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ヒロインから王子を奪ったわたしは死ぬほど嫌われている……はずですよね?  作者: 木の実山ユクラ
第一部:嫌われていたはずなのに、なんだかようすがおかしい。
8/32

惨敗





「そういえばゲオルグ様。好みの女性のタイプはどのような方ですか?是非お聞かせください!今後の参考にします!」


今日は客間でニコニコと給仕を務めるリリーナがいるので、アステラはパワー全開でゲオルグにアピールしている。


「可愛い子ですか?それとも綺麗な子?セクシーな子が好みですか?」

「話しかけるな」

「ゲオルグ様がセクシーな子が好みなら、わたし、寄せて上げて頑張りますよ!」

「うるさい。いいか、そこの侍女が客室に来てくれと頼みこんでくるから来はしたが、お前と話すことは無い」


ゲオルグはお茶を淹れてくれていたリリーナを示し、アステラを黙らせた。

どうやらゲオルグが毎回押しかけてくるアステラに会ってくれるようになったのは、リリーナが頼み込んだことが理由らしい。


……やっぱりゲオルグ王子、リリーナちゃんに惹かれ始めてる?


リリーナに惹かれてしまう、どうしようもない気持ちは理解できる。

リリーナが可愛くて美しくて純粋で素敵だから仕方のないこと。


……でも残念だったね。リリーナちゃんがゲオルグ王子を受け入れることは無いんだから。わたしがゲオルグ王子に好き好きアピールをしているうちは!


リリーナはアステラとの友情を優先してくれる。

ヒロインの運命の相手であるゲオルグなんかよりも、アステラを大切に思ってくれている。

勝っている。アステラは一種の優越感を覚えながら、ゲオルグに再び話しかけた。


「お淑やかな子と元気な子だとどちらがいいですか?」

「……」

「髪は長い方がいいですか?それとも短い方が好きですか?」

「……」

「おっぱいは大きい方が好きですか?それともお尻が大きい方がいいですか?」

「……」


ゲオルグは大きな溜息を吐き、新聞を広げてアステラを無視する体勢に入ってしまった。

ここ最近は、このようにゲオルグに無視されることが多くなった。

リリーナに言われて客間でアステラと会うも、アステラとは話したくないという冷酷な心情が丸わかりだ。

でも、ものすごいパワハラされても耐え忍んで笑って仕事をしてきた前世があるのだから、無視されても話しかけるなんてことはアステラにとって朝飯前だ。

そして更に、無視してくる人を喋らせる技だってブラック上司を見て学んでいる。


「じゃあゲオルグ様が無視するなら私にも考えがあります。ゲオルグ様は実はおっぱいとお尻が大きくてセクシーな女性に目がないって噂を流しちゃいますよ。こう見えてもわたし、社交界では顔が広いので」

「な」


卑怯な、と言わんばかりにゲオルグは無表情な顔を少しだけしかめた。


「さあ、どういう女性が好みか教えてください!可愛い系と綺麗系で言えば?」

「……」

「さあ!」

「しつこい、お前がどのような女だろうと俺は心底どうでも良い。もう消えろ」

「消えて欲しければ好みの女性のタイプを教えてください!」

「じゃあ二度と目の前に現れない女が好みだ。これで満足か、早く帰れ」


バタンと扉を閉められて、アステラは部屋を追い出されてしまった。


後からリリーナが「今日のゲオルグ殿下はいつもより長文を喋っていました!少し進歩ではないでしょうか!」と慰めてくれた。

そんなリリーナは「アステラはゲオルグが冷たかったので打ちひしがれているに違いない」と思っているかもしれない。

でも実際のアステラは「うん、今日もリリーナちゃんが可愛いし成功だった」と満足していたのである。




----




それから数週間後。

リリーナがアステラを訪ねて来た。

なんでも、リリーナは心配に思っている事があるらしい。


「それでリリーナちゃん、心配な事っていうのはなんだった?」

「あの、アステラちゃんは最近、ゲオルグ殿下のところに来ませんね。あの、大丈夫ですか……?」

「ああ、ゲオルグ様が『二度と目の前に現れない女が好み』って言ってたからね」

「えっ!」


アステラの答えに、リリーナは更に不安そうな顔になった。

そんな顔のリリーナも可愛いなと思ったアステラだったが、彼女の不安を払しょくするべく、ふふっと笑った。


「ほら、押してだめなら引いてみろって言うよね。だから今のわたしはちょっと引いてみてるの。これでゲオルグ様が少しでも寂しいと思ってくれたらいいな、ってね!」

「アステラちゃん……!」


冷たく言われたアステラが流石に落ち込んでいるのではと心配していたらしいリリーナの顔が少し明るくなった。

アステラのことを自分のことのように心配してくれている顔もきゅんとするが、やっぱりリリーナは笑っている顔の方が可愛い。


「ふふ。男性って追いかける時に燃える人が多いって本で読んだんだ。ほらこれ。リリーナちゃんも読んでみる?」


アステラはリリーナに診せる為だけに買い込んだ数多の恋愛指南書を取り出して、付箋を貼ったページを開いて見せた。


「『押してだめなら引いてみろ。男性には追わせてなんぼ』ですか……。なるほど」


リリーナは指南書の一文を読み上げ、納得したように頷いた。


「『グイグイ行った後に少し距離を取ると、寂しくなった男性は貴女のことが気になりだします。そしてその寂しい気持ちが恋なのだと錯覚をさせてしまいましょう』……とあります」

「そうそう。今それを実践中なんだよ」

「そうだったのですね、アステラちゃん!成功をお祈りしています!」


……まあ、鬱陶しいだけの女が静かになったところで、ゲオルグ王子が寂しく思う事なんて天地がひっくり返っても無いんだけど。


事態を冷静に分析しつつも、純粋に成功を祈ってくれるリリーナが見れただけで、アステラは満足だった。


一方のリリーナは恋愛指南書に興味津々なのか、丁寧に次のページをめくっていた。


「ここには『男性の中にはグイグイ行くと引いてしまう人もいます。そういう場合は少しだけ隙を見せて、追いかけやすくしてあげるのが良いでしょう』とあります……。難しそうなテクニックですね」

「うん。『具体的には、「暇だなー」「観劇が好きなんだよね」などと誘いやすい隙を作ってあげる』とか『わざと忘れ物をしたり、わざとこけたりするのがいいでしょう』だって」


2人して顔を突き合わせて恋愛指南書を読んでいると、夜の女子会みたいで楽しい。

いいや、『みたい』ではなくてこれは実質女子会だ。

前世ではあまり友達がいなくて憧れていただけの夜の女子会だけど、今は隣にリリーナがいるし、ビスケットとマシュマロとホットココアは部屋に持ち込んでいるし、クッションだって絨毯の上に散らばっている。

控えめに言って最高だ。



「アステラちゃん、『男性は耳に髪をかける仕草と唇を触る仕草にドキッとする』……らしいです」

「うんうん、いいね。それからこれ。こんな場合もあるみたい。『守ってあげたくなるような女性が好きな男性も多い。また、深窓の令嬢のように薄命そうな女性に惹かれてしまう男性もいる』」

「次のページには『囚われの姫など、幸の薄そうな女性を好む男性もいる。自分が幸せにしてあげたいと思うのが理由だ』……ともありますね」

「ふむふむ」


しばらくあれやこれや言いながら恋愛指南書を読んで、リリーナがふと顔を上げた。


「アステラちゃん」

「なあに?」

「今まで読んできたテクニック、ゲオルグ様にやってみませんか?試してみたら、ゲオルグ様の好みの女性が分かるかも、知れません」


少し興奮しているのか、頬がほんのり上気しているリリーナはとってもかわいい。

アステラはニへッと微笑むついでに、つい頷いてしまっていた。


……まあ、リリーナちゃんが喜んでくれるならそれくらい朝飯前ってね。




そして恋愛指南書に乗っていた使えそうなテクニックを片っ端からゲオルグに試してみたが、結果は安心安定の惨敗だった。



「ゲオルグ様、暇だなー」

「なら帰れ」


「ゲオルグ様、忘れ物しちゃいました!ハンカチなんですが、気が付きませんでしたか?」

「知らん」


「ゲオルグ様、見てください!こうする女の子にドキッとしますか?」

「耳がかゆいのか」


「ゲオルグ様、わたし、実はとってもか弱いんです……ごほごほ」

「風邪か。今すぐ帰って温かくして寝ろ」


「ゲオルグ様、わたし、実は囚われの姫だったんです」

「嘘を吐くな」





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