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12.スカウト

 案内された宿に併設されていた食堂で遅い夕飯を取っている間、リオスさんの「関係者として話を聞く」という宣言通り色々質問された。ただわたしの疑問にも丁寧に答えてくれたため、結果的に質問というよりもお互いの状況を整理するような時間になったけれど。


 リオスさんはセントラムではなくレフィルト国の警備隊所属で、件の爆弾騒ぎを追っていたらしい。ちなみにレフィルト国もセントラムと同じような体制と聞いたことがあるため、結局彼が実力を認められた偉い人ということに変わりないだろう。

 捜査を進めているうちに、レフィルト国ではすでにアドングが容疑者として名前が挙がっていたらしく、身柄を確保するために動いていたのだそうだ。その結果、アドングを追ってライリット国に降り立ったリオスさんは、街で聞いた『よく当たる占い』が気になりリンベル酒場を訪れたらしい。


「あの怪しさ満点の黒フード、リオスさんだったんですか!?」

「仕方ないだろ。立場上、顔を知られると動きにくいんだよ」


 興味本位で訪れた酒場で有力容疑者の容姿をぴたりと当てた上、あまりに具体的な警告をされたため、すぐにわたしの占いがそう称した魔法なのだろうと察したそうだ。

 ライリット国では魔法が受け入れられていないからこそ、むしろ大っぴらに披露していたわたしの『占い』が実は魔法だと思われなかった。魔法使いは力を隠して慎ましく暮らしているのが常識だったから。それを逆手に取って「よく当たる占い師の給仕」としてふるまっていたけれど、魔法が受け入れられているレフィルト国の人間には「その力普通に魔法では?」と思われるらしい。酒場でそのことを黙っていてくれた上、チップを弾みまくってくれたことに感謝して、わたしはまたリオスさんに頭を下げた。余談だがチップの返却を申し出たけれど、「あの警告がなければオレはただじゃ済まなかったろうから、むしろ安いらいだろ。それに金には別に困ってない」と断固受け取り拒否されたのでありがたく懐に収めたままにした。


 その後はわたしも知っている通りアドングがセントラムに移動し、あの寂れた酒場で仲間と合流。曰く例の酒場はとっくに廃業しており、隣に建っていた、危うく閉じ込められかけた小屋も含めて彼らの根城になっていたそう。リオスさんたちは彼らのアジトに奇襲をかけるべく、準備を整えているところだったのだが。

 ここで二つ問題が起きた。

 一つ目は見知らぬ女がアドングに付き纏っていたこと。アドングがライリット国からセントラムに向かう際、すでにリオスさんの部下が付かず離れず監視をしていたらしい。当然彼の移動手段だった乗合馬車にもひっそりと同乗していた。そこで彼の連れだと自称するような女が、何故か直接アドングとは接触することなく後をつけ回しているではないか。部下の人としてはアドングの仲間なのか何なのか、正体不明の女に混乱させられたことだろう。

 二つ目はそんな部下の人から女の特徴を聞いたリオスさんが、おや覚えがあるような、と駆け付けたところアドングたちが姿を消していた。結果から言えば、部下の人が報告のためにほんの少し目を離した隙に、逃げ出した女を追って彼らがその場を離れたという流れだ。

 ―――もうお分かりだろう。見知らぬ女の正体であるわたし、アシェラのせいで、リオスさんたちレフィルト国の警備隊は散々引っ搔き回されたのだ。


「本当に本当にすみません…!」

「いや、アシェラのせいじゃないから。そもそも容疑者から目を離しているこちらの落ち度だ」


 机に額を擦り付けんばかりに頭を下げて謝罪をすると、リオスさんは軽い調子で手を横に振った。むしろ「追い回される前に助けに入れなくてすまない」などと謝られてしまう始末。この人、天性の警備隊隊長なんじゃないかな。


 その後、リオスさんたちは急いでアドングたちを捜索した。その時点でリオスさんの中では例の見知らぬ女はわたしだろうと当たりが付いており、巻き込まれた被害者だと認識してくれていたらしい。しかしすでに夜の帳が降りている上、まともな明かりもない街外れの路地で、動いている対象を見つけるのは困難を極めた。早く見つけないと自分の代わりに犠牲者が出てしまうのではないか、とリオスさんが焦燥感に駆られていた時。


「オレは空から探していたんだが、通りに煙が上がるのが見えたんだよ。あまりに不自然で注目してみたら、アシェラとアドングたちを見つけた。あとは知っての通りの流れだな」

「煙ですか? …あ、もしかしてあの時投げた『魔道具』…!」


 アドングと偽警備兵に挟み撃ちにされそうになったとき、偽警備兵に顔面クリーンヒットさせた(はず)の防犯用の『魔道具』が、図らずもSOSの狼煙となったようだ。

 もしもあの時、咄嗟に未来を視ることができずに為す術もなく捕まっていたら――思わず身震いしてしまった。想像することすらしたくない。


「あの人たちはこれからどうなるんですか?」

「ひとまずオレたちの国に移送。今までの事件から考えてもまだ協力者がいるはずだから、その後尋問して、って流れかな」

「なるほど…まだ解決ってわけじゃないんですね」

「まあな。でも部下の話だと、やつらは明日また爆弾を仕掛けようとしていたらしい。それが阻止できたから良かったよ。オレたちは動く時を見計らっていたから、今日アシェラがいなかったら向こうに先手を取られていたかもしれない」


 向かいに座る、綺麗な所作でお肉を切り分けているリオスさんの言葉がありがたかった。色々やらかしてしまった申し訳なさで暗い顔をしていたのだろうか。いつまでも今日の失敗を引きずり続けていたら失礼かもしれない。気持ちを切り替えるためにスープを飲み込んで、わたしは漸く顔を真っすぐ上げた。


「アシェラは確かライリット国から出てきたんだよな? この後どうするつもりだ?」

「あ、わたしはレフィルト国に行くつもりですよ」


 きっぱりと言い切れば、リオスさんは「ウチに?」驚いたように目を瞬かせた。彼はリンベル酒場でのわたしのライリット国から旅立つ宣言を聞いて、てっきりあちこち旅に出るものと思っていたようだ。


「…そうか、それなら都合が良いかもな」

「はい?」


 リオスさんの小声に首を傾げると、彼は真剣な表情でわたしに向き直った。


「貴重な未来視の力を持つ魔法使いである君を見込んで、レフィルト国の警備隊にスカウトさせてもらいたい。良ければ話を聞いてもらえないか?」




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