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ヒロインから王子を奪ったわたしは死ぬほど嫌われている……はずですよね?  作者: 木の実山ユクラ
第一部:嫌われていたはずなのに、なんだかようすがおかしい。
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様子がおかしい





他の騎士達もいるが、リリーナと一緒に美味しい朝ご飯を食べる。

リリーナと一緒に豪華なお昼ご飯を食べる。

リリーナと一緒に栄養満点の夕ご飯も食べる。

そして時々お茶をして、珍しいお菓子を食べる。

夜は滅茶苦茶に広いお風呂の湯舟を二人だけで貸し切って、雲の上のようなフワフワの布団に2人で転がる。

朝は起こしてもらって髪を梳いてもらって、マッサージまでしてもらう。


……あれ?これ天国だ。


アステラはよく分からないうちに、天国に来ていたようだった。


……推しと毎日一緒にいられるなんて、もう死んでも悔いはないよ……。



朝陽が雪に反射してキラキラしている中、寒い寒いと手をこすりながら廊下ですれ違った冷酷なゲオルグの表情までもが、少しだけ穏やかに見える。

幸せ過ぎると、すごい幻覚まで見えるらしい。


「あ、ゲオルグ様!今日はちょっとだけ穏やかで、更にかっこいいですね!」

「君は毎回声が大きい……」


ゲオルグの白い肌が少しだけ赤くなったように見えたが、多分これもアステラの幸せフィルターだ。

実際のゲオルグはきっと眉をしかめてアステラを睨みつけているに違いない。


「ゲオルグ様は朝ごはん食べましたか?」

「まだだな」

「そうなんですか!わたしもです。あ、そうだ。じゃあ朝ご飯デートに行ってしまいます?雪の日の朝ごはんにピッタリなホワイトシチューを出す暖炉のカフェがあるんです……ふふ、なーんて。ゲオルグ様がデートしてくれるわけないですよね!」

「今日は、少し難しい」

「そうですよね、勿論難しいですよね……え、今日は?」

「だが明後日の朝なら」

「え?」

「これくらいの時間でいいか」



……あれ?



ゲオルグは明後日の朝に玄関で待つと言って去って行ったが、あれ?

今、アステラは何の約束をしたのだろう。




二日後の朝。

アステラはリリーナが起こしに来る前に部屋に鍵を賭け、こっそりと外出用の服に着替えていた。

ぶ厚いタータンチェックのコートに、フワフワの帽子。それからモコモコのマフラーを巻いた。


……朝から気合入れて着替えちゃったけど、多分あれはわたしの気のせいだったと思うんだ。


玄関に行っても誰もいないはず。

誰もアステラを待ってはいないはず。

15分ほど部屋から出るのを迷ったが、アステラはエイッと扉を開けた。

走って玄関に行って、誰もいなかったら走って戻って来よう。誰かに見られる前に。


しかし二階から見おろした玄関広間には、長いコートを羽織ってマフラーを巻いた背の高い人影が立っていた。


「大丈夫か。慌てないで階段を下りてこい」


ゲオルグだった。


……あれ?やっぱりわたしのことを待ってた?


アステラは取り敢えず玄関広間に繋がる階段を下りて、ゲオルグの元までたどり着いた。


見上げたその人は、見た目はゲオルグだ。

常に塩対応のあのゲオルグと同じ顔をしている。

だけど、何かが違う。

アステラは確認するように口を開いた。


「ゲオルグ様、おはようございます。今日も元気でいてくれて嬉しいです!大好きです!」


冷たい視線と「黙れ虫けら」みたいな表情が返ってくるはずだった。

しかし、目の前のゲオルグは耳を少し赤くして、アステラから視線を逸らした。


「君はいつもそうやって……」


……んん?


「と、とりあえず行こう」


ゲオルグは赤くなった顔を隠すように玄関の扉を開けた。


外は雪が積もっていたが、降ってはいなかった。

城下町迄の道のりは、ところどころ雪かきがされていないところもあって少し歩きにくいが、ブーツを履いてきたので染みることは無い。


「大丈夫か」

「は、はい。なんとか」

「こちらの方が雪が少ない。こちらを歩いた方がいい」


ゲオルグはアステラに綺麗な道を譲ってくれ、歩きにくい方の道をサクサクと歩いてくれた。

アステラの知るゲオルグはこんなことはしないし、そもそもアステラと二人きりで歩いてくれるような真似はしない。

ゲオルグは、アステラがどれだけアタックしてもまるで響かない氷のような人だった筈だ。

ならばやっぱり、アステラが色々と勘違いをしているのだろうか。

それとも、実はまだ怪我が感知してなくて、毒の後遺症で幻覚が見えているのだろうか。


「そうそう、前は全然教えてくれなかったですけど、ゲオルグ様はどんな女の子がタイプなんですか?ふふ、しつこく聞いちゃいますよ!」

「女性のタイプ……」

「そうです。教えたくないですよね。だってゲオルグ様は塩対応……」

「タイプなど考えたことは無かったが、いつも幸せそうなところはすごく、良いと思う」


「じゃ、じゃあご趣味は!前趣味を聞いた時は消えろって言ってましたよね。ふふ、また言われることになっても、わたしはめげませんよ」

「趣味は武器を磨く事だろうか」

「え」

「いや、つまらなかったか。そうだな、チェスもよくする。君は乗馬が好きだと言っていたが、俺も乗馬は嫌いじゃない」


「えーとえーと、じゃあゲオルグ様はお酒を飲むとどうなりますか?これも前に突っぱねられた質問で……」

「酒は弱いんだ。母親は強かったらしいが、俺は父親の陛下の方に似たらしい」

「そうだったのですね、意外です。でも国王陛下もお酒は弱いと伺った事があります」


……って。


普通に会話が成立している?

いやいや、まさかまさかまさか。

塩対応のゲオルグと楽しく会話できるなんて有り得ないって。


「じゃあかっこいいゲオルグ様、わたしと手を繋いでください!それでぎゅっとしてください!ラブラブカップルみたいに!」

「……は?!」


うんうん。

ゲオルグと言えばこの反応だ。


しかし、アステラが安心し

少し頬が赤いのも、寒さのせたのも束の間、ゲオルグはしていた皮の手袋をとり、その大きな手をスッと差し出した。いではないのだろうと直感してしまった。


「手」

「え、いやいやいや!あの、」

「繋がない、のか」

「えっとあの、それはえっと、冗談です!冗談ですよ。ふふ、わたしと手なんて繋いでくれなくても大丈夫ですよ!」


差し出された手はごつごつしていて、アステラの小さな手などすっぽり収まってしまう。

でもそれは冷酷王子の手だぞ、何かがおかしいぞ、と頭の中で叫んだアステラはブンブンと首を振って笑ってごまかした。



ゲオルグはどこか恥ずかしいような悲しいような顔で「そうか」と手を引っ込めて、再び歩き出した。





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