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51.5.未来視の魔法使いの捜索

「警備兵2号さんが見つけてきたあの石にはやはり魔法が込められていましたぁ。全く、こんなやっつけ仕事するなんて気に入りませんよぉ。雑ーに魔法が込められているだけの、『魔道具』と名乗るのも烏滸がましい、魔石に毛が生えた程度のクズ石ですねぇ。

………でも、その込められている魔法はなかなか興味深いですよぉ。精神干渉系の何かですねぇ、それもだいぶ強力なやつ」

「詳細はまだ分からないのか?」


 ルクリオスの言葉に、ハカセは首を横に振った。


「残念ながら。特定の条件で、対象の精神を汚染する類なことは見えているんですがねぇ。何せ効果が分からない上、強力な魔法なことは分かっているので迂闊に発動もさせられなくてぇ」

「いや、安全を取ってくれた方が良い。引き続き、何か分かったら教えてくれ」

「了解です。ああ、そういえばもう一つ頼まれていた物ですがねぇ」


 そう言って、ハカセは机の上に小瓶を置いた。中には、大小様々な大きさに砕けた緑色の破片が収められている。


「これ、間違いなくメラルド石ですねぇ。殿下から聞いた状況から考えても、ほぼほぼ間違いなく未来視の人の物かと」


 アシェラが姿を消して2日。

 ルクリオスはオリバーと共に魔法研究所に足を運んでいた。昨日ハカセに依頼した結果が出たということで、話を聞きに来たのだ。依頼事項はふたつ。警備兵2号―ここではラウレルを指している―が見つけた石の鑑定。そして現場に落ちていた砕けた緑色の破片が何物か、直すことは可能か。

 ちなみにハカセの呼ぶ番号は気分次第なので、次に呼ぶときは3号だったり8号になったりしているかもしれない。


「…やはりか」

「ここまで砕けていると修復は不可能ですねぇ。しかもメラルド石は先日もお見せした通り魔法に反応する性質を持っていますから、細かい破片はもうどこかに引っ付いちゃっているでしょうし」


 ルクリオスは無言で小瓶を受け取った。

 正直、修復は難しいだろうと彼も思っていた。それでもアシェラが大切にしていた物だから、どうにかできないかと一縷の望みを持って研究所に持ち込んだのだ。


「ところで殿下、肝心の未来視の人の居場所は分かったんですかぁ?」

「目下捜索中だ」

「ははぁ、そのご様子だとすでに街の外に連れ出されていて、難航中ってところですかぁ」


 図星だった。眉間に皺を深く刻んだルクリオスを気遣うよう、オリバーが横目に視線を向ける。


「………『実行犯』が錯乱状態で、ほとんど情報が得られていないんだ」




 アシェラ・シプトン誘拐の『実行犯』は昨日のうちに捕まった。「もみあげさん」と彼女が呼んでいた警備兵の男だ。オリバーが聞いたアシェラの『声』によって彼に疑いがかかり、シェルディの嘘を見破る力によって彼が犯人であることが特定された。

 シェルディは事件のあった当日には意識を取り戻し、体に異常がないことも確認されている。ただ自分のせいでアシェラが捕まってしまったのだと、随分思いつめていた。現在は少しでも手掛かりを掴むべく、ラナラージュ家の力を総動員しながら捜査に協力している。

 実行犯である警備兵の男を尋問すると、すぐにダリアとの繋がりが出てきた。アシェラを誘拐するために、彼女に唆されてあの日門に訪れたとも証言している。

 曰く、シェルディ・ラナラージュが門を訪れる日、もしアシェラ・シプトンが現れたら捕まえるように、と彼は命じられていた。本来であればアシェラの誘拐は、あの日攫われる予定だったシェルディと交換で行われる計画で。ただもし万が一、未来視の力を持つアシェラが事前にシェルディの危険を察知したら邪魔をしに来るだろうと、そう警戒していたダリアが念のために男を門に向かわせていたのだ。

 果たしてそれは現実のものとなった。結果、高層から女性警備兵が突き落とされるという異常事態により、護衛であったガラットと別行動を取ったアシェラを彼は襲ったという顛末だ。

 ここまでは問題なく男は証言した。しかしいくら聞いても、彼はダリアの居場所も、どうアシェラを連れ出したのかすらも覚えていないという。シェルディが見ても彼は事実を言っているとのことだった。その上、彼は「なんで、自分はあんなことを…」と頭を抱えて半狂乱に陥ってしまう始末だった。今は下手なことを考えないよう、拘束して牢に閉じ込めている。


「『対象の精神を汚染する』類の魔法か」


 今まさに牢に入っている男の状態のことを考えれば辻褄が合うとルクリオスは思った。果たしてその魔法の持ち主が、今回のことを企てたダリアなのか別の人物なのかは分からないけれど。


