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ヒロインから王子を奪ったわたしは死ぬほど嫌われている……はずですよね?  作者: 木の実山ユクラ
第一部:嫌われていたはずなのに、なんだかようすがおかしい。
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友達





幸せ気分で歩いていると、お目当てのカフェにはすぐ到着してしまった。

マーメイドをテーマにした、青い装飾や泡のようなシャンデリアがかわいいお店だ。

もう少しリリーナと一緒に歩いていたかったが、このカフェでゆっくりするのも楽しみだ。


テラスの特等席に案内されて、アステラが注文を済ませると、リリーナが改まった顔で頭を下げてきた。


「今回はお誘いくださって、重ね重ねありがとうございます。私は田舎から出て来たばかりの子爵令嬢なのに、貴女に声をかけていただいて本当に嬉しかったです。そしてそればかりか、こんなにも良くしてくださって。私のアステラ様への憧れがより一層強まりました」

「いやいや、わたしの方がリリーナちゃんとお話しできて幸せだよ!」


リリーナは胸の前で手を組み、崇拝でもするように目を閉じた。

神々しい姿に手を合わせたいのはアステラの方なのに、本当に推しは謙虚で心が美しい。


アステラはゲームのスチルを眺める感覚でリリーナをしばらく眺めていたが、ハッと我に返った。


「……って、リリーナちゃんはわたしの事を前から知ってたの?」

「はい。貴女は銘家の御出身で才色兼備で社交界の花で、完璧な方です。私は貴女のような令嬢になりたいとずっと憧れていました」

「え、ええ?!でもわたしは、リリーナちゃんのことは生まれる前から好きだったんだよ!」

「え?!生まれる前だなんて」

「ほんとほんと。リリーナちゃんは、わたしの推しなんだよ」

「お、推し……?」

「そうだよ。大好きって事。ふふ」

「あ、アステラ様は何というか、このように二人で話すときは気軽で親しみやすく、面白い方なのですね……ふふふ」


2人して笑い、少しだけリリーナの緊張が解けたようだった。

前世で使っていた言葉をもう少しだけ披露すると、アステラが創作したと思ったのかリリーナが更に笑ってくれた。

それが嬉しくて、アステラはついつい調子に乗ってしまうのだった。


「たとえばね、推しに送る手紙はファンレターって言うの。わたしがリリーナちゃんに送ったのもほぼファンレターだよ」

「……ファンレタ、ですか」

「そうそう。それから今リリーナちゃんがわたしにしてくれてるのは、いうなればファンサだよ」

「ファンサ」

「うんうん」


「失礼致します。お料理をお持ちしました。チキチキ鳥のグリルとモモ豚のソテー、七色サラダにモカロスープ、それからタロパンでございます」


リリーナはもう少しアステラの話を聞いていたそうな顔をしていたが、給仕が料理を持ってやって来たので話は中断となった。


料理はテーブルの上に所狭しと並べられ、いかにも美味しそうだ。

リリーナはこんな料理は見たことないと感動してくれた。

それらに舌鼓をうち、2人は食後のデザートまで食べ終わった。




……リリーナちゃんと、色々話せて本当に楽しかったあ。


この短時間だけでも、ゲームをプレイするだけでは知り得なかったリリーナについていろいろ知ることができた。

たとえば、リリーナには弟が3人と妹が2人いること。

小さい頃にこけて頭に怪我をした事がある事。

最近編み物を練習し始めた事。


これだけで満足してしまいそうになるが、今日の重要課題となっている質問をまだ聞けていない。

それを忘れて帰る訳にはいかないので、アステラは覚悟を決めてさりげなく疑問を投げかけた。


「そういえばリリーナちゃん、好きな人とかいる?」

「想いを寄せている方ですか。それが残念ながら私はそう言ったことに疎くて」

「ふむふむ。じゃあいないってことだね」

「はい。面白いお話が出来ずごめんなさい」


リリーナの家は北部の子爵家だが、王国東部にある第三王子の居城で侍女として働けることになり、先月に田舎から出て来たらしい。

ゲームは第三王子の居城で働くところから始まるから、時系列としてはリリーナがあの王子に出会う前と見ていいだろう。


ギリギリセーフのタイミングにとりあえずホッと胸を撫でおろすが、時間が潤沢にある訳でもない。

まだリリーナを救う計画の案さえまとまっていないので、もう少しヒントが欲しいところだ。


「じゃあリリーナちゃんはどのような男性が好きなの?」

「えっ。男性の好みですか?私は選べるような立場ではありませんし、どのような方でも……」

「でも少しは理想とかない?ほら、優しいとか親切とか平和主義とか」

「あの、えっと……無口で、剣が強くて、頭が切れて、クールな方はちょっと惹かれます」


無口で、剣が強くて、頭が切れて、クール。

あの第三王子も無口で強くて、合理的でクールだった!

と言うかクールすぎて血も涙もない冷血漢だった!


……第三王子に出会ったら、リリーナちゃん絶対惚れちゃうじゃん!


