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26.ルクリオスの過去1

 ルクリオス・リベラ・レフィルト。

 レフィルト国の第二王子でありながら、同国の少々特殊な警備隊で隊長を務めている人物の名前だ。

 国の王子として守られる立場の彼がなぜ警備隊を率いているのか。ひとえに彼自身が希望したからだ。「魔法を使える人もそうでない人も、同じくらい生きやすい社会にしたい」という強い志を持って。彼自身が非常に強力な魔法を扱えるために受け入れられたという背景もある。はじめはもちろん反対意見が多く上がったが、父である王や第一王子の後押し、またルクリオス自身が実力を示してその意見をねじ伏せていった。


 物心つく前から、彼は風を操る力が使えた。余談だが彼の幼い頃を知る古株の使用人は、よく悪戯に使っていたと遠くを見つめて語る。

 国の王子として自覚が出てきた頃には、すでに自由に力を扱えた。誰もが彼を称賛したし、稀代の魔法使いだと語った。魔法を重要なものだと唱えるレフィルト国に、ルクリオス殿下がお生まれになったのは運命だったと。

 だからかもしれない。魔法使いは誰しも、求められればその力を振るうことが当然だと彼が認識していたのは。生まれたときから、彼は『そう』であったから。


 転機は彼が11歳になったときだった。

 国の歴史を学ぶ中で、ひとりの魔法使いが登場した。現在の王、彼の父が実力主義を取り入れ、魔法使いを積極的に受け入れるきっかけとなった人物。国の『救世主』とも、また王を誑かし国の在り方を変えさせた『悪女』と呼ぶ人もいた。

 その人物が歴史書の中に現れるのは、前王の時代。ルクリオスが生まれる何十年も前だ。まだレフィルト国も周辺諸国と同じく、血統に重きを置き、魔法を忌み嫌っていた時。外から来たその人は、自ら『魔女』と名乗った。それだけならば周囲から白い目で見られるだけだっただろう。問題はその『魔女』が、「このままだとこの国は流行り病で滅ぶ」と予言したことだった。はじめはもちろん戯言だと誰にも聞き入れられなかった。しかしほどなく、『魔女』が予言した通りの症状で、病に伏せる人物が増えていった。少しずつ、少しずつ。

 すぐにその病魔を広げている犯人ではないかと『魔女』が捕まった。けれどいくら調べても彼女から怪しいものは出てこない。確実に弱っていく国の現状で、藁にも縋る思いだったのだろう。当時の権力者たちは、自らが罪人と責め立てた『魔女』に救いを求めた。

 自らを『未来視の魔法使い』と語った、彼女に。


 果たして彼女は本当に「そう」だった。

 当時見向きもされず、いっそ雑草だと思われていた草から病に効く薬を作らせた。次に病魔に侵される地域、ひいては人物すら言い当て、先んじて隔離させたうえで症状が出始めた段階で薬を投与させた。それを続けていけば人から人へと移る病であったそれは段々と収束していった。

 こうして『魔女』は『救世主』となった。いや、本当ならそうであった。


 まだ魔法使いを忌み嫌う人物が多い時代。そんな魔法使いに「国が救われた」などと他国に知られることを、当時の王は拒んだ。かの王は魔法を使えなかったので、もしかしたら己のプライドもあったのかもしれない。

 流行り病を意図的に広めた”犯人”として、『魔女』の処刑を決めた。病に効く薬を知っていたのも、次に罹る人物を知っていたのも、彼女が犯人だったからだろうと。当時を知っている人物であれば「そんなはずはない」と誰もが首を横に振っただろう。『魔女』は厳しい監視下に置かれていた。一挙手一投足、すべてを王の手の者に見られていたのだから。

 当の『魔女』は処刑を言い渡されても冷静だった。さらには己の首を落とす宣言をした王に対し、笑ったという。「わたしが『魔女』なら、何の罪もない人間を処刑しようとしているあんたは『悪魔』だね」と。


 結果として、『魔女』は処刑されなかった。正確には処刑される三日前に逃亡したという。家族、友人、果ては自分自身を死の病から解放してくれた彼女に恩義を感じたあらゆる立場の国民たちが、彼女を逃がす手助けをしたのだそうだ。

 そしてその思いは、当時幼い子供だった今の王に受け継がれていた。彼は自分自身が病から救われた人間だった。何の力もない子供だった彼は王位を継ぎ、当時恩人であった『魔女』に何もできなかった罪滅ぼしからか、はたまた「使えるものは何でも使えるべき」だという一国の頂点に立つ人間らしい思考からか、魔法使いを積極的に受け入れるよう国の在り方を変えた。




 ルクリオスがこの話を知ったとき、「当時の王はなんて愚かなことをしたのだろう」と怒りを覚えた。無実の、しかも国からすれば恩人を処刑しようとするなど倫理に反する。そんな愚かな選択のせいで、レフィルト国は『未来視の魔法使い』という非常に希少な人物を失ってしまった。『魔女』が力を貸してくれていれば、今よりももっと国は豊かになっただろうに。