「シェルディ嬢や彼女の護衛たちの話から考えても、それだけではなさそうですね」


 シェルディや彼女の護衛に付いていた警備兵からも聞き取り調査を行ったところ。

 事件のあった日、門の内部で待ち伏せされていたかのように襲撃に遭ったという。相手は当然、ガラットが鎮圧したゴロツキと思われる風貌の男7名組だ。平素であれば数の不利はあれど警備兵たちが負けることはあり得なかった。しかし立ち向かおうとした矢先、何故かそのうちのひとりが味方に斬りかかったというのだ。やれ裏切りかと思うところだが、斬りかかられた警備兵曰く、その時の相手は「正気には見えなかった」と。結果数の不利に加え、味方だったはずの人間が敵に回るという混乱に護衛たちは負けてしまった。

 その後はアシェラたちが駆け付けて以降に繋がる。

 やはりというべきか、味方に斬りかかった警備兵はその時のことを覚えていなかった。


「『正気を失わせて相手を操る』くらいはありそうだな。ただ、もしそうなら何故全員に使わなかったのか引っかかる」

「そうですね。もし誰にでも使えるなら、そもそもアシェラさんに使えば…いえ、失礼しました」


 ルクリオスが険しい表情を浮かべたことに気付き、オリバーは口を噤んだ。「狙いのアシェラに使って操ってしまえば、そもそもこんな面倒な手を使わなくても済んだはず」とは、さすがに失言だったとオリバーは反省する。


「きっと何か条件があるんだろう」

「ハカセが特定してくれると良いのですが…」

「そこまで待っていられない。この後すぐに街の外に探しに行く」

「え? いえ、気持ちは分かりますがまだ情報も集まっていませんし、何より陛下の許可が下りていないでしょう?」

「………」

「冷静になってください。隊長が個人の判断で動くのは立場上…」

「立場とか言っている場合か!」


 声を荒げるルクリオスに、オリバーは目を見開いて固まった。ルクリオスがここまで感情的になっている姿は、長年傍にいるオリバーもほとんど見たことがない。言葉をなくす彼の姿に、ルクリオスはすぐに我に返って「すまない」と謝った。

 ふたりの間に、気まずい沈黙が流れる。


「勤務中の今、適切ではありませんが…」


 先に口火を切ったのはオリバーだ。ばつが悪そうに顔を伏せていたルクリオスが、どうしたのかと視線だけ彼へと向ける。


「あなたは強いから多少の無茶もできるでしょう。でも相手が厄介な魔法を使ってくるのは分かっているのですから、下手に動かないでください。もしも万が一、あなたの身に何かあったら心配する人がたくさんいるんです…これは友人としてのお願いです、ルカ殿下」

「…そう、だな…少し焦ってしまっていた」

「落ち着いてくださって良かったです。―――あ、すみません、ちょっとリリから連絡です。少し待ってください」


 そう言ってオリバーは意識を集中させた。どうやらリリーから呼びかけがあったため、彼の力を使ってやり取りをしているようだ。即位記念祭で彼女のピンチにすぐに気付けなかったことを悔いたオリバーが、リリーとも常に連絡が取れるよう少し前に整えたと聞いている。彼女に対しては過保護な彼らしいと、ルクリオスは今日はじめて微笑んだ。

 己を落ち着かせるようにルクリオスは深呼吸した。ついでに目を閉じる。瞼の裏には、先日の魔法研究所で泣きそうな表情でこちらを見上げていたアシェラの姿だ。


「助けるって、約束したもんな」




 所変わって、ルクリオスとオリバーは街の外周にある水路へと移動していた。先ほどのリリーからの連絡で、彼女から報告したいことがあると呼び出しがあったからだ。リリーもまた、アシェラの捜索を積極的に行っていた。アシェラが友人だからというだけでなく、リリー自身も幼い頃に誘拐されたことがあるため、何か思うところがあるのだろう。


「あ、ご主人様、オリバー、こ、こちらです…!」


 そう言って手を振るリリーはすでに水路に浮かべられた舟の上だ。何故かガラットとシェルディも同乗している。

 今彼らがいるのは市街地からは少し外れた場所にある発着場だ。辺りをレンガ造りの家や壁に囲まれたそこはひっそりとしている。

 風で移動してきたルクリオスたちが降り立つと、舟が少し揺れた。素早くリリーが水に手をかざし、波を抑えて舟を平衡に保つ。


「悪い、バランス崩したな」

「い、いえ、これくらいなら大丈夫、です…」

「どうしてガラットとシェルディ嬢が…?」

「ラナラージュからプルーフォリー家に協力を要請したのですわ。門で襲ってきた輩たちを調べましたら、水路が移動経路に使われていたことを掴みましてね。管理者であるプルーフォリー家に調べさせてほしいとお願いしましたの」

「俺は護衛として付いてきた。あんなことがあったばかりでルディをひとりで出歩かせられないしな。それに、少しでも手掛かりがあるならと思ったってのもある」


 本来ならば未来視の魔法使いの護衛役を果たせなかったガラットは罰せられるはずだった。しかし代わりにシェルディという国にとって欠かすことのできない存在を助けたことから、功績と相殺でお咎めなしとなっている。ただし本人としては守るはずだったアシェラをまんまと攫われてしまったことに責任を感じているのだろう、シェルディ同様、寝る間も惜しんで捜査に遁走しているとルクリオスは聞いている。