「で、でもね、リリーナちゃんのドタイプの人がいたとして、でも両思いになったら酷い目に遭っちゃうって分かってたら、好きにはならないよね……?」

「どう、なのでしょうか。一度愛してしまったら、困難も乗り越えられるのが愛のような気もします」

「じゃ、じゃあその人に裏切られるって分かってたらどうかな?!」

「裏切られる……悲しいと思いますが、好きになった人がそのような選択をしたのなら、私はきっと受け入れます」


薄々分かってはいたものの、アステラは運命の強制力のようなものにゾッと身をこわばらせた。


それから恋愛についていろいろ根掘り葉掘り聞いてみたが、案の定分かったのは、リリーナが情に篤くて愛情深くて、とても優しく一途という事だった。

リリーナはこういう子だから一度好きになったら何をされても許してしまうんだろうな、と逆に納得させられてしまった。


……でも、これでは絶対だめ。


リリーナが第三王子の城に勤め始めれば、すぐにでもあの王子に出会って不幸ルート不可避だ。

アステラは何とかリリーナを救うヒントはないかと、苦し紛れの質問を絞り出した。


「じゃあ……リリーナちゃんが絶対に好きにならないタイプの男性っている?」

「絶対に好きにならない男性、そうですね……。あ、当たり前ですが、既婚者の方でしょうか。それで言えば、婚約者がいらっしゃる方や、友人が思いを寄せている男性などもそれに当てはまると思います」

「そっかあ、既婚者とかは恋愛対象外なのは当たり前かあ……って、ん?」


アステラはピタリと動きを止めた。

ここに来て、何か突破口のようなもの見えた気がした。


リリーナちゃんが絶対に好きにならない男性の条件。

既婚者と、誰かの婚約者と、リリーナちゃんの友人が思いを寄せている男性と……。


「っ、ほんとに?!友達が好きって言ってるだけでリリーナちゃんは好きにならないの?!」

「は、はい」

「ほんとに?!貴族令嬢はいい男がいたら誰かを押しのけてでも奪い取る教育をされた生き物だけど、リリーナちゃんは違うの?!」

「はい。私は友人が想いを寄せる方であれば、自然と恋愛対象としてとは見なくなると思います。だって応援してあげたいですから」


……それだ!!!!


アステラはリリーナの純粋な優しさに感動しながらも、パチンと指を打ち鳴らした。

リリーナちゃんが自主的に王子に惚れなければ、たとえ王子がリリーナちゃんに惹かれる運命が変えられなくても、明るい未来が見えてくる!


アステラは心の中で叫んでいた。

設定は変えられないのではないかと不安になった気持ちを、払しょくできる希望が見えてきた。


……不幸になるしかないなんて、もうわたしが許さない。

リリーナちゃんの運命を捻じ曲げてやるんだ。リリーナちゃんのハッピーエンドを、この目で見るんだ!


熱い意志に突き動かされるように、アステラは勢いよく席から立ち上がった。


「わたし、リリーナちゃんの親友になる!どうかならせてください!」

「し、親友ですか?!」

「はい!どうかお願いします!」

「あ、アステラ様と私が?良いのですか?!」

「はい!わたしが貴女のことを絶対に守ります。大切にします。それからわたし、突然だけど第三王子のゲオルグ様が大好きなんです。わたし、彼にすっごく想いをたくさん寄せているんです!」

「あ、アステラ様が第三王子殿下のことを?」

「はい!」


アステラが大きく頷くと、リリーナは心から優しい笑顔になった。


「そうなのですね、アステラ様は心に決めた方がおられる。とっても素敵です!アステラ様のお家は第一王子派の御三家ですがその運命を捻じ曲げてでも、第三王子殿下を想っておられるという事ですよね。まるで幼い頃に読んだ愛の物語のようです。私、影ながら全力で応援させていただきます」

「……あっ」


勢い任せに言ってしまってから、アステラは気が付いた。


アステラの家は総力を挙げて第一王子を支持していて、王位継承争いに最後まで食い込んでくると予想される優秀な第三王子ゲオルグは、レイユース侯爵家の敵だった。

と言うか実際、兄あたりが何度も第三王子暗殺未遂を起こしているし、冤罪をでっち上げたり濡れ衣を着せたりあの手この手で彼を失墜させようとしたり、しかも何なら挙兵して第三王子に仕掛ける全面戦争さえ計画されている。


……こんな権力争い真っただ中に娘がライバルの第三王子が大好きなんて言い出したら、普通に本気でお父様とお母様に殺されちゃうかも。


……というか、ゲオルグ様ってゲームで鬼畜冷酷王子だったよね。第一王子派の家出身のわたしなんて、近寄っただけで普通に瞬殺される可能性もあるかも。


一瞬青ざめたが、アステラはプルプルと首を振った。

ブラック企業でこき使われて虚しく死んだ時に比べたら、推しの為に命を使えるなんて最高の贅沢だ。

いやもはや、推しの為に命を懸けることこそが正しい生き方ような気さえしてきた。


……大丈夫。死ぬ気でやればなんとかなる。ブラック企業に勤めてた時だって、毎日死にそうだったけど数年持ちこたえたし。




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