちこち痛む体を回復魔法にで治し立ち上がると状況確認を行った。


「今のは一体……」


 先程一瞬だけ見えた一条の光によってミレーアが通ってきた横道があった壁が無惨にも破壊され砕け散っていた。それによって天井も一部崩れたのか上から光が差している。光に照らされる破壊された壁を通って現れた大型の魔獣を見て彼女は息を飲んだ。魔導ランタンの光源では不十分だっため、良く見えていなかった頭部。最初は見間違いだと思っていた。偶然影になったことで無いように見えただけだと。しかし、天井から刺す光によって照らされ隅々まで露わになったその頭部には何度確かめても眼に相当するものが何一つ確認することが出来なかった。

一面ボス登場

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