「そんな情報、オレのところにはまだ上がってきていないんだが」

「つい先ほど掴んだ情報だから当然ですわ。調べるのが先だと思って、まずプルーフォリー家当主に依頼を出し――」

「申し訳ありません殿下。プルーフォリーに知らせれば、そのまま殿下にも連絡がいくものかと考えまして」


 悪びれた様子もないシェルディの口を、ガラットが慌てて塞いだ。彼も頭を下げているが、妹を止めなかったということは彼自身も調査について許可を得ることを優先したのだろう。この兄妹似ているな、とルクリオスは苦笑した。


「連絡経路について色々言いたいことはあるが、今は不問にする。急いで調べたいのはオレも同じだからな」

「そうですね。じゃあリリ、頼む」

「で、では、出発しますね…」


 そう言ってリリーが再び手を水にかざすと、ゆっくりと舟が進み始めた。滑るように水面を割って前へと彼らを運んでいく。

 以前のリリーならばこんな芸当はできなかっただろう。同じ水を操る魔法使いである父に師事されながら地道に努力を続けていたからこそだ。


「す、水路を使う場合は、必ず届出をしてもらっていて…誰でも立ち入れるようには、なっていないはずです…」

「当主は厳正な審査を行って利用者を選定していますし、水路の入口と出口には必ず見張りがいる決まりです。そうそう不当に立ち入れる場所ではないはずですが」


 プルーフォリー家の人間であるリリーとオリバーの説明に、ルクリオスは頷いた。


「当主――いや、プルーフォリー家が今回の事件に関与している可能性が薄いことは分かっている」


 何せ仕事ぶりが評価されて爵位まで賜った家なのだ。その真摯さは王ですら評価しているほどである。今回の事件を起こすなど、友人であるリリーの家という贔屓目を除いても考えにくい。


「ただ、相手の魔法に操られている人間がいる可能性は、否定できません…」

「操られる?」


 オリバーの言葉に驚いた顔をしたのはガラットだ。そこでオリバーは先ほど研究所で聞いてきた内容を説明する。


「それはまた、とんでもねぇ魔法使いがいるのな…」

「でも少なくともプルーフォリーご当主とそのご家族は無実ですわ。わたくしがこの目でしっかりと事件に関与していないこと、確認しましたもの」

「そうなると、怪しいのは見張りに立っていた人間か」

「あ、で、でしたら、この後すぐにここ数日の見張り役を、確認しておきます…」


 そうこうしているうちに舟は水路の中間地点まで進んでいた。今は調査のため、関係者以外の立入を禁止にしているため特に他の舟とすれ違うこともなく、静かなものだった。ちゃぷちゃぷと水が舟に当たって跳ね返る音だけが響く。


「ん? なぁ、あれは何だ?」


 そう言ってガラットは進む先ではなく、ちょうど向かう先に架かっている橋を指さした。正確にはその橋の下の壁側だ。よく見ればそこは壁ではなく鉄格子が下りており、その向こうには薄暗い通路が続いている。


「あ、あれは昔使っていた水路です…その先の発着場が森の中で、使い勝手が良くなくて…な、何年も前に、お父様が新しく整備し直して、今の水路に作り変えられました…なので、い、今は使っていないはずです…」

「そう、なのか? それにしては何か、最近使われた形跡があるような…」

「…オレが見てくる」


 言うが早いか、ルクリオスが舟からふわりと飛び立った。水面ギリギリを平行に移動して、鉄格子を見据える。

 鉄格子は立入禁止を強調するように頑丈そうな鍵がかけられていた。また所々に何か擦れた跡が見受けられた。年期の入ったものがほとんどだが、いくつか真新しい傷が見られる。またリリーの話では長年使われていないはずだが、格子に埃があまり見当たらない。いくら水辺に存在するとはいえ、水についていない上部にすら埃がないのは不自然だろう。


「当たりだ」


 遅れて追いついてきた舟の方を振り返りながら、ルクリオスは険しい表情で頷いた。


「最近この旧水路を使った形跡がある。この後よく調べよう。リリー、この鉄格子の鍵は誰が管理している?」

「ぇあ、か、鍵ですか…」

「何かありますの?」


 顔色を悪くしたリリーに、シェルディが首を傾げる。


「―――鍵は、王城に預けているはずです」


 言い淀むリリーの代わりに、神妙な表情を浮かべたオリバーが口を開いた。

 曰く、老朽化が進んでいる旧水路へ悪戯に誰かが立ち入ることがないよう、厳重な保存を頼みたいとプルーフォリー家が王城へと依頼する形で預けていると。


「王城なら、今捕まっている実行犯のあいつじゃねぇか? 警備兵なら王城への出入りは日常茶飯事だし、隙を見て盗むこともできなくはないだろ」

「彼がダリア・イリシオスと接触したのは、アシェラさんが攫われる前日。その短い期間で旧水路の鍵を盗み出すことは難しいはずだ。しかも接触後の足取りはすでに調べてある。この件について、彼が関わる時間はない」


 全員の間に沈黙が落ちた。

 スカートを強く握りしめて、シェルディが低い声で呟く。


「…つまり、もうひとりいるということですわね。未来視の魔法使い様に危害を加えた愚か者が、王城に」




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