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15.レフィルト国

 レフィルト国は西の外れにあり、国の規模自体はそこまで大きくはない。地図で確認したことがあるが、ライリット国の半分くらいの大きさだったと思う。実力主義を謳っている上、国の利益になるならばと大陸の中では珍しく魔法使いを積極的に受け入れている異端の国として有名だ。それだけならば他の国から爪弾きにされそうだが、主に魔法を用いて国を発展させており、急速に力を増してきている国として、諸外国から注目されている。実際、現在進行形で北に位置する大国と魔法の扱いについて対等な立場で協議中だそうだ。


 かの国の発展の要となっている魔法だが、未だに原理は解明されていない。

魔法は古代から存在している未知の力だと言われている。それこそ歴史書には人類の始まりから存在したと記載されていたはず。

 大昔、今よりも多くの人が魔法を使えていたが、その血が薄れていったことで魔法を使えない人間が増えてきたのではないかと考えられている。実際『血』に関係ある説の裏付けとして、血縁者の中で同じような力に目覚めるパターンが多い。全く違う力が目覚める場合もあるが、それは人類の長い歴史の中で色々な魔法使いの血が混ざったことで、先祖返りが起きたのではないかと言われている。いずれにしても現代では魔法使いの数はそう多くない。


「ライリットは魔法使いというだけで過ごしにくい国だったので、表に出ないようにしているんだと思っていました。そもそも数自体が少ないんですか…」


 知らなかった。そんな話を初めて聞いたわたしの正直な感想だった。

 ライリット国は魔法にまつわる話がタブーな雰囲気のため、そもそも情報が全くと言って良いほど手に入らなかった。実際、力に目覚めてから自力で調べようとしたのだが、国内最大の資料数を誇る学園の図書館ですら、その莫大に貯蔵された資料に「魔法」という単語すらほとんど使われていなかった。分厚い資料のページを捲り、文字の羅列の中からやっと「魔法」の単語を見つけたと思ったら、「いかにライリットの文明が魔法よりも優れているか」と言った自国の技術を誇っている内容という場面に何度出くわしたことか。ライリット国では魔法について調べることは不可能なのだと早々に諦めたわたしは悪くないと思う。




 移動時間中、リオスさんとオリバーさんには他にも色々教えてもらった。より詳細な国の状況だとか文化だとか。聞いたところ、そうライリット国と大きく変わらないようだ。街中に魔法があふれている世界を描いていたため、そこはとても残念に思う。諦めきれなくて、人が箒で飛び回ったり道が七色に光ったり家が食べられたりしないんですか!?と想像していた光景を叫んだけれど「あるわけないだろ」とリオスさんに一蹴されてしまった。


 逆にわたしのこれまでの人生についても聞かれたので答えたりしている間に時間は過ぎ、数日かけて漸くレフィルト国へと辿り着いた。

 大きな川にかかっている石畳の橋を渡り、開かれている巨大な門を通る。国の正面玄関なのだそうだ。開けた道が真っすぐと伸びて、遠くに見える王城まで続いている。通りに沿って建っている建物を見れば、全体的に尖った屋根をしている。ライリット国は緩い傾斜の屋根が多かったことにその時はじめて気付いた。到着したのが朝だったためあまり人通りはないが、ちらほらと見える通行人が身に着けている服もやはりライリットとは少し違う。


「(本当に、全く知らない場所に来たんだ…)」


 今更ではあれど、改めてそう思った。




「オレは報告があるから先に行く。オリバー、アシェラを屋敷に連れて行ってやれ」

「分かりました」


 そう言って飛び立った―文字通り空へと飛び立っていった―リオスさんを見送り、案内されたのは街の中心部に建っている一軒家だった。ただ大通りから外れて細い通りの曲がり角を幾度か折れて漸く入り口に辿り着くような場所で、周囲に建物が犇めいているとはいえ、どこかひっそりとした印象を覚える。まるで通りから隠れるようなところに入り口があるせいか、住居というよりも隠れ家のようだ。建物自体は立派なものなのだけれど。


