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ヒロインから王子を奪ったわたしは死ぬほど嫌われている……はずですよね?  作者: 木の実山ユクラ
第一部:嫌われていたはずなのに、なんだかようすがおかしい。
6/32

実践






こうして、アステラの計画は突如湧いてきたフェーズ2へ移行した。

題して、「リリーナが見ている前でゲオルグに猛アタックする作戦」だ。


これを成功させることが出来れば、きっとリリーナのハッピーエンドはもうすぐそこの筈。


決断してからの行動が早いアステラは、次の日にゲオルグに会いに行くことにした。

ゲオルグの城に着けば案の定、アステラは門の衛兵に猛然と拒否された。

しかし「会ってくださるまで梃子でも動きません!」と言って座り込んだら、城の使用人たちにお菓子を渡して早速可愛がられ始めたリリーナに見つかって、リリーナが衛兵に頼み込んでくれてゲオルグにアステラが待っていることが伝令された。


その日、ゲオルグが門の外で待つアステラを客間に通したのは陽が暮れてからだった。



「ゲオルグ様、ありがとうございます!あの、ご無理を言ったのにお会いできてうれしいです」


アステラは近衛騎士がたくさん並んだ客間で足を組むゲオルグに睨みつけられ、ソファに座っていた。

しかし給仕はリリーナが担当していたので、適当な世間話で時間を潰すわけにもいかない。

この時間を有効活用して、ゲオルグ好き好きアピールをしなければ。


「ゲオルグ様、先日はいきなりごめんなさい。でもわたしはずっとゲオルグ様に惹かれておりまして、舞踏会などで拝見するたびにお話が出来ないものかと思っていました。でもずっと勇気が出せないままでした。でも先日、気持ちを堪えることが出来なくなってしまい、あのようなことを言ってしまいました」

「ハッ」


アステラはポット頬を染めてみたが、冷たい目のゲオルグは鼻で笑っただけだった。


「あの、ゲオルグ様。やっぱりカッコよくて大好きです!デートしてください!」

「言いたいことはそれだけか」

「デート、してくださるのですか?!」

「何をどう考えたらそんな結論に至る。お前は頭がいかれているようだな」

「好きな人を前にすれば、誰しも多少は舞い上がってしまうものです!」

「もういい。お前と話が通じる気がしない。早く消えろ」

「でもゲオルグ様、こうしてお時間を戴けたのですからもう少し趣味のお話などしてみたく!ゲオルグ様のご趣味は?!」

「俺の我慢が出来ているうちに目の前から消えろと言っているんだ。それともそんなに死にたいか?」


冷酷にあしらわれたアステラの視界の隅では、リリーナがショックのあまりティーポットを割っていた。

しかし、これでいい。

アステラを恋する乙女として見れば散々な結果だが、リリーナを救いたいだけのアステラ的には百点満点だ。



ゲオルグに叩き出されるような形で城を追い出されたアステラは、満足な気持ちで帰路に着くところだったが、後ろから追いかけて来た声に呼び止められた。


「アステラちゃん!!私、私、全然役に立てなくてごめんなさい!大好きな人にあんな風に言われて、アステラちゃんが一番傷ついてるはずなのに、ごめんなさい!」


アステラの名前を呼びながら泣きじゃくっているのは、リリーナだった。

アステラは「侍女服のリリーナちゃんもかわいいなあ」なんて思いながら、蹲ってしまったリリーナの背中をポンポンと撫でた。


「きっとゲオルグ様はアステラちゃんのような美人にいきなり告白されて、驚いているだけなんです!消えろなんて心の底からは思っていないと思います!私が男だったらきっとそう思うと思います!だからアステラちゃん、気を落とさないでください。大好きなゲオルグ様の事、諦めないでください!どうか死なないで!」


清らかで優しい心のリリーナは、ボロクソに言われたアステラの心の痛みを肩代わりするかのように訴えてきた。

あのゲオルグ王子のことだから心の底から『消えろ、殺すぞ』と思ったに違いないが、アステラはリリーナが自分の為に心を痛めてくれているという事実に感動してしまっていた。