「ルカ、顔が怖いよ」

「兄様!」


 つん、と眉間を突かれて、ルクリオスはようやく我に返った。4つ年上の兄が、くすくすと柔らかく笑っていた。庭で風に当たっていたルクリオスは唇を尖らせて今日習ったこと、そこで感じた憤りを兄に話した。兄はすでに知っている話だろうに、特に口をはさむこともなく弟が話し終えるまで耳を傾けていた。


「まあ正しい選択とは思わないけれど。それでも当時の王の選択も間違いだったとは言い切れないと思うよ」

「どうしてですか?」

「当時は流行り病が蔓延していたこともあって、国はだいぶ弱っていただろう。そこに魔法というまだ理解されていなかった力の介入を他国に知られれば、それを理由に争うが起きていたかもしれない。あの時は事実を隠すしかなかったんだよ」

「なぜそんなことで争いが?」

「理由は何でも良いんだよ。問題は火種となりうる動機を与えてしまうことさ。もし『レフィルト国は魔法使いに乗っ取られている』などと噂が広まっていたら、当時の国の繋がりを考えても攻め込まれていた可能性はあったんじゃないかな」


 子供だったルクリオスには、兄の話がよく理解できなかった。それでも納得できない、と険しい表情をする彼の眉間を、兄はもう一度つついた。


「ルカはまだ分からなくても良いよ。できればそのまま真っすぐ育ってほしいとすら思っているし」

「オレはやっぱり、がんばった人は正しくむくわれてほしいです。『魔女』は理不尽な目にあいながらも、この国の人を見すてないで助けてくれたのに」

「そうだね。そんな世の中が理想だ」


 少し悲しそうに微笑む兄に、ルクリオスはそれ以上何も言わなかった。兄の言う、当時の王の選択を受け入れることはできないけれど、いつまでも彼に文句をぶつけても何にもならない。


「さあルカ、そろそろ次の授業だろう。部屋に戻りなさい」

「あ、ほんとだ! 次は魔法の授業だし、オリバーたちが来るんだった」



 一週間に一度、ルクリオスが受ける魔法の授業にオリバーとリリーが招待されていた。幼い王子には友人と関わる時間も必要だろうと、魔法が使える年の近い貴族の子女であるリリーに声がかかったのが最初だった。ちなみにリリーの実家であるプルーフォリー家は水を操る魔法使いの家系として、長らく街の水路管理を任されている。

 王子の友人などという限られた立場、本来ならばリリーだけが収まるはずだった。彼女が極度の人見知りという問題を抱えていなければ。

 リリーが第二王子―少女からすれば初対面の男の子―とどうしてもひとりで会うことを拒否したため、彼女の父親は仕方なく、プルーフォリー家で使用人として雇っていたオリバーを一緒に授業に寄越した。当時、リリーがオリバーにへばりついて離れなかったので、寄越さざるを得なかったとも言う。


 オリバーは孤児だった。五歳のときにその魔法の才を見出され、プルーフォリー家に引き取られたのである。齢五つで他人と顔を合わせると泣き出したり最悪気絶する娘を心配したプルーフォリー夫妻が、どうにか娘に友人を、という思いもあったという。

 かくしてオリバーはプルーフォリー家に引き取られ、そこでリリーの幼馴染として育った。表向きオリバーの立場は住み込みの使用人だったが、実際はプルーフォリー夫妻も彼を息子同然に思っていた。余談だがリリーははじめ、当然彼も警戒していた。しかし彼の性格が彼女と思いのほか合ったのか、すぐにふたりは打ち解けたそうだ。


 はじめてオリバーと会った日を、ルクリオスはよく覚えていた。

 礼儀作法はきっちりと叩き込まれているのだろう、平民とは思えないような完璧な所作でオリバーはルクリオスに挨拶をした。それはリリーも同じであったけれど、彼女は人見知りを爆発させてぷるぷると震えながら目を泳がせていた。そのことは別に気にしていない。むしろルクリオスと関わる子供は、そういった反応をする子ばかりだった。王子という立場に物怖じして、緊張に負け目を逸らすのだ。

 しかしオリバーははじめから真っ直ぐにルクリオスを見た。目を逸らすことも、声を震わせることもなく。

 そんな彼を、ルクリオスはすぐに気に入った。




「オリバー、リリー嬢、今日もよろしく頼む」

「お招きいただきありがとうございます殿下。こちらこそよろしくお願いもうしあげます」

「よろしくお願いいたします…」


 ルクリオスが急ぎ授業が行われる一室に来てみれば、すでにオリバーとリリーは到着していた。ふたりとも初対面の時と変わらず綺麗な所作で一礼した。唯一変わったことといえば、リリーが震えることもなくルクリオスと目を合わせられるようになったことだろう。

 顔合わせる回数が十を超えたころから、ようやくリリーもルクリオスと普通に接することができるようになっていた。少しずつ仲を深めていって、彼らはお互いに友人だと認識していた。


 一週間のうち一番楽しみにしている楽しい時間―正確には魔法の勉強だけれど―を変わらず過ごした、その日の夜のことだった。

 リリー・プルーフォリーが何者かに誘拐されたという知らせが、ルクリオスの耳に入ってきたのは。




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