「ここは…?」

「隊長の家みたいなものです」

「はい?」

「隊長がひとまずこちらの家を使うようにと」

「えぇ!?」


 わたしが思わず叫んでも、オリバーさんは顔色一つ変えずに扉を開けた。どうぞ、とわたしが潜るのを待つかのように扉を開いた体勢のまま待機している。


「いや、わたしはそんなお世話になるつもりはないです!」

「ご心配なく。隊長はこちらの家はほとんど使っておりません。たまに息抜きや仮眠をとりに訪れるくらいです」


 そういう問題じゃないです。

 しばしオリバーさんと「どうぞ」「遠慮します」の問答を繰り返していたが、わたしの方が根負けして結局室内へと入った。「俺はここにあなたを案内するよう命令されました。任務が達成できないのは困ります」無表情ながらも本当に困っている雰囲気をオリバーさんが漂わせてきたため、折れざるを得なかったという方が正しい。ここまでお世話になりっぱなしな相手をこれ以上困らせるのは良心が堪えられなかった。

 立派な外観の通り、室内は綺麗に整えられていた。ただオリバーさんの言葉の通り、ほとんど使われていないのか新品同然の家具が最低限並んでいた。


「えっと…わたしはここにどのくらいいれば…?」

「隊長からは『好きに使って良い』と言われています。下手なところよりもセキュリティ面が安全だと」

「さすがに住む家までお世話になるつもりはないんですけれど…」


 欲しい答えではないことに肩を落とした。オリバーさんはやはり表情を変えないけれど、わたしの気持ちも分かってくれているのかその瞳から同情心を感じる。それでも扉からどいてくれないので、わたしをこの家に留まらせるところまで彼の任務なのかもしれない。

 警備隊への入隊に頷かせるため、こうも手厚くしてくれているのかもしれない。それとも身を隠すことを警戒されているのだろうか。それなら逃げも隠れもしないし、自力で生活できるだけの資金は貯めてきたのでそれで生きていくつもりだとリオスさんに伝えよう。


「はあ…いえ、分かりました。いずれリオスさんもここに来ますよね? その時に自分で断ります」

「隊長にはなるべく早く訪れるように伝えておきます」


 そうしてもらえると助かります、と諦めたように答えた時だった。


「ひゃぁっ!?」


 背後から女性の悲鳴が聞こえて、びくりと肩が跳ねあがった。驚いて振り向けば、メイド服を身に纏った小柄な女性がこちらを見ながら震えているではないか。水色の長い前髪から僅かに覗く瞳が薄っすらと潤んでいるようにさえ見える。

 ここの住人だろうか。いやもしかしてリオスさんの恋人とか? だとしたら修羅場になってしまう!?

 突然のことにパニックを起こしてしまったわたしは「あ」とか「その」とか言葉にならない声が口から飛び出していくだけだった。


「リリ」

「ぁ、あ…オリバー?」


 何とか弁明を、と焦るわたしだったが、オリバーさんの呼びかけに女性が応えたことで逆に言葉になりそこなった単語を飲み込んだ。どうやらオリバーさんの知り合いのようだ。


「ひ、人の気配があるのは気付いていたのですが、てっきりご主人様かと…さ、叫んでしまって、も、申し訳ありません…」

「いえ、こちらこそ勝手に入ってしまって申し訳ないです」


 勢いよく頭を下げるメイド服の女性。あまりに下に頭を降ろしていることで、ウェーブがかった長い髪が床についてしまっている。彼女は何も悪くないので、頭を上げてほしくて咄嗟に手を伸ばしたところ目に見えてその細い肩を跳ねさせた。そのままガタガタと震え始める。

 人が怖いのだろうか。近付くべきではないとすぐさま気付いて手を引っ込めるわたしの前に影がかかった。


「リリ。この女性は隊長の客だ。お前に危害を加えるような人じゃない。大丈夫だ」

「あ…」


 オリバーさんが女性の肩を支えながら、ゆっくりと背中を撫でていた。はじめこそ目に見えて震えていた彼女だったが、段々と収まっていくのが分かった。少し待って震え自体がなくなったことが分かると、オリバーさんが「大丈夫か」と呼びかける。そこで初めて彼が心配そうな表情を浮かべていることに気付いた。


「あ、だ、大丈夫…ご、ごめんなさい…」

「謝る相手は俺じゃない」

「そ、そうよね…お、お客様、申し訳ありません…」

「え? あ、いえ驚かせてしまったこちらが悪いです」

「い、いえ…私、いつもこうで…」


 改めて普通の角度で頭を下げられて、ついわたしも頭を下げ返した。オリバーさんは女性から手を離して真っすぐ立ちながら、いつもの無表情に戻っている。


「わ、私はリリー・プルーフォリーと言います…ご、ご主人様からこの家の管理を任されています…」




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