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18.警備隊志望の見学者

 リオスさんの別邸に住まわせてもらうことを決めたが、さすがにタダで提供してもらうことは心苦しかったのでせめて家賃を払おうとしたのだが。「金は困ってないからいらない。代わりに協力してほしいことがある」との言葉に従い、翌日王城に訪れていた。リオスさんが率いている警備隊が王城内に拠点を置いているからだ。ちなみに警備隊本部からは離れた場所にしてもらったらしい。

 まさかお城に来ることになるとは、と緊張するわたしはそのうちの一室に案内された。朝迎えに来てくれたリオスさんと、わたしの世話係になったリリーさんもいる。リオスさんに一人でも生活できるため世話係が不要なことは伝えたのだけれど、「むしろリリーから志願してきた」とのことで。人が苦手な彼女だが、仕事面での責任感は非常に強いらしい。無碍に断ることも失礼かと、一旦お願いすることにした。というか無理しなくても大丈夫ですよ、とやんわり断ろうとしたら「ご、ご迷惑だったでしょうか…?」と涙目になってしまったので頷かざるを得なかったとも言う。


「それで、わたしに協力してほしいこととは?」

「オレの隊員たちの未来をこっそり視てもらいたい。もし何かあれば適宜教えてほしい」

「こっそり、ですか?」

「アシェラはまだ力を隠しておくことにしたんだろ? 君のことを知っているのはオレとオリバー、リリーだけに留めておくつもりだ」

「でもわたしが他人の未来を視るには、その人に直接触れる必要があるのですが…」


 何の理由もなく赤の他人に触るなどハードルが高すぎる。そもそもわたしはどの立場から彼らに接触すれば良いのだろうか。


「その辺りは考えてある。まずアシェラはこの警備隊に入るか迷っていて、ひとまず見学という形で来ていることにする。さらに君は身体強化の魔法が使えることにしよう。訓練や見回り前の隊員たちにその魔法をかける体で触れて、同時に未来を視てもらう」

「…いくつか言いたいことが」

「そのひとつ目は?」

「嘘をつくのはわたしのポリシーに反します」

「話はオレからする。アシェラは否定も肯定もせずにいれば良い。それなら君が嘘をついたことにはならないだろ?」

「それであれば…」


 正直、そういうことなら義母とダリアの企みを潰すときに散々してきたので良いかと頷いた。真正面から嘘をつかなければ、おばあちゃんとの約束を破ったことにはならないはずだ。

 まあ、この辺りはわたしの考えの問題なので、わたしがセーフと思えばセーフだと主張させてもらおう。


「ふたつ目は?」

「わたしが警備隊に入るか迷っている側なことです。何か外堀を埋めようとしていませんか?」

「王城に入れるには相応の理由が必要なんだ。悪いがそこはある程度飲み込んでくれ。…まあ、下心ゼロとは言わないが」


 ちゃっかりしている。少し不満気にリオスさんを見たが、彼は困ったような表情を浮かべただけだった。まあこれまでのことを考えると彼には恩しかないし、スカウトの返事も待ってくれているのでこれ以上の追及は止そう。

 「次は?」というリオスさんの質問に今度はこっちが困ったように微笑んだ。これが一番重要だ。


「わたしは身体強化の魔法なんて使えません」

「そこはこの『魔道具』で誤魔化す」


 そう言ってリオスさんが取り出したのはシンプルなシルバーのリングだった。受け取ってよく見てみるけれど、特に変わったところは見当たらない。


「まだ試作段階のものだが、自分や他者に身体強化の魔法をかけられる。条件は対象に触れること。うってつけだろ?」


 見たことのないタイプの『魔道具』に一瞬で興味を引かれた。迷いなくリングを人差し指に嵌める。


「え、つ、使ってみても良いですか!?」

「もちろん。ただ繰り返すがまだ試作段階のものだ。使用回数に限界があるからそこは注意してくれ。使いきったらまた魔法を込めてもらわないと使えなくなる」


 わくわくとしながら自分に『魔道具』を使ってみる。こういうのは念じれば良いはずだ。気合を込めて発動の合図をしてみた瞬間、体が軽くなるような感覚を覚えた。試しにその場でジャンプしてみる。

 ―――ゴツンッ


「痛ぁっ!?」

「あぇ!? あ、アシェラ様!?」


 ぽーん、とリオスさんの背を追い越したかと思うと、後頭部が急に痛み出す。勢い余って天井にぶつかったらしいと気付いたのは、リリーさんが悲鳴を上げたときだ。痛みに驚いて体勢を崩した。

 痛いやらびっくりやらで混乱して目を閉じていると、衝撃が体に走った。しかしぶつけた頭がズキズキと痛むだけで、特に体の方は異常がない。恐る恐る瞼を押し上げた。

 途端、間近にリオスさんの顔があって、別の意味で驚いて固まってしまう。


「危ね…大丈夫か?」

「え!? あ、はい、大丈夫です!」


 どうやら着地姿勢すら取れていなかったわたしを受け止めてくれたようだ。実際、パニックを起こしたわたしは着地など思考の外だったので、あのままだったら床に叩きつけられていただろう。

