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11.空の旅

 自分以外の魔法使いについて、リンさんの伯母様のように存在は知っていたけれど、ライリット国では魔法使いは目立たないように過ごしているためまず見つからない。もしかしたら国に有益になると判断されたら王城で保護されるかもしれないが、市井で今までのように暮らすことはできなくなるだろう。

 ―――端的に言えば、わたしははじめて遭遇した自分以外の魔法使いに少なからず感動していた。


「あの、もっと魔法を見せていただけないでしょうか!?」

「ん?」

「風を操る魔法ですよね!? どのくらいの規模で使えるんですか!? 色々応用効きそうですけれど、普段どういう使い方をされているんですか!?」

「…えーっと、ちょっと落ち着こうか」


 どうどう、とはじめて邂逅した魔法使いが顔を引き攣らせていることに気付き、わたしは我に返った。よくよく自身を見てみればだいぶ前のめりになっていた。


「あ、すみません。自分以外の魔法使いに会ったのがはじめてだったもので…」

「いや良いよ。ちょっと知り合いを思い出して面白かったし」

「え、じゃあ…!」


 色々見せてくれたり聞かせてくれたりしますか!?

 わたしが何を言いたいのか顔の輝きで察したのだろうリオスが、「今は無理」きっぱりと首を横に振った。


「まだ仕事が残っているんだ」


 リオスが後ろで伸びているアドング達を振り返ったことで、漸く頭が冷えた。確かにそれどころじゃない。そうこうしている間に彼らが意識を取り戻したら大変なことになる。


「失礼しました…ひとまず縛っておきましょうか?」


 両手両足を縛りあげておけばそう変なことはできないはずだ。散々酷い目に遭わされた恨みも込めて全力で固結びしてやろう。ひとりやる気を出しているわたしだったが、リオスはまたしても首を横に振った。


「確かに拘束は必要だが、被害者の君がやる必要はないよ。極力近寄らない方が良い」

「でも…」

「そろそろ応援が来るだろうから、そっちに任せる」

「応援?」


「隊長!」


 どういうことだろう、とわたしが顔を上げるのと、後ろから鋭い声が飛んできたのは同時だった。驚いて振り向けば、男性が三人ほどこちらに向かってきているではないか。


「やっと来たか。遅いぞ」

「隊長の機動力と同じにしないでください。…あの二人ですか?」

「そうだ。連れて行け。まだ危険物を所持している可能性もあるからな、まず拘束しろよ」

「はっ」


 頭上で繰り広げられるやり取りを、わたしは出来る限り気配を消して見守っていた。短い会話ではあったが、さすがに分かる。

 リオス―――いや、リオスさん、警備隊の偉い人だ…!


「(セントラムの警備隊隊長って、王直属とかじゃなかったっけ…この若さでそこに登り詰めているとか相当優秀なんだ…)」


 そんな偉い人に散々質問を答えさせたり、魔法を見せてほしいとせがんだ挙句、心の中だけとは言え呼び捨てにしたとか、どの立場から言っているの過ぎる。

 申し訳なさと恥ずかしさで縮こまっていると、真っ先に駆けてきた男性が「この少女は?」とわたしに視線を向けてきた気配を感じた。やめてくださいわたし今空気になろうとしていたんです。


「被害者だ。奴らに追い回されていた。オレは彼女を連れて行くから、後の処理は任せる」

「分かりました」

「え!?」


 驚いて顔を上げると、すでにリオスさんと話していた部下と思われる男性は離れていくところだった。


「そ、そんな、警備隊隊長の手を煩わせるわけには…!」

「いや、だからそんな畏まる必要ないって。それにこの後の処理は部下たちの方が優秀だからな、オレが出る幕はない」

「わたし一人で戻れますので!」

「悪いが関係者として話を聞く必要があるから、どのみち誰かと同行してもらう」

「あ、そうなんですね…」


 そういう事情があるのならいつまでも渋るわけにはいかない。むしろそちらの方が迷惑になってしまう。


「ひとまずこの場からは離れよう」


 言いながら、リオスさんは掌を上に向けながらこちらに向けて差し出してきた。手を取れ、ということなのだろう。逃げ出さないようにという用心だろうか。そんなことしないのだけれど、と思いながらも特に突っぱねる理由はないとわたしは頷いて手を取った。


「高いところは平気か?」

「え? はあ、別に大丈夫ですが」

「なら良かった」


 どういう意味だろう。リオスさんの意図が分からずに怪訝な顔をした。瞬間。


「えぇ!?」


 風が辺りを取り巻いたかと思えば、そのまま体を押し上げていく。見る見るうちに勢いを増していくつむじ風のせいで完全に地面から足が離れてしまった。あっという間に建物の背を追い越すのを、呆然としながら見送った。

 これはどう見ても、誰もが一度は憧れたことがあるだろう、空を飛ぶというやつ。


「ほら、下見てみなよ」

「はい!? 下!?」

「高いところ、本当に苦手じゃなければ」


 茶化すような声に、むっとして目を開けた。ところで、初めて自分が目を閉じていることに気付いた。空に放り出されたとき、無意識に瞼をきつく降ろしていたらしい。別に怖くて閉じていたわけじゃない。驚いただけだ、と心の中で誰に聞かせるわけでもないのに言い訳した。

 どこか揶揄っているような雰囲気のリオスさんに反抗心を抱きつつ、興味に負けて言われた通り視線を落とした。すると。


「わぁ」


 思わず感嘆の声が零れる。一瞬で抱いていた反抗的な気持ちなど吹き飛んだ。

 街の中心街だろう一際輝いている場所から、光の粒が真っすぐに伸びている。道に沿って街灯や店の明かりが連なっているのだろう。地平線の向こうまで光は続いていて、ぽつりぽつりと暗闇を彩っている。

 まるで光の花が咲いているようだった。


「綺麗…」


 この時のリオスさんの行動が、怖い思いをしたわたしへの慰めと、助けが遅れてしまったことへの謝罪として、「もっと魔法を見せてほしい」というわたしのリクエストに応えたものだということを後から知ることになる。

 当然今のわたしは全くそんな彼の気遣いを知らないため、しばしの空中浮遊を心の底から楽しんでいた。そんな夢のような時間は、「今日はここに泊まると良い」案内された宿に降り立つまで続いた。




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