……こんなにリリーナちゃんに泣いてもらえるんだったら、またゲオルグ様の所に突撃しにこようかなあ。


なんて思ってしまったほどだ。


「大丈夫、リリーナちゃん。わたしのゲオルグ様を好きな気持ちは何があっても無くならないよ」

「アステラちゃん……!」

「リリーナちゃんがこうして応援してくれてるんだもん。まだ頑張るよ」



こうしてアステラは屋敷に両親がいないタイミングや、兄や妹が特別忙しくしているタイミングを見計らって、ゲオルグの城を訪ねるようになった。

勿論門前払いをされることの方が多いし、客間に通されてもゲオルグが現れてくれない日の方が多い。

というか、客間に来てくれたのは先日の一回だけだった。


だからアステラは次なる行動に出た。


「ゲオルグ様、じゃーん、見てください。この紫の湖へ行ってみたくはありませんか?恋人たちが末永い幸せをお願いして一緒にキャンドルを流すんですよ!」

「お前、何故ここにいる」


この日のアステラは、とあるお茶会でとある令嬢から仕入れた最新のデートスポットをネタに、食堂で食後のお茶を飲んでいたゲオルグに話しかけていた。

だが許可した覚えも無いのに現れたアステラに驚いたゲオルグは、殺気立った瞳でギラリと睨んできた。


「どこから入ってきたと聞いている」


ちなみに、アステラが城に入ってゲオルグに突撃できているのは、門の衛兵と仲良くなったリリーナの努力のたまものだ。

リリーナが全ての責任を負うからと言って、アステラを城の中に入れてくれたのだ。

しかし名前を出すとリリーナがお叱りを受けるかもしれないので、アステラはゲオルグに構わず話を続けることにした。


「このキャンドルがこうして夜の湖に浮かぶさまはまるで夜空のようです。星の数ほどある恋ですが、一つ一つがこうして輝く大切なものなんです」

「おい」

「わたしはこの景色をゲオルグ様と見たいです」

「人の質問に答えろ」

「きっととても綺麗ですよ」

「無視か。お前、今度こそ殺されたいらしいな」


そうやって凄まれてアステラは何度も締め出されるが、その度にリリーナがハッピーエンドへ近付くのだと思えば安いものだ。


こうしてしつこく「リリーナのハッピーエンド計画」を実行しているうちにゲオルグの城の門の衛兵たちも、「また振られに来たらしいな。可哀そうに。入んな」とあまり問答しなくてもアステラを中に入れてくれるようになった。


「ゲオルグ様、今日こそデートの約束を取り付けに来ましたよ!」

「毎度人の屋敷に押し入って来て、今度こそ殺されたいか?」

「素敵なレストランがあるんです!そこでご飯を食べたら次はわたしお勧めのパティスリーでタルトを食べましょう。甘いものはお好きですか?デザートを食べたら美味しいお茶のお店に行きましょうね!」

「人の話を聞け」

「はい。じゃあお話をしましょう。ゲオルグ様の好きな食べ物は何ですか?」

「お前に話すことなど何もない」

「ほら、ゲオルグ様だって人の話を聞いてくれないではないですか」

「屁理屈はいい。もう消えろ」


この日は城下町の大人気のパン屋に並んで最高級カロンバターのクロワッサンを山盛り手土産にしたが、普通に捨てられてしまった。

先日送った花もハンカチも靴下もワインも、どれもこれも普通に捨てられている。


やっぱり、ゲオルグはとても冷酷な男だ。

ゲームの中ではリリーナにもう少し優しかった筈だから、きっとリリーナ以外には恋をしないように出来ているのだろう。

でも、ぶっちゃけそれが理想だったりもする。

ゲオルグはゲームの中で惚れた女である筈のリリーナを普通に盾にして自分の身を守ったり、人質として敵に送ったり、挙句の果てに自分で殺しちゃったりもしている。

だから鬼畜王子のゲオルグにまんざらでもなさそうな顔をされる方が困る。

ゲオルグに好かれたら最後、リリーナがゲームの中で辿った不幸が押し寄せてくるに違いないのだから。


だが、そうとは知らないリリーナは、真剣な顔でアステラの恋が実るように考えてくれていた。


「ゲオルグ様は中々手強いですね。アステラちゃん、ここはひとつ何か別の方法を試してみるのはどうでしょうか」

「別の方法?」

「はい。そうですね……、恋文などはいかがでしょうか。私はアステラちゃんから頂いたお手紙は全て大切に読ませていただいて、大切に保管しています。とても嬉しいものです」

「ゲオルグ様は読みもせずに捨てそうだけど……うん、書いてみようか」


確かに、大好きなリリーナちゃんから来た手紙は何度も読み返して幸せな気分になっている。

彼女が自分の為だけにこの文字を綴ってくれたのだと思うだけで、ただの紙が世界一大切なものに思えてくる。

まあ、ゲオルグは差出人がアステラの時点で破り捨てるだろうけど。


アステラはリリーナから提案を受けたその日、侍女に頼んで巷で流行りの恋愛小説を数冊手に入れた。

その中には恋文をやり取りする描写があって、大変に参考になった。

というか、ゲオルグが恋愛小説を読むはずなんてないと思い、考えるのが面倒になってほぼ丸ぱくりした。

変えたのは宛名の部分くらいだ。


『ゲオルグ様

今夜も月が綺麗です。あなたもこの月を見ているのでしょうか。だとしたら何を考えて眺めているのでしょうか。わたしはあなたのことを想っています。同じ月を眺めているのに隣ではないなんて寂しいです。一緒に見られたらどんなにいいでしょうか。

でも、あまりたくさん願うことは止めておきます。

明日も貴方にとって良い一日になりますように。私の願いはそれだけでいいのです。それだけ女神様に願って眠ることにします。

アステラ』


……なんだか前世の古典でこんなような歌を聞いたような気もしないでもないが、まあいいか。


アステラは深く考えることはせず、次の日にリリーナに頼んで手紙をゲオルグに渡してもらった。

どうだったかと尋ねたらリリーナが言いにくそうに首を傾げたので、きっと封も切られずに暖炉にでも投げ入れられたのだろう。

まあ、目的は「恋文を書いた」ことをリリーナに知ってもらうだけだから、手紙の行く末はどうでも良い。





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