 慌てて助けてくれたリオスさんから離れてから頭を下げる。何となく彼の顔が見られなかった。


「すみません、調子に乗り過ぎました」

「いや、大事ないなら良い」

「あ、アシェラ様、ひ、ひとまず打ったところを冷やしましょう…」


 リリーさんが濡らしたハンカチをこちらに差し出してくれていた。反対の手で水筒を抱えながらうっすら涙目になっている。彼女はいつもその水筒を持ち歩いているそうで、今もすぐさま持参していたハンカチを濡らしてくれたのだろう。

 ちなみに水筒は水分補給目的だそうだ。いざという時に水を操る魔法使いとしてなんか色々する用ではないらしい。残念。


「ありがとうございます、リリーさん」

「い、いえ…必要であれば、お、応急手当もいたします…」

「さすがにそこまでは大丈夫です」

「な、何かあれば、すぐに言ってくださいね…!」


 心配そうなリリーさんにお礼を言いながら、差し出されたハンカチを痛む後頭部に押し当てた。見事なたんこぶができている。


「出力に問題ありそうだな。悪い、やっぱりもう少し改良してから―――」

「あ、いえ。今のでだいたいコツを掴んだので次からは上手く使えると思います。さっきは興奮のあまり力を込めすぎてしまっただけなので…隊員さんにかけるときに求められているのは、たとえば訓練効率を上げるために少しの筋力体力上昇くらいですよね?」

「そう、だけど…別に今日無理にしてもらう必要はないぞ?」

「大丈夫です。いつまでも借りを作ってばかりでは申し訳ないですから」


 ここまで来て、何もせずにのこのこ帰るなどできない。自分が魔法を使う時の要領でこの『魔道具』を使えば、おそらく求めているだけの能力付与ができるだろう。まだ少し心配そうなリオスさんとリリーさんを説得して、その後予定通り隊員さんたちの集合場所へと移動した。




「お、お疲れ様です、アシェラ様…」


 話していた通り、見学者としてわたしは隊員さんたちに紹介された。リオスさんの人徳か、はたまたそんなに珍しくないのか、思ったよりもすんなりとわたしの存在は彼らに受け入れられた。全体で十五名ほどの人数ひとりひとりと挨拶しながら、予定通り『身体強化の魔法使い』として彼らに触れていった。もちろん『魔道具』と未来視を使いながら。

 先程漸く全員分が終わり、視えた内容はこっそりとリオスさんに伝えた。この後の訓練で怪我をする人やプライベートで何かが起こる未来が視えたけれど、何か大きな問題に見舞われる人は幸いにもいないようだ。

 さすがに数十人分に魔法を使うのはくたびれてしまって、役目を終えて早々ふらふらと木陰で休んでいると。リリーさんがティーカップを差し出してくれた。


「ありがとうございます…用意してくださったんですか?」

「き、きっとお疲れになるだろうとご主人様から聞いていたので、ハーブティーを事前に淹れてまいりました…」


 聞けば家から食器ごと準備してきてくれたらしい。何というできるメイドさん。ずっと大きめの鞄を抱えていると思っていたが、まさかそこに、わたしのために準備してくれたものが含まれていたとは。

 ありがたく一服させてもらいながら、訓練場として整備されている庭で特訓している隊員さんたちを眺める。少し話しただけだけれど、みんな親切に接してくれた。「一緒に働きだしたらよろしくな!」と屈託ない笑顔を向けてくれるような人ばかりだった。


「(でも、あの人たちは警備隊本部を追い出されたんだよね。魔法使いという理由だけで)」


 ぎゅ、とカップを握る手に無意識に力が籠った。

 つい学園での日々を思い出してしまう。陰口や嫌がらせは当たり前だった。飲み物をわざと零されたり突き飛ばされたりと言った目に遭ったこともある。自作自演の犯人にされかけたこともあったっけ。流石に我慢できないようなものはイリシオスの名前を使って相手を牽制したりもしたが、父が亡くなってからはその抑止力も使えなくなった。ただし同時に未来視の力に目覚めたので、相手の嫌がらせを逆に利用するようになったけれど。

 わたしはたまたまやり返せる術があったが、果たしてそんな理不尽に抵抗できる人が、ここにはどれくらいいるのだろう。いや、できないからこそ、『ここ』にいるのだろうか―――


「あ、アシェラ様…?」


 リリーさんの声に意識が引き戻される。昨日よりも50センチほど近い距離で、彼女が心配そうにこちらを見つめていた。それでも数メートル離れているので、傍から見るとシュールな絵面だと思う。


「ごめんなさい、少し疲れているみたいです」

「い、いえ、それでしたら早くお帰りになりますか? ご、ご主人様には私から…」

「いいえ、もう少し見ています。わたし、『警備隊志望の見学者』ですから」


 悪戯っ子のように微笑めば、リリーさんは目を瞬かせた。しかしすぐに僅かに微笑んでくれた。いつもの困ったような表情が少し崩れた、初めて見せてくれたリリーさんの笑顔。

 彼女と距離が縮まったようで嬉しくなったわたしは、ついもう一杯ください、と自分から近付いてしまった。瞬間、お茶をカップに注いでくれたかと思うとそのまま先ほどまでと同じ距離をあけられる。何度見ても、やはり芸術的な動きだと思